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とにかく見た目のインパクトが強烈な将棋でした。対局者の感想戦コメントを読むと当然ながら慎重だし、見た目よりは恐らく難しい将棋なのでしょうが、基本的には、なかなかお目にかかれない大逆転といっても構わないでしょう。
しかし、最近のこの二人の対戦では、どうも深浦さんが主導権を握ることが多いようです。本局も、▲9六歩から動いていったのが機敏で、完全にペースを握りました。なかなか素人には深浦将棋の本質がよく分かりませんが、よく言われる粘り強いじっくりした将棋というより、相手がちょっとした隙を見せると敏感にかぎつけてたちまち襲い掛かる、大草原の肉食動物のようなところを感じます。というと、訳わかりませんが。
とにかく、最近は将棋のペースを深浦さんのいいように握られているという印象があります。一時期の森内vs羽生戦のような感じで。羽生さんと深浦さんも、当分多くの場所で戦い叩き合うのかもしれません。
しかしながら、こういう相当苦しい将棋でも勝ってしまうのが羽生さんなのです。
この局面を見たら、一瞬もう投了図と思ってしまうのではないでしょうか。どうすれば、後手の羽生さんが勝てるのか、すぐにはイメージできません。
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数手後の△4二歩も、一見いかにも守勢一方で、「これでは苦しいでしょう」と感じる手です。
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しかし、こういう見た目が悪い手が、実は後から考えると最善を尽くしているというのが羽生将棋。ここで、▲2三歩と攻め合うと深浦良しだったそうですが、本譜のように▲3四馬とひいて、△2六角をいじめて完封、と考えるのも無理ないところなのではないでしょうか。深浦さんも、さすがにあのあたりでは「この将棋はいただいた」と思っていたはずなので、なるべくリスクは犯したくないという意識が働くのも自然でしょう。それを見越したかのような△4二歩。羽生さんとしては、最善の粘りをしているだけなのでしょうが、結果的にはマジックのように見えてしまいます。
実際には、▲3四馬と引いた時点で、既に将棋が一気に難しくなっていたというのだから驚きです。以下、羽生さんの飛車が一気にさばけ、さらに深浦玉への強襲に成功し、後手玉への脅威になっていた馬も抜くことが出来、一気に逆転したように見えました。
しかし、実はまだ深浦さんが残っていたそうです。
図で、▲3九にいた玉を▲2八玉と逃げたのを見たら、プロでなくても、ある程度腕に覚えのあるアマなら「えーーっ」と絶叫してしまうでしょう。なぜなら、あまりにも先手玉が危なすぎる形だからです。ここでは、冷静に▲4九銀としておけば、残していたようです。
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なぜ深浦さんが、こう逃げたのかが不思議なわけですが、以下は単なる推測をしてみると、当然▲4九銀から考えたが、そのうち何かイヤな筋が見えて、玉逃げで残せる筋が浮かんで時間に追われて「エイッ」とやってしまったのかもしれません。また、ずっと勝勢だった将棋が急におかしくなって、平常心を失ってしまっていた可能性もあります。
以下、さらに深浦さんが自ら頓死を喰らってしまいました。
あの名人戦第三局の△8六桂ほどのインパクトはありませんが、深浦さんクラスの一流棋士としては、▲2八玉は恐らくそれに近いレベルのポカなのではないでしょうか。
それにしても、なぜ羽生さんばかりが、このようなとんでもない逆転勝ちをするのでしょうか。森内さんも深浦さんも、我々素人から見れば、神の中の神レベルの人たちです。そういう人たちが、羽生さんにはこんなひどい目にあってしまう。
本当に、羽生さんは恐ろしい人です。