プロ棋士のアルファ碁評価について興味深い記事が二つあった。

日経ビジネス AIの「人間超え」、その時トップ囲碁棋士は

朝日デジタル 常識はAIに覆された アルファ碁、世界最強棋士破る
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日経の方は、高尾紳路九段による総括記事である。
第二局で話題になったアルファ碁の 序盤の37手目に5線に打った「カタツキ」について。
人間のプロではありえない手で、高尾は当初疑問手だと思ったし韓国プロも同様に評価していた。
ところがその後アルファ碁が快勝する。
 終局後、何度も棋譜を並べ直して考え、そして見えてきた結論がある。この手はアルファ碁(黒)による「勝ちました」、すなわちここで試合は事実上終了という宣言だったのだ。
 囲碁においては、終局までに200手を超えることが普通だ。序盤の37手で勝敗が事実上決まるなど、あるレベル以上の人間同士ではとても考えられないことだ。仮に微妙な差がついていたとしても、19✕19の碁盤はあまりにも広く、わずかなミスで簡単に優劣がひっくり返る。
第三局についても、中国の柯潔(かけつ)九段はこの碁を見て、「15手目が敗着」と述べたそうである。
囲碁の事がよく分からなくて残念だが、この序盤の構想段階でアルファ碁が勝ち、あるいは優勢を意識していたとしたら本当に驚きである。
将棋とは比較しにくいけれども、駒組が組みあがった時点で、「お前はもう負けている」と言われるようなものだろうか。将棋だとよく分かるが、人間が完全にノーミスでそのあと落とし穴だらけの終盤まで乗り切るのは不可能である。それがアルファ碁には出来るのだろうか。

朝日の記事でも様々な棋士がアルファ碁の序盤、布石について感想を述べている。
井山名人「(二局目のカタツキについて)ぱっと、目の行く場所ではない。浮かんでも廃案にしそう。では悪い手かというとそうでもない」。
「こう打てばいいんだよ、と教えてくれているような感じでした。空間や中央の感覚が人間と違う。懐が深い」
高尾紳路九段「人間は、従来、打たれてきた形の固定観念に縛られているのかもしれない」
王銘琬九段「勉強になりました。右辺を広げる手の中には、いままでの感覚とはかけ離れたものがあった。弟子が打ったら、しかり飛ばすような」
いずれにも共通するのは、アルファ碁の「感覚」に対して違和感を抱きながらも、その新しい発想に感心している点である。
これは、アルファ碁がディープラーニングによって直感や感覚で手を選択している事を考えると納得できる。
しかも、本当に布石や序盤の初期段階での話なので、まさしく感覚が大切な世界である。また、囲碁の盤面は広くて着手の自由度が高いので、そんなところからコンピューターが人間が感心するような感覚の手を具体的に提示できているのは、本当にすごい事だと言わざるをえないだろう。
一方で第四局では、アルファ碁は中央の複雑で入り組んだ石の読みに弱点がある事が判明した。
つまり、アルファ碁は序盤の感覚に明るくて大変独創的だけれども、中盤の具体的な読みに弱いという事になる。普通考えられるコンピューターの特徴とはまるで逆である。人間のお株をうばってしまっている。
序盤の感覚に弱くて中終盤の読みには滅法強い将棋のソフトとも逆だ。
こうしたプロ棋士たちの具体的な証言を聞いていると、アルファ碁は単に強いだけでなく、人間の特権をも揺るがしかねない事件だったのだと実感せずにはいられない。