2012年07月

2012王位戦第二局 羽生王位VS藤井九段

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棋譜

先手の藤井が第一局指し直し局に続いて藤井システムにするかとも思われたが、角道オープン型の四間飛車を採用。
但し、いつもの後手が△4二玉とした瞬間に▲2二角成として後手の形を決めてしまうではなく、角道を開けたまま美濃囲いにして後手の対応を見る高等戦術である。王位戦に向けて藤井が準備してきた作戦の一つなのだろう。
ツイッター解説の平藤眞吾も下手に歩をつくと角打ちの隙が出来るし指す手が難しいと指摘していた。相手の出方に応じて先手も動き方を決める現代的な作戦である。
本譜も羽生が△8四飛と浮いた瞬間に即角交換して浮いた飛車を目標にするという考え方だろうか。
羽生が手損に構わず飛車先を交換してきたところを藤井は▲7九金とうけた。飛車の打ち込みに強い一段金で飛車交換を狙っている。この金ともう一枚の金の使い方が本局では大変印象的だった。
そして、▲9五歩の決断の仕掛けから▲6五角と敵玉を睨む急所に角を据えて▲9一にと金をつくることに成功した。このと金がこの後ジワジワと後手玉に迫ってゆくことになる。
やはり、藤井の序盤巧者ぶりが二日制のじっくりした将棋で発揮された感じだ。
以下飛車交換になったが、羽生も難しくする変化を逃してしまい、その後は完全に振り飛車の独壇場になった。
後手の飛車の打ち込みに、すかさず自陣飛車で受け、飛車交換などを繰り返すうちに美濃囲いの▲4九の金が5九→6九→7九と移動して左辺に金が二枚縦に並ぶ珍形に。後手も飛車しか持ち駒がないので打ち込む隙がなくて攻めようがない。大山流とか森安流とか昔の振り飛車を髣髴とさせる見事な金使いだった。
さらにその金が▲7九から▲6九に戻って飛車打ちを消すオマケつきの自在な動きだった。
あとは、あせらず攻めるだけだが、そのためには格好のと金がある。マムシのと金がジワジワと後手玉ににじりよっていき、後手も受けようがない。もともとと金は歩なので厄介なのだ。
というわけで、粘り強く自陣を整備して相手の攻めをつぶして自玉を鉄壁にした上で、と金だけの攻めで居飛車を追いつめるという振り飛車の理想型、お手本のような将棋が出来あがった。
羽生も最後まで諦めずに指したが、流石にどうすることも出来なかった。藤井の会心譜、振り飛車の快勝譜である。
これで藤井はようやく羽生戦の長い連敗をとめた。また、内容的にも千日手局を含めて全て藤井が作戦勝ちしてペースを握っている感じである。
羽生の場合は、どうしても二日制の序盤で苦しくすることが多い印象がある。将棋のタイプとして事前研究もするがどちらかというとその場での対応を重視するような気がするし、また実際問題として将棋やそれ以外でも多忙すぎて研究の時間を十分に取れないのが常態化していることもあるのだろう。
ただ、二日制で森内や渡辺相手に序盤で苦労する際は、とにかく事前準備量で負けている感じがするのに対して、藤井の場合はそれとはまた違った印象を受ける。
本局にしても、藤井は十分な事前準備をした上でこの形を採用したのだろうが、決して定跡形ではなく、その場でのセンスが問われる。一手一手を自力で考えて将棋を作り出す面白さがある。そういうところに、最近の定跡踏襲型のタイトル戦とは一味違う魅力があるのだ。
だから、単に研究をすれば何とかなるという将棋ではなく、その棋士の序盤センスそのものが問われる将棋になっていて、そういう点でやはり藤井猛の序盤感覚は傑出しているようにも思える。
ここまでの二局を見ていると、羽生も周囲が見ているよりも大変なタイトル戦になることをある程度覚悟しているのではないだろうか。と同時に羽生のことだから、こういう自力で創造していく将棋を指せることにワクワクしているような気もする。

2012王位戦第一局 羽生王位VS藤井九段

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棋譜千日手局
指し直し局

振り駒で先手羽生に。後手の藤井はシステムではなく角交換型の四間飛車に。
最初に藤井がこれを連採し始めた頃はあまり評判がよくなかった。しかし、最近はこの藤井型あるいは少し形の違う角交換振り飛車を若手が盛んに指すようになってきている。
藤井システムといい藤井矢倉といいこの作戦といい、最初は理解されず段々プロが認めて流行するというパターン。藤井の序盤センスは並外れている。
特に今回は二日制で序盤にじっくり時間をかけられるので、大変デリケートでこくのある駆け引きが続いて見応えがあった。最近は初日から定跡をものすごい勢いで辿るだけということが多かったので、その意味でも新鮮だった。
ツイッター解説の山崎隆之が、二人特に藤井の序盤センスに敬意を払いつつそれを伝えようとしているのも参考になった。
羽生が▲7四歩と突っかけたが本格的な戦いには至らず、羽生が一筋の端歩を詰めたりしつつお互いが矢倉に組み替えて対抗形の相矢倉に。後手も銀をきっちりひきつけて十分な形に。
少なくとも序盤から中盤にかけては藤井のセンスが長い持ち時間をいかして発揮されたと言えそうだ。以下、藤井が△3六歩から仕掛け、羽生も▲1六角の意表の角打ちから先手が桂損するが歩を大きく得して後手は歩切れという分れに。
形勢判断も難しそうだったが、羽生は馬で飛車をいじめて千日手の順を選択。藤井も少し強引に打開することも考えたようだが、後手ということも考慮したのか自重して千日手に応じた。

指し直しは当然短い持ち時間での再開となった。先手の藤井は誰もが期待した藤井システムを満を持して登場させた。
一方の羽生は△5五角急戦、あるいは挑決で渡辺が見せたような持久戦を目指したようだが、△5五角に▲4五歩が藤井がタイトル戦に向けて温めていた構想。
羽生も短い時間での対応を強いられることになり、銀冠から△2五歩と伸ばし、さらに角ぶつけを警戒しての△1二香とその場で苦心して考えたような順。
藤井が▲6八角と引いて仕掛けを誘いも羽生も△8六歩以下それに応じた。
当然藤井も自信があるから誘ったわけだし、その後の展開は控え室では振り飛車がうまくやっているのではないかと言われていた。後手は角が成っても取る駒がなく、先手は▲4五歩をいかして角を絶好の▲4六角に転換できる。桂馬も▲8五桂に跳べて飛車先を押さえ込める。
振り飛車党の感覚なら十分指せそうだと考えても当然だろう。
ところが、進んで見ると振り飛車も容易ではない。藤井も、局後には仕掛けさせたのがまずっかたし▲8五桂が敗着と感想を述べたいたが、それは多分事後の感想であって、その場ではこんなにうまくいかないとは思っていなかったのではないだろうか。
その辺は控え室にいた深浦康市が率直に感想を述べていた。
中継ブログの「不思議だなあ」後から利いてくる手
よく見ると居飛車ペースで、序盤であまり評判のよくなかった△2五歩や△1二香がいきる展開に。それを見越した羽生のセンスとも言えるが、深浦のように「不思議だ」というのが正直なところだ。
以下羽生の端攻めも絶妙のタイミングで厳しく、藤井も粘ったが端にと金をつくられてから悠々と龍に自陣に引き上げられてしまい、あわてず勝ちに来られて最後は大差で藤井無念の投了となった。
改めて持ち時間の短い将棋での羽生の鬼のような強さを証明した。また、大きく離れている対戦成績に現れている藤井の羽生に対する相性の悪さも感じずにはいられなかった。藤井は、渡辺相手にはほぼ互角なので、やはり実力以外の何かが介在しているとしかいいようがない。
とはいえ、序盤では二局とも藤井が作戦勝ち気味だった。二日制なので藤井の奥深い序盤センスが今後も堪能できそうである。次も藤井先手なのでシステムがみられそうだ。
また、藤井がみせる表情も若い頃とは一味違う円熟味がある。非常に人気の高い棋士だが、これらの中継ブログの表情を見ていても何とも憎めないところがあるのだ。
腹が減っては  
続・腹が減っては

鰻職人タケシの帰還

とある下町の夕暮れ時、街外れにある鰻屋は客もまばらで、おかみさんが客をさほど期待することもなくボンヤリと座り込んでいる。
すると深編み笠姿の浪人風の男が、静かに店に入ってくる。おかみさんが立ち上がると、人のいい―年増の色気を滲ませながら―笑顔で「いらっしゃい」と声をかける。
男は深編み笠をかぶったまま席に座る。
「何にいたしましょう。」
「鰻」。
男はボソリと答える。
「ハッ、その声は・・。」
男は何も言わない。
「おまえさんだろ、誰がその声を忘れるもんか・・。」
男はためらいつつも、ゆっくりと編み笠を脱ぐ。
「やっぱりタケシかい・・。まったくどこを
ほっつき歩いていたんだい。あたしがどれだけ心配したか、あんたは分かっているのかい・・。」
おかみさはオイオイ泣き出す。男はただ一言ボソボソと、
「すまねぇ・・。」
以下、夫婦の仲直りの感動の場面は、読者諸賢のご想像にお任せして省略することにする。
さてここで説明の必要があるようだ。タケシは江戸の町では知らぬものなき鰻職人だった。その辺の経緯は、「鰻職人タケシの冒険」に詳しいとか。
タケシは鰻職人の名声も身分も捨てて、屋台をひいて蕎麦職人に転身したのだ。誰もがバカなことをすると言ったのだが、そこは天才料理人のタケシ、あっという間にタケシの蕎麦は江戸の町でも有名になり、老舗の食堂でもタケシ蕎麦が取り入れられるようになったのだ。
そこまではよかった。それで満足していればいいものを、タケシの向上心は限りなく、よせばいいのに江戸の料理の家元ヨシハルに料理で勝負を挑んだのだ。(今で言うところの
「料理の鉄人」だが、この番組ももう古くなって分からない御仁もいるかもしれないが、そういう事は気にしないことにする。)
結果は残念ながらタケシの惨敗。ヨシハルは「タケシさんの蕎麦の味は他の誰にも出せません」とニコヤカに何の邪心もなく慰めたのだが、プライドの高いタケシはいたくショックをうけ江戸の町から姿を消してしまったとさ。
そして冒頭の夫婦再会のシーンへつながる。
「すまねぇな、苦労をかけて。でも、腕前が一流のトシアキのやつに任せたから、ちゃんと店はうまく行ってたんだろ?」
「それがおまえさん、きいとくれよ。トシアキさんは、最初のうちは真面目に鰻を焼いていたんだけどさ、そのうちにもう今時鰻なんかはやらねぇと言いだしてさ。
わけまのわからないトシアキ流の寿司にすっかり夢中になって、そればっかりさ。でもそれが信じられないほどうまくて、大流行さ。あんたには悪いけど鰻の比じゃなかった。あたしだって、店が繁盛するんで文句は言わなかった。
ほら、常連のヒフミ先生がいただろ。昼も夜も鰻重の松を食べに来てくださってさ。あたしたちも、いくら好きでもあんなに食べれるもんじゃないって笑っていたじゃないか。
ところが、そのヒフミ先生までも昼も夜もトシアキ寿司の特上にぎりの連続さ。今度はトシアキと、ヒフミ先生も好きだねぇと笑っていたのさ。
それがトシアキ寿司は飽きられるのもビックリするくらいはやかったのさ。向かいにある料理屋が、回っていて待たずにすぐ食べれる寿司を始めたのさ。それが大流行。
すぐ食べれる・・、すごくはやい・・、超速・・、ばんざーい、こん平でーす。」
「はっ?お前何言ってるんだ?」
「ごめんよ、取り乱してわけわからないことを言って。とにかくそんなわけで、あっという間にウチは閑古鳥さ。
トシアキはすっかりノイローゼになって、寝言では超速超速とうなされる始末でさ。
ついに、知らない間にうちから姿を消してしまったんだよ。かわいそうに、トシアキも男前もいいし腕もいいし本当にいい男だったんだけどねぇ・・。」
「おまえっ、もしかしてトシアキの奴と・・。」
「おまえさんもバカだねぇ、いい年して嫉妬するのはおよしよ。あたしが本当に好きなのは本家の鰻屋だけさ。」
「へっ、バカいうないっ、照れるじゃねえか。」
以下夫婦がいかに仲直りして愛を語りあったかは、馬鹿馬鹿しいので読者諸賢のご想像にお任せして省略することにしよう。
といったわけで、めでたくタケシは鰻屋の主人に再びおさまった。最初は腕のなまりを心配する向きもあったけれど、さこはさすが、筋金入りの職人だ。前と変わらない本物の鰻の味。鰻だけは回る鰻で対抗できるわけもない。(今時はファミレスの鰻っていうんですか?)
というわけで、鰻屋は前と変わらぬ大繁盛。
以前の常連もすっかり戻ってきて、やっぱりタケシの鰻は絶品だと舌鼓をうった。
でも、そこは研究心旺盛なタケシのことだ。従来の鰻重だけじゃなくて、新しいメニューも始めた。と言っても今度はちゃんとした鰻料理だ。鰻の開きとかいう変な料理だ。
鰻の開き・・、角道を開いたまま・・、角道オープン四間・・、おいっ、強引過ぎるけどばんざーい、こん平でーす。
昔からの常連にはこの新料理はすごく評判が悪い。タケシは普通に鰻重をつくっていた方がいいのにと。ところが、さすがはタケシ、こちらも段々人気が出てきて、特に若手の鰻職人は最近はこればかりになってきた。
結局、昔ながらの鰻をやっているのは気がつけばタケシだけになってしまった。でも、おかみさんも幸せそうで一件落着のはず・・だったのだが・・。
ある時、タケシが言い出す。
「なぁ、おれはもう一度ヨシハルのやつと戦ってみたいんだけど。今度は鰻でな。」
「おまえさん・・・何度バカを言えば気が済むんだい。やっとつかんだ幸せをまたぶちこわそうっていうのかい。いいじゃないか、こうして大人しく鰻を焼いていれば誰もが幸せで。」
「すまねぇ、でもこれは男の意地ってやつなんだ。もう最近は鰻なんかはやらねぇと世間の奴らは思っている。俺はそれが歯がゆくてならねぇ。ヨシハルの奴は本物さ。おれもそれは骨の髄まで分かっている。でも、こういう時代だからこそ、ヨシハルにおれの鰻をぶつけてみたいのさ。」
おかみさんが、しばし沈黙する。そして長い間があった末に・・。
「わかったよ。あんたがそうしたいならそうおし。一度言い出したらあたしの言うことなんか聞いてくれないんだろう。
でも、タケシ。あたしは本当は嬉しいんだよ。あんなみたいな本物の職人を旦那にできて。店の事なんかきにしないでいいよ。思いっきり戦っておいで。」
タケシはもう何もいえない。あっ、タケシの目から涙が一筋・・。
夫婦の感動の場面は涙なしには語れないので、読者諸賢のご想像にまかせて省略することにする。
というわけで、またしてもタケシとヨシハルの大勝負。言うまでもなくお江戸の町は上に下への大騒ぎさ・・。

・本文は完全にフィクションであり、実在する人物団体等とは一切関係ありません。


第53期王位戦七番勝負、羽生善治王位に藤井猛九段が挑戦する第1局は明日7/10(火)に長野県松本市で始まる。




羽生善治棋聖が防衛、タイトル獲得数81の新記録を樹立 2012棋聖戦第三局 

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私は本来徹底したネガティブ思考で一番悪いことからまず考える。
王者羽生が二連勝して若武者中村相手に貫禄を見せつけた。普通は誰でももう決まったと思うだろう。
しかし、棋聖戦は今でこそ羽生が五連覇、その前は佐藤康光が六連覇したものの、さらに遡ると毎年のようにタイトル保持者が猫の目のように変わる波乱のタイトル戦だった。
また、実は二連勝のあとの三連敗とか、王手をかけた後の連敗が実に多い。一日制で持ち時間も短めなので勢いで一気に流れが変わることが多いのだ。
そして、そのキッカケになったのが羽生七冠に三浦弘行が挑戦した第67期。羽生が先に王手をかけて誰もが七冠の勝利を疑わなかったところから三浦が連勝して七冠の一角を崩した。
三浦は当時から斬り味鋭い終盤に定評があって一直線の読みあいになるととんでもない力を発揮した。それは今と変わらない。但し、厳密に言うと三浦の総合的実力は当時よりも現在の方がはるかに上で、まだまだ若さの荒削りもあった。しかし、それが逆に勢いとなって当時最強の羽生を負かした。
実は私は現在の中村太地に、当時の三浦とちょっと似たものを感じていた。特に後手の横歩取りでの研究の深さと、鋭く踏み込む思い切りが良くて力強い指し回し。最近も深浦や森内や行方といった強靭で粘り強い猛者たちを一刀両断に斬り捨て続けていたのである。
現在の勝率は決してフロックではないと思っていた。
だから、もし第三局で一局でも入れると大変な事になると私は踏んでいた。別の例としては、言うまでもなく伝説の竜王戦、羽生vs渡辺。実力以上に若さというものは本当にこわいのだ。
だから、今回の第三局は本当に大切だと私は勝手に思いこんで一人ですこぶる緊張していたのである。

将棋は予想通りに横歩取りに。先手の羽生が▲9六歩と注文をつけた。前例の少ない形だが、実は中村が先手でも後手でも経験がある。敢えて羽生はその形を採用した。第一局も後手で中村が経験のある形を羽生は採用していた。横歩取り激しい変化が多く終盤の詰む、詰まないまで研究がしやすい戦形である。それなのに羽生は相手の経験のある形にした。これは果たして単なる偶然なのだろうか?ちょっとこわいのであまり考えたくない。
中村が棋風通りに、決してひるまず鋭く踏み込む。44手目△7七角成としたあたりではもう先手に受けがなくて将棋が終っているのではないかとも言われた。ニコ生解説の屋敷伸之も「いやー、どう受けるのでしょう。」とか言いながらきちんと本譜の▲2七金を見つけ出して指摘していた。変な形だがこれが唯一の受けで、しかも驚くべきことにハッキリせず、それどころか先手の方が有望という評判である。
この辺りが丁度午後のおやつの時間帯で、羽生が飲み物をすする姿がニコ生にも映し出されていた。当然羽生はこの筋で難しいと考えていて中村もそれは分かっていた様である。
他の順もあったが、中村はらしくこの激しい難解な順に踏み込んだ。今回は屋敷の解説が実に正確で、実際まだまだ難しかったようである。
特に△3三金が気づきにくい強気な受けの好手で後手もやれるという評判だった。ところが、感想コメントを見ると羽生は△4二金から敢えて飛車を成らせて△4一金打とはじいて馬を守りにきかす順を指摘していた。確かにそうなると後手の守備力がすごくて先手も大変そう、むしろ苦しそうだ。中村の好手△3三金をさらに上回る順を読んでいたところに羽生の凄みを感じた。
さらにきわめつけは羽生の▲3六飛。激しい斬り合いの順が続いていたので誰だって▲3四飛といく順ばかり考えてしまう。ところが、それだとダメと羽生は冷静に読んでいて、突然チェンジペースしてじっと飛車引き。しかも、そうされると後手に案外有効な順がない。これは中村の立場からするとこたえただろう。
時間切迫で厳しいところに、いきなり肩透かしを食らった上に具体的にどう指せばいいのかも分からない。終盤で慌てずに相手に手を渡す羽生流の面目躍如の名手だった。(私が全く理解できずに、ここで飛車をひくようじゃ羽生さんやばいと思ったのはここだけの秘密だ。)
以下、急に形勢がハッキリして羽生勝ちに。本譜だけでなく水面下の読みでも羽生のすごさがめだった。
ちなみに日曜日のネット最強戦の糸谷戦もすごい将棋だったが、感想コメントでの羽生の終盤の手の見え方が尋常ではないので興味のある方はどうぞ。
常にレベルの高い羽生の中でも、どうもここ数日はピークの手の見え方の状態だったような気がしてならない。

中村は対局直後にツイッターで以下のようなコメントを残していた。
「なかむらたいち ‏@banibanilla

今日は大きな勝負に負けましたが、当然明日からも棋士生活は続いていきます。頑張ります。今後ともよろしくお願いします。」

中村は王座戦では既に挑戦者決定戦に進出を決めている。相手は羽生vs木村一基の勝者である。

羽生はこれで81個目のタイトルを獲得して、大山康晴の記録を抜いた。丁度将棋の盤の枡の数81、盤寿で達成とは話が出来すぎだ。
中継ブログのインタビューにあるように羽生は棋士生活をマラソンと考えていて、その一つの成果―とてつもなく偉大な到達点―である。
渡辺明がブログで「四冠でも20年かかる」と述べていたが、そう考えるといかに途方もない数字なのかがよく分かる。一方で、そのように具体的に考える渡辺にらしさと志の高さを感じずにはいられなかった。

ニコ生解説は屋敷伸之。
まだ奨励会時代に、鈴木大介と研究会で一日に3、40局指して、当時年齢も実力も上だった屋敷が一つも負けずに勝ち続けたことがあるそうだ。鈴木はそのことが忘れられず、いまだにトラウマになって屋敷が苦手だとか。
それに対する屋敷のコメントがちょっとすごかった。
「いつまでもやめないなぁと思っていました。」
プロ棋士根性として負けても負けてもやめようとしない鈴木の方はまだ分かる。それくらいの根性がないとプロにはなれないのだろう。
それよりも、残酷に平気で手加減せずに負かし続け、「やめないなぁ」とか平然と思っている屋敷にプロの凄みを感じずにはいられなかった。
屋敷は人格円満で温和で平和なああいうキャラクターだが、本質にある勝負師的資質にはもやはりとんでもないものがあるのだろう。・・そう思った。

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