電王戦で現れた横歩取りのYSS新手△6二玉については、その後プロでも実戦例が出たが、さらに山崎隆之が今週のNHK杯の屋敷伸之戦でやってくれた。
実は山崎は7/31の棋王戦挑決トーナメントの及川拓馬戦でも△6二玉を採用していた。このNHK杯の収録日はもしかするとそれより前かもしれないが。というわけで、屋敷戦が横歩取りになったので、私はもしかしたらもしかしてとドキドキして期待して見ていたらちゃんと指してくれた。「やったー」というところである。山崎もサービス精神旺盛な男だ。
YSSに対して先手の豊島将之は▲3三角成△同桂▲2一角と最も激しい順で△6二玉を直接咎めに行った。この順の成否は注目の的だし、将棋自体も大変激しい乱戦になるので面白い。
ところが、この山崎の二局を含めて△6二玉は今まで四局現れているが、実は先手で豊島流を採用した棋士が一人もいないのだ。
見ている側としてはつまらないが、先手がひねり飛車模様にする対策が有力で山崎の前の二局とも先手が勝利している。有効な対策がある上に、後手がいかにも研究していますよというところにわざわざプロは踏み込まないのかもしれない。また、研究の結果後手が指せると結論づけられているという噂もある。
但し、恐らくゴキゲン中飛車の超急戦と同じで、その時その時の研究によって評価が変わって、本当に最後にどちらが勝ちなのかはそう簡単には結論がでない局面のような気もする。今後、先手で豊島流を採用する棋士が出ることに期待しておこう。
屋敷は穏当な対策を採用したわけだが、山崎もそれはある程度予測していたようでその後も指し手は比較的早かった。そして、いきなり端から動いた。まるで、「屋敷さん、そうやって豊島流でなく収めようとしてもこちらは許しませんよ。」とでも言わんばかりに。本当に山崎は何をしてくるか分からない独創的な将棋を指してくれるので観ていて楽しい。
ちなみに、及川戦も先手がひねり飛車にしたのに対して、山崎は一度6二にあがった玉をわざわざ5二に戻し、さらにはスルスルと左辺に向かってついには穴熊に潜り込んでしまった。そして結果は快勝。変幻自在の指しまわし。「いくらコンピューターさんも、こんな指し方は思いつかないでしょう?」とでもいいたげな棋譜だった。
NHK杯もその後激しい斬りあいになったが、どうも後手がハッキリ勝っていそうな局面になった。
ところが、意外に簡単には決まらない。やや、差がつまったか、でもまだ後手がよいのは動かないし負けることはなさそうだ。
と思っていたら、突然後手玉の受けがきかなくなった。先手玉は詰まない。後手玉が詰み筋に入ってしまった。
山崎、頭を抱えて投了。すぐに自虐の笑い。
「これ負ける人いないんじゃないかなぁ、ていう。弱いなぁ、ていう。」
例の笑顔で困惑する屋敷。読み上げの鈴木環那も心なしか笑いをこらえているようにも見える。
感想戦も山崎の陽性な自虐ショーだった。
「しかし、どんなに難しくなっても負けるとは一秒も思っていなかった。危機感がなさすぎた。」
これには屋敷も苦笑。聞き手の清水市代に対しても、
「これを負ける人はあんまりいないですね。出場者の中でもボクくらいですね。」
もう今度は、鈴木も笑ってしまっている。今度は解説の北浜健介に対して、
「本譜は、ネェ、負けにくいからねぇ。自分の実力と相談しなければいけなかったですね。形勢判断を。」
そして、自ら安全勝ちにいく手順を示す。屋敷も屋敷で「あぁ、これもダメ」ですね。結構きつい事をサラリと言っている。
「これ、分かっているのにやらないというのは病気ですかね。」
「これはプロなら誰でも一目で見える手なのですが。」
山崎の悔しさを隠しきれない様子がなんとも言えずおかしくて好ましかった。

山崎は王位戦第三局で初日のツイッター解説を担当していた。山崎は、羽生善治の▲6五歩というちょっと普通には考えつかない手をズバリ当てていた。但し、局後の羽生の感想によるとあまりいい手ではなかったということなのだが、こういう手が浮かぶだけでも十分な才能である。現在の地位以上の実力を感じさせる棋士だ。
羽生も山崎との対局を楽しみにしているようなところもあるのだ。残念ながら最近はご無沙汰だが。
こういう抜群の才能や並外れた独創性を見せてくれるかと思えば、今回のようにすっぽ抜けて人間的にボヤキまくったりもする。
どこまでいっても気になって仕方ないのが山崎隆之という棋士なのである。そして、いつまでも「気になる棋士」のままでいて欲しくないという気持ちも勿論あるのだ。