2012年09月

第二十期銀河戦決勝 羽生二冠vs阿久津七段

囲碁将棋チャンネルHP
(将棋の銀河戦のページで棋譜閲覧可能。)

阿久津先手で普通の角換わりに。羽生が後手の角換わりでよく用いる形に。今年の名人戦でも出ていた。先手が▲2五桂と跳ねて▲2八角と打って後手が飛車をきる展開になることが多い。
しかし、阿久津が流行の最新形を避けて▲2五歩として▲4五歩と仕掛ける形に。解説の島朗によると、かつて村山聖と羽生が20年前に指した形だそうである。
阿久津も手段を尽くして攻めるのだが、△4六歩と飛車角の焦点に垂らして受けたのがいかにも感触が良い。まだ優劣不明だが、受けている羽生の方にらしさが出ている。
阿久津の攻めがつながるか、羽生が攻めをきらせてしまうかという展開になったが、羽生がテクニックを使って巧みに正確に受け続けて、阿久津が攻めさせられていて、常に攻めがきれるのを心配しないといけない展開になった。
じっと△1四歩と香車を取りにゆく手など、とにくあせらずにじっくり受ける方針が徹底していた。
阿久津も角をきって香車を取っての田楽刺しで王手馬取りをかけてハッとさせる。しかし、羽生もその角を打って冷静に受けられてみるとなかなか攻めがみつからない。どこまで行っても、羽生の懐の深さに阿久津が手を持てあましている感じだった。
阿久津も自爆せずに▲6四歩と手を渡したが、羽生も負けずと△9二飛の得意の手渡し。阿久津が何をしても羽生が山のようにドッシリと構えて動じてくれない。
結局、島朗によると「阿久津さんが本来一番やりたくない俗筋の」▲6三角で迫る。しかし先手も必ずと金が出来るので後手も具体的にどう受けるか難しそうなところだ。
ところが、ここも羽生も再度の△4六歩と先手の飛車を近づけての△4三香。これがピッタリの受け、かつ攻めにもなっている。下手に攻めると香車が飛車にあたってきてしまう。羽生らしいセンスのよい受けで阿久津は参ってしまった。
とにかく本局は羽生の受けの強さと冷静さが光った。島の言うように、最近の羽生の将棋にはますます凄みのようなものが出てきていると思う。
将棋は満を持して羽生に攻める番が回ってきた。あとはどう攻めるかという感じになったのだが、島が特に感心していたのが△8六桂。
直前に△6七歩と叩いたので当然△5五桂と思いきや、こちらに桂。
島「この一手ほどレベルの高さを感じた事はありません。△5五桂より△8六桂が速いと分かると将棋はどれだけ楽しんでしょうね(笑う)。将棋って楽しいと思いますよ、これ分かっていると。(笑うしかないという感じで笑う。)」
以下、ゆるむことなくきちんと寄せて羽生勝ち。終ってみれば羽生の快勝譜である。最近の羽生の勝ちっぷりは、ちょっとこわいくらいである。
文中に何度も登場したように島朗の名解説ぶりが素晴らしかった。矢内も相変わらずの安定の聞き手ぶりで、島も気分良さそうに乗りに乗って喋っていた。
最後に特に印象的だった島による羽生分析、将棋分析を紹介しておこう。
「羽生さんの凄いのは、七冠の頃と比べるとタイトル数は減りましたが全然衰えてない事。むしろ、最近の方が凄みがあります。
今でも若手と最新形を指して、なおかつ競りあって勝つ凄みがあります。
羽生さんが40代になっても衰えないのは、知識の棚卸とでも言いますか、知識の更新が凄いと思うんですね。
知っている事を復習して、さらにその精度を高めているという気がします。単なる研究というよりは、自分の知識の整理が今までの棋士になかったと思います。特に記憶力の落ちてくる年代になって、それを集中的にされている印象があります。」
「類似形のある局面について。チェスの実験でも分かっているが、レーティングの高い棋士ほど、新しい局面としては見ないです。レーティングの低い棋士ほど新しい局面として見てしまう。
専門技術というのは、そういう技術を結びつけるという事。知識のネットワークの結びつけの強い人が勝ちます。情報をバラバラにしているだけでは結びつきません。」

「七冠・羽生善治 将棋の宇宙を語る」

NHKのEテレで、羽生善治が七冠当時のインタビュー番組が再放送された。
1996年2月16日放送。羽生の七冠にいたる、あるいは少年時代から現在にいたるドキュメンタリーフィルム。それと、中心部分として小阪修平によるインタビュー。
当時羽生は25歳である。その発言から、私が面白いと思ったものを、要約していくつか紹介してみる。

「勝つことだけにこだわると指す手が制約される。プロの世界が進歩すればするほど、制約が大きくなって、つきつめると皆同じような将棋になってしまう。そういう部分から解放されないと、新しい発想や従来になかった手を見つけにくいと考えている。
人間なので無意識に安心したい楽にしたいと言う部分がある。前にあった形に頼りたくなる。そういう部分から解放されたい。」

羽生世代たちによって、定跡研究が進み序盤の体系化が既にかなり進んでいた時代の発言である。
現在は、さらにその定跡化体系化が著しく進んで、羽生の言う「制約」がさらに進んでいる。
羽生はそういう中で、この頃から意識的にそういうものから自由に逃れる指し方を望んでいた。それは基本的に今も変わらないと思う。
勝つためには現代ではなおさら定跡研究の「制約」を離れる事が難しくなっている。羽生といえども完全に自由に指すのは至難の業なのだが、常にそのことを意識して指しているのは感じられる。
例えば佐藤康光も「自由」に指しているが、それは意識してと言うよりは自分が思うように好きに指すと自然と人と違うといった感じだ。
羽生は、そういう佐藤を羨ましいと思っているかもしれない。だが、少なくとも羽生はそういう事態を俯瞰的に意識して指しているという点では現在でも珍しい数少ないタイプのような気がする。

「現在は、「勝負」というよりも盤上の真理を考える人が多くなっている。現在の将棋は形にこだわらない。昔は美学もそうだし、綺麗な形にこだわるところがあった。」

例えば、羽生が名人戦で米長に挑戦して名人を獲得した際に、第一局で先手中飛車を採用した。当時は中飛車など名人戦で用いるべき戦法ではなく素人の作戦だという考え方も一部にはあった時代だ。
しかし、羽生世代は作戦として有効ならば、形にはこだわらず、当時はまだ邪道ともされた穴熊などもどんどん採用した。「盤上の真理」のためには、それが合理的だと考えたから。
しかしながら、現在の若手と比べると、相対的には羽生世代は「綺麗な形」や「筋」を指すようにも感じられる。例えば、初期に糸谷が郷田と対戦した頃は、郷田がその感覚の違いに絶句したものである。
現代将棋は、「綺麗な形にこだわらない」ことをとことん突き詰めている。角換わり系や一手損、ゴキゲンなどなんでもありの世界に突入している。
多分、当時の羽生もこここまで「形がこわれる」とは予想しなかっただろう。

「(「羽生マジック」について。)
自分では普通に指しているつもり。他の人とは感覚が違うのかもしれない。
閃きも大切だが、何か手を閃いて読んでダメだと思った時には、あまり選ばない。
むしろ、読んでみて分からない、どうなるんだろうという場合に、そういう手を選ぶ事が多い。
将棋は最後まで読みきれる事などありえない。将棋では、10手先20手先に自信を持てない局面が必ず二度か三度ある。手が限定される終盤の前では特にそうなので、そういう局面の捉え方では他の棋士と異なるところがあるのかもしれない。
形勢が悪くなったときは逆転を期待していない。ベストを尽くして負けたならば仕方ないと思っている。」

これは、多分当時の羽生と現在の羽生で一番変わっていない点だと思う。
特に面白いと思うのは、羽生が中盤以前では「読んでみて分からない、どうなるんだろうという場合に、そういう手を選ぶ」と述べている事。
確信を持った順を選ぶのではなくて、分からない順を選ぶというのだ。ここには、後年の羽生がよくいう「将棋は他力」の思想、考えてもどうしても分からないところがあるという考え方があらわれているような気がする。
自ら「よく分からない」ジャングルに進んで
突入していくのだ。羽生の棋風の本質と関連してくる発言のような気がするのだが、どうだろうか。

「普段の生活と盤上は全く別だと思っているので、そういうスタンスでやっている。」

当時は、このように爽快にわりきっていた。そのことで、当時の将棋界に羽生世代は革命を起こしたのだ。
但し、現在はこれほど簡単にはわりきっていないような気もする。

「(チェスでコンピューターが人間に勝ったことについて)
チェスの世界が将棋の世界より、(全ての面で)多分十年以上進んでいると思う。だから、10年後に将棋の世界で同じ事が起きても不思議ではない。なぜなら、現在の人間将棋のレベルはそれほど高くないので、コンピューターが人間を凌駕してもおかしくない。」

羽生は将棋の世界を意外に冷徹に現実的に当時から捉えていたことが分かる。
だから、現在のコンピューター将棋の強さについても、意外に羽生が一番冷静に受け止めて分析しているような気もした。

「盤上で考えていて、苦しそうだったり険しい表情をしていても同時に楽しいという側面もある。この先どうなるのかを考えていて楽しい。無限の可能性の一部でも、考えていてそれが正しい事もあるので、それが楽しいこともある。」

羽生は、あれだけ将棋に深く没入していながら、将棋が基本的には「楽しい」と考えている。それは、多分羽生に限らず超一流棋士に共通するところなのではないだろうか。
例えば、加藤一二三もそうだ。私が過去に書いた記事でも紹介したが、加藤は対局中にこんなことを感じているのだ。
「私の角が二枚並び、大山棋聖の飛が二枚並んだ形は心を打たれるもので、まず二度と出ないと思う。私は対局中この形に進行したときに、大きな喜びを覚えていた」


「将棋の面白さと同時につらいのは、自分の全てが出てしまうところ。自分のいいところ、わるいところ、きれいなところきたないところが全部出てしまうところ。」

この発言を聞いて私はドキッとした。しかしか、弱い素人にもこれは何となく分かる。
一枚の棋譜自体から、それを指した人間の全人間性を洞察することが恐らく可能なのだ。
その棋士と現実に長時間付き合うよりも、迅速に正確無比に。
観る将棋ファンにとっては、それがプロ将棋の最大の魅力でもある。


同時放送された、「迷走〜碁打ち・藤沢秀行という生き方〜」についても過去に書いた事があるので、興味のある方はよろしければご覧ください。

藤沢秀行と坂田栄男の封じ手をめぐるせめぎあいーNHK「迷走〜碁打ち・藤沢秀行という生き方〜」より

2012王座戦第三局 渡辺王座vs羽生二冠

王座戦中継サイト 
棋譜

第一局に続いて先手羽生の矢倉に対して後手渡辺が戦矢倉。さらに、羽生が第一局同様後手の飛車先を交換させる珍しい意欲的な指し方を連採した。
それに対する後手の指し方に私は渡辺の戦略家ぶりを感じた。
後手が飛車の引く位置を第一局とは異なり8二にして羽生も自然に飛車先を交換する。さらに、渡辺は△3一玉から△4四歩として、羽生が▲7七銀としてのを見て△4三銀と雁木にした。
渡辺によるとこうするのが予定だったという。以下、本譜のように△7三桂として△6五歩と先攻するのが狙いで、実際そこまではそう進む。とにかく後手が自然に先攻は出来た。
渡辺は、急戦矢倉を再度用いるに当たって、羽生が第一局で好局を落としているので納得できていないで再度同じ対策を用いるのをある程度予想していたのではないだろうか。
そして、その展開に誘導した上で自分は雁木にして先攻する形をつくる。渡辺のプラン通りだ。
控え室の中村太地が指摘していたが、そもそも雁木は飛車先を交換させる指し方である。だから、後手は別に飛車先を交換させても不都合でない。
一方、先手は結果的に矢倉で飛車先を交換された形になっている。普通の矢倉では飛車先は交換されない。中村はその意味で後手が少しだけ得かもしれないと指摘していた。
渡辺がどう考えていたかは分からないのだが、とにかく羽生の強気で負けず嫌いな性格まで多分読んだ上で、緻密に事前にプランを立てて、自分のイメージする局面に導くところまでは成功したのではないかと思う。いかにも戦略家の渡辺らしいところだ。
ところが、それに対する羽生のその場の対応が渡辺の予想をいきなり裏切る。△6五歩に対してアッサリと▲同歩と応じて銀桂交換を甘受する。羽生は6筋を取り込まれるのが大きすぎて指せないと判断したようだ。
実際にはそういう指し方をしても難しいのだが、羽生の決断は恐ろしく速かった。▲6五同歩にわずか四分程度しか用いていない。渡辺も「意外でしたね」と相変わらず正直に述べている。ここら辺は渡辺はウソを言わないタイプだ。
羽生は駒損は仕方ないが、自玉の方はひとまず安定させて、桂馬を手持ちにして渡辺玉を攻める権利を確保する事を選んだ。そして、結果的にはその判断が正しくて、以降まだ難しいにしても、少なくとも先手が主導権を握って局面を進めることに成功した。
今述べた事を一言で表現すると、よく言われる「羽生の大局観」ということになる。序盤を要約すると「渡辺の用意周到な戦略性」に対して「羽生のその場でのとっさの大局観」で応じたということである。
とはいえ、局面はまだまだ難しい。感想コメントによると、△1四歩では△3三角として、とにかく後手はなんとか角を活用する方が本譜よりは勝ったそうである。実際、本譜は後手が角の使い方に苦労する事になった。
とはいえ、渡辺の△3三桂から▲1六桂に対しての△1三角も形は相当悪いのだけれども、渡辺が苦心してひねり出した受けである。ニコ生解説の佐藤天彦が、すぐに先手が攻める順を調べていたが、なかなか簡単にはうまくいかない。
渡辺が力を見せて先手はどう攻めるのだろうかと思っていたら、羽生はサッと▲8八玉。攻めずに得意の手渡しに出た。なるほど、後手の角道を避けておくのが大きい。後手も当面の先手の攻めは回避したが、かといって手渡しされるとどう指していいか困ってしまう。
相変わらず正直な渡辺は、感想コメントでこの▲8八玉の局面では「眺めているうちにかなりきついと思った」そうである。銀桂交換の大局観と手渡しという羽生流が本局では遺憾なく発揮された。
以下、羽生の▲6三歩のタイミングも絶妙で先手は金をとって逆に駒得になった。この辺では、誰でも先手が面白くなったと感じるだろう。しかしながら、素人にはまだまだ先は長いようにも思える。
ところが、二人の感想戦はこの辺りで終ってしまったそうだ。もう後手はダメだと。恐ろしくレベルが高い。あるいは、渡辺が自分に厳しくて、とにかく早いレベルでの問題点を探ってそれで満足して、悪くなった終盤をゴチャゴチャ言っても仕方ないという態度なのだろうか。
とは言っても、我々観戦者も控え室のプロも、ここで勝負が終ったなどとは全く考えていない。それどころか千日手の心配までしていたのである。
▲6三馬に△8四飛としたところでは、先手もどうすべきか明確ではないと言われていた。しかし、夕食休憩をはさんでの▲9五金が本局の決め手になったようである。
以下、後手も本譜のように進めるくらいしかないが、明らかに先手が寄らなくなっている。あっという間に先手勝勢の雰囲気になった。
しかし、羽生だけではなく渡辺も▲9五金は予想していたようだ。夕休後もあっという間に指し手が進んだ。だから、渡辺は既に夕食休憩の時点で自身の負けがハッキリ見えていたのかもしれない。
以下、羽生が多分ゆっくりとした勝ち方もあるところを、ゆるまずに攻めあいにでて最速で勝ちにもっていった。最後はほんんど必然手順の連続で後手は抵抗のしようがない。
最近のこの二人にしては珍しく、最後は大差で将棋が終った。第一局第二局が緊迫の終盤だったので少し残念だが、さすがにこの二人でもこういうことになることはある。
本局は羽生のいいところばかり出た。しかし。第四局は渡辺先手である。過去のこの二人の戦いぶりを考えても、まだまだ勝負の行方は見えてこない。

2012王座戦第二局 渡辺王座vs羽生二冠

王座戦中継サイト 
棋譜

後手の羽生が採用したのは、藤井流の角交換四間飛車。王位戦で藤井が羽生相手に連採して、どの将棋でも作戦勝ちをおさめてみせた。羽生も結局有効な対策を見出せずに終ったので、ここでの採用も納得できる。
とはいえ、誰もが驚いた。但し、王位戦のことがあったので勘のいい観る将棋ファンは予測していたようである。もしかすると、渡辺もある程度はあると考えていたのかもしれない。
王位戦にとどまらず、特に若手振り飛車党の中では、この藤井流角交換四間は大変注目され多く指され始めている。藤井個人の戦法にとどまらず、ポストゴキゲン・石田流を伺う勢いの注目戦法なのである。将棋世界10月号でも、勝又清和が講座で特集して取り上げている。
この角交換四間は、現在そのシステム化の途上にあって、微妙な形の違いであっという間に前例のない形になる。
羽生の工夫は早めの△4四歩。▲4六歩を牽制しているのだが、短所もあって例えば向かい飛車に振り直すと▲4三角と打ち込む隙が出来て後手も動きに制約を受ける。角交換型の場合、△4四銀△3三桂で向かい飛車にして振り飛車から動くのも重要な選択肢の一つで、それが早々になくなってしまう。
本譜でも羽生は大人しく囲う順を選んだが、渡辺はいきなり突破しようとするのでなく、5筋の位を取って、四枚矢倉の堅陣をしき、さらに穴熊に組み替えて金銀をひきつけた。
渡辺得意の「隙あらば穴熊」パターンである。いきなり穴熊を目指すのではなく、展開に応じて穴熊にリフォームする。序盤は渡辺の序盤センスの明るさが発揮されて、普通に考えると居飛車の大作戦勝ちになった。
実際羽生は玉を8二と9二で往復する一人千日手状態を余儀なくされた。羽生本人も作戦の失敗を認めている。藤井はこれをどう見ていたのだろうか。「せっかく採用してくれるのなら、もう少しうまく指してくださいよ、羽生さん」と思っていたのだろうか。
それでも、そもそもこの角交換四間は根本思想として、最悪千日手ならやむなしと考えているところがある。消極的に思えるかもしれないが、千日手になれば先後が入れ替わるので、先手番が重要な現代将棋では立派な考え方ともいえるのだ。
しかし、渡辺は千日手にする気などさらさらなかった。その間に右桂も跳ねて着々と攻撃態勢を整えてから満を持しての仕掛け。
飛車先が突破されては囲いのうすい後手はひとたまりもないので、羽生は持ち駒の角を手放して受ける事を余儀なくされる。ますます形勢の差がひろがって、対局者の名前をみなければ、つい「先手必勝」といいたくなるような形になった。
しかし、ここからの羽生のバランスの取り方が見事だった。△9五歩から端に手をつけて、穴熊の急所の端にイヤミをつける。先手が穴熊の堅陣のままでは勝負にならないし、またここしか攻めるところがなくてやむを得ずといったところもある。
ところが、この端攻めが事の外うるさかったようである。渡辺も実に落ち着いて対応しているように見えた、▲9七同銀から▲4三歩のたたきを一度入れてから落ち着きはらって▲8八金と穴熊に手を入れる。
やはりどう見ても先手がいいように見えたのだが、▲4三歩に対して羽生が「仕方なく」取った同角が後に攻めに役立つのだから将棋は分からないものである。
以下、羽生が仕方なく端からゴチャゴチャやるが、何と85手目で▲9六香というのが敗着に近い問題だったというのだから驚く。先に▲5一角と打って先手の9五の香を取ってしまうのを見せれば後手が攻めをつなげるのが難しかったそうである。
そして、感想によると渡辺は以下後手の攻めがつながって苦しめになったと捉えていたようである。
しかし、この小さな受けのミスがすぐ負けにつながるとは素人には分かりにくく、第一局の羽生の最後の受け間違いが負けに直結したのとも似ている。この二人の場合、本当に一つのミスが結果的に命取りになってしまうのだろうか。恐ろしい。
とはいってもその後の展開もまだまだギリギリで最後まで見応え十分だった。再び一手ですぐ逆転しそうな僅差が最後まで続いていたはずである。
渡辺が、ガジガジと攻め込んで▲7三香と打ち込んだところだって迫力満点で、すぐには後手がどうすればいいのか分からない。しかし、△6一金と根元の角を取りにいくのが冷静で、やっと羽生勝ちが見えてくる。棋譜コメントによると、羽生の手が少し震えたとのこと。この二人の場合、勝つためにはこういう見事な受けの決め手が必要なのだ。
以下は、渡辺が一手届かないのが段々分かりやすくなってきて、さすがに万事窮したかと思った瞬間に▲4六桂がとんでくる。
渡辺の終盤の手の見え方は尋常でなく、油断もすきもあったものではない。悪いといいながら指し手は明らかに最後の最後まで全然諦めてないのだ。
そして、最後のラッシュも単なる形つくりではなく▲2一飛成にウッカリ△3一歩と受けると―いかにもそう受けたくなりそうな形だ―後手玉に頓死筋があったそうである。だが、羽生もさすがに間違えずに正着の金合いをしてようやく勝負がついた。
渡辺が現代的な序盤センスで大きく作戦勝ちしたが、羽生が渡辺の攻めを角を手放してまでしてなんとか破綻しないように必死に凌ぎ、端攻め一発でバランスをとって勝負に持ち込んだ。要約するとそんな感じか。
ニコニコ解説の飯島も言っていたが、羽生相手だと優勢になったと思っても、そこから勝つのが大変で逆転されてしまう、しかもいつの間にか分からないうちにひっくり返されてしまう、と述べていた。
明らかに相手が良さそうなのに、よく読んでみると意外にバランスが取れていたり難しかったりする羽生の大局観。こういうのを我々は何度も目にするのだが、本局もその一つだろう。
感覚だけで言うと、先手だけ穴熊にガチガチに組んで攻めているので、つい相当いいように見えるが、実は穴熊の急所の端攻めが厳しくて、思ったほどもともと実は差が開いていなかったという事なのだろうか。
しかも、渡辺も丁寧にしっかり受けていたようで、一つ受け方を間違っただけで、逆転ムードになって、それでもまだ僅差が続いたが羽生が冷静に逃げ切ってしまった。そういう将棋である。
第一局も本当に最後まで分からなかったし、本局も感想とは違って我々素人には―いや多分プロにも―最後まで手に汗握る将棋だったのだと思う。この二人の終盤力はやはり並外れている。勿論、プロなら基本的に見える筋は同じなのだろうが、その正確性と正しい手の継続性がこの二人の場合は図抜けているような気がする。
だから、本当に最後の最後まで、どちらかがちょっとでも間違えるとすぐひっくり返るスリルがある。どちらが勝っても見終えた後はグッタリとしてしまう。
二局ともギリギリの厳しい将棋だったので、今シリーズは最後までそういう将棋が続いて欲しいと思う。何度も言うが見ている方も大変疲れるのだが、間違いなく見る価値があるカードなのである。
コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
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