もう少し情報が出揃ってから書こうと思っていたのだが、とりあえず気づいたことだけメモ書きしておく。関連リンクは、こちらを参照。

詰将棋メモ 第18回世界コンピューター将棋選手権

アマトップがコンピューターに連敗したのは、歴史的な事実ではある。しかし、将棋ファンなら周知の通り、将棋というのは、かなり実力差があっても、一発入って勝てるゲームである。大駒一枚くらい強い相手に勝つこともあれば、逆の相手に負けることもある。一度形勢を損じてしまうと挽回不能になりやすく、それと矛盾するようだが、恐ろしく大差でもひとつ間違えるとあっという間にひっくり返るゲームである。それが将棋のスリリングな面白さだが、一度や二度負けたからといって、実力とはすぐにはいえない。
今回の、コンピューター将棋の内容は、素晴らしくて決して恥ずかしくない内容だった。また、敗れたアマの方々は、お二人ともとても人柄がよくて、潔く負けを認めていた。しかし、ソフト開発者側が、しっかり謙虚に認めていたように、感覚としては、まだアマトップのほうが上だということなのではないかと思う。
アマトップ相手の将棋の内容は素晴らしかったのだが、コンピューター同士の将棋の棋譜を見ると、少なくとも人間の感覚から言うと「あまり筋がよろしくない」手が散見される。これは、弱い私だけでなくアマ高段者の英さんも、同じような感想を書かれていた。恐らく、トップアマやプロが見たら、そういうソフトの将棋の荒さのようなものは、一目瞭然だろう。そういう弱点の多い将棋をたくさん見た後、アマの二人は対局したので、ちょっと油断のようなものもあったのではないかと、推測してしまう。
とにかく、ソフトの指す将棋は、人間の指す将棋とは、やはり相当違う。その原因としては、コンピューターは読む手の多さでは人間を凌駕しているが、局面判断の「評価関数」が人間と比べるとまだまだ粗雑で未熟なのだということが言われる。また、どんなに弱い人間でもある程度は感覚的に分かる「筋のよさ」というようなことをコンピューターは、まったく理解不能なのである。
ということで、少なくとも人間の目からすると、いまだにコンピューターは「強くても筋悪」だと思える。しかし、このように、かなり実力で人間に肉薄してくると、そういう価値判断自体にも自信が薄れてくる。人間が「筋がよい」と思い込んでいるのは、実は人間の思考や感覚の習性惰性に過ぎず、シンプルな評価関数で、(人間の)いわゆる筋や形にこだわらないで指してくるソフトのほうが、実は将棋の正しい指し方なのではないかと。そういう仮説を一応立てることは出来るが、やはり個人的には、まだコンピューターは手が読めるが、将棋は分かっていないと考えている。果たして、これは人間の傲慢、思い上がりなのだろうか。今後のコンピューターの進歩ぶりが、答えを出してくれるだろう。
プロ棋士たちは、わりと素直にコンピューターの強さに驚いて認めているようだ。ただ、コンピューターの指す将棋を見て、その将棋の質をどう考えているのかを、知りたいところではある。
勝又六段が、コンピュータの強さは、ソフトだけでなく、ハードが飛躍的に進歩していることにも原因があると指摘していた。これは、さすがにきわめて重要なポイントである。コンピューターの感覚的な筋悪と実際の強さのギャップについても、このことは有効な説明になるだろう。但し、そういうハードの力技に頼って、コンピューターが人間を追い抜くというのは、望ましいことではない。要するに、将棋の本質をコンピューターがよく分からないままに、計算力だけで負かすということだから。そうなったら。人間にとっては、悪夢であり屈辱である。しかし、そういうハードの飛躍的な進歩というのは、厳然たる事実として存在するのだ。
それと、今回決勝に残った8ソフトのうち、5つがボナンザ式の「自動学習」を取り入れていたそうだ。人間の利職人的で芸術的作業で強くなってきたYSSの開発者が、学習が強いかもしれないといっていたのは象徴的だった。ただ、「学習」といっても、良く誤解されがちなように、プロの多くの棋譜を学べば学ぶほど、ソフトが強くなるというわけではない。プロの将棋の感覚を上手にとりいれるためには、棋譜をうまく消化して学習する必要がある。自動学習といっても、今のところは大元の基準は人間が設定しているはずなので、本当の意味でコンピューターが自力で学習しているというわけではないのだ。
ただ、なるべく人間が余計なことをせず、手をかけないようにするほうが強くなりやすいというのは、きわめて示唆的ではある。
それにしても、相変わらずボナンザは良く攻める。そんなに攻めなくたっていいじゃないかというくらい攻める。今回も、上位ソフトには勝ち越したが、下位ソフトに足をすくわれて三位だった。やはり、とびっきり「人間的」なソフトであることは間違いない。
棚瀬将棋は、前回はプログラムの不都合で詰みを逃し、今回は時間切れの負けで優勝を逃したが、やはりこのソフトが今後最強になってくる可能性が高いのではないかと感じた。ちなみに、このソフトも確か「学習」ソフトである。
全体の印象としては、人間が考えるよりもコンピューターは勝手にどんどん強くなっているという感じを受ける。それも、将棋のセンスをデリケートに学ぶというよりは、ひたすら力技で。なんとなく、人間には望ましくない方向で、ソフトが強くなってしまっているのではないかというのが、ごくごく個人的な感想である。