棋王戦と重なって順序が逆になったが、NHK杯について。
今期は羽生渡辺などタイトルホルダーや上位者が次々と敗れて、決勝はちょっと意外な新鮮な組み合わせになった。
将棋は村山慈明先手、千田翔太後手で角換わりに。千田が金を6二にするちょっとした趣向を示したが、それでも全然指し手が止まらずに進んでゆく。もうさすがにここまでは研究していないんじゃないかというところまで。
二人とも研究十分な若手だけれども、ここまで来ると現代将棋の究極の研究勝負を通り越して気合勝負のようにも感じてしまった。基本的に二人共かなり勝気で向こうっ気が強いタイプだと思う。
村山が攻め、千田が受ける展開になったが、千田の受け方がしぶとくてなかなか決まらない。佐藤康光の解説を聞いていても、局面をきちんと把握するのが難しい将棋になった。
村山らしいと思ったのは、千田が△6六角と打つたのに対してガッチリ▲7七銀と受けたところ。康光先生はできれば節約して▲7七桂として攻めたいと「らしい」解説をしていたが、村山は勝ちをあせらない態度に出た。こういうところに棋風がよく出るのだろう。
そして、その後もとても難しそうな局面が続いたが、終わってみれば先手玉の堅さがいきて村山がうまく勝ちきった。
村山は順位戦では悔しい思いをしたが、嬉しい優勝である。やはり順位戦では憂き目にあった郷田も王将戦は防衛したし、本当にトップ棋士はギリギリのところで、ちょっとしたことが天国と地獄を分けるところで戦っているのだと感じる。
特に最近は羽生渡辺森内らというビッグネームでないと優勝できない状況が続いていたので嬉しいだろう。
決勝以外では、広瀬戦の後手をもっての角換わりの将棋が印象的だった。角換わりらしいジリジリした手の渡しあいから、突如村山が飛車切りから角を打ち込んだ攻めがわかり易いながらも効果的でアマチュアにもこの攻め筋は大変参考になった。
もともと序盤巧者だけれども、ここという場面での決断がよくて、また決勝のようにあせらず勝ちにいく指し方が早指しに向いているのかもしれない。朝日杯でも準決勝まで進んでいたし。
村山は順位戦のC2では結構苦労した。第66期順位戦でもいきなり初戦で負けたが、その後九連勝してC2を抜ける事に成功した。
その二戦目の相手が強敵の高崎一生だったのだが、午前二時を過ぎる死闘の末に村山が制して昇級につなげたのをフト思い出した。
あの頃から粘り強い将棋だったが、その苦労がやっと報われた感じである。同世代で仲が良い渡辺と佐藤天彦の棋王戦にも刺激を受けているだろう。
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この二人は、人間的にもなかなか個性的である。
千田は「ソフトに将棋を学ぶ」旨を明言している棋士である。現在のソフトはとても強くて活用している棋士も多いが、ここまでハッキリ言っているのは千田くらいで面白い。
また、かなり向こうっ気も強くて、対局前に後手が決まると、「村山さんの攻めを悠々とかわしたいです。」と村山の面前で述べていた。
勝負を前に、場合によっては挑発的ともとらるこうした発言をするのは損なのだが、意識してやっているのかそういう性格なのかは分からないが今時の棋士には珍しくてよかった。昔でも米長邦雄クラスでなければ、なかなかこんな事は言えないのである。
もっとも、向こうっ気の強さでは村山も負けていない。本当に若い頃には、渡辺明、戸辺誠とともに「酷評三羽烏」として恐れられて?いた。
渡辺もいかにも辛辣な将棋評価をしそうだけれども、実は村山が一番キツイ事を言っていたような気もする。
村山はニコニコなどに出演しても、茶目っ気があると同時に正直に口をすべらせてしまうところがあって愛すべきキャラクターである。
有名な話では叡王戦予選で自ら負かした飯島七段に「叡王戦どうされましたか?」と発言しまったことがある。
村山本人の弁によると、それ以来飯島は研究会で目つき、顔つき、手つきが今までと違うような感じになって村山は全く勝てなくなってしまったそうである。
いや、多分飯島は研究会だけでは満足していないだろう。村山の優勝に刺激を受けて、「村山さん、NHK杯どうされましたか?」と言う機会を虎視眈々と狙っているに違いない。
村山先生、どうぞご用心のほどを。

と思ったのだが、飯島先生は残念ながら来季NHK杯は予選で敗退してしまっていた。
村山先生、間違っても「飯島さん、NHK杯予選どうされましたか?」とか口をすべらせないように。