二冊同時に、ちくま新書から出た新刊。
まず、梅田さんの方を読んで驚きました。遠山先生が大々的に取り上げられています。今頃「ファニースペース」は大変なことになっているんじゃないでしょうか(笑)。
第三章「高速道路」と「けものみち」に登場。「高速道路」というのは、羽生さんが得意の比喩能力を発揮して言った、ウェブにより整備された誰もがその気になれば、ある分野のことを集中的に効率よく学習することが出来る仕組みのこと。将棋で言うと将棋倶楽部24が代表例です。遠山四段が、ブログでその申し子として里見香奈女流を紹介したことを、梅田氏が本書で取り上げています。
一方「けものみち」とは、いったん高速道路を降りて、自分の力だけで道を切り開いていくこと。その「けものみち力」の持ち主として、遠山四段が紹介されています。はっきり言って、遠山先生、絶賛されています(笑)。
具体的内容は、本を手に取っていただくとして、将棋に関して、私自身が感じることを付け加えておいてみましょうか。遠山四段の将棋というのは、まず時代の最先端を行く序盤研究、それと、それとは相反する徹底的な粘り越しの中終盤といわれているようです。前者については、「高速道路」に常にアンテナを張り巡らせて敏感(梅田氏の言う「進取の気性に富む」)な遠山さんの特徴が出ていて、一番有名なのは、ゴキゲン中飛車での、△7二金の「遠山新手」でしょう。勝又プロフェッサーの「最新戦法の話」でも、巻末のインタビューで、羽生さんが一番印象的な新手をこれに挙げていたくらいです。
それでいながら、中終盤は実に粘り強いというのも、「けものみち」には不可欠な精神的タフネスを持ち合わせている証拠といえるでしょう。
また、「けものみち」をいくために必要な、人間性(梅田氏の言う「明るさ、素直さ、人に好かれる性格」の例。前期の銀河戦の再放送で遠山四段の将棋を見たのですが、その時解説がハッシーこと橋本七段で「遠山四段は、とにかく奨励会時代から、この世界では珍しい明るいタイプで、皆と打ちとける人気者だった。奨励会を年齢制限ギリギリで抜けた際に、本人が泣いたが、それより印象的だったのは、大先輩が喜んで一緒になって泣いたことだ」と言ってました。さらに、最近のファニースペースで書かれていた、師匠の加瀬さんとの自戦記も、実に彼の人間性がよくでた、ちょっとばっかり胸打たれてしまうものでしたし。
ということで、将棋ファンは「頭脳勝負」と一緒に梅田さんの本も買うのが必須ね(笑)。

さてと、渡辺竜王の「頭脳勝負」の方について。
この本については、私みたいなスレッカラシの将棋ファンよりも、将棋を知らない一般の人間がどう読んだのかがすごく気になります。かなり分かり易い啓蒙書だと思うのですが、どういう受け取られ方をされているのでしょう。
将棋の様々な、基本的な時事ニュースについても取り上げているのですが、ちょっと書き方がムツカシイだろうなという話題についても、渡辺さんらしく、さりげなく客観的にうまく扱っていて、そういうところにもセンスを感じてしまいました。
従来の将棋ファンとして、印象的なのは、将棋の勝負におけるメンタルな面についてもかなり踏み込んで述べていることです。少し前に、女流の問題と関連して、片上五段が、持ち時間が長い将棋での、一局全体を通じての目に見えないところでの対戦相手とのせめぎあいについて書いていたことがありましたが、さらに踏み込んで詳しく書いています。また、こういうところが、「将棋をプロ野球や作家のように楽しむ」ポイントにも、なるのかもしれません。
白眉は、最後の去年の竜王戦第三局と、今年の棋聖戦第四局の自戦記。これについては、編集者から「なるべく将棋の符号を使わないで書いて」という注文があったそうです。それだけに、対局中の心理に焦点が当たった、とても興味深い読み物に仕上がっています。特に、棋聖戦の方については、よく負けた将棋についてここまで心のうちを正直に書いたものだなあ、と感じます。
こういう心理面について書くというのは、今後自戦記の可能性を広げるのではないでしょうか。将棋世界12月号での、深浦王位の自戦記も、かなり心のうちを正直に記したもので、ある方が、ご自身羽生ファンであるにもかかわらず、読んで感動せずにはいられなかったそうです。
私自身、そういうギリギリの勝負における勝負師の心の内には、ものすごく興味があるもので、今後こういうものが、どんどん増えていって欲しいと思いました。
それと、各所にブログでおなじみの、「渡辺ユーモア」もちりばめられていて楽しめます。個人的には、和服について書いたあたりでの、紅白の小林幸子と美川憲一のくだりがツボでした(笑)。
ハイ、こちらも勿論将棋ファン必読です(笑)。