倉敷藤花戦は甲斐智美女流二冠が防衛に成功した。おめでとうございます。
惜しくも敗れた山田久美女流四段の局後の会見の模様がYouTubeにアップされている。

22期大山名人杯倉敷藤花戦第3局終了後 山田久美女流四段 記者会見

大変素晴らしいので是非ご覧いただきたい。これにはもう余計なコメントなど必要ないし、何か言うと完全に蛇足になってしまうのだが、そういう事を書くのが私の仕事?なので、少しだけ補足させていただきたい。
山田久美女流四段のタイトル戦登場は何と25年ぶりだった。そして女流のタイトル挑戦の最年長記録を更新した。そして、現在何ヶ月まで具体的にきちんと記載されてしまったのである。これには彼女自身も苦笑したことだろう。
ちなみに25年前のタイトル戦の相手は林葉直子さん。山田女流とも若い頃から親交があり、その後が波乱万丈の人生でプロの将棋から離れられて久しいわけだが、林葉さんもまさか山田さんがここにきてタイトルに挑戦するとは想像できなかったのではないだろうか。当時の映像も見たことがあるが、山田さんは当然ながらあまりにも若くて(失礼)ちょっとボーイッシュな感じも残っていた。
現在の女流将棋界は、若い人たちの台頭が著しく、将棋自体も急激にレベルアップし、以前と比べて層も格段に厚くなっている。山田さんは若い頃から鍛えの入った実力者だけれども、だからこの状況下で挑戦できたこと自体が大変な快挙だった。彼女には失礼な言い方になるが、私などは奇跡だと思ってしまった。
しかも、倉敷藤花を保持しているのが甲斐さん。あの深浦康市をも熱戦の末にねじふせてしまった大変な実力者である。女流の中でも本物の強さと底力を感じさせる棋士である。
だから、山田さんが一つでも勝つのは相当大変だと思っていた。将棋連盟のコラムで山田さん自身も「勝敗よりみっともない将棋を指さないようにしないと….。ああ、またプレッシャーの日々。」と書かれている。これも多分ある程度本音で、大変な相手であることは山田さん自身が一番よく分かっていたのだろう。
第一局は、山田さんが後手で甲斐さんの石田流に対して中飛車から居飛車穴熊にする作戦を採用した。最近流行なのだが居飛車党の山田さんにしては珍しい。
聞くところによると山田さんは、若手女流や元奨励会員たちに頭をさげて甲斐対策の序盤研究を徹底的に行ったらしい。かつて、米長邦雄が若手騎士に頭をさげて序盤を教わったように。
将棋は山田さんがうまく指して優勢で終盤に入ったのだが、寄せに踏み込んだところ甲斐玉がギリギリのところでつかまらずとても惜しい逆転負けになった。
山田さんの序盤研究での新境地、もとからの中終盤力の高さを示すとともに、甲斐さんの懐の深さを示す結果になった。
とはいえやはり山田さんにとっては痛すぎる。倉敷での第二局は甲斐さんが順当に勝って防衛するのではないかと思われた。
しかし、山田さんの事前研究は想像以上に徹底していた。先手でも趣向をこらして、甲斐さんの得意作戦を封じる。将棋自体はやや甲斐リードと言われていたが、山田さんが中終盤で持ち前の鋭い攻めを見せて勝ち。甲斐さん相手に堂々たる指し回しで勝ちきった。
一局だけいい将棋を指すなら偶然でもあるが、こうして二局続けて素晴らしい内容の将棋になったのだから本物である。
そして迎えた第三局。結果的には甲斐さんの完勝だった。甲斐さんが一方的に攻めまくってそのまま潰してしまった。
こういう言い方はなんだが、甲斐さんが本気でなりふりかまわず勝ちに行ったのである。前二局で、甲斐さんは(インタビューでも言っていたが)山田さんの徹底した事前準備、そして中終盤での鋭さを体感していたに違いない。だから、普段はゆっくり指す甲斐さんが、いきなり襲いかかって山田さんの力をださせないように必死だったようにも見えた。ニュー山田久美が甲斐智美を本気にさせたのである。
そして対局後の山田さんのあの涙。このように本気でタイトルを獲るために準備してまた実際に第二局までは納得できる戦いができた。ところが、第三局はああいう内容になってしまった。
負けたことよりも、あの内容が悔しいがための本物の勝負師の涙だったのだろう。

というわけで男性棋士も見習うべきところが多そうな今回の山田さんの真剣そのものの対局姿勢だったのだが、盤外ではベテラン(ごめんなさい、表現が難しい)らしく余裕をもって周囲を楽しませていた。
なんでも、お母様から始まる前に「命をかけて戦いなさい。」と激励の?メールがきたそうである。
さらに第一局のあとにも、「前回みたいにぽかーんとしないで、今度こそ命を懸けて戦え」ときたそうである。(中継ブログより)
敗者に対してこんなメールを打ってくるお母様も相当なものだが、下手にいたわるよりもこうした方が笑ってしまってよいというところまで考えられているのかもしれない。さすがは山田女流のご母堂である。
お母さまだけではない、将棋世界2013/11月の高群さんと山田さんの対談によるとご主人にもかなり叱咤激励された模様である。
ご主人が体育会系のスパルタ系で、勝負にも大変厳しく、山田さんは努力なしに勝てないと考えて以前にはないくらい努力するようになったそうである。動画会見中の最近は局後に泣かなくなっていたというくだりの「ある人」の言葉(名言)というのはもしかするとご主人の言葉なのかもしれない。
そして、山田さんの勝ち負けに一喜一憂して、山田さんがその反応にビクビクしているらしい。
普通勝負師のパートナーというのは、普段は勝負のことを忘れさせるというのが「定跡」のような気もするが、山田家は普段から戦い?なのだ。
こんなエピソードも山田さん本人がお話されている。
「時々私も一緒に走っている。走るの大嫌いだったのに。走りながら彼から、『あの電信柱がお前の次の対戦相手だ。あれを越えればお前が勝てる。』と言われて。それで走るんです。それが将棋に影響してきたかもしれない。粘りが利くようになってきた。」

愛の力は偉大である。