既に対局は終わってしまっている。しかし、加藤一二三は鬼の形相であたかもまだ対局をつづけているかのようだ。顔を紅潮させ、悔しさをあらわにして盤面を睨みつけている。
昨日の順位戦の終局直後の写真が名人戦棋譜速報にアップされていた。
普通ならあれだけの大ベテランなのだから、もう終局後は淡々としていてもおかしくない。まして、長丁場の順位戦なのだから、疲労も大変なもののはずである。しかし、加藤は対局を終えてもまだ勝負へのこだわりを捨てていない。なんという七十六歳だろう。
あの写真にひどく胸打たれたのは、おそらく私だけではないはずだ。
昨日は加藤の気合に押されたのか?、加藤の脇息がこわれてしまうハプニングもあったようである。
そして、昼食はうな重の竹、夕食はうな重の松である。昼食を少しだけ減らした以外は昔と変わりない。
棋譜中継では、「加藤はゴミ箱にホットミルクティーとリンゴジュースのペットボトルを捨てた。」という描写もあった。
相変わらずよく食べ飲み、そして全身全霊をこめて考えていたようだ。
六時間の持ち時間のうち、加藤は五時間五十八分を使いきっていた。
年齢の事を考えたら、もうこれらのことだけでも十分超人である。頭が下がる。
しかし、それだけでは満足しないのが加藤である。
いまだ闘志衰えず、加藤一二三、七十六歳。
羽生善治と加藤一二三の将棋を同時代で体感できているのが、一将棋ファンの私にとって最大の幸せである。

加藤は最近精力的に著作活動も続けている。なかでも、やはり「加藤一二三名局集」はファン必読だろう。
しかも、加藤の場合、収録局を全編書き下ろしているのである。
加藤にとって歴史的な将棋は網羅されているが、例えばA級順位戦で羽生当時四冠に勝った将棋、同じくA級順位戦で順位戦の先手番で圧倒的な強さを誇る森内俊之を後手番で負かした将棋なども収録されている。新しい将棋ファンには是非とも加藤のそういう将棋を見ていただきたいと思う。


(名人戦棋譜速報に加入されている方は、以下の掲示板のページで加藤先生の終局後の姿をご覧になれます。
加藤先生の終局後写真l)