2013年02月

梅田望夫「羽生善治と現代 - だれにも見えない未来をつくる」 (中公文庫)


「内容紹介
なぜ彼は四十代でもなお最強棋士でいられるのか。ルールを知らずとも将棋に惹かれる全ての人に贈る、渾身の羽生善治論。羽生三冠との最新対談収録!
内容(「BOOK」データベースより)
将棋界の歴代記録を塗り替え続ける最強棋士。なぜ彼だけが常に熾烈な競争を勝ち抜けるのか。タイトル戦観戦記にトップ棋士たちとの対話、そして羽生本人に肉迫した真剣対談が浮き彫りにする、強さと知性の秘密。ルールがわからない人をも魅了する、天才棋士の思考法とは。既刊単行本二冊を再編集し、羽生善治との最新対談を収録した完全版。」
(以上 Amazonページより)

単行本二冊とは、「シリコンバレーから将棋を観る」と「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」である。
それに、羽生が昨年末に竜王戦のニコ生解説を行った日の午前に行われた梅田との最新対談、「はじめに」「おわりに」が新たに加えられている。

私のように既刊二冊を読んでいて、新たな最新対談を楽しみにされている方も多いと思うので、ここではあまりその内容を敢えて紹介しないでおこう。
ただ、羽生が現代将棋のまさに今の状況について発言している内容が大変注目すべきものだという事だけ紹介しておく。
また、渡辺明について述べている部分も、羽生らしい客観的な見方をしていて大変興味深かった。

その対談の冒頭でも話題になっているのだが、梅田が「シリコンバレーから将棋を観る」を出版したのが2009/4/24で既に四年経過している。(あるいは、まだ四年しか経過していないとも言える。)
そしてその四年の間に、梅田の提唱した「観る将棋ファン」を取り巻く環境は大きく変化した。将棋の世界がIT化に積極的に対応してきたためである。
具体的にはネット中継の内容も、解説や中継ブログのない内容は当時と比べると格段に充実したものになった。また、中継自体の即時性や安定性も高まった。
さらに、携帯やスマホに対応したモバイル中継も始まり、気軽にどこでも毎日将棋中継を楽しむ事が可能になった。
また、棋士が始めたustream中継を発端にして動画中継が行われるようになり、現在はニコニコ動画によるタイトル戦いの解説中継が日常化している。先日の棋王戦第二局でも、ほぼ10万近いアクセスがあったそうだ。大変な数である。
タイトル戦だけどころか、最近は将棋祭りまで完全中継される事が多い。
さらにこの後3/1のA級順位戦最終局「将棋界の一番長い日」では、スカパーが解説を含めた全局の映像放映を予定しており、同時にニコ生やNHKのEテレでの生中継も行われる。「観る将棋ファン」にとっては楽園状態だ。
さらに、「観る将棋ファン」側も、ニコ生コメント、ツイッターを通じて気軽に自分の意見や感想を発信することが可能になり、将棋ファン同士の交流も容易になっている。
そのような事がこの四年間の間に起きた事を改めて確認すると驚かずにはいられない。
そのような流れを受けて、現在は「観る将棋ファン」にとってはほとんど理想的といってもいい環境が整っていると言えるだろう。
そして、あまり自分では将棋を指さなくてそれほど強くなくてもプロの将棋や棋士の人間自体を「観る」のが好きだという人たちが急増してるように思える。私自身がしているツイッターでもそれは感じるし、特にニコ生放送での多くの人間の反応には圧倒される。
そして、ニコ生放送で行われるアンケートによると、放送を見ている人間のほぼ8割以上が、初心者から級位者で、恐らくその中には「観る」のが中心のファンが大勢を占めているのではないだろうか。
そして、そういう「観る将棋ファン」がどのように将棋を楽しめばよいかを教えてくれるのが、梅田の既刊本二冊と言える。既に梅田のこの二冊の著作は、「観る将棋ファン」の間ではバイブル的な扱いになっている。
しかし、梅田の本は「観る将棋ファン」の層が(主にニコ生の力で)格段に拡がりつつある現況にこそふさわしいと言えるかもしれない。
本ブログの読者も、どちらかと言うと既に「コアな観る将棋ファン」?中心になっているような気がするが、なんとか梅田の本が新規の「観る将」の目にふれて読まれて欲しいものである。

さて、今回この文庫本にも収録されている、羽生と梅田の最初の対談を読み返してみた。
その中で、タイトル戦などの難解な局面をどう捉えるかについて以下のように述べている。
「タイトル戦に限らず、大部分の対局は、その微妙なギリギリのところで、ずっとずっと揺れ動き続けているものです。私は、その途中の感じを観るにはアマとプロの差は、じつはあまりないんじゃないか、という気がしているんです。(中略)針がどっちに振れるか分からない、切羽詰った場面を見るには、将棋の実力は関係ない。最低限ルールさえ知っていれば、そのときの雰囲気とか「場」を、かなり捉えることができるのではないかと。」
この発言に梅田も感激している。
勿論強いプロの方がアマよりも具体的には比較にならないくらいに手を読むし将棋の内容も分かっている。しかし、ギリギリの場面での判断はブロとアマでもそう変わらないと言うのだ。
一見すると信じられない発言だが、私もプロ将棋を観ていてそれは何となく分かるような気がするのだ。
控え室のプロたちがよってたかって検討していても分からない難解な局面、意見が分かれるような局面では、最終的には「将棋勘」のよさがものを言う。
そういう勘のいい者は、多少弱くても局面の状態を驚くほど正確に把握する。逆に多少強くても、そういう勘がない人間はよく間違える。
さらに、最近ツイッターで観戦していると、本当にほとんど級位クラス、初級レベルでもなぜ分かるのだろうかと不思議になるくらい的確に判断出来る人がいる。それは、本当に棋力とは関係ない総合的な判断力によるような気がする。
つまり、たとえ将棋は全然弱くても、その他の人生の経験値があって自分のものの見方が出来ている人は、中途半端な「強さ」の人間より的確に判断できるのだ。それが「観る将棋」の面白いところだ。
そして、羽生は別に将棋が強くなくても観て楽しむ事が出来るものだと述べている。それを梅田は今回の新対談で「天動説が信じられている世界でいきなり法王庁が地動説を認めてくれたような(笑)大変に衝撃的なもの」と述べている。
羽生という将棋界のトップが「観る将」を認めてくれているのである。新たなファンはこの言葉をきいて、自信をもって将棋を観るのを楽しんでいただきたい。
また、現在の将棋界のもう一人のトップの渡辺明も、その著書「頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)」の中でこのように述べている。
「将棋を指すのは弱くとも、「観て楽しむ」ことは十分できます。
例えばプロ野球を見る時。「今のは振っちゃダメなんだよー」とか、「それくらい捕れよ!」。
サッカーを見る時。「そこじゃないよ!今、右サイドが空いていたじゃんか!」 (中略)
言いながら見ますよね。それと同じことを将棋でもやってもらいたいのです。
「それくらい捕れよ!」と言いはしますが、実際に自分がやれと言われたら絶対できません。
「しっかり決めろよ!」も同じで、自分では決められません。
将棋もそんなふうに無責任に楽しんでほしい。」
渡辺も、将棋を専門的に分析するのでなく、プロ野球やサッカーをテレビ観戦するように楽しんで構わないと述べているのだ。
さすがに、羽生も渡辺も一道をきわめる人間は、考え方が大きい。この二人がこういってくれるのだから、将棋の敷居が高いと思われている方も、是非気軽に将棋の世界に入ってきて楽しんでいただきたい。
そして、繰り返しになるがその楽しみ方を教えてくれる格好の本がこの梅田望夫の「羽生善治と現代」なのである。

最後に、今回まだ梅田の本を読んだ事がない方のために、既刊本二冊の書評を幾つか紹介しておこう。

「シリコンバレーから将棋を観る」
naoyaのはてなダイアリー シリコンバレーから将棋を観る
極東ブログ [書評]シリコンバレーから将棋を観る - 羽生善治と現代(梅田望夫)
(これ以外に毎日新聞の若島正氏による素晴らしい書評があったが現在ウェブでは見られないようで残念である。)

「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」
梅田望夫のModernShogiダイアリー どうして「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」という書名にしたんですか
Yoko Ishikura's Blog 「どうして羽生さんだけが。。。」に見る将棋の世界





(追記あり)NHKに「羽生善治・吉増剛造 盤上の海、詩の宇宙」の再放送をリクエスト中

1997年1月18日に「未来潮流 羽生善治・吉増剛造 盤上の海、詩の宇宙」という番組がNHKで放映されました。
現在NHK ONLINEでは、過去に放送した番組についてリクエストを募り、100人の賛同を得られると再放送を検討しているそうです。
ツイッターで私とフォロー関係にある方が、上記番組をリクエストされ、現在投票期間中です。
番組に興味のあり賛同していただける方は以下のページより投票をお願いいたします。
単純に「Eね!」ボタンを押すだけで、登録等は必要ありません。
なお、番組に思い入れのある方はコメントもつけられます。(必須ではありません。)
100「Eね!」で再放送が検討されますが、2/5(火)現在で45「Eね!」で、まだ半数ほど残っている状態です。
投票結果はすぐには反映されず、数日ごとに更新されるようです。
2013年1/18にリクエストの投書をされて、投票ページに掲載されたのが2/1(金)。投票期限が二週間なので一応2/15(金)程度だと思います。ただハッキリしないので出来れば協力していただける方は早めに投票をお願いいたします。
また、賛同していただける方は、出来ましたらクチコミ、Twitter、Facebook、ブログ、HP等での拡散もお願いいたします。Eテレもそうした行為を認めて推奨しています。

めざせ100Eね!「未来潮流 羽生善治・吉増剛造 盤上の海、詩の宇宙」

(Eテレ お願い!編集長って何?)


(以下)
「羽生善治・吉増剛造 盤上の海、詩の宇宙」について

将棋の羽生善治さんと詩人の吉増剛造さんの対談の模様で、書籍化もされていて、NHKの教育テレビではその後半の模様が放映されました。

「天才棋士・羽生善治と、現代詩壇を代表する詩人・吉増剛造。透徹した二人の感性が出会い、実現した驚異の〈対局〉。盤上の譜面が表現する宇宙が、詩の世界と通じ合う瞬間を捉えた対談を収録。」(内容紹介より)

異ジャンルの羽生さんと吉増さんが両者と交遊のある英文学者の柳瀬尚紀さんの仲介で対談したものです。
とにかく両者の鋭い感性がぶつかりあった大変深い話になっています。特に将棋と詩の「狂気」についてお二人が延々とはなされるところは見所だと思います。
吉増さんも対談中で、このような事は普段話さないと言われていますし、羽生さんも多分今はこんなことを話されないと思います。単なる普通の「対談」ではなくて、二人が遭遇する事で起きた「事件」が記録されています。
羽生さんは優れた対話をいくつも残していますが、この吉増さんとのものと作家の朝吹真理子さんとのものが白眉だと私は思っています。
特に書籍ではなく映像では、お二人の話す様子が全て見ることが出来るので貴重です。私も、初回放送を見たのですが、もう記憶が曖昧です。従って私自身も再放送を切望しますし、特に見てない方にはお薦めしたいところです。

私自身も拙いながらその内容をブログで紹介した事があるのでよろしければご参考に。

羽生善治・吉増剛造「盤上の海、詩の宇宙」を再読して

さらに、今回この記事を書くに当たって本格的な優秀な書評をみつけたので、是非こちらもご覧ください。

三浦俊彦のページ 書評★羽生善治、吉増剛造『盤上の海、詩の宇宙』(河出書房新社,1997年8月刊)

(2/13 水 追記)

本日193Eね!に達して、NHK様に再放送を検討していただける事になりました。
Eね!の投票をしていただいた皆様、各種の拡散、告知をしていただいた皆様、コメントをしていただいた皆様、本当にありがとうございました。
なお、一応投票期限は15金だと思われますので、さらなる投票やコメントもお願いいたします。
後は皆様と共に、再放送が実現するのを祈って待つ事にします。

再放送検討中 「未来潮流 羽生善治・吉増剛造 盤上の海、詩の宇宙」

(3/8金 再追記)

既に再放送を検討していただける状態ですが、現在でもまだ投票がコメントが可能なようです。
3/8現在で528Eね!、コメント数59件まで達しています。番組に興味のある方で、投票、コメントがまだの方がいらっしゃいましたら下記ページよりどうぞ。勿論、投票数とコメント数は多いにこした事はないでしょうから。

再放送検討中 「未来潮流 羽生善治・吉増剛造 盤上の海、詩の宇宙」

(5/9追記)再放送が決定いたしました。こちらの記事をご覧ください。

コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
Recent Comments
「最新トラックバック」は提供を終了しました。
  • ライブドアブログ