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詰将棋メモ 第1回将棋電王戦、ボンクラーズが米長永世棋聖に勝利

詰将棋メモ 米長永世棋聖、将棋ソフトと対戦(こちらで棋譜を再生できます。)

ニコニコニュース 米長永世棋聖「築いた万里の長城、穴が開いた」 電王戦敗北後の会見 全文

さて、対決の意味等についてはこんな告知PVがあった。

ニコニコ動画 【米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ】プロ棋士 対 コンピュータ 将棋電王戦 告知PV

ホルスト
「惑星」の「火星、戦争をもたらす者 」の勇壮で劇的な音楽に乗って、ものすごくかっこいいのかそうじゃないのか、真面目なのかふざけているのかよく分からない素晴らしい出来になっている。今回はニコニコ動画が中継などで盛り上げたわけだけれども、このPV一つ見ただけでも純粋将棋ファン以外の層にも訴えかけることに成功していたと思う。

将棋は先手ボンクラーズの▲7六歩に対して後手の米長邦雄永世棋聖の△6二玉。昨年末に行われたプレマッチでも米長はこの手を指して惨敗したが再度採用した。
米長は対局後の会見で(上リンク記事参考)、この手を将棋ソフトボナンザ開発者(保木さん)に教わったと明かした。ボンクラーズはボナンザを元に成り立っているソフトで、評価関数(将棋の局面を判断する基準とその思考結果を数値化して優劣の判断をする関数)はボナンザとあまり変わらない。従って、ボナンザ開発者の意見は具体的根拠のある重要なものである。ツイッターで教えてもらったが具体的に△6二玉(周辺)の位置が評価関数の穴なのかもしれないということだそうである。
それと、二手目△6二玉は将棋の定跡にはない手なので、ソフトはいきなり3手目から自力で考えなければならず事前に入力してある定跡手順を利用できない。
また、局面自体が漠然とした明確な目標を設定しにくいものになるので、ソフトが考えるのに苦労する可能性がある。
そうした狙いである。実際、米長は左辺から金銀を盛り上がって制圧することに成功する。ボンクラーズは飛車で歩交換をして上下左右に移動するだけを余儀なくされた。普通の将棋ならば後手の作戦勝ちと言えるだろう。
つまり、米長の△6二玉は成功した。あくまでボンクラーズというソフト専門の戦術である。自力で判断できる人間相手には通用しない。
米長に普通の矢倉等で対抗することを期待したファンも多かったはずだが、事前に米長は数多くボンクラーズと戦って、特に短い持ち時間ではかなり苦戦したようである。つまり、ソフトのレベルがが普通に戦うとかなり厳しい強さに既に達しており、このような工夫をこらさざるをえなかったのである。
チェスの世界では既にコンピューターが人間を超えてしまっているが、人間がチェスと戦う際にもやはりこのような戦術を用いるのが普通だったそうである。

戎棋夷説 12/01/15

従って、米長の△6二玉は、人間がコンピューターと戦う上での戦術的工夫であって別に奇策ではないということである。そして、このように一応ソフトの序盤の欠点をつくことには成功した。だから、今後プロ棋士がソフトと戦う上で重要な先例にもなるし具体的成果も残した事を素直に評価するべきだと思う。勿論、人間がごく普通に戦ってソフトに勝てるならばそれにこしたことはないのだが、現在はソフトのレベルが高くなりすぎているのだ。

しかし、局面は後手が左辺で押さえ込みに成功したとはいっても、玉は不安定な形で後手が自分から攻め込んで勝つというわけにいかない。
後手の人間が先手のソフトに期待するのは、先手が苦し紛れに無理攻めしてくれることであり、それに乗じて攻めをきらして入玉してしまうことである。実際、少し前までのソフト(特に攻めるのが大好きなボナンザ系のソフト)は、無理攻めして自爆してくれることも多くて、それが人間の狙い目だった。
ところが、今回のボンクラーズは実に辛抱強かった。暴発せずに歩交換を繰り返して飛車の左右上下運動を繰り返して我慢した。勿論、コンピューターなので我慢しているわけではないのだが、今回は米長の押さえ込みが完璧だったので動こうにもさすがに動きようがなかったのかもしれないが。
逆に辛抱をきらしてしまったのは人間の方だった。△8三玉から金を4二から5三に盛り上がった。駒を集めてきてさらに盛り上がって自然なようにも見えるが後手陣には隙が出来ていた。
▲6六歩から角を5七に転換させる。後手の△7五に狙いをつけたのだが金が5三にあがってしまったために△3一角の受けの応援がきかない。また玉が8三にあがっているために8筋の飛車先が通っていない。
仕方なく△3四歩とするよりないが、再度▲6六歩から角交換を迫る。しかし、後手が角を交換してしまうと▲7二歩が厳しい。△同飛には▲6一角、玉か銀で取ると飛車の横ぎきが消えて▲2二角と打たれてしまう。
やむなく角交換を拒否したが、今度は7筋に狙いをつけられて以下手早く攻め倒されてしまった。もともと玉形が不安定なので手がついたら、もうひとたまりもない。
以上、ニコ生での渡辺明竜王の解説の要約なのだが、なんとコンピューターは相手の形の隙に敏感に的確な反応しているのだろう。
まるで練達のベテラン棋士のようである。動けなくなったら「仕方ないよ」とばかりに気のない様子で飛車を動かし続けていて、後手が油断して隙を見せたら急に座り直して正座になって熱心に読み出して見事にとがめてくる。コンピューターなのでそういうこととは全く異なる思考回路で動いているわけだが、結果的には人間のように思えるくらいにレベルがあがっているのだ。
米長はそんなコンピューターの辛抱を「大山のようだ」と表現していた。しかし、実際は大山以上に辛抱がきくし、それを別に我慢してやっているわけでもない。さらに、先手番だから千日手を打開しないとという思想自体がないし、打開しないとみっともないという人間のプライドとも無縁なのでたちが悪い。
コンピューターは純粋に読む能力だけでも既に脅威だか、さらに今回の展開で人間的な心の揺れが皆無なのも強力な武器なのだと感じずにはいられなかった。

それと、コンピューター側で言うと、今回ボンクラーズは手の内をほとんど明かして戦っていた。24で昼夜問わず戦い続けていたのもそうだし、開発者の伊藤さんは米長宅に行って練習用のボンクラーズを設置したそうである。恐らく対局条件等も、ほとんど連盟主導で決められたのだろう。それでいて、この結果である。例えば、ソフト側があらゆる情報を隠して人間に事前研究させないようにしたらどうなるのか、そんなことも考えてしまった。

ニコ生で解説していた渡辺は、現在のコンピューターの実力を率直に評価している感じだった。大変客観的で冷静な見方をする渡辺が言うと、とても説得力がある。以下はその発言の内容のまとめ。
ボンクラーズは24で3300点を出している時点で30秒将棋では既に全然人間がかなわないのは分かっている。持ち時間3時間でもこれだけ指せる。但し3時間ならやりようはあるとは思う。今日の米長先生の序盤のように。
引退されているとはいえ米長先生に勝ったらその事実は重い。(矢内 もうプロに近いレベルですか)、いや、「プロに近いレベル」という言い方はもう当てはまらないという気がします。
ソフトがもうこれ以上強くなることはあるんですかね?」(矢内 次に竜王がソフトと戦ったら勝つ自信はありますか?)楽観はできないですね。普段の大きな対局と同じ気持ちで戦うという感じですね。
かなり危機感をもっていることは間違いなさそうだ。但し、少し前の朝日のインタビュー
では、まだ人間の方が強いと思うし、将来的にもひとどく負かされることはないと思うと発言していた。だから、本当にどう思っているかは渡辺に実際に聞いてみないとハッキリとは分からないのだが。

ここまで来ると、コンピューター将棋が人間の将棋を超えるXデイももう夢物語ではない。
そうなった時の人間側の反応は様々なのだろうが、私の場合は単純明快である。
将棋の世界は無限に近いといっても有限で究極的には計算可能で解がある。だから、そういう世界で計算速度が人間より迅速な機械が勝っても別に驚くことではない。そのことで、直感で正しい手をつむぎだすプロの人間棋士の素晴らしさにはなんら変わりがない。チェスの世界だって、とっくに機械が人間を超えたが、それで人間のチェスが廃れたなどという話は聞かない。将棋だって同じことだ。最初はショックかもしれないが、すぐ慣れるだろう、と。
とは言っても、実は今はこれを言うべきではないかもしれない。折角、人間が強いのかコンピューターが強いのか、ハラハラドキドキできる時期なのだから、必死に人間を応援して楽しんだ方がいいのかもしれない。
それに、こんな悟ったようなことを言っていても、例えば羽生善治とか渡辺明という固有名詞が、もしコンピューターに負けたら、やはりかなりショックだろうし。このお二人には是非とも我々の楽しみを少しでも長く伸ばしていただきたいものである。

それに、どんなにコンピューターが強くなったとしても、こんな素晴らしいジョークを思いつくことが出来るのは、やはり人間だけなのだ。

虚構新聞 米長、敗退…最強将棋ソフト「ボンクラーズ」に迫る