昨日は歴史的な勝利をAlpha Goがあげた。勝っただけでも大変なことなのに、しかもその内容が囲碁関係者にとって衝撃的だったようである。
(お断りしておくが、私は将棋ファンで囲碁はルールに毛の生えた程度しか知らないので、以下の記述は昨日のゲームの囲碁棋士などの発言を参照してそれを以下にまとめただけなので正確でない部分もあるかもしれない。)
イ・セドルはそもそも序盤から戦う棋風だそうである。なおかつ、Alpha Goのニューラルネットワークを使用するディープ・ラーニングというのは、原理上「読んで打つ」というより、「感覚で打つ」方式である。
だから、最初から戦うのが有効なのではないかとも指摘されていた。まして、腕力抜群とされるイ・セドルなのである。
実際、イ・セドルは最初から激しい戦いを挑んでいった。しかも、7手目に珍しい手を打って、コンピューターのデータベースに対する対策も行った。
序盤から大石の生き死に関係する緊迫した碁になったようだが、とにかく大石を死なさずにAlpha Goは乗りきった。
しかし、観戦していたプロ棋士は、形勢としては黒のイ・セドルが良いということで一致していて、黒勝ちを断言する棋士もいた。
ところが、Alpha Goが右辺に白石を打ち込んで状況が変化する。
私は二十四世本因坊秀芳(石田芳夫さん)の解説を観ていたのだが、この手には驚いていた。石田もやはり黒よしと見ていて、この手は形勢不利とみたAlpha Goの勝負手ではないかと解説していた。
さらに、その次のAlpha Goの手を見て、これでは多分白がダメでしょうと。どうもプロの感覚直感だと無理気味のようである。
しかし、その後に石田がよく検討してみると、「油断ならない」という結論になっていた。
こういうのは将棋ソフトとプロ棋士の対局でもよくある。ソフトが人間では考えられない手を指して、皆驚いてこんな手はありえないでしょうと言うのだが、よく調べてみると実は良い手だと判明する。
この辺りの変化は大変難しいそうで、現時点ではイ・セドルが間違えたのか、あるいはそもそもAlpha Goの手が成立していたのかは分からない。
しかし、とにかくこの後Alpha Goが良くなって、ヨセも完璧だったようで、結果はAlpha Goの中押し勝ちになった。
石田が「ダメだ、白勝っちゃった」と終局間際につぶやいたのが印象的だった。
衝撃的なAlpha Goの勝利。しかし、それだけでは話は終わらない。終局後のインタビューでイ・セドルが次のような事を述べている。
「私が本当に最初のところで犯したミスが、本当の最後のところまで響きました。」
「Alpha Goの序盤の戦略は素晴らしく、また人間が決して打たないようなありえない手に驚愕しました。」
そしてAlpha Goを素直に称えたそうである。イ・セドルの態度はとても立派だった。
(BBC Google’s AI beats world Go champion in first of five matchesより)
つまり、セドル自身は周囲の評価とは異なって序盤からAlpha Goにうまくやられたと考えていたようなのである。
それを裏付けるプロ棋士の発言もある。
・イさんは7手目で珍しい手を打った。AlphaGoが学習していることを外そうとしている意図がみえた。対してAlpha Goは10手目が珍しかった。振り返ると、この7手目と10手目の組み合わせがAlphaGoにとって悪くなかった。(大橋6段)
(「人間の常識と違っていた」人工知能 vs プロ棋士 観戦したプロはこう見た より)
実は序盤からAlpha Goがプロが感心するような手を打ったらしい。将棋だと、本当の序盤では強いソフトもそういう手はあまり指せないので驚きである。
また、形勢判断についてもトップ囲碁棋士の高尾紳路九段がご自身のブログで次のように述べている。
AlphaGoに悪そうな手が多かったので、李世ドル九段が優勢に見えましたが、実はそうでもなかった。
「悪そうな手」でも、「悪い手」ではないんですね。
その影響からか、李世ドル九段が形勢を楽観していたようにも見えます。
(たかお日記 AlphaGo先勝 より)
人間の直感的感覚的評価とは異なって、実は形勢は難しく、またAlphaGoは悪手に見えて進むと有効と分かる手が多かったということのようである。
この辺は将棋に照らしてもよく理解できる。人間的にはありえない手でも進行するとなかなかの手だと判明したり、あるいは人間が考えるほど形勢が離れていなかったり。
つまり、AlphaGoは、従来ソフトの弱点のはずの序盤からセンスがあり、戦う碁にも対応でき、プロがある程度進んでから理解できるように好手を打ち、形勢判断でも人間のプロより正確という事になる。
勿論、以上は第一局に限っての話である。一局だけで判断してしまうのは早計だろう。ソフトというのは負けるときにはひどい負け方も平気でする。
しかし、本局でAlphaGoのよい面が全て出たとしても、それだけのポテンシャルがあるのは間違いない。そういう意味で碁の内容でも歴史的な一局だったのかもしれない。
第二局以降は、イ・セドルの巻き返しを期待したいものである。
これを受けて、現在世界最強とされる中国の柯潔(コジェ)九段が、「AlphaGoは李世ドルに勝っても、僕には勝てない」と発言したそうである。腕も口も達者ななかなか魅力的な十八歳である。
しかし、その強気な柯潔も同時にこう述べているそうである。
「オファーがあればAlphaGoと対戦したい。勝算は6割」
(「AlphaGoは李世ドルに勝っても、僕には勝てない」 世界最強の囲碁棋士(18歳)がコメント より)
強気一辺倒の柯潔が「六割」と言っている所を見ると、今回のAlphaGoを観て相当強いと感じたのは明らかである。少なくとも、柯潔はイ・セドルに対してはもっと強気な発言をして、しかも結果も残しているのだ。
本日も続けて第二局が行われる。

(今回の結果を受けて、AlphGo自体についても書きたかったのだが、長くなったのでまた回を改めて。)