なぜか糸谷哲郎がマリオゲームをやらされている。いきなりリモコンを渡されてしまったようで操作方法が分かっていないようだ。
うまくジャンプができないで、同じ時点で低空ジャンプを繰り返してしまって、ちっとも前に進めやしない。
糸谷「これどうすればいいのか分かってないんですが。」
山崎隆之「いや、Aボタンを押せばいいんだよ。」
それでも糸谷は低空ジャンプを繰り返してしまう。
糸谷「どうもやっぱりやり方が分かりません。」
山崎「いやだからAボタンを強く押してさ…」
まるでバラエティ番組に出演した若手お笑いコンビのようなやり取りを聞きながら、こっちはゲラゲラ笑っていた。
山崎隆之の叡王戦優勝を記念して行われたニコニコの特番のひとコマである。いやはや、今や将棋のプロ棋士にとっても大変な時代である。しかし、山崎と糸谷は、ごくごく自然に対応してみせていた。この二人、本当にM1にも出させてみたいくらいだし、相性が良さそうである。

山崎隆之という棋士はなぜかとっても気になって仕方ない存在である。将棋の才能は誰にも認められている。NHK杯で羽生善治を負かして優勝したし、将棋自体も自由奔放でオリジナルな天上天下唯我独尊のスタイルで観ていて楽しい。研究主体で玉をかためる現代的な将棋スタイルとは真逆をつき進んでいる。
でも、今ひとつ壁を破れないでいる。今回の叡王戦で久々に注目を浴びた。
人間的にもいい意味で全然優等生ではない。永遠の反逆児、将棋界のジェームス・ディーンなのである。
この番組でも、「なぜ四段(プロ)になれたのか、自分でもよく分かっていない」とか言い放っていた。
あるいは、「こんな将棋じゃ、勝てないと思っていたら実際に勝てなくなった。」こともなげに言うのだ。
そして、とんでもない正直者である。自分が西の王子と呼ぼれていた事についても、「将棋界でイケ面と言われている人たちなんて、私を含めて世間一般から見ればどうっていうことはなくて、あれはつくられたイケ面にすぎないですよ」と。
なんという客観的分析能力というべきか、すべての虚飾をぶちこわさずにはいれない性格というべきか。
模範優等生の多い若手(とはもう山崎も言えないかもしれないけれども)の中にあって異彩を放っている。そのヤンチャなある種無頼的なキャラクターが古い将棋ファンにとっては懐かしいのである。
番組の中で山崎の本当に若い頃の対局姿の写真が紹介されていた。ものすごくギラギラした野良犬のような目をしていた。我々素人が憧れる本物の勝負師の目。
実際若い頃はとても尖っていたようである。番組にも出演していた師匠の森信雄もちょっともてあまし気味だったそうだ。
それが神戸の大震災の際に、山崎が自分の奨励会のことしか考えてなくて(森門下の奨励会が亡くなっている)、師匠の森にひどく叱られたそうである。
それ以来山崎は変わったという。師匠の森も最初は演技しているだけだと思っていたと、番組で冗談半分に語っていたが、それが続いて師匠も本物だと認めたそうである。今は師弟で楽しく話をかわす間柄だとのこと。
山崎の魅力というのは、とても奔放で場合によっては毒舌で傍若無人でありながら、一方でとても真摯で自分のエゴだけではない人間性の幅の広さである。糸谷も番組で「山崎さんは後輩の面倒見がよくて、とても心配りのできる理想的な先輩です」と述べていた。それに対して、山崎は、「普段そんな事を言われたことがない、番組用の仕方なくのコメントですね」と。無類のテレ屋でもある。
鋭さとおおらかさ、激しさと優しさ、毒舌と思いやりが自然な形で同居しているのが山崎の魅力である。もっともこんな事を言われても、絶対テレて否定するに違いないが。

山崎は結婚する前に彼女とデートする事になった。しかし、山崎はあまりデート経験がない。そこで、白羽の矢を立てられたのが糸谷である。
糸谷は親切にも山崎につきあって実際にデートの予行演習を行ったという。
動物園に行ったり、現代美術館に赴いたり、ここの紅茶がおいしいとか実際に色々二人で巡ったそうである。
ところが実際には、彼女は動物が苦手、体育会系で美術館には興味なし、しかも紅茶ではなくコーヒー派で全てムダになってしまった。結局、山崎は彼女のプランに全て従ったそうである。
糸谷「違うところの研究が不足していまして….」
それは残念だったねとしか言いようがないのである。
でも、この二人仲が良すぎる。叡王戦で山崎が勝った際にも、深夜に二人で寿司をつまんだりしたそうな。

「仲良きことは美しき哉」(武者小路実篤)