朝日オープン

羽生善治名誉朝日杯(仮称)

まずは、昨日の記事の補足を兼ねて序盤について。
昨日の記事についてコメントをいただいた。
西尾さんの「矢倉△5三銀右戦法」が手元にあるので調べてみると、本譜43手目▲1七桂の順はやはり後手がよいとのこと。代えて、ここで▲1四歩△同歩▲1三歩△同香▲1七桂△2四銀▲2五桂として、桂香交換を確定しておく指し方が有力だそうです。
昨日は羽生善治の「変わりゆく現代」将棋に書かれている内容を紹介したが、この本のオリジナル原稿はとても古い。だから、当然その後△5四銀についても研究が進んでいるはずである。
その一例として若手精鋭の西尾明六段の著書の研究手順を教えていただいたのだが、西尾もやはり▲1七桂とする順については(「変わりゆく現代将棋」同様)後手よしと見ているそうである。但し、紹介手順が先手としては有力だと。
現代将棋の研究は本当に徹底されているので、渡辺新手△3三銀が主流だとしても、昔から有力とされている△5四銀についても当然研究されているはずだ。西尾の例以外にも当然色々水面下の研究があるのだろう。
森内がこの手順を知っていたかどうかは不明だし、また、知っていてこの順でも不満だと思っていたのかなどはとても素人には分からない。
また、羽生の方も「変わりゆく現代将棋」時点以降に△5四銀についての研究があったはずで、現在の見解もよく分からない。
そもそも、羽生は渡辺との竜王戦で第六局で▲7九角が渡辺新手△3一玉に打ち破れたのを受けて、第七局では自身の著書では後手の△5四銀が有力だと書いていながら▲2五歩を採用しているわけである。
羽生の本の中でも後手が指せそうとしながらも、「難解ながら」という留保をつけたりしている。
羽生の場合は最新の課題局面で、先手後手の両方を持って、しかも両方で勝ってしまってきた事がよくあった。羽生は将棋はそんなに簡単なものでなく、どちらかが定跡研究で有力だとしても、実戦ではそんなに簡単に勝ち負けが決まらないと考えているフシがある。現に竜王戦第七局も勝敗を決めたのは定跡研究ではなかったわけだし。
だから、今回の朝日杯についても森内と羽生という超一流棋士が本当に考えていたことなど素人には分かるはずもない。と言ってしまうと身も蓋もないが。
今回についても(昨日書いた事を含めて)、トッププロの将棋について素人が幼稚な推理ゲームを試みているだけなのである。
少なくとも森内は△5四銀に対する確固たる対応は準備できていなかったようである。そして、羽生がこの大事な将棋で△5四銀を採用してくるからには、何らかの新手を準備しているかもしれないという警戒もあっただろう。そして、その中から▲1七桂とする順を選んだが、その後に▲5九飛のところで大長考したところを見ると、予定の▲2五桂では何か誤算があってうまくいかないと読んでの予定変更だったのかもしれない。
▲5九飛はちょっと不自然な手でとりあえず序盤の駆け引きでは羽生が一本とったのかもしれない。しかし、将棋はそれで終わるほど簡単ではない。
実戦でも、森内が▲5六歩から機敏で、その後後手としてもどうすればよいのか難しそうである。
しかし、その後の羽生の△3八銀がいかにも羽生流だった。ゲスト解説していた谷川も、いかにも羽生さんが好きそうな銀打ちだと述べていた。
今回は3八だったが、2七の「羽生ゾーン」に銀や金を打って飛車をいじめるB面攻撃をするのは羽生のお家芸なのである。
率直な森内は感想で「これで方向性が分からなくなりました。」と述べている。特に短い時間でこんなことをされたらたまったものではないだろう。
しかし、森内も▲8六銀から角を7七に据えて後手玉を睨んで迫力十分である。
このあたりで解説の山崎がさかんに「ここは△3三角しかないでしょう。」と力説していたが、ことごとく羽生が指さずに会場の笑いを誘っていた。
山崎という人はサービス精神旺盛で、羽生がもしかすると指さないと分かっていて敢えてこういう事を言っておいて、外れた際の自虐的笑いを取ろうとするところがあると思う。面白い人である。
山崎の名誉の為に言っておくと、感想戦で羽生も△3三角は有力だと認めていたのだが。
森内が▲4四銀としたところでは、後手はどうするのだろうかと解説で言っていたのだが、△6五金がさすがの手で、攻めの軸の角をいじめながら△7六金のすりこみの厳しい攻めも見据えている。
この当たりの両者の攻防は実に見応えがあった。個人的には、やはり羽生ファンにとって最もこわいのは相変わらず渡辺と森内である。
その後の▲4一銀が森内によれば敗着だそうである。感想戦でも羽生が単に▲2四歩から攻めていくのがイヤだったと指摘していた。
しかし、▲4一銀も一見とても厳しいので、これが悪手だというのはとてもレベルの高い話ではある。しかし、こういう紙一重の急所を羽生は見抜いているのかもしれないのだが。
その後も先手の▲2四歩以下の攻めがたいそう厳しくみえたのだが、△6八角で受かっているそうである。最後飛車をきってしまうと、先手玉が詰めろになってしまうらしい。即座にそれを山崎が指摘していたのは流石だった。
森内もそれを読んで飛車をきらずに我慢した。簡単には自爆せずに▲6六歩として、一瞬後手もどうするのかと思って見ていたら、羽生はあわてず騒がず△3二金。よく見れば(よく見なくても)味よし道夫でこれが決め手ではないか。プロなら一目なのかもしれないが、弱い素人は、この手に一番感心してしまったのであった。
結果的には羽生の強さが際立ったとは言え、やはり羽生森内の濃厚さは存分に味わえた。準決勝では「渡辺世代」の二人が挑んだわけだが、率直に言うと将棋の密度が決勝とは違いすぎた。どれだけ羽生世代の人たちはいつまでも強いんだ。
羽生は今年度、早指し棋戦で初戦で三連続敗退してしまって、「ついに羽生も年齢面の..」
などと囁かれもしたが、この朝日杯では単に勝つだけではなく早指しでの圧倒的な力量や技術や駆け引きを見せつけた。
というわけで、実際には存在しない名誉朝日杯を記事タイトルにしたくなるというものである。

朝日杯決勝羽生vs森内に潜む「変わりゆく現代将棋」の変化

朝日杯決勝は羽生が勝利して朝日杯三連覇を遂げた。
後手の羽生が急戦矢倉でやや古い形を採用したのだが、それについて感想戦において二人で次のような会話がかわしたそうである。
森内九段「羽生さんの本に書いてあったと思うんですけど、思い出せなかったですね」 羽生名人「よく覚えていません」
とても和やかな雰囲気だったようだが、素人なりに調べてみると羽生の恐ろしい勝負術が明らかになった。
急戦矢倉については、渡辺と羽生が永世竜王をかけた竜王で画期的な変化があった。
まず、第六局において、先手羽生後手渡辺で急戦矢倉になった際に、△5五歩▲同歩▲同角と進んだ場合に、朝日杯では▲2五歩としたわけだが、ここで▲7九角とするのも有力である。
そして、羽生の「変わりゆく現代将棋」でもこの順に触れられていて、その時点の羽生の研究では先手が指せるという結論になっている。
ところが、この▲7九角に対しては、竜王戦で渡辺がその後手順が進んでの△3一玉という新手を披露。そしてこの手がうまく行って後手が快勝したのである。つまり、羽生の本で急戦矢倉に対する結論とされていた▲7九角で先手良しというのを渡辺が当時覆したわけである。
それを受けての竜王戦第七局でも、先手羽生後手渡辺の急戦矢倉になり、羽生は▲7九角ではなく▲2五歩とした。
それに対して従来は羽生が朝日杯で指した△5四銀が定跡だったのを渡辺が△3三銀としたのが第二の新手で、以下伝説の激戦になったものの結果的には渡辺が制して永世竜王を獲得したわけである。
とにかく、この△3三銀新手が有効であることは認められて、その後も研究が重ねられている。急戦矢倉における最新のテーマでありつづけているはずだ。
ところが、羽生は朝日杯でその渡辺新手でなく従来の△5四銀をぶつけてきた。
そして、私が積ん読になって神棚に飾ってあるだけの「変わりゆく現代将棋」を調べてみると、この▲2五歩△5四銀、さらに進んで朝日杯で森内が▲5九飛としたところで普通に▲2五桂とする変化についても詳述されている。
結論だけ言うと、羽生の本では、様々な変化について「先手が好んで飛び込む変化とは思えない」などとして最後に「先手があまりうまくいかなかった」と書かれているのである!
この▲2五桂以外の変化についても、△5四銀が有力だと述べていて、だから羽生は▲2五歩では▲7九角とすべきで、それなら先手が指せるという本の構成結論になっているのである。
分かりにくいので再度まとめると、
1. △5五角の時に、▲7九角が最有力だったが、それが渡辺の△3一玉新手により後手も指せる事が分かった。
2. 従って、5五角の時に▲2五歩が見直されたが、それにも渡辺の△3三銀という新手が出て後手も指せる事が分かった。
3. その後研究は進んでいるが基本的には渡辺新手をめぐる究明が中心になっていた。
4. しかし、そもそも羽生自身は「変わりゆく現代将棋」で、▲2五歩に対しては△5四銀でも後手が指せるという研究認識をしていた。

つまり、最新研究だけしていると4の部分がエアポケットになるという事だ。
それを朝日杯というきわめて短時間の将棋で羽生は採用して、いきなり森内に対応を求めたわけである。
中継を見ていたら、羽生が△5三銀で急戦矢倉の意思表示をした際に、森内が手で顔を覆って「まいったな」という感じであるようにも見えた。
森内は事前の準備が徹底的なので、矢倉の先手についてもきちんと準備をしていたはずだ。しかし、多分急戦矢倉は想定していなかっただろう。
同じ朝日杯で去年も決勝で羽生が意表の先手中飛車にして、後手の渡辺が愕然とする様子が映し出されていた。羽生は恐ろしい勝負師なのである。
さて、冒頭の二人の会話はのどかめいているが、勝手読みすると実は恐ろしい。
森内は定跡の▲2五桂でなく▲5九飛とする際に、あの短時間の将棋では異例ともいってよい大長考をしている。
「羽生さんの本を思い出していました」は冗談めかしているが、ある程度本当で、▲2五桂に対しては羽生が後手で指せると書いていたのを森内は驚異的な記憶力で思い出してしまったのではないだろうか。そして、実際に読みをいれても▲2五桂ではなかなかうまくいかない事がわかった。そして、苦心した上で▲5九飛と変化した。だが、実戦ではあまりうまくいかなかったようである。
一歩、羽生が「よく覚えていません」というのは、さすがに自分の本についてはありえなくて、以上のような緻密な計算のもとに△5四銀をぶつけてきたのではないかと思う。
以上、全て素人の勝手な推論なので間違いの可能性の方が大きいような気もするが、少なくともこのようなバックグラウンドがあることだけは言えるのではないかと思うのだが。

序盤についてこの記事で補足しておきました。

CSテレ朝チャンネルの朝日杯番組

昨晩、朝日杯の番組がCSの朝日チャンネル2で放映された。合計四時間超という贅沢なつくりである。
まず、テレビ朝日の田畑祐一アナの羽生善治への準決勝直前のインタビューから始まる。
「こんな対局直前のインタビューはあまりないのと思うのですが、お邪魔ではないですか?」
田畑祐一は新日本プロレス中継も担当していたアナウンサーである。これが蝶野正洋ならば、「わかっているんならインタビューなんかするなや、こらあああ」という定番の展開になるわけだが、勿論羽生がそんな事を言うはずもなく、インタビューは穏やかに進んだ。
豊島将之にもインタビューしていたのだが、どちらにも賞金1000万円の使い道を聞いていたのが普段の将棋番組とは違っておかしかった。いつもとは勝手が違うインタビューに豊島が「何なんだろう、このおじさん。」というような目で当惑しながら答えていたようにも見えた。きっと私の気のせいだろう。
いきなりインタビューだったが、その後はすぐ対局中継(録画)にはいって、余計な前振りとか説明もなく、スポーツ中継のように実況に徹する番組のつくりが大変よかった。編集なしの完全中継である。
中継の仕方も、対局生盤面とワイプで対局者二人の表情を常に映し続ける斬新なやり方。別室の控室に田畑アナ、解説の阿久津主税、朝日新聞の将棋担当の山口進氏の三名がいて大盤などなしに実況席のようにデスクに三人横並びになってその音声だけを映像にかぶすやり方。時に対局者だけ抜いた映像や対局場全体の映像にかわるが、基本的には対局者二人の表情、様子を視聴者はずっと見守ることが出来る。この中継の仕方は大変よいと思った。
画質も大変良くもマイクも対局者の息遣いまで拾っていた。
こうしてずっと観ていると、やはり羽生は対局中の動きが大変激しい。完全に静の豊島と対照的である。恐らく将棋にそんなに詳しくない田畑アナもすぐそれに気づいて指摘していた。
お得意の両手で頬っぺたをはさむ「『ムンクの叫び』ポーズ」も何度も出てきたし、両手で頭をかかえたり(田畑アナによると「頭皮マッサージ」)、とにかく常に動いていて表情も豊か。加藤一二三が、「私と同じくらい動きが激しい」と言うのもうなずけるというものである。いかにも、全精力を傾注して対局に集中している様子が伝わってきた。
午後の決勝の渡辺明戦の前でも直前インタビューが行われていた。午前の対局の様子を見て、これは一日二局は結構過酷だなぁ、と思ってみていたら二人ともことの他元気である。二人とも将棋が強いだけではなくて、体力も大変なものがあるのだろう。
将棋は田畑が「大変貫禄のある方」と呼ぶ渡辺がペースを握る。そして、ポイントとなった三枚換えの場面は、二人とももうこうするしかないと△5五角までバタバタと進んだ。二人ともそれほど表情も変えずに。ああなれば必然手順なので当然なのかもしれないが、こういう勝負の呼吸を含めて二人の様子を実際にずっと観ていられるのは楽しい。
決勝では森内俊之もゲストに呼ばれていたが、やはり田畑アナの問いが新鮮である。「羽生さんは服にはそれほどこだわらないようですが、森内さんはスリーピースでピシッと決められていますね。」これには、森内も「そんな事は言われた事がないので嬉しいです」と当惑気味に笑っていた。
当日の関東は記録的な大雪で羽生スーツ着用でスノーブーツといういでたちだった。だから田畑アナはこんな事を言ったのだろうか?(考えすぎです。)
また、羽生が席を立ってトイレに向う様子もカメラが追っていたが、羽生の歩き方がなんと言うか、ぬき足さし足忍び足のような感じだった。これもスノーブーツでドカドカ歩いて音が出ないように気をつかったのだろうか?(だから考えすぎです。)
豊島に対しても「きゅん」と呼ばれることについてつっこんでいた。豊島は、最初は照れくさかったがもう慣れました、と。さらに「それは豊島さんを見ていると女性ファンが『きゅん』とするからだそうですね。」これには、豊島も「そうなんですか?」と照れるしかなかった。
勿論将棋の解説も大事だが、基本的には娯楽番組なのだから、多くの人に見てもらうにはこういう会話も適度にあってよいのではないだろうか。
将棋は羽生が驚異の大局観から勝ちになったわけだが、渡辺が完全に負けを悟った際に顔をおおう様子が何とも印象的だった。当日のニコ生でもこの様子は確認出来たのだが、現代技術の高画質で観る事ができると迫力が違う。
この朝日杯の番組は来年以降も是非続けてもらいたいし、他の番組でも参考にしてもらいたいところがあつた。
締めは田畑アナによる優勝者の羽生へのインタビュー。やっぱり、最後まで賞金の使い道を聞いていた。明らかにこれは狙っている。
羽生は「まぁ、これからゆっくり考えます」と軽くかわしていた。
しかしもし、蝶野正洋ならば、「オマエいつまでそんな事言ってるんだこらああああ、いい加減にしねえか。」と頭からビールをぶっかけられていたはずなのは言うまでもあるまい。
(田畑アナのウィキペディアによると、実際蝶野にビールを頭からかけられた事があるという。)

朝日杯における羽生善治の大局観

朝日杯の当日、関東地方は朝から大雪だった。外出された方々はさぞ大変だったろうと思うが、家にこもって雪景色を楽しみながら豪華メンバーによる朝日杯の準決勝と決勝をニコ生中継で楽しめるなどこれ以上の贅沢はない。
雪景色にピッタリな森田芳光監督「キッチン」の野力奏一作曲のサウンドトラック「満月」をかけながら、雪景色をバックに「将棋エッセイコレクション」の写真を撮ってみたりして(あっ、宣伝してやがる)、私は朝からゴキゲン中飛車だったのである。単なるバカである。
雪は関東では何十年ぶりの記録的なものになり、翌日雪かきが大変な事になり、さらに本日激しい筋肉痛に苦しみながら現在このブログを書くことになろうとは愚かなその頃の私は想像だにしていなかったのだった。雪国の皆さんには本当に申し訳ない。
さて(何がさてだ)、朝日杯の準決勝は何と言っても森内vs渡辺の竜王戦対決再びが注目だった。竜王戦では森内が渡辺を圧倒したが、短い時間ではどうか?
渡辺先手で角換わりになったが、先手では珍しく穴熊に囲った。いかにも渡辺らしい発想である。そして猛攻をかける。あとは渡辺の攻めがつながるか森内が受けきるかだけである。竜王戦の時と同様に「盾と矛」の対決になった。二人とも実に棋風に忠実である。
結果は渡辺が攻めをきっちりつないで快勝。▲3八に打っておいた桂馬が実に攻めによくきいていた。やはり短い時間での渡辺の反射神経は抜群である。相手がちょっとでも隙を見せるとあっという間にもっていってしまう。竜王戦のプチリベンジも果たした。
羽生vs豊島は豊島先手で後手羽生の△5三銀右急戦矢倉(但し、この形は実際は急戦にならない事が最近は多い)。羽生が雁木に組む。プロではほとんど「消えた戦法」になりつつある雁木だがこの形に限っては有効らしい。一方、豊島は穴熊に組んだ。若い渡辺と豊島が穴にもぐったのが現代の将棋界を象徴している。
そこから羽生が△3九に角を打ってぶったぎりやや強引な攻めを見せる。あまり強くないアマチュアがしそうな攻めで、もし弱い人が指したら「筋が悪いねぇ」と言われてしまうかもしれない。まして、先手は穴熊で後手はうすい雁木である。ちょっと常識では考えられないのだが、これで指せるという発想が浮かぶのが羽生である。決勝でもみせることになる羽生の大局観だ。頭が柔らかくて常識にとらわれないのである。
とはいっても難しそうな局面が続いたのだが(むしろどちらかというと豊島持ち)、豊島が指し方に苦労している間に羽生は着々とポイントをかせいで最後は大差になってしまった。中盤のわけがわからない局面で急所を感覚的に直観する羽生の強さが出た将棋である。
圧倒的に攻めつぶした「剛」の渡辺と、いつの間にかよくなっていた「柔」の羽生、それぞれが二人らしい勝ち方で決勝に進んだ。
決勝は振り駒で渡辺先手に。私はその時点では、矢倉の▲4六銀▲3七桂戦法後手△9五歩型▲2五桂を予想した。竜王戦で渡辺が先手で再開拓した形。王将戦第一局でも渡辺先手羽生後手で指していて羽生は棋王戦で永瀬相手に後手を持って、(羽生ファンとしては信じられない事ではあるが 笑)、二つとも負けている。しかし内容は負けとはいえなくていかにも改善の余地がありそうだった。
この二人は矢倉の別の形でもまるで意地をはるかのように何度も同じ形を指している(竜王戦とNHK杯などで)。だから、今回もこれを予想かつ期待した。
と思ったら先手の渡辺の初手は▲2六歩だった。私としては「ドヒャー」である。こうなると矢倉は基本的にはなくて、相掛り、あるいは角換わりか本譜の横歩取りだから。渡辺の真意は不明だが、よく考えたら準決勝の初手も▲2六歩だった。この短い時間であの矢倉の複雑で深い読みが必要な形は回避したのか、あるいは具体的に気になる変化があったのか、単に相掛りか横歩か角換わりを指したかったのかは分からない。初手▲7六歩だったら羽生がどうしたのかもちょっと知りたいところである。
横歩取りで羽生がちょっとした工夫を見せたのだが、渡辺の対応が自然かつ的確で後手の飛車が狭くて感覚的には先手を持ってみたそうな感じになった。準決勝でもそうだったが渡辺の短い時間での対応能力は凄まじい。感覚的にも非常に卓越していて、羽生が相手でも場合によっては相手のちょっとした隙につけこんで一気に押し切ってしまうのである。生観戦しながら、私はどうもそういう展開になってしまいそうなのではないかと危惧していた。
さらに、▲6六角に対して羽生が△4一飛とひいたために、後はほとんど必然手順で先手の金銀香と後手角のいわゆる「三枚換え」になった。将棋では金銀と大駒の「二枚換え」でも金銀が圧倒的に有利とされている。まして香車も加わった「三枚換え」だ。普通に考えると既に将棋が終わっていてもおかしくない。
ところがニコ生解説の佐藤康光によるとその後△5五角と打って結構難しいとのことだった。とはいえ、私は疑心暗鬼で、さすがに先手がよいいのではないかと思っていた。
それが、その後手順が進むと本当に難しいのが私にも分かって来た。いや、それどころか後手が残している変化が多そうなのだ。驚くべきことである。
結局わりとはっきりした形で後手が残してしまった。ニコ生で二人の様子が映し出されていたが、負けがハッキリして渡辺が愕然としたように明らかにガッカリする様子が印象的だった。それはそうだろう、いくらなんでも普通なら少なくとも悪いとは考えにくい将棋がこうなってしまったのだから。
一方の羽生はもう逃さないとばかりに盤面集中。最後の方では何度も何度も確認するように読みをいれて、「勝ちを確信した際の手の震え」も観ることが出来た。
渡辺はプロ的には簡単な詰みでも最後まで指したが、これは公開対局におけるファンサービスだろう。分かりやすいように。渡辺はこんな時でもファンのことを忘れないタイプなのである。
三枚換えでも指せるという羽生の大局観がまたも出た将棋になった。羽生渡辺では竜王戦のパリ対局がそうだったし、今年度の順位戦でもあった。そして正直者の渡辺はどちらも率直に羽生の大局観を認めている。
今回渡辺がどう言うかが注目されたが、大盤解説会に二人が登場して、少しコメントしただけである。三枚換えの局面について、渡辺は「そんなに自信があったわけではない」と述べて、羽生は「さすがに悪いと思った。」そうである。具体的には、直後に▲5六銀と飛車交換を挑んだところではじっと桂馬を取っておかれたらという話だった。詳しい事は週刊将棋や将棋世界で分かるだろう。
少なくとも普通では絶対不利の「三枚換え」でも多少不利かもしれないが意外に難しい順を選んだ羽生の大局観が秀逸だった事だけは間違いない。羽生は、ほんんど本能的にあるいは経験を蓄積した知慧の力によって局面のバランスを取る事が出来る。これだけは他のどの棋士にもない能力と言えそうだ。本局でも序盤のゆるみない渡辺の指し方は素晴らしかったし、渡辺も間違いなく大天才なのだが、それでも羽生だけはどこかちょっと「違う」ような気がしてならない。

朝日杯中継サイト
▲渡辺vs△森内の棋譜
▲豊島vs△羽生の棋譜
▲渡辺vs△羽生の棋譜

2012朝日杯 羽生善治二冠が優勝

朝日杯中継サイト
決勝棋譜

最近はニコニコ動画さんが、さかんに将棋中継をしてくれていて、昨日の朝日杯の準決勝と決勝も、木村一基と本田小百合による大盤解説を完全中継していた。お二人による絶妙な掛け合い漫才?を楽しみながら、羽生さんたちの将棋も満喫できる。いい時代になったものだ。

準決勝の羽生善治vs菅井竜也は、後手の菅井のゴキゲン中飛車に対して、羽生の超速▲3七銀。菅井新手の△4四歩に、羽生新手の▲7八銀という展開。
菅井新手は久保利明も連採したが、佐藤康光の「天空の城」▲5七玉の剛直な対策と、羽生の▲7八玉の自然流の柔軟な対策に連敗して往復ビンタをくらってしまった。しかし、菅井は今のところ負けてないし、朝日杯の行方尚史戦でも勝ったばかりである。
本家による菅井新手に対する羽生の対策が注目されたわけだが、この▲7八銀は関東の一部で研究されていたそうである。関西の菅井は全然知らなかったらしい。最近は、関西の研究が関東を上回っているとも言われるが、関東が意地をこみせたか。しかも、それを採用したのが、もはやベテランの域に入った羽生だった。
その7八の銀を繰り出して右銀と協力して天王山をおさえこむことに成功した。もともと、ゴキゲンに対してある二枚銀作戦の応用で、別の△3二金型でも同じように二枚の銀が協力して▲5五を制圧する形が出てくる。
結局菅井が△5二歩と屈服した形はいかにもつらそうで、居飛車の大作戦勝ちである。菅井新手に対する決定版にもなりそうな見事な羽生の序盤戦術だった。関西の若手の代表的研究家相手に、こうして40を超えても研究負けしない羽生には本当に驚かされる。
その後、菅井がうまく勝負に持ち込んで、感想戦ではむしろ菅井よしの変化まで指摘されていた。しかし、勝負手を逃したために、最後は羽生が落ち着きを取り戻して最後は冷静に勝ち。激辛とも思える厳しい勝ち方だが、最後本当に勝つまで決して気を緩めない羽生流の仕上げである。
もう一局の郷田真隆vs広瀬章人は、先手広瀬の四間穴熊に郷田も穴熊で対抗。やはり、広瀬が相穴熊のスペシャリストぶりを遺憾なく発揮してペースをつかんだが、終盤もつれて郷田にも勝ち筋があった。しかし、それを逃して広瀬が辛勝。

決勝は、広瀬の先手でやはり四間穴熊。後手の羽生も相穴熊を堂々と受けてたった。
広瀬が4筋の歩をきる形に。解説の木村が、先手は4筋の歩がきれているので、将来4筋に歩を打ってと金つくりが見込めることを指摘していた。
確かに相穴熊で広瀬がと金攻めだけで勝つのを何度も目撃している。形勢はまだ互角でも、普通の分れだと先手に分がありそうで、羽生もどうするか難しそうに見えるところに△6七銀!
狙いは7六の歩を取る一点だけ。着実だが、先手も穴熊が完成しており、ソッポを攻めるので、普通に考えるとあまり筋がよくない。
実際、恒例の準決勝敗退罰ゲームで大盤解説に加わっていた郷田も、「これは筋が悪いんですけれどね。」と率直に指摘していた。それに対して、木村がすかさず「羽生さんの指し手を筋が悪いというのですか」と突っ込んでいたことは言うまでもない。
しかし、こういう一見筋悪の手を指せるのが羽生の強さである。プロなら普通に筋のいい手を誰でも指せるが、敢えてそうではない手を見つけ出すのが一流棋士で、特に羽生はそういう嗅覚に優れている。有名な「羽生ゾーン」(2七や8三)の金打ちや銀打ちもその代表例である。
羽生は、大盤解説会での感想戦で、先手が4筋の歩をきっているので、普通にやるのでなく後手として何か主張があるように指さなければいけないと考えていたと述べていた。そのために、敢えて力づくとも思える△6七銀を選択したわけだ。一見、異筋に見える手にもきちんとした合理的根拠があるのだ。
結果的には、4筋をきって相穴熊のペースをつかみかけていた広瀬の流れを変える盤上この一手だった。
ただ、羽生も感想で述べていたが、何か振り飛車にうまい対応があるとこの△6七銀は緩手になってしまう。広瀬は▲5二銀としたが、羽生に強気に△4二金と対応されて、結局打った銀が遊んでしまった。但し、他にどういう対応があったのかは分からない。
その後は、木村と郷田がかなり早い段階で解説した順をずっと辿るだけれになってしまった。
羽生の△6六角が厳しすぎた。一度▲5二成銀として△同金なら龍で5筋を守れるが当然△3三金とかわされる。仕方なく5筋に手を戻すが、飛車打ちに底歩を打っても△5七歩からのと金攻めが受からない。やはり相穴熊ではと金をつくった方が勝つというのが鉄則である。木村が明快に解説していた通りの攻め筋になったが、分かっていても受からない。相穴熊ではこのように一度差がつくと挽回不能に陥ってしまうのだ。
去年の王位戦の相穴熊で、実は広瀬が羽生がこの逆のような形でひどい目にあわせたことがあったが、羽生が完璧な形にリベンジに成功して優勝。
それにしても、最近の羽生の順位戦や早指しの将棋での勝ちっぷりは尋常ではない。また一つ新たに何かをつかんだような気がする。普通の棋士には見えていない何かを独特の大局観で敏感にら感じ取って、気がつけば大差という将棋が多いような気がする。「ニュー羽生」の形が見えてきた、と述べたら言い過ぎだろうか。

木村朝日誕生!朝日杯準決勝決勝

朝日杯中継サイト

木村一基八段が、渡辺竜王と羽生名人を連破して優勝。朝日杯を獲得した。
朝日杯は二次予選以降全て生中継していたが、実は木村も危ない苦しい将棋もあった。以下簡単に優勝への軌跡(笑)。(棋譜リンクをはっておきます。)

二次予選
木村一基八段 対 遠山雄亮四段
遠山先手で石田流。難しい分かれから、木村が意表のソッポに桂を成ったのが好手で、以下木村が相手にあせらせて攻めさせる「らしい」展開になって結果的には快勝。

木村一基八段 対 飯島栄治七段
これは私も生で見ていたが、終盤色々飯島に勝ちがあって木村がすごく危なかった将棋。横歩取りで木村先手。終盤木村が決める手を逃し、さらに攻め間違えて飯島が的確に受けていればきれていた。その上、飯島が王手竜取りのやさしい筋を逃してしまう。木村もウッカリしていた。木村が急死に一生を得た感じの将棋。こういうのを勝たないとなかなか優勝は難しいということか。

本戦トーナメント
深浦康市九段 対 木村一基八段 asahi.com観戦記
先手深浦で後手木村の一手損角換わり。先手が早繰り銀から果敢に攻めたが、木村の△5五角が名手でほとんど決まってしまったらしい。とはいえ、終盤難しそうなところもあったが、木村が冷静に読みきって勝ち。快勝、会心譜である。

丸山忠久九段 対 木村一基八段
 asahi.com観戦記
丸山先手で、やはり後手木村の一手損角換わり。木村の構想が巧みで優位に立ち、丸山も辛抱して▲2八歩と▲8八歩と打つ珍形になったが、木村はおかまいなしに強襲して一気に寄せきってしまった。完勝。木村が攻めのきれ味をみせた将棋。

そして今日の準決勝と決勝。
羽生vs郷田は、先手羽生で後手の郷田が急戦矢倉。若き日の二人の戦いを髣髴させるような壮絶な斬りあいになったが、羽生が一手早く相手玉にたどり着いた。

渡辺明竜王 - 木村一基八段
先手渡辺で相矢倉から、渡辺が先行したが、途中からは渡辺が木村のお株を奪って受けて木村があせらされている感じになった。竜王戦でもそうだったが、渡辺の手厚い受けは強力だ。渡辺が自玉を堅くしてから満を持して反撃に移った時は勝負あったかにも思えたが、木村も決して諦めずに玉を早逃げして粘る。それが功を奏して、最後はきわどくなって渡辺が木村玉を詰ますことが出来ずに投了。くわしい感想コメントがまだないので分からないが、渡辺に勝ちがありそうな将棋を得意の受けで粘ってうっちゃった感じか。決勝の解説で、渡辺は最後詰むと思ってしまったことを、相変らず正直に告白していた。

羽生名人 - 木村八段
木村先手で通常角換わり。羽生は後手でも角換わりを指すが、最近は横歩取りが多かったのでちょっと新鮮だ。羽生が趣向をこらして9筋をつきこさせる間に攻撃態勢を築いて後手ながらも先攻。羽生の攻めが厳しくて強烈なように見えたが、そこから木村が「千駄ヶ谷の受け師」の本領を発揮。▲7七を銀でも角でもなく意表の金で取ったのも力強かった。それでも、あせらずに攻めれば羽生がよかったという感想があるところを、実際には普通に鋭く攻め込んだが、9筋を突きこした木村玉に予想以上に生命力があった。終盤は、解説の渡辺と行方も頭を悩ます難解で手に汗握る大熱戦に。木村らしく▲7六金打とがっちりり受けて、▲3六桂の捨て桂で自玉を緩和して、相手に詰めろをかけて自玉がきわどく詰みを逃れて勝ち。決勝戦にふさわしい将棋で優勝を決めた。

予選の飯島戦をなんとか切り抜け、深浦と丸山という実力者を一手損角換わりで切り捨てた。特に深浦には王位戦のプチ・リベンジを果たした。そしても今日は木村らしい受けと粘りの将棋で、竜王と名人を連破。文句のない優勝といえるだろう。

というわけで、木村先生はああいういいキャラクターをされているので、ここはスポニチさんに管轄外でも勝者罰ゲーム写真を執り行っていただきたいものである。ダメっすか?

朝日杯 羽生名人vs渡辺竜王

朝日杯将棋オープン中継サイト

一昨年の竜王戦での伝説の渡辺vs羽生以来、なかなか両者の対戦が多くは実現しなかった。ファンにとってはフラストレーションがたまる状況だったが、今日の朝日杯でネットで生中継される機会をえた。
一昨年も、竜王戦第七局の直前にこの朝日杯で当たり、なんと相入玉模様の激戦になっていた。二人の将棋はもつれることも多い。
本局は羽生先手で、角換わり腰掛け銀先後同型に。渡辺竜王は、角換わりではもっぱら後手をもつ「思想」の持ち主で、去年の竜王戦でも先手を持った森内を撃破して防衛の原動力になった。本局も、まさしくその第三局の初日の手順をそのまま辿った。
それも、とてつもない勢いだった。中継の鳥記者も全くコメントする猶予がなく、「もうどうにもとまらない」というのが精一杯だった。まるで、堀口一史座と堀口一史座が対局しているかのようだった。
研究将棋で定跡部分が続き、また朝日杯は短時間の将棋なので余計な時間を使いたくないというのは分かるにしても、それにしても進みすぎだ。そもそも、一昨年の竜王戦でも初日からのっぴきならない局面に突入することがままあった。
羽生も渡辺もお互いのことは素直に認め合っているようである。それを実際に言葉に出しているし、二人とも現代的な割り切ったところのある人間なので、昔の棋士の様に猛烈な敵対意識を燃やすということはないのかもしれない。
しかし、二人とも最高の将棋の専門家であると共に、比類のない勝負師魂の持ち主である。いざ、盤の前に座ると、二人の何かが真っ向からぶつかりあってスパークして、指し手となって表現されるのかもしれない。
そうじゃなくてはいけない。現在で色々なことが隠されることなく一般の人間にそのまま伝わってしまう。そして、色々なことが一般の人間からも言われる。(オマエもその悪い例だといわないでください。)だからプロ棋士たちも、批判を受けるのを避けてなかなか本音を言いにくい状況なのだと思う。でも、この二人の場合、盤上の指し手から確実に何かが伝わってくる。面白い。
かつて、谷川vs羽生がゴールデンカードといわれたが、特に谷川が紳士過ぎるので露骨な正面衝突にはならなかった。しかし、羽生と渡辺の場合は、二人とも良い意味で本物の勝負師なので、猛烈に何かがぶつかり合って面白いのである。
今回は、羽生の切れ味鋭い攻めが決まって快勝となった。一昨年の竜王戦第三局のように。しかし、あの時もそうだったが、渡辺は決して黙って引き下がるような相手ではない。
今年は二人が存分に戦いあう舞台が出現することを期待しよう。

朝日杯 木村vs佐藤和俊 ー 名局と名実況

Merry Christmas!
朝日杯の対局が連日行われているが、本日の木村vs佐藤和俊 は千日手指し直しの壮絶な戦いとなった。特に指し直し局は名局かつ名実況(担当 銀杏記者)で、将棋ファンにとって素晴らしいクリスマスプレゼントになった。

朝日杯中継サイト
木村一基八段 − 佐藤和俊五段(木村一基八段 − 佐藤和俊五段(指し直し局)

終盤で千日手となり、両者最初から手一分将棋。(以下コメントは全て銀杏記者による。)
初手から1分将棋で秒読みというのは、記者も初めての経験。不思議な感じがする。
千日手局は、先手木村で後手佐藤のゴキゲン中飛車になった。後手の佐藤が二手目にいきなり△5四歩としたのが駆け引き。これは普通に△3四歩だと▲6八玉の「ゴキゲン封じ」があるためである。以下普通のゴキゲンの形に。
これで普通に戻る。現代将棋は2手目、いや、初手の段階から駆け引きがあるのだ。
木村は▲7八金方の再流行の対策を採用。本譜のように、先手が馬を作る形になるのが定跡手順なのだが、それでも先手有利ではなく、後手も十分に指せて勝率もむしろ良い。現代将棋の特異な感覚を象徴する形である。
先手は馬を作ることに成功。しかし、不思議なことにこの局面は先手の8勝16敗(9筋の端歩の突き合いがないものも含む)とダブルスコアになっている。
馬を作ったものの、後手に2筋を押さえられるのも大きいということだろうか。不思議な局面ではある。
銀杏記者は、このように千日手局でも、少しも慌てることなく将棋の内容、現代性のついてしっかり触れながら実況を進めていく。
指し直しで両者最初から一分将棋なので、「トイレ問題」も発生する。それをっしかり実況しているのが実に面白い。
佐藤が席を立つ。1分将棋では一番の決断。特に銀沙の間はトイレから遠いだけになおさらだ。
10数秒後、木村が指す。そして、木村も席を立った。
こちらは1分将棋での手筋。自分は時間が切れるリスクが少ない。
佐々木三段は初めての経験だったのだろう。「読んでいいんですか」と記者に聞いてきた。もちろんOKだ。
木村が指して、40数秒後に佐藤が戻ってきた。席に着いたときに「50秒、1、2、…」と佐々木三段。
佐藤の勝負手(?)は成功した。
生対局ならではである。結果的に成功はしたが、佐藤が帰ってくるのがあと十秒遅れていたらジ・エンドだったわけである。なんともスリリング。
さらに、途中で再度千日手かという局面も発生。大変だ。
▲同飛△4五銀▲3四歩△同銀▲3八飛…。ん?また、千日手か???
クエッション・マークに実況者の心の叫びが聞き取れるではないか!
さらに、佐藤の猛攻を木村がいかにもらしいギリギリの受けで凌ぐというすごい展開になったのだが、ここで銀杏記者の名言が飛び出す。
(木村の)真剣白羽取りの現場を見ているかのよう。
すさまじい応酬が続いている。
これを後で考えて書いたのでなく、秒読みの最中でコメントしているのだ。両者の鬼気迫る対局につられて、銀杏記者にも将棋の神が舞い降りて憑依した一瞬と言えるだろう。
その後も迫力満点の攻防が、いつ果てるともなく繰り広げられる。記録係も大変だ。
記録係の佐々木三段も疲れの色が見え、秒読みの声がかすれている。
記者は、頑張れと心でエールを送る。
壮絶な現場の雰囲気が如実に伝わってくるではないか。
最後は視力を振りしぼって佐藤が勝ちきった。第二局開始予定時刻をはるかにこえてしまっている。
※2回戦があるため、木村が佐藤に気遣って感想戦はほとんどなかった。△1九角成▲3四飛のあたりは先手が良かったと木村は駒を片付けながら話してくれた。△5二金打でとも。また、佐藤は△6六とでは△6六飛が良かったと話した。
悔しいはずの木村だが、決して相手に対する配慮を忘れない。またしても木村の勝負師としてはマイナスかと思え目ほどの優しさが自然に発露した瞬間である。そして、それを淡々ときちんと伝える銀杏記者。
佐藤はこの勢いをかって、二回戦でも深浦を破ってベストフォー進出。大したものである。なお、その対局の実況も銀杏記者が担当している。
名局があり、その素晴らしさを生の厳しい状況で過不足なく伝えうる実況の名人芸が助けた実例といえるだろう。

朝日杯 行方八段優勝、囲碁将棋ジャーナル、ご主人様王手ですファイナル

朝日杯将棋オープン中継サイト

行方八段が、棋戦初優勝と同時に通算400勝を達成するという快挙。最近彼は順位戦で悔しい思いをしたばかりなのですが、賞金1000万円だったのですか!名誉も実利も大きい優勝で、全てイヤなことも吹っ飛んだことでしょう。
決勝は、羽生さんを準決勝で破った丸山さんと。後手の丸山さんが、角交換させていきなり△3三桂型になるという、変則的ではあるが前例も結構多いという将棋に。この手の将棋は、一番つかみ所がなくてよう分かりません。
とにかく、行方さんの▲5五に出た銀を、丸山さんが捕獲して駒得をはたし、行方さんがひたすら攻めをつなぎ、丸山さんがひたすら丹念に受け続けるという展開になりました。
中央で駒がゴチャゴチャぶつかる密集戦が繰り広げられたのですが、最後は行方さんの攻めがはっきり続く形になり、いつの間にか駒損も回復してしまいました。あー、どこがポイントだったのか、分かりにくっ。
投了図はこんな感じなのですが、次の▲4六角成りがすごい、だけでは私にはよく分からないんですけど(笑)。もう少し指し続けて欲しかったです。少なくとも「大逆転将棋」だったら、私だったらまだ勝ちきれないこと請け合いです(笑)。
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行方さんが並々ならぬ実力者なのは、誰でも知っていることですが、A級で振るわなかったために、トップではどうかと思われかねないところだったので、この優勝はそういう意味でも大きいんじゃないでしょうか。郷田さんとか、深浦さんみたいに、B1に落ちても、何度でも這い上がって来るというタイプになりそうな気がしますし、また、そうなってもらいたいと思います。おめでとうございます。
しかし、この朝日杯は、準決勝で負けた棋士が、決勝の解説を一部つとめるという過酷なシステムになっているのですね(笑)。よりによって、あの羽生さんがその憂き目にあっていました。しかし、それでも楽しそうに解説していたようなのはさすがだと、羽生ファンとして無理して言っておきましょう(笑)。

囲碁将棋ジャーナルは、村山五段が昇級を果たしてゲストで気分よく登場。元気のいい中村桃子さんとともに、王将戦第三局を解説。藤井システム対居飛車穴熊の序盤を語るには、適任者でしょう。但し、村山さんも久保さんが▲4五歩とした新手までは、さすがに研究していなかったようです。そりゃそうで、そこまで全て研究しているのを期待するのが間違っていますよね(笑)。まあ、それだけ期待が高いのだということで。
ちなみに、△7二飛に対して、いきなり▲2五桂と行くのは、以下△2四角▲4五歩△7五歩が厳しくて、振り飛車がうまくいかないそうです。
感想戦で、△5五歩のところでは△3五歩のほうが良かったといわれていたようです。但し、以降▲6四飛△3六歩▲6一飛成△3七歩成▲同銀△4二飛▲8一龍で、やや振り飛車ペースかということでした.。
また、△6二飛と受けるのは、あまりにきかされだということです。プロは極端なくらい、きかされを嫌うみたいですが、具体的にどう悪くなるるのかは分からないのですが。
とにかく、▲4五歩の久保新手が有効だったようで、研究課題になるのでしょう。とは言っても、居飛車は△7四歩▲4八玉をいれずに、居飛穴に囲う順もあるわけだし、その場合は▲5六銀型に対しては、△4五歩または△8六歩の開戦も有効とされているわけです。したがってどうしても避けることが出来ない形というわけではないのでしょう。ただ、本局のように、藤井システムというのは、ひとつ順にはまると居飛車も一方的に攻められて全くいい思いが出来ないまま終わる恐れがある戦形であることも間違いないでしょう。なんせ、あの羽生さんすら、こんなひどい目にあうのですから。

「ご主人様王手です」は、全員3級の免状を獲得しました。全員プロに6枚落ちで勝利したのですが、ちゃんと狙いを持って指せて、きちんと相手玉を詰ますことが出来るのだから、十分3級といえるのではないでしょうか。しかも、自分から将棋に興味を持ったわけではない若い女性三人なので、価値がありそうです。学校教育に、将棋が入りこむことが出来れば、誰でもある程度強くなるし、将棋を楽しめるようになることの証明になったといえるかもしれません。
まあ、そういうかたい話は抜きにして、あの手この手で楽しませてもらえたプログラムでした.。遠山先生、お疲れ様でした。あの、中川=遠山コントをもう見られなくなるのだと思うと、ちょっと寂しいですね(笑)。
もう二週間前に、コントの最終回は終わってしまっているのですが、その中で中川先生が「これで、このコントをするのも最後か」と言われていました。それでは、お二人とスタッフに感謝を込めて、きっちりストレートにツッこんでおきましょう。

自分でコントって認めるんかい!

朝日オープン第二局と第一局


 朝日オープン第二局。羽生四冠の大逆転劇らしい。実際、小生のような弱いアマでも、山崎さん、何か他の寄せ方あったんじゃないの、って言いたくなるようなところもあったりする。でも、渡辺竜王が、朝日のサイトの解説で言っていた通り「(羽生さんの強さは)実際に指してみないと分からない」っていうことなんでしょうね。名人戦第一局もそうだったが、指し手一手一手の優秀性というよりは、常に最高レベルを維持する持続力とか、相手の心理のイヤミをつく生得の能力とか、チェンジペースとか、総合的な力がすごいんでしょう。本局など、例えばプロなら、どんな弱い人でも、山崎がこけただけで自分なら勝てた、とか思ったりするのかもしれないが、実際に盤をはさんでみないと分からない部分が間違いなくあるのだろう。もっとも、羽生さんも、今日の将棋に満足していたとは思えないけれども。

 第一局では、羽生さんの5六角が話題になってました。「研究手で、やってみたかった」そうである。でも、渡辺竜王も、森内名人も、あの手が本当に有効な手段なのかについて疑問を呈していた。序盤の感覚では、トップ中のトップのお二人がいうんだから間違いないだろうし、羽生さんもある程度その辺のことは分かっていたのでは。
 むしろ、あのようにいきなり動いて相手にペースを握らせないっていうのは、山崎六段の得意中の得意にするところである。相手が得意にする手段を、自分が逆にやってのけることで、相手の得意なタイプの将棋を許さないという側面もあったのでは?勿論、プロは心理作戦だけでは指し手を選んだりはしないだろう。しかし、羽生さんの場合、単に将棋が強いだけでなくて、相手の性格とか特性を即座に見抜いて、ほとんど無意識のレベルで弱点をつくような勝負師の嗅覚があると思う。実際、山崎六段は「ずっと苦しいと思っていた」とコメントしていた。あのように動かれたら、例えば森内名人あたりだったら、喜んで咎めに行こうとするんじゃないだろうか。羽生さんの場合、相手を見て指し方を選んでいるという面も間違いなくあるような気がする。

 最後に、最近話題に上らないが、谷川さんについて。やっと、谷川さん、大厄を抜けたはずである。まだ、調子が戻っていないようだが、今後間違いなく調子を上げていくことを、ここに堂々と予言しておきます。私的なことですが、同年齢で去年大厄だった小生も、去年は実にいろいろなことがあったからなぁ・・・。今年は、谷川先生と加藤先生の年になることをとにかく希望するわけです。
コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
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