NHK杯

村山慈明NHK杯

棋王戦と重なって順序が逆になったが、NHK杯について。
今期は羽生渡辺などタイトルホルダーや上位者が次々と敗れて、決勝はちょっと意外な新鮮な組み合わせになった。
将棋は村山慈明先手、千田翔太後手で角換わりに。千田が金を6二にするちょっとした趣向を示したが、それでも全然指し手が止まらずに進んでゆく。もうさすがにここまでは研究していないんじゃないかというところまで。
二人とも研究十分な若手だけれども、ここまで来ると現代将棋の究極の研究勝負を通り越して気合勝負のようにも感じてしまった。基本的に二人共かなり勝気で向こうっ気が強いタイプだと思う。
村山が攻め、千田が受ける展開になったが、千田の受け方がしぶとくてなかなか決まらない。佐藤康光の解説を聞いていても、局面をきちんと把握するのが難しい将棋になった。
村山らしいと思ったのは、千田が△6六角と打つたのに対してガッチリ▲7七銀と受けたところ。康光先生はできれば節約して▲7七桂として攻めたいと「らしい」解説をしていたが、村山は勝ちをあせらない態度に出た。こういうところに棋風がよく出るのだろう。
そして、その後もとても難しそうな局面が続いたが、終わってみれば先手玉の堅さがいきて村山がうまく勝ちきった。
村山は順位戦では悔しい思いをしたが、嬉しい優勝である。やはり順位戦では憂き目にあった郷田も王将戦は防衛したし、本当にトップ棋士はギリギリのところで、ちょっとしたことが天国と地獄を分けるところで戦っているのだと感じる。
特に最近は羽生渡辺森内らというビッグネームでないと優勝できない状況が続いていたので嬉しいだろう。
決勝以外では、広瀬戦の後手をもっての角換わりの将棋が印象的だった。角換わりらしいジリジリした手の渡しあいから、突如村山が飛車切りから角を打ち込んだ攻めがわかり易いながらも効果的でアマチュアにもこの攻め筋は大変参考になった。
もともと序盤巧者だけれども、ここという場面での決断がよくて、また決勝のようにあせらず勝ちにいく指し方が早指しに向いているのかもしれない。朝日杯でも準決勝まで進んでいたし。
村山は順位戦のC2では結構苦労した。第66期順位戦でもいきなり初戦で負けたが、その後九連勝してC2を抜ける事に成功した。
その二戦目の相手が強敵の高崎一生だったのだが、午前二時を過ぎる死闘の末に村山が制して昇級につなげたのをフト思い出した。
あの頃から粘り強い将棋だったが、その苦労がやっと報われた感じである。同世代で仲が良い渡辺と佐藤天彦の棋王戦にも刺激を受けているだろう。
(名人戦棋譜速報に加入されている方で興味のある方は棋譜をご覧ください。)

この二人は、人間的にもなかなか個性的である。
千田は「ソフトに将棋を学ぶ」旨を明言している棋士である。現在のソフトはとても強くて活用している棋士も多いが、ここまでハッキリ言っているのは千田くらいで面白い。
また、かなり向こうっ気も強くて、対局前に後手が決まると、「村山さんの攻めを悠々とかわしたいです。」と村山の面前で述べていた。
勝負を前に、場合によっては挑発的ともとらるこうした発言をするのは損なのだが、意識してやっているのかそういう性格なのかは分からないが今時の棋士には珍しくてよかった。昔でも米長邦雄クラスでなければ、なかなかこんな事は言えないのである。
もっとも、向こうっ気の強さでは村山も負けていない。本当に若い頃には、渡辺明、戸辺誠とともに「酷評三羽烏」として恐れられて?いた。
渡辺もいかにも辛辣な将棋評価をしそうだけれども、実は村山が一番キツイ事を言っていたような気もする。
村山はニコニコなどに出演しても、茶目っ気があると同時に正直に口をすべらせてしまうところがあって愛すべきキャラクターである。
有名な話では叡王戦予選で自ら負かした飯島七段に「叡王戦どうされましたか?」と発言しまったことがある。
村山本人の弁によると、それ以来飯島は研究会で目つき、顔つき、手つきが今までと違うような感じになって村山は全く勝てなくなってしまったそうである。
いや、多分飯島は研究会だけでは満足していないだろう。村山の優勝に刺激を受けて、「村山さん、NHK杯どうされましたか?」と言う機会を虎視眈々と狙っているに違いない。
村山先生、どうぞご用心のほどを。

と思ったのだが、飯島先生は残念ながら来季NHK杯は予選で敗退してしまっていた。
村山先生、間違っても「飯島さん、NHK杯予選どうされましたか?」とか口をすべらせないように。

山崎隆之の△6二玉とボヤキ

電王戦で現れた横歩取りのYSS新手△6二玉については、その後プロでも実戦例が出たが、さらに山崎隆之が今週のNHK杯の屋敷伸之戦でやってくれた。
実は山崎は7/31の棋王戦挑決トーナメントの及川拓馬戦でも△6二玉を採用していた。このNHK杯の収録日はもしかするとそれより前かもしれないが。というわけで、屋敷戦が横歩取りになったので、私はもしかしたらもしかしてとドキドキして期待して見ていたらちゃんと指してくれた。「やったー」というところである。山崎もサービス精神旺盛な男だ。
YSSに対して先手の豊島将之は▲3三角成△同桂▲2一角と最も激しい順で△6二玉を直接咎めに行った。この順の成否は注目の的だし、将棋自体も大変激しい乱戦になるので面白い。
ところが、この山崎の二局を含めて△6二玉は今まで四局現れているが、実は先手で豊島流を採用した棋士が一人もいないのだ。
見ている側としてはつまらないが、先手がひねり飛車模様にする対策が有力で山崎の前の二局とも先手が勝利している。有効な対策がある上に、後手がいかにも研究していますよというところにわざわざプロは踏み込まないのかもしれない。また、研究の結果後手が指せると結論づけられているという噂もある。
但し、恐らくゴキゲン中飛車の超急戦と同じで、その時その時の研究によって評価が変わって、本当に最後にどちらが勝ちなのかはそう簡単には結論がでない局面のような気もする。今後、先手で豊島流を採用する棋士が出ることに期待しておこう。
屋敷は穏当な対策を採用したわけだが、山崎もそれはある程度予測していたようでその後も指し手は比較的早かった。そして、いきなり端から動いた。まるで、「屋敷さん、そうやって豊島流でなく収めようとしてもこちらは許しませんよ。」とでも言わんばかりに。本当に山崎は何をしてくるか分からない独創的な将棋を指してくれるので観ていて楽しい。
ちなみに、及川戦も先手がひねり飛車にしたのに対して、山崎は一度6二にあがった玉をわざわざ5二に戻し、さらにはスルスルと左辺に向かってついには穴熊に潜り込んでしまった。そして結果は快勝。変幻自在の指しまわし。「いくらコンピューターさんも、こんな指し方は思いつかないでしょう?」とでもいいたげな棋譜だった。
NHK杯もその後激しい斬りあいになったが、どうも後手がハッキリ勝っていそうな局面になった。
ところが、意外に簡単には決まらない。やや、差がつまったか、でもまだ後手がよいのは動かないし負けることはなさそうだ。
と思っていたら、突然後手玉の受けがきかなくなった。先手玉は詰まない。後手玉が詰み筋に入ってしまった。
山崎、頭を抱えて投了。すぐに自虐の笑い。
「これ負ける人いないんじゃないかなぁ、ていう。弱いなぁ、ていう。」
例の笑顔で困惑する屋敷。読み上げの鈴木環那も心なしか笑いをこらえているようにも見える。
感想戦も山崎の陽性な自虐ショーだった。
「しかし、どんなに難しくなっても負けるとは一秒も思っていなかった。危機感がなさすぎた。」
これには屋敷も苦笑。聞き手の清水市代に対しても、
「これを負ける人はあんまりいないですね。出場者の中でもボクくらいですね。」
もう今度は、鈴木も笑ってしまっている。今度は解説の北浜健介に対して、
「本譜は、ネェ、負けにくいからねぇ。自分の実力と相談しなければいけなかったですね。形勢判断を。」
そして、自ら安全勝ちにいく手順を示す。屋敷も屋敷で「あぁ、これもダメ」ですね。結構きつい事をサラリと言っている。
「これ、分かっているのにやらないというのは病気ですかね。」
「これはプロなら誰でも一目で見える手なのですが。」
山崎の悔しさを隠しきれない様子がなんとも言えずおかしくて好ましかった。

山崎は王位戦第三局で初日のツイッター解説を担当していた。山崎は、羽生善治の▲6五歩というちょっと普通には考えつかない手をズバリ当てていた。但し、局後の羽生の感想によるとあまりいい手ではなかったということなのだが、こういう手が浮かぶだけでも十分な才能である。現在の地位以上の実力を感じさせる棋士だ。
羽生も山崎との対局を楽しみにしているようなところもあるのだ。残念ながら最近はご無沙汰だが。
こういう抜群の才能や並外れた独創性を見せてくれるかと思えば、今回のようにすっぽ抜けて人間的にボヤキまくったりもする。
どこまでいっても気になって仕方ないのが山崎隆之という棋士なのである。そして、いつまでも「気になる棋士」のままでいて欲しくないという気持ちも勿論あるのだ。

行方尚史痛恨のポカとその人間

この件については、さすがに気の毒なのでブログに書くという鬼のような事はやめておこうと思っていた。しかし、NHK杯をご覧になった方はお分かりだと思うが、その後の行方尚史の振る舞いが実に人間味に溢れていて魅力的で書きたいという欲望を抑えることができなくなってしまった。
あと、私が今飲んでいるのでその勢いでというのもある。同じお酒飲みという事でお許しいただきたい?

それに、行方のポカは確かに滅多に見ないものだったが、こういう事は超一流プロにだってある。一番有名なのは羽生善治の一手詰めウッカリだろう。レベルは違うが、最近の竜王戦第二局でも渡辺明が「顔から火が出そうな見落としをした」ばかりである。プロであってもこういうのはつきものなのである。ただ、それがNHK杯という大変目立つ場所で出てしまったのは行方にとって不幸ではあった。

行方がうまく指していて大石直嗣が▲8八歩と粘りの手を放った局面で事件は起きた。「事件は会議室で起きてるんじゃない 対局室で起きてるんだ」ってなものである。(ゴメンナサイ
行方は力強く△8八同馬。
解説の北浜健介が「えっ、そんな手があるんですか?」と独特な穏やかな調子で言う。▲同銀とされて後手は馬を捨てたのに何も取る事が出来ない。
でも、さすがに何か狙いがあるのだろう。行方もわりと間をおかずに△7六香。
ところが少し進むとさすがにはっきりした。後手の攻めが完全に切れている。プロの信用はあついので何か狙いがあるのかと思ったら、どうやら行方は何か完全に勘違いをしてしまったらしい。

そこから行方の果てしない苦悩が始まった。
局面はどんどん進んで大石勝ちがハッキリしていくが、行方は多分もう目の前の局面の事をほとんど考えていない。多分頭の中ではあの手のことだけが何度もグルグル回っている。
「いやぁ」と呻きつつ髪の毛をかきあげ額に手を当てる。
ミニタオルを口と目にあてて深い溜め息。
せわしなく手で額をかく。
「いやぁ」。頭をかかえてうなだれたかと思うと、お茶を飲む。何度も。
扇子をひろげて口に当てる。
目に指を当てたままでうなだれる。
そしてついに「負けました。」消え入るような声というのはこういうのを言うのだろう。
声が出てこない。深い溜め息を何度も。

という対局姿がそのまま映し出されてしまったのである。残酷だけれども美しいと勝手な事を言えるのは観ている側だけかもしれない。しかし、この素直で正直すぎて全く飾る余裕のないありのままの人間の姿には妙に観る側の
心を打つものがあった。

感想戦でも行方流の率直で正直な発言が続いた。ここでも、私はつい笑ってしまいながらも胸打たれずにはいられないのだった。以下、その発言を再現して終わりにしよう。

「この後、ちょっと並べたくないですね。さすがに。いやぁ。」
「いやぁ、こんな事やっていいるんじゃダメっすね。」
(北浜にここでは後手が少し指せましたかときかれ、苦笑気味に)
「まぁ、だいぶいいとは思いますけれどね。少しじゃないです。でも、これを勝てないというのも....」
「観た事ないよ、こんなの。」
「さすがに私もこんな事をやったのは初めてですね。」
「自分はこういうポカやる歳になっちゃったんだな、ひどいな。」
「あきれたね。いやぁすぐに取った瞬間にハッと我に返りましたけれど。」
「将棋は残酷なゲームですね。」

そう、将棋くらい残酷なゲームもない。同時にそれゆえにこれくらい美しい芸術も。


第38回NHK杯決勝 中原NHK杯vs羽生五段

決勝戦なので事前インタビューもある。中原、大山、永井にはさまれて羽生はさすがに緊張気味。今と違って表情がかたくて動かない。当時はベテランにとっては無気味だったかもしれない。
羽生は一番印象に残った将棋として、準決勝の谷川戦をあげていた。負けにしたと思ったが△5五馬でいい勝負になったかと思ったと。
今は加藤戦の▲5二銀が一番有名だが確かに将棋の内容ということでは、谷川戦が一番良いい将棋だった。というか、他の名人経験者はほとんど一方的に攻めまくってバッサバッサと斬り捨ててしまったのである。
羽生が先手で相掛かりの出だしから、▲3六飛として縦歩取りを狙い△3三金と受けさせてひねり飛車。当時はよく指された形である。今以上に毎回違う形を指していた感じだ。
当時の羽生の勝率7割八分だという話になったが、解説の大山が言う。
「でも、羽生さんでも10年15年すれば6割台に落ちますよ。」
ところが、それから25年経った今でも羽生の通算勝率は七割台である。
連盟のページで調べると、現在羽生の通算勝率は07239だった。これは信じられない数字である。
同世代のトップ棋士には勿論七割台などいないし、それどころか六割の後半も数えるしかいない。かろうじて深浦と木村が六割五分をギリギリ超えているくらい。
いや、それどころか若手を含めた全棋士でも渡辺でさえ、すでに七割をきっている。新人を除くと七割台は既に豊島と菅井だけである。羽生は化け物だ。
羽生がいきなり▲6五歩と仕掛ける。とにかくこの頃の羽生は超積極的だ。その直前に大山が「羽生さんだからいくんじゃないでしょうか」と言い当てていた。大山は手も相手の性質も的確に読んでいる、というよりは何も考えずに本能的に察知している。
羽生が気持ちよく桂馬を▲6五に跳ねて▲6四歩の拠点の歩もつくり飛車角も相手陣の急所を睨んでいる。自陣は金銀四枚がついた美濃。理想的な展開である。一方の中原陣は△3三金の悪形がたたって、とてもまとめにくそうなひどい形だ。
先手の大作戦勝ちだし、現代の感覚だとほとんど先手が必勝といいたくなってしまう。中原はこの△3三金形も経験豊富で得意にしていたようだが、羽生は現代的な感覚でこれなら先手が完全にいけると見てこの形を選択したのかもしれない。
しかし、どうハッキリよくするかは別問題だが、羽生の攻め方が強烈だった。角と飛車をづ次々にたたききって、あっという間に▲6三にと金をつくってしまった。豪快でなおかつ流れるような攻めである。プロ同士の将棋ではなかなかこううまくはいかない。
当時の王者の中原をNHK杯の決勝という大舞台で、いいようにたこ殴りしてしまった感じである。
但し、大山は「まだ難しいところもある。」と指摘していた。実際中原にも勝負に持ち込む順もあったのかもしれないが、あまりに急激に攻め込まれたのでさすがに動揺したのか粘りのない順を選んでしまう。
一方、羽生はその後もゆるみなく寄せ続けて結局、羽生の完勝譜が出来上がった。
大山の解説は簡潔。ポイントの手をズバリと指摘する。しかも、それが的確そのもので羽生の指し手を途中からは最後までずっと当て続けていた。わりとわかりやすい展開になったこともあるが、やはり大山の局面の急所を一目で見抜く力は尋常ではない。
羽生が最近よく「大山先生は読んでいない。、局面をただ見ているだけで、急所に手が行く。衝撃だった」と述べている。解説ぶりを見ていても、必死に読んで手をみつけるというよりは、局面をパッと見ただけで本能的に手が正しく浮かぶという感じだった。たたき上げの職人芸だし、大山はやはり将棋の神様である。
そして、大山は自分ではあまり駒を動かさずに、モニターを見たまま符号だけを言って永井が一人で必死に駒を動かしていた。あの永井を単なる駒操作係としてあごで使ってしまうのは大山くらいのものだろう。そういう意味でも「神様」ぶりを発揮していた。
今では何と言っても加藤戦の▲5二銀が有名だが、むしろ一局全体を通じてではこちらの方が完璧だし私には衝撃的だった。あの中原をいとも簡単に粉砕してしまったのである。
中原も表彰式のインタビューで、「ちょっと、一方的にやられちゃいましたからね。あんなにどんどん来られるとは思ってなかったです。」と苦笑交じりに話していた。
羽生はインタビューで、「一番喜んでいるのは両親だと思います。」と述べていて初々しい。また、うまくいう言葉がみつからずに言葉が出てこなくなる場面もあった。常に的確な言葉が飛び出してくる今の羽生では考えられない事だ。羽生もまだ当時十八歳だったのである。

第38回NHK杯準決勝 谷川名人vs羽生五段

司会の永井英明が、「今日は平成の将棋界を占うような大一番になるかと思います。」といきなり盛り上げる。
紹介で谷川浩司を「第十七世永世名人」に一番近い人、羽生善治を「第十八世永世名人になると噂されている。」とも。自ら「私は今日は最初からちょっと興奮状態です。」
ただ、第十八世が森内俊之になると予想できた人間はこの時点ではもしかすると誰もいなかったかもしれない。(イヤミじゃないです・・。
羽生は初期ビートルズのようなきれいなマッシュルームカット。
和服姿で気合の入っている谷川の初手▲7六歩に対して、羽生はすぐには指さない。谷川がお茶に手を伸ばす。すると、ちょっと遅れて羽生もお茶に手を伸ばす。その様子を見て、谷川が遠慮したのか、お茶を膝の上に乗せて待つ。羽生は全く気にした様子もなく、お茶を先にすする。それを待ったかのように谷川もお茶を飲む。
ちょっとしたことだが、少なくとも対局時には完全に自分の世界に入ってマイペースな若き日の羽生と、細かい気配りの谷川の対照といったら勝手読みすぎるだろうか。勝手読みついでに言ってしまうと、この後の羽生ペースで進む二人の対戦を暗示するかのようだ。
戦形は後手の羽生が相横歩取りを選択。当時は、相横歩取りは先手が指せると言われていた。そこに敢えて羽生が踏み込んだ。
「羽生の頭脳」で、羽生はあらゆる戦型で従来の定跡の再検討を行う。この頃のNHK杯の作戦選択も、従来の常識を打破って指そうとするような意志も感じる。この、相横歩取りも当然「羽生の頭脳」に取り上げられていて、詰みの段階まで書かれていた。
私も本を読んで真似をして相横歩取りを指してみたのは懐かしい思い出だ。勿論、本のようにいくわけはなかったのだが。
その羽生の研究を警戒したのか、谷川は飛車角総交換型を避けて、飛車をひく形を採用した。
羽生が先に馬をつくったが谷川も馬をつくりかえして、相横歩取りの出だしにしてはじっくりした戦いに。先手は▲5五の位をとっているが歩切れ、後手は歩を山のように持っている。
谷川は着物姿で若い頃から、やはり品のある対局姿。しかし、勿論若いことは若い。今よりも表情はやや厳しめで、闘志がある程度は表面に出ている。
昔から静謐そのものの対局姿という印象があったが、改めて昔の映像を見ると若干感じが違って面白い。現在の谷川は、さらに気品て、品格が着物を着ているようで洗練の極みに達している。。
解説の森が冗談めかして言う。
「羽生クンはまだ高校生ですからねぇ。高校生がこんなに落ち着いていちゃいけないですよ。普通はもっとね、喜んだり悲しんだり、ワッとかギャッとか言ってくれた方が高校生らしくていいと思うんですがね。どうなんでしょう。」
勿論、今は誰でも羽生の底抜けに明るい陽性な側面もよく知っている。しかし、この当時の対局姿は確かに対局だけに集中しきっていて、そういうところは見えてこない。ベテラン棋士にとっては無気味なところもあっただろう。
将棋は渋い展開が続く。若い人間同士の対局なのだが、羽生のベテラン相手の対局よりも、相手の手を殺しあっていてベテランの将棋のようだ。森も、この二人は自滅するような手を指さない、相手に手を渡すのがうまいと指摘する。
当時のNHK杯を観ていると、さすがに現在との質の違いを感じる事もあるが、この二人の対局に関しては現代将棋を見慣れた感覚でも全く違和感はない。
聞き手の永井は、わりと簡単な変化でも、実際に駒を動かしてくれる。なかなかの職人芸。やはり駒を動かしてくれた方が分かりやすいという人も多いだろう。この辺りは現在の女流の聞き手の方々にも、見習ってどんどん実践していただきたい。
それにしても、本当に二人ともじっと手を渡す手が多い。羽生の力をためる△3三桂、谷川の▲3九玉、羽生の△1五歩等等。羽生vs森内の百番勝負の本の棋譜を並べた際にも感じたが、羽生は若い頃から手をわたす手段を既に体得していた。多分、本質的にそういう将棋なのだろう。ベテラン相手にストレートに粉砕する将棋も多い一方で、こういう指し方も既に出来ている。
将棋はお互い辛抱した末に、谷川がようやく飛車をうまく捌いてよくなったように見えた。
ところが、羽生も△8五飛浮きからの△5五馬で今度は逆に豪快に捌きかえす。今度は、急に羽生がよくなったように見えた。お互い辛抱の末の派手な攻防は大変見応えがあった。
以下は羽生が正確無比な終盤の速度計算できっちり勝ちきる。
序盤の相横歩取りという作戦選択、中盤のじりじりした手渡しの続く高度なねじりあい、終盤の派手な技のかけあいと、とても内容の濃い将棋だった。
このトーナメントは、若き羽生が勢いにのって名人経験者をバッサバッサと斬って捨てた将棋も多い。しかし、この二人の将棋は、がっぷりよつに組んだ力のぶつかりあい。二十年前の将棋だが、感覚もきわめて現代的だった。
羽生が、当時の将棋界に劇的に革命を起こしたわけだが、谷川もその先駆者として現代的な感覚を持つ棋士だった。そのことを感じさせる将棋である。そして、二人は今でも第一線で活躍し続けている。

いよいよ、来週は決勝の中原戦。加藤戦があまりにも有名だが、60周年記念番組で見た際に、私はむしろこの中原戦の流れるような鮮やかな攻めに衝撃を受けた。解説は大山である。こちらも見逃せない。


今甦る伝説の▲5二銀―NHK杯 加藤九段vs羽生五段

なんて大袈裟なタイトルをつけるのだと笑わないで欲しい。昨晩の放送は期待に違わぬ、・・いやそれ以上の素晴らしさだった。

解説は米長邦雄。見所を永井英明に聞かれて、
「両天才ですね。本当の両天才。その他には加藤さんの咳の聞き所があると思うんですね。」
いきなり軽いジョーク。この頃の米長は本当に「さわやか流」で、実に楽しい解説で盛り上げる。
角換わりの出だしから△3二金のところで加藤一二三がいきなりの長考。一応△3四歩として横歩取りにする可能性もあるが、加藤はほとんど指さない。
そして考えに考えた末に、やっぱり△3二金。
勿論、米長が黙っていない。
「だいたい考えると別のことを考えるんでしょ。時間を使うと考えた手を指したくなるんですよ。でも、加藤さんは、長考して普通な手を指して平然としているんですよ。それがどうしても分からない。」
角換わりに進んで羽生がいきなり▲2七銀。棒銀の意思表示である。米長が「おぉおぉおぉ」と叫ぶ。加藤がさかんに咳きこむ。
「加藤さんの咳を聞いてください。驚いているんですよ。」
羽生善治が選択したのは居玉のままの棒銀の積極策。加藤の得意戦法、お株を奪ってしまった。
但し、この指し方は現在ではほとんど見られない。この対局に限らず、この頃の羽生は急戦でいきなり仕掛ける積極的な戦いが目立つ。ベテランの大家相手に全くものおじせず、むしろ攻撃的である。
加藤は今と比べるとかなり細いのだが、米長によるとかなり太ったそうである。当時48歳。実に若々しい。
「加藤さんと初めて対局したときの感想戦で、加藤さんは将棋盤の底まで読んでいるんじゃないかと思いましたね。よく読んでいましたね。読みの深さは天下一品ですね。ぼくの五倍以上は読んでますね。いつも。
ただ、加藤さんは誤魔化すとか、いい加減とか、省略ができないんですね。そういう面では私の方が長けているかもしれません。」
当時の米長と加藤は仲が悪い事で有名だった。対局でも盛んに当たったが、米長が「顔はあうけど気はあわない。」と言って、加藤がムッとしたという話は有名だ。
しかし、こうして認めるところはちゃんと認めている。でも、最後に自分の優位をちゃんと言っておくのも米長らしい。
ちなみに、永井によると、当時加藤は色紙に「一に読み二に読み三に読み」と書いていたそうである。
羽生が相変わらず、時折「羽生にらみ」を見せる。大変眼光が鋭い。今の羽生よりこわいくらいである。
米長が分析する。これは将棋に夢中になっていて、将棋盤を鋭く見ている視線が、そのまま相手や横に向かっているだけだと。別に相手を威圧しようとしているのではない。そして、この盤に向ける羽生の鋭い視線が羽生の猛烈な進歩の理由だと。
その通りだろう。羽生の対局姿には、時として無意識な忘我の瞬間が今でも訪れるが、若い頃は今以上に本当に将棋に集中しきっていた。その姿が映像に残っている。
将棋は羽生が棒銀からいきなり▲1五歩から仕掛けて激しい戦いになった。のっけから大変な局面である。その間も米長節は全開。
「加藤さんは読むことを楽しんでいるようなところがありますね。形勢が自分が少し苦しいかなと言うところで空咳が出るんですね。」
「172センチだそうですね。彼(羽生)は。背はどうだと聞いたら、172センチでもう止まりましたと言っていました。将棋の方はときいたら、いやそれはとか何とか言って笑っていましたよ。」
羽生が▲4八玉と玉自ら戦場に向かって受けたのも実に強気。とにかくこの頃の羽生の指し手には勢いがある。
「二人の違いというのはね。加藤さんは若い頃は大変早指しだったの。子供の頃はお喋りで、奨励会時代に先輩の有吉さんが「ピンちゃん、うるさいよ」と叱ったくらい早口で喋る少年だったらしいですね。
羽生五段の方はね、静かでしょ。ちょっと体つきから谷川浩司と似たところがありませんか。物静かで。
それがこの少年はうんと考えるの。のべつまくなし考えるの、この人は。
中原誠先生が見てね、『羽生君はあんなに考えていいのかなぁ。』と言った位考えるの。」
これも羽生の本質の一つだろう。若い頃からストイックにとにかく読みまくる習慣が出来上がっている。最近は大局観を強調するが、今でも長持ちしているのは、そういう厳しい作業を若い頃から怠ってこなかったからだろう。羽生世代皆にある程度はいえそうなことだが。
将棋は相変わらず激しいそのもの。羽生の斬り合いの▲2四歩を米長が当てる。
「この間、新人王戦の優勝戦がありましてね、羽生対森内。第二局を見ていて、終盤でここはこう指すここはこう指すと手を当てたんですよ。そしたら控え室に棋士が十人くらいいましてね、米長先生よく羽生クンとおんなじ手があたると感心して褒められたんですよ。あれ、私は喜ぶべきなんだろうか。」
そして、いよいよクライマックス。いきなり、ただ捨ての▲5二銀。伝説の一手である。
米長がまたもや咆哮する。
「おおおおおおお、やった。やったやった。」
マイクの音声が少し割れるくらいの大声。この米長の反応も伝説の一部だろう。
飛車でとっても金でとっても後手玉は即詰み。一撃必殺の一手だ。
そして、あまりに勢いよく打ったために乱れた銀を、加藤が手で触れて直す。それを、羽生がそれは私の駒ですよという感じで自分で再度触れて直す。しかし、それでも加藤はめげずにもう一度銀に手を出して直す。
伝説の▲5二銀は両対局者によって三度も触わられたのであった。
米長が、なんだかよく分からないけれどもゲラゲラ笑い出す。
「いい手だったねぇ。あそこに銀を打ったのは。」
以下、そのまま一気に羽生の勝ちである。加藤投了。
永井が「向こうにちょっと研究に」と米長を促す。
米長が「いや、研究じゃなくて勉強ですよ。」
米長は冗談めかして言っているが半ば本気だ。米長は若手に頭を下げて序盤の研究を乞い、念願の名人を獲得する原動力にしたのだった。
感想戦。
この頃の羽生は、今とは違って、言葉少なで声も小さく自分からはほとんど喋らない。でも、これは別に猫をかぶっているのではなく、当時の周囲の強烈な大人たちに本当に圧倒されていたのだろう。但し、ものおじしている様子は全くないのだが。その分盤上では全く遠慮なしなのだ。
米長がいきなり、「強い坊やだねぇ。」
羽生が▲1五歩のいきなりの仕掛けについて「昔、本で見たような。」米長「加藤さんの本で読んだんじゃないの。」
本の仕掛けのようにやられては加藤もたまったものではないだろう。羽生の序盤は今と違って結構あらっぽい。
加藤が羽生の飛車成に対して飛車をぶつける変化を検討するが思わしくなくて、すかさず米長「そんなに怒らんでもいいじゃないですか。」
▲4八玉について。米長「よくあがったねぇ。」加藤「その一手だから。でもその神経がね(と言って米長を見て笑う。)」
羽生の▲1七桂について。加藤「その桂馬を軽視していたんですよ。」米長「桂馬を軽視というのはシャレなの?」加藤「(苦笑して)そうじゃないんですけれどね。」
羽生の▲2七香について。対して△4五桂なら難しかったという検討。米長「しかし、それよりも香車を打った少年の心意気を褒めるところだね。そして▲2四歩と打っていた決死隊の。」永井「すごいですねぇ。」
本当にこの時期の羽生は激しい一直線の斬りあいの手が目立つ。
そして▲5二銀の場面。よく分かっている永井が「ちょっとそこ止めてください。もう一度見ていたいですよ。恐ろしいものですねぇ。」
そうなんだけど、加藤にとっては結構残酷である。
しかし、加藤は加藤らしく率直に認める「きっびしーーい手がありましたね。」
米長「狙っていたのか?」羽生が小声で「いや、この直前に気がつきました。」
米長が「もうここは泣きたいところだね。よく泣かなかったね。」と加藤にとどめを刺して感想戦はなごやかに終った。

懐かしのNHK杯 大山十五世名人vs羽生五段

昨日の順位戦A級の羽生vs高橋も凄まじかった。少し羽生が指せそうというところから、高橋が放った▲4四桂が中継で「怒りの桂打ち」と評された鋭い一着で、一気に高橋に形勢が傾いた。まるでランボー怒りの桂打ちである。
以降は羽生が完全に守勢に追い込まれて苦しい展開になった。必死に受け続けるがどこまでいってもつらい。
しかし、高橋も二度明快な勝ち筋を逃してしまう。それでも、▲1六角が絶妙の攻防手でついに勝ちになった・・ように見えた。
ところが、羽生の△1八角に控え室が騒然としだす。指されてみると簡単な詰み筋である。しかしプロには盲点になりやすい筋だったらしい。
羽生が勝ちのない将棋で、ほとんど唯一の逆転の筋で辛勝した。逆に高橋は魅入られたように唯一の負け筋に飛び込んでしまった。高橋にとっては無念の一局である。
本局までの二人の対戦成績を知って驚いた。高橋2勝で羽生21勝、1997年から羽生が13連勝中だそうである。
信じられない数字である。高橋は若い頃からいくつもタイトルを獲得してA級在位も長い。
その文句なしの一流プロが、羽生に二回しか勝っていない。しかも、最近は15年間勝たせてもらっていないのだ。
しかし、本局を見るとこんな将棋まで羽生が勝ってしまうからこんな結果になってしまうのだろう。羽生は本当に恐ろしい人である。

さて、懐かしのNHK杯、一回戦で山口英夫、二回戦で福崎文吾(残念ながら放送はなかった)を連破して、いよいよ大山康晴十五世名人の登場である。
今週のAERAに羽生のインタビューが掲載されていたが、その中で羽生は大山についてこのように述べている。
「大山先生は手を読んでいないんです。ただ見てるだけ。見てるだけで急所に手が行く。頭で考える感じではない。非常に感覚的なものとして捉えている。だから、何を、どう思ってその手を選んでいるのか、さっぱりわからない。衝撃的でした。大山先生のすごさです。」
この頃の羽生は「頭で考える」ことに特に徹底していたように思える。大局観と言うよりは、徹底的に具体的に読み込むことで、従来の棋士を粉砕し続けていた。
そこに、「頭では考えない」大山との邂逅である。面白くないわけがない。
先手の羽生が居飛車、後手の大山が中飛車。
羽生が棒銀のように3筋から急戦を仕掛けたのに対して、大山は飛車を7筋に振り直して袖飛車で居飛車の玉頭を攻める対策。大山はこの形の経験が豊富だそうである。
さらに、戦地が左辺に移り羽生が端にのぞいた角で後手の△6四銀を狙って後手の受けが難しそうに見えた。先手玉には金銀三枚がついているが、後手玉は金銀がバラバラでとてもまとめにくそうである。
以下も羽生も若き日の羽生らしく鋭くストレートに攻め込んで、大山陣はほとんど崩壊寸前にも見えた。
ところが、羽生が一方的に攻め込んだ瞬間に大山が△7二飛とした手が角ごしに先手玉を睨んだハッとさせる手だった。飛車が逃げつつ先手の攻めを止めてしまった。「受からないと思っていても受かっている」大山の受けである。
これには驚いた。若き羽生の剃刀のような鋭くて激しい攻めを、まるで魔法のように受け止めてしまった。大山も局後の感想戦で「ここはうまく騙したと思ったんだけどね。」と述べていた。
この辺りが羽生が大山に「衝撃を受けた」ところだろう。理詰めで論理的な攻めを、感覚的に急所をみきわめる受けでその力を吸い取ってしまったようだった。
但し、局面はまだまだ難しい。羽生はひるまずに鋭く攻め続けて、大山も勝負手を逃したようで、最後は羽生がハッキリ勝ちになって終局。
結果的には羽生の快勝だったのだが、むしろハイライトは大山の鍛えの入った受けだった。羽生もこんな受けは多分体験した事はなかっただろう。
そして、冒頭で述べたように現在の羽生は、大山のすごさを盛んに語っているし、自らも年齢を重ねるに従って、若い頃の「頭の読みの将棋」に独特の「大局観」を加味した将棋に変質してきている。
そういう羽生の原点、大山将棋の職人技も堪能できる将棋だった。

昨日も書いたが、この後夜十時から伝説の加藤一二三戦である。
また、囲碁将棋チャンネルでは月曜日の昼十二時から、10月から放送していた分の再放送を最近始めたようである。今までの分を見逃した方も、それでほとんど見ることが出来る。

懐かしのNHK杯 羽生五段vs山口七段

10月から囲碁将棋チャンネルで「懐かしのNHK杯」と称して過去のNHK杯の録画の放映が始まっている。
現在放映進行中なのが、第38回大会。羽生善治が、大山康晴、加藤一二三、谷川浩司、中原誠と歴代名人経験者を次々に撃破して優勝して、若き天才羽生の名を天下に知らしめたトーナメントである。加藤一二三戦の▲5二銀は伝説になっている。
私的なことだが、私は実はこれらを生で見た記憶がない。いや、別に年をごまかしたいのではない。余裕で見る事が出来ているはずなのだが、なぜかを考えたら、当時は私が一番仕事と遊びに超多忙な時期で将棋どころではなかったのである。今風に入るとリア充期であった。多分、日曜の午前も多分家ほとんどいることなどなくて、完全に将棋から離れていた時期である。
だから、何とこの貴重な映像を私は多分どれも初めて見ている。なんという幸せな事だろう。よい時代になったものだ。
ここでのデビューから数年の「羽生五段」が何とも言えず鮮烈な印象を与える。現在の羽生は人格円満で陽気で誰をもひきつけずにはいられない魅力がある。対局時に見せる集中した際の「こわさ」も、羽生の一面に過ぎない。
しかし、この頃の羽生には、もっとむきだしの刀のようなところがある。黒澤明の「椿三十郎」で、三船敏郎の椿三十郎に対して入江たか子の奥方が「あなたは、むき出しの刀のような方ですね。いつもギラギラしていて。でも、本当にいい刀というのは鞘におさまっているものですよ。」と諌めるシーンがある。
この頃の羽生は、将棋に集中して相手を倒す事だけに集中しきっている。有名な「羽生ニラミ」も今より分かりやすい。でも、それは意識してやっているのではなくて、多分全部無意識なのだ。
その前の王者の谷川が、全く静謐にして上品な対局態度だったので、その差がきわだったのだろう。羽生は、(多分今でも)根底においては大変な激しさと厳しさを持っていて、それが決して俗的ではなくストレートにオーラになってあらわれている。今見ていてもドキドキしてしまう。
しかし、その激しさというのが、いわゆる普通の人間のドロドロした闘争本能といったものではなくて、あくまでピュアで澄みきったパッションなのだ。Rシュトラウスの「サロメ」で、サロメがヨハネの純粋で澄みきったオーラに欲情するシーンがあるのだが、(誠に不適切な比喩で申し訳ないけれども)、この頃の羽生のオーラももまったく混じりけのない純粋なものである。今の羽生にも見られないものだ。
当時の大変人間味溢れるベテラン棋士たちの前に座ると全く異質である。そして、将棋自体も、合理的に全く迷いなく相手を打ち倒していこうとする気概に溢れている。
現在の羽生は大変安定しているけれども、本質的には大変鋭角な気質があって、あやうい不均衡をなんとか保って維持しているようなところもあると思う。羽生のそういう部分がむきだしになって映像に保存されていて、今見ても大変スリリングなのである。
トーナメント一回戦の対戦相手は山口英夫七段。若き日に自ら開発した「ひでちゃん流中飛車」をここでも採用している。5筋の歩を突くのを保留する中飛車で、必要のない手を後回しにする現代将棋の感覚を先取りしているとも言える。
当時既に40を越えていた山口はNHK杯初出場。いきなり大変な相手とぶつかってしまった。当時の棋士では当たり前だったが、対局開始直後からいきなり煙草をふかしているのが何とも様になる。今の棋士にはないかっこよさがある。
将棋は、ひでちゃん流中飛車に対して、羽生が左美濃に組んで右銀急戦で気合よくしかけた。それに対して山口が△6五歩と伸ばして△6四角と据える余地を残す振り飛車がよくやる指し方をみせた。
しかし、この場合は6四に桂馬を金銀両取りにな打たれる傷があるのを羽生にきっちりとがめられてしまう。以下、駒得を自然に重ねながら着実にリードをひろげてゆく。全く曖昧なところのない自然で合理的な指し方である。当時の棋士が羽生にやられた典型のような将棋だったのだろうか。
最後は一手違いを完全に見切って、一手差ながら大差の完勝を決めた。こんなに気持ちよく将棋が勝てるものかとホレボレする将棋である。将棋の展開、相手にもよるのだろうが、今の羽生の曲線的な将棋とは違う、ストレートで明快で爽快な将棋だ。
解説は原田泰夫。山口の師匠である。聞いていて心地よい原田節の名調子。原田によると山口を若い頃に広島で世話したのが松浦卓造。松浦が山口の才能を見込んで、原田に弟子として世話してくれるように頼んだそうである。
ちなみに松浦卓造は左美濃の考案者。原田によると、松浦は広島の山の丘の岩に座って、景色を一望しながらどういう玉の囲いがいいかアイディアを練って、この左美濃を思いついたそうである。古き良き時代の話。それを羽生が偶然だが採用していたというわけだ。永井英明の名聞き手ぶりも懐かしい。最近亡くなられて、将棋世界にも追悼記事が載った。
さて、現在放送は三回戦の大山康晴戦まで進んでいる。明日の金曜夜十時からは、ついに伝説の加藤一二三戦の放映である。囲碁将棋チャンネルをご覧になれる方は、お見逃しのないように。

2012NHK杯決勝 羽生NHK杯vs渡辺竜王

まるで二日制のタイトル戦で二日目の朝に初日の棋譜を再現するかのように、羽生善治と渡辺明が淀みなく指し続けていく。違いは読み上げているのが記録係の三段ではなく女流の藤田綾であることだけだ。彼女の読み上げでリズムを取るかのように、指し手が読み上げられると、ほとんど間髪をいれずに二人が指し続ける。
しかし、これは初日の指し手の再現ではなく、NHK杯の決勝なのだ。まるで儀式のように淡々と指し手が進んでいくが、画面からは異様な緊迫感が伝わってくる。一体どこまで指し手が進んでしまうのだろうか、どこで止まるのだろうか。所作の静かさとは裏腹に、二人の間で眼に見えない猛烈な火花が散っている。見ている我々も猛烈な胸騒ぎがする。
しかし、さすがに前例のある将棋だ。二人には因縁の過去のある形である。一昨年の竜王戦第二局で二人では初めてこの形を指した。相矢倉で後手の渡辺が△9五歩型に対して羽生は▲6五歩の宮田新手という定跡形を辿り、羽生が見せたのが本譜でも出てくる▲1五香の新手。このタイミングで香車を走るのが盲点で先手が優勢になったと言われた。しかし、将棋は渡辺が鋭い端攻めの勝負手を放ち羽生も乱れて渡辺の逆転勝ち。
さらに、二人は昨年のNHK杯の準決勝でも全く同じ形を指した。その時は本譜でも出てくる▲6四銀としたのが竜王戦との違い。竜王戦でも感想で有力とされていた。しかし、その時の感想コメントで先手良しとされる順で実は後手良しの変化が潜んでいた。渡辺の仕掛けた罠。が、羽生はその順を回避する改善手順を披露して攻めをつなげて勝ちきった。その後手勝ちの順を感想戦で二人が指すシーンもきわめてスリリングだった。羽生は罠を見抜いており、渡辺はバレていたかという表情(のように私には見えた。)
そして一勝一敗の末についに今回三度目。二人とも相当意地っ張りで負けず嫌いである。二人の間での因縁のテーマ図。ちなみに前回の対局では、羽生は▲7一馬のところで一度▲3四桂を入れていた。その後去年は▲7一馬としたところで確か渡辺が飛車の逃げ場所を間違ったと悔いていた。別の場所に逃げていれば後手も指せていたかもしれないと。
そのような経緯を受けて先に手を変えたのは羽生。今述べたようにいきなり▲7一馬としたのだが、その手も文字通りノータイムだった。新手まで「研究済みですよ」と言わんばかりに。さすがにそこで渡辺の手が少し止まったが、小考して△4二飛。さらに羽生もそれ程考えないで指し続ける。未知の局面に入っても勢いが止まらないかのようだった。
渡辺が△3九から飛車を打つ。普通は3八から先手玉にきかしたいが、感想戦によるとそれだと▲2七銀△3七飛成▲3六金と強引に飛車のききを止めて▲3四桂の王手飛車が実現する。
それを考えての△3九飛だが、それでも羽生は▲4八銀。基本的に同じ意味である。一見奇異に見えるが、二人ともそうした筋が当然のようにみえていたようである。
しかし、渡辺が△4五歩と催促したのがうまく、羽生も▲3四桂とするしかなく後手陣も一息つく。渡辺も当然簡単には攻め潰されない。
羽生も急な攻めはなくなって馬で香車を拾って、今度は渡辺が△8六歩と玉頭に綾をつける。羽生は手抜きしながら受ける強気の対応。渡辺も桂馬を8六と9五に据えて先手玉にプレッシャーをかける。
対して羽生は▲2六桂から8六の桂馬を拾って▲3四桂のつなぎ桂での王手飛車の筋を狙って踏み込む。受けにくそうだ。羽生がうまくやったか。
と思った瞬間に渡辺の△6二飛。解説の森内俊之も気づいていなかった。ハッとさせるが指されてみればナルホドの手。飛車を逃がしつつ馬に当てて▲6七金も睨んでいる。こういう勝負手の好手を逃さないのが渡辺の強さである。羽生も何度もこういうのにやられている。
しかし、羽生の方も冷静だった。馬を見捨てて▲9五銀ともう一枚の桂馬を払った。先手玉も安全になり攻めるための持ち駒も豊富になった。この辺のやり取りはまさに最高峰である。しかも早指しで二人ともこうした高度で的確な順を逃さない。
以下も際どかったが、羽生が渡辺玉に必死をかけ、あとは羽生玉が詰むかどうかという局面に。渡辺も持ち駒が豊富で先手もこわいが、後手は上部におさえる駒がなく詰みはなかったようである。羽生が逃げ切って優勝した。
序盤の二人のこだわりのテーマ図から、お互いに厳しく目的のある手で手段を尽くしての攻防。本当に将棋自体にピンと張りつめた緊迫感があっていい将棋だった。間違いなく現在のベストカードはこの羽生vs渡辺である。
結局先手が僅かながら良くて、それを羽生が守りきって勝ったということのようだが、その僅差をめぐっての攻防が実にハイレベルで並みの棋士なら軽く逆転していたのではないだろうか。
感想戦でやっていたのは、△9六歩のところで△4九角として以下▲7九香△3八角成▲5七銀として、以下後手が入玉を目指す展開。渡辺もそれを少し考えていたそうである。しかし、さすがにそれは実戦では指しにくかったのかもしれない。

これで羽生はNHK杯四連覇20連勝で名誉NHK杯の資格を得た。なんと10回優勝である。他の棋戦での永世資格にあたるが、条件が厳しすぎるので、もしかすると羽生以外にこの資格を獲得する棋士はもう現れないかもしれない。
昨年の王座戦では渡辺が羽生の20連覇も20連勝も止めた。言うまでもなく羽生の永世竜王と永世七冠を現在止めているのも渡辺である。そのように節目節目で常に羽生のストッパーになってきた渡辺だが、羽生は渡辺を直接たたくことで大記録を樹立した。
今まで何か二人の間に何か前世のカルマがあるかのように、ことごとく勝負どころの激闘を渡辺が制してきたが、これでその呪いも解けたことだろう。また昨年の王座戦で一部で囁かれていた第一人者交代の流れも断ち切ることにも成功した。やはり本局も大変な大勝負だったのである。
とは言え、今後もこの二人の戦いはまだまだ続いていくことだろう。我々双方のファンとしては一番見ていてしんどいカードでありしびれるカードである。また、今述べた様々な記録とか因縁とかとは関係なく、二人にとっても一番指していて指しがいのある将棋を共同して創作できる相手なのではないだろうか。
本局も私は録画を見ているだけで疲れ果てた。勿論勝負に対する関心もあるが、二人の将棋自体が具体的に語りかけるものの質の高さ緊張感のせい―というよりは、おかげである。
私的なことを言うと羽生ファンの私としては、どこかで羽生には渡辺に大きいところでやり返して欲しいと思っていたが、これでもうかなり満足した。これからは少しは二人の戦いを冷静に見ることが出来そうである。
いやいや、そんなのは多分ウソだ。実際に二人が戦ったら、また今回のように熱狂して夢中になってしまうに違いない。
将棋ファンとしてこれ以上幸せなことは、果たしてあるだろうか?

LPSA天河戦第三局 石橋vs中井、三浦弘行@週刊将棋ステーション、山崎隆之ちょいワルNHKテキスト

NTTル・パルク杯天河戦中継サイト

石橋天河に中井が挑戦して、一勝一敗の後を受けての決着局。先手中井の初手▲2六歩に石橋は△5二飛!第一局での二手目△7二飛に続いての趣向である。現代将棋では変わった指し方が多いが、それらには理論的根拠があるが、石橋の場合はあまり難しいことを考えずに自由に指すという感じで、坂田三吉の初手端歩のようなものだろう。青葉記者によると、「町の腕自慢のおじさんのような指し回し。」ということになる。
そんな出だしだが、将棋は200手越えの大熱戦になった。中井が終始手厚く冷静に押さえ込みにかかり、石橋が腕力にものをいわせて暴れようとして、両者の棋風は全く対照的なのにもかかわらず、なぜか噛み合ってバランスが取れてよい将棋になるのが不思議だ。最後は中井がようやく勝ちにこぎつけた。
石橋はLPSA発足後に女流王位を獲得したが、中井は新団体になってからはネットの女流最強戦以外では未戴冠。同世代の清水もまだまだ頑張っているので、タイトル戦にも登場してもらいたいものである。

囲碁将棋チャンネルHP

三浦がゲストで、個性的な西村門下の面々について語っていたのが興味深かった。以下は三浦の話の要旨。
藤井は、群馬出身で研究相手がいなくて、一人で研究するクセがついている。その方式で強くなり、藤井システムを開発できた独創性もそれに由来しているのではないか。
阿部は、奨励会時代から研究会のためだけに山形から東京にきていたそうである。そして道中もずっと将棋のことを考えていたそうである。三浦が対局を終えて、日付が変わった阿部が深夜に一人で黙々と研究していたのが印象的だった。
三浦自身については、一日16時間の研究という伝説について否定はしていたが、タイトル戦の前にはやることもある。とポロリと。それだけでも十分にすごいと思う。奨励会時代は詰将棋をひたすら解いた。江戸時代の詰将棋をほとんど、何百何千と解いた。また、羽生の七冠の一角を崩した際には、取材が殺到して研究時間が確保できなくて困ったそうである。そこで研究のことを気にするのが実に三浦らしい。
三人に共通して言えるのは、猛烈な研究を独自に行っているということ。全員地方出身者という事情があるのだが、彼らの強烈な個性の源は「一人」で将棋を考えているということなのかもしれない。共同研究が全盛の昨今、ちょっと考えさせられるものがある。
ちなみに、司会をされている恩田菜穂さんのブログ記事によると、三浦は「髪型を気にするちょっぴりお茶目な面も見せてくれました」そうである。と女性三浦ファンのために付け加えておこう。

NHK将棋講座HP

先週も山崎の講座について書いたが、今週も面白かった。あの終盤力を誇る郷田相手に、よくもまぁこんな逆転勝ちが出来るものである。
先週の時点ではNHKテキストを未購入だっのだが、このテキスト内での山崎の解説も相当面白い。そもそも、表紙の写真が「ちょいワル」を明らかに意識していて笑える。
ご本人の弁によると「私は、特に研究が好きでもなく、優等生とは思われたくない「ちょいワル棋士」です。」と宣言している。ちょいワルは局面のことだけでなく、本人もそうだということでよいようだ。どうでもいいことのような気もするが。
文章中にも。ヒッチコックの「北北東に進路を取れ」や「明日に向かって撃て!」が出てきたりする。そして、逆転の奥儀を山崎が語っている囲みパートが秀逸である。今回で言うと、「相手が剛直に来ている時には波長をあわせずに敢えてノーガードで」とか
、形勢が開いている時には「闘志の火を消し、死んだフリをしてチャンスを待つのがいい。」とか、なかなかのちょいワル・サイコロジストぶりなのである。
講座で興味を持った方は、テキストも手に取られてみるといいと思う。

NHK将棋講座 山崎隆之のちょいワル逆転術

という講座タイトルである。山崎とアシスタントの鈴木真理さんが、二人で真面目な顔をして何度も何度も「ちょいワルちょいワル」と日曜昼の教育テレビで連呼していた。さぞ、元祖ちょいワル・オヤジのジローラマも満足なことだろう。
昨日の出場女流棋士決定戦の解説もこの二人で、いかにも真面目そうなNHKアナウンサーが「ちょいワルというのは、山崎さんがちょいワルな人ということではなくて、ちょっと悪い局面からの逆転術なのですね。」と説明していた。一体、何の話をしているのだろう。
さて、今回のちょいワル逆転術の題材はNHK杯決勝で羽生を破った将棋だった。山崎が自戦解説したわけだが、改めてみても惚れ惚れするような攻め手順である。
△6七歩と垂らされた局面では、パッと見ではちょいワルどころか(知らないうちに私までこの言葉をごく自然に使っているのが恐ろしいところだ)、かなり困っているように見える。
しかし、ここで▲5四歩から▲5三歩を入れる。これも、金を玉に近づけて得には見えない。ところが、そこでの▲7一銀が、ちょっと気がつきにく好手。歩で押さえた効果で△8四飛と逃げると▲5一角が飛車金両取りになる。
従って、△7二飛だが、そのタイミングで▲5二歩成の成り捨て。打ったばかりの歩なので、この時間差攻撃も盲点になりそうだ。そして、飛車を手に入れて攻めをつなぎ、後手が耐えて△4三角と打てばまだよかったが、△6三角が疑問で角と金の二枚を取れて後手玉に食いついてしまった。
というわけで、なかなかプロでも見られないような見事な攻めのつなぎ方だった。この対局はNHKの歴代名勝負十局でも六位に入っている。録画を見直したら、解説の中原先生も山崎の△3九銀(番組中では先後逆で▲7一銀)について、「へぇー、これはまたすごい手だね。ちょっと考えづらい手ですね。」と感心していた。羽生も「△3九銀は、居飛車振り飛車の将棋ではあまり見たことのない手筋、矢倉ならよくある手なんですけれど、非常に意外性のある一手で、しかも厳しかったんで、二重に驚きました。」と語っていた。
そして、オマケ?の「ちょいワル王子の逆転ホームラン」。山崎と鈴木さんが二人で、ホームランをかっとばすフリつきである。山崎は、堂々とやりきっていたものの、自分で苦笑してさすがに恥ずかしそうだった。これは、アックンの目ヂカラに続く企画である。阿久津の場合は、やり終わった後に怒ったように照れていた。人様々である。何の批評なのかよく分からないが。どうもNHKの将棋班はもイケメン棋士にこういうのをやらすのが好きなようである。
ちなみに、「ちょいワル王子」って、結局山崎がちょいワルなんじゃん、というヤボなツッコミはしないでおこう。



羽生善治三連覇で九回目の優勝 NHK杯 羽生NHK杯vs糸谷五段

NHK杯HP(棋譜閲覧可能)

二人の対局者が大層魅力的で、久々に本当に将棋だけに集中して楽しむことが出来た。ありがたいことである。

後手の糸谷の一手損角換わり。糸谷の作戦は、郷田戦でもみせた「相早繰り銀」。一手損では、先手が早繰り銀、腰掛け銀、棒銀のどれを採用しても、後手は腰掛け銀にするのが普通である。それが通常の角換わりと違うところで、一手損している上に相早繰り銀にすると、攻め合いになると後手はなお困るはずなだが、そういう常識が通用しないのが糸谷流。糸谷が、この作戦をとるのにも当然彼なりの理論的根拠があるはずだ。前回のように感想戦で講義して欲しかったが、残念ながら時間が足りなかった。
糸谷が先攻したが、羽生は局面を収めてじっくりとした展開に持ち込んだ。解説の森内が指摘していたが、激しい展開は糸谷のペースになりがちなので、そういうのも羽生は意識した指し方だったのかもしれない。糸谷も、決勝だということを別にしても、やはり若干普段の自分のペースでは指せていない感じだった。羽生は、そのように相手に応じて敏感に柔軟に対応するところでも卓越しているのだ。
とはいえ、随所に糸谷らしさは満載だった。だいたい、初手からして読み上げが終わらないうちに指しそうになって、何とか我慢していたし。考慮時間に入ったことを告げられても、お構いなしに着手。森内も「時間は減らないんで、いい終わるくらいまでは待ってもいいと思うんですけれどね。」苦笑していた。勝負所でも、お得意の完全ノータイム指しが何度も炸裂。それが糸谷ペースなのだが、羽生相手にやるのはかなり勇気がいると思うのだが、糸谷は平気である。本当に観ていて楽しい。
将棋は、羽生がうまくやったが、糸谷も懸命に粘って羽生も少々手を焼いていた感じである。森内が、自分が糸谷に中段玉にされてうまく粘られて困った事を述べていたが、羽生ファンからすると竜王戦の渡辺の中段玉のことを思い出して、ちょっといやな展開だった。糸谷の将棋の本質は「受け」といわれるが、それがよく出ていたと思う。△6二銀打とかも、多分上の世代は仕方なくても打てないと思う。やはり感覚の相違があって面白い。
しかし、最後は羽生がやっと攻めきって勝ち。▲1六歩と、じっと突いたあたりは羽生流だった。▲4二歩成の時に、はっきりとではないけれども手が震えかけていた。あの辺りでは、素人でもやっと羽生が勝ちになったと分かったところである。
感想戦でも、糸谷流。すぐに、羽生に「逆転したと思ったんですけれども。」問いかける。表現はよくないかもしれないけれど、我々アマチュアが、負けて素直に悔しがるのとあんまり変わらない。そのように正直に感情表現するところが大変好ましい。以下も、感想戦を主導して、「こうするべきだった」と熱心に喋りまくっていたが、矢内が申し訳になさそうな時間切れを告げると、羽生も森内も笑うしかなかった。

節目の第六十回目の優勝は羽生。三連覇で優勝回数も単独一位の九回。やはり羽生が将棋界の第一人者であることを、これでもかというばかりに再確認させられるような大会になった。
次に優勝して十回だと「名誉NHK杯」だそうである。重いカップをかかえながらのインタビューだったが、「カップも本当に重いですけれども、大変思い記録なので一生懸命やって目指したいと思います。」と軽いジョークを交えて抱負を述べていた。糸谷も「最後負けると準優勝でも悔しいので、次は重いカップを持てるように頑張ります。」と、カップネタをちゃんと受けた上で、素直に悔しさを表現した上で優勝を目指す宣言をしていたのが、いかにもらしかった。
来年の今頃は、何ら憂いも心配事もなく、NHK杯の決勝を楽しめるようになっていてもらいたいものである。

糸谷の先手番8五飛&相掛かりミックス戦法(仮称) NHK杯 糸谷vs丸山

NHK杯HP(棋譜閲覧可能)

大分色々な将棋についてとばしてしまいましたが、追々メモ書きしていくつもりです。

昨日のNHK杯は39手という短手数で決着。おかげで、たっぷり感想戦があって、糸谷自身が「先手番△8五飛戦法」とでも呼ぶべき作戦について、くわしく「自戦解説」してくれた。こういう新しい作戦について、棋士によってはなるべく情報を隠そうとするところなのかもしれないが、糸谷の場合は聞かれなくても何でも自分でペラペラ喋ってしまう「情報公開の鬼」なのである。

糸谷発言要旨
▲2五歩とせずに、▲7八金を入れたことについて。後手の一手損角換わりを警戒。勿論、こうしても後手は一手損に出来るが、その方が先手としてはよい。
糸谷は後手の一手損角換わりのスペシャリストなので先手として対策のやりやすい形に限定するように細心の注意を払ったということである。
(横歩を取らないで▲2八飛と引く指し方について)意図としては後手番の△8五飛を先手番で同じような主張をするということ。
▲2八飛と引くところで▲2五飛や▲2六飛とするのは、後手が飛車を8二に引いた際に損になる。相掛かり模様になった際に、最近は浮き飛車よりも引き飛車がよいとされている。
糸谷が実戦で後手をもって、先手が▲7八金を保留して飛車先を交換して引き飛車にして相掛かり模様になった際に、先手に分があると感じた。それなので、先手でその形に誘導できないかと考えた。
この辺は、糸谷は何も聞かれていないのに全部正直に自分から作戦の意図を「講義」していた。もしかすると渡辺明以上に正直者なのかもしれない。
そもそも昔から▲2八飛と引く将棋は多くて、それで先手が悪くなると考えなかった。最近多い▲3四歩と横歩を取るのは、一歩得するけれども形が乱れるという考え方がある。その主張を先手番でやれば、より得なのではないかと思った。
昔は必ずしも横歩を取るとは限らず、糸谷が述べたような理由で「横歩三年の患い」と言われていたこともある。
(本譜では横歩を丸山が取ったが)そうしないで相掛かりにすると先手が有望という主張である。

こういう糸谷の考え方が、大変興味深かった。
まず、現在後手番での△8五飛がとても有力な作戦だが、それを先手番でやってしまおうという発想が革命的。糸谷の話にもあったが、先手が横歩を取ると歩得という実利があるかわりに、形が乱れて飛車を2筋の定位置に戻すのに手数がかかる。それが後手の主張になるのだが、もし先手でそれが出来れば、さらに手数を一手得できるという合理的な考え方である。
さらに、現代将棋らしく、あくまで相手の出方に応じた作戦選択を柔軟に考えている。後手が横歩をとらずに飛車を引いて相掛かりの展開になった際に、現在の相掛かりでは、飛車の位置が浮き飛車でなく引き飛車が優秀とされていることも、予め想定して指している。
つまり、後手が横歩をとっても先手でやるより条件が有利な△8五飛になるし、後手が相掛かりにしても十分先手の利をいかして指せる。単に消極的な飛車引きではなくて、緻密な設計に基づく作戦なのである。
これは、現在の相居飛車の将棋を根本から変えかねない指し方である。先手が横歩をとってくれないと、後手は△8五飛車にしたくてもできない。さらに、後手が横歩をとると、先手に通常より一手条件のいい8五飛を許してしまう。かといって、飛車を引けば相掛かりも覚悟しなければいけない。つまり、今までのように指せば、横歩取りの将棋になって後手が△8五飛戦法を選択できるという常識が覆されてしまうのだ。
さらに、この横歩を取らないで引き飛車にするというのは、勝又六段がよくいう「現代将棋において、なるべく自分では形を決めずに相手の出方をみる」というテーゼの実践でもある。自分では横歩をとらないで「形を決めず」、もし後手が横歩を取ってきたら、それを逆用して本来後手がやりたかった△8五飛を自分でやってしまうという、ある種皮肉とも言える指し方だ。そして、相手の出方に応じて、相掛かりにも対応するというわけである。

ちなみに、本局では糸谷は角交換から▲7七桂を採用した。本譜ではうまくいったが、感想戦では後手が十分に指せる変化も指摘されていた。そのせいか、(恐らくこれよりは後の)順位戦C級2組の佐藤紳戦では、先手で▲7七角とする、それこそ後手番の△8五飛のような形にして勝っている。

それにしても、あの丸山がここまで完膚なきまでにやられるのも珍しい。去年の準決勝の渡辺明戦を思い出した人も多いだろう。
対局直後も、糸谷がものすごい早口で「こうやってこうやって」と進めるのに、丸山が「えっ」とついていけないシーンもあった。
さらに、丸山が感想戦で、後手なのに先に指してしまったところに、そのショックの大きさがうかがえたのである。
糸谷、おそるべし。

棋王戦第三局 久保vs渡辺、銀河戦 小林裕vs阿部健、NHK杯 羽生vs渡辺


棋王戦中継サイト


先手久保で▲7六歩に後手渡辺△8四歩。石田流を回避した。渡辺としては、第一局がああいう負け方だったので気分的にはもう一度指してリベンジしたいところだろうが、ここは冷静にということだろうか。もし佐藤康光ならば、もし負けていてもこういう場合は絶対に石田流正面撃破を狙うのだろうが。と、こういう場合にいちいち佐藤の名前を出して申し訳ないが。
それにしても、久保振り飛車は最近ますます面白くなってきた。端歩つき越し形の穴熊。突っ張った指し方である。渡辺はバランスをとってまずは銀冠。二人の態度が対照的で面白い。
さらに、久保は端からの逆襲を防ぐために、銀冠穴熊に組み替えるが、なんせ金銀二枚で心細い。
さらに、渡辺が7筋から動いてきたのに対して▲3七桂と早々に穴熊のパンツを脱ぐ。形なんかどうでもいいんですよという自由奔放な指し回しである。段々、久保振り飛車が本来力戦の「関西」の血に目覚めつつあるとでもいうか。
一方の渡辺は、しっかりした陣形から穴熊への組み換え。堂々とした王道の現代将棋である。久保と渡辺の将棋思想が正面からぶつかりあっているかのようだ。
普通に考えれば渡辺作戦勝ちなのだが、久保は▲6三銀打ちからもたれて渡辺の大駒を押さえ込みにかかる。するといつの間にか久保も指せる。あるいは良いくらいに。こういう久保マジックを何度も目撃する。盤面全体の捉え方の感覚が常人とは違うのだろう。なにか将棋を指す上での悟りを開いたような独特な指し方である。▲6三銀のもたれ打ちは、なんとその後もう一度現れる。
しかし、渡辺も強靭な受けで決め手を与えない。今日のNHK杯の羽生相手の受けもそうだったが、守勢というよりはちゃんと攻めないと許しませんよという迫力のある受けなのだ。
そして、一分将棋になった渡辺が意を決して攻めに出た5七金▲以下の同飛△6六角▲5八飛△5七歩▲6六角△5八歩成の過激というかわけのわからない順。しかし、進んでみると久保優勢になって一気に以下寄せてしまったので、渡辺に何か重大な誤算があったのだろか。感想コメントを待とう。
色々あったが、全体としては久保の自由奔放、変幻自在、異常感覚、天上天下唯我独尊とでもいうべき個性的この上ない将棋が印象に残った。久保に挑戦中の、渡辺、豊島といった本格的で真面目な居飛車党が久保台風に巻き込まれてしまって、全然自分のペースで指せていない様にも思える。
ところで、チャット解説の佐藤紳哉は、随所にらしい小ネタをちりばめながらも、将棋の手自体は真面目に熱心に解説していた。私などが、つい色々ツッコミたくなってイライラすることなども、きっと織り込み済みなのだろう。

囲碁将棋チャンネルHP(棋譜閲覧可能)

小林先手で相矢倉模様から、後手の阿部が△3二銀型の工夫。急戦をみせて先手の小林も早めに▲2六歩として飛車先不突き矢倉ではなくなる。さらに、阿部が右銀を△5三から△4四へ盛り上がると見せかけて、小林が早囲いにしたのに反応して△6四銀から攻め合いに。早囲いの玉を直撃する狙いである。定跡形ではない力戦矢倉になった。
この辺の駆け引きが大変面白かった。かつての矢倉は定跡手順を課題局面までたどってその後どうかというところがあったが、阿部は独自の工夫をして、相手の出方をみて柔軟に対応しいてるとうに思えた。「なるべく形を決めずに相手の出方に応じて自分の作戦を決める。」という現代将棋勝又テーゼの考え方の実践である。そもそも一手損の思想というのが究極の「形を決めない」思想なのだ。
阿部は研究家として知られているが、いわゆる定跡形をそのまま指すのでなくて、定跡を全て研究した上で、そこにどういうオリジナルの工夫を加えられるかという考え方で指すタイプだと思う。そこには、同門の兄弟子で研究相手でもある藤井の影響も大きいのだろう。
この矢倉でなく高美濃の形のまま攻めるのは、藤井が深浦相手に去年の王座戦挑決で快勝したのが印象的だった。一昨日のB2順位戦いでも後手が高美濃の形で攻めようとする将棋が二局あった。その形自体は昔からあるのかもしれないが、最近採用が増えているのには藤井矢倉の思想の影響が大きいのではないだろうか。
藤井は藤井システムで振り飛車の世界に根本的な革命を起こしたが、矢倉の世界でも、その本質的な思想の洗い直しを惹起させ、激しい地殻変動をひきおこしているような気がする。
というわけで、今年の升田幸三賞には「藤井矢倉」がふさわしいのではないかと個人的には考えている。
将棋自体は激しい攻め合いになり、両者とも感想戦で「自信がない」という難解な戦いになり、双方に後悔する手も出たようだが、最後は阿部が小林玉に必死をかけて勝ち。
早指しの強さに定評のある小林も破って阿部は破竹の6連勝。早くも決勝トーナメント進出を決めた。

NHK杯HP(棋譜閲覧可能)

竜王戦以来、待望の再戦。テレビの前でドキドキして見てましてた。やはり、現在ではこのカードがスペシャル中のスペシャルです。

まず、解説に郷田を持ってきたことを褒めたい。この二人の角換わりを解説するのは、郷田か丸山しかいないから。但し、渡辺2手目△8四歩でなりかけたが、羽生の選択したのは矢倉。
インタビューでは二人とも、「準決勝だから。そして相手が渡辺さんだから、羽生さんだから」と同じことを言っていた。まさしくライバルである。ちなみに、名人と竜王は同格だが、駒箱を開けていたのは羽生。渡辺が譲ったのだろうか。それとも何か細かいきまりとかあるのかな。
対局開始前に、羽生がフゥーーとため息をついて気を落ち着けている。気合十分で、そういうのが自然に出るのが羽生流。
それにしても開始からのノンストップでの進行ぶりはすごかった。いくら定跡形だとは言っても常軌を逸しているくらいに進んだ。かつて、この二人が朝日杯で戦ったときも角換わりで同じくらい猛スピードで進んだことがあって、その時私は堀口一史座と堀口一史座が戦っているようだと表現したのだけれど、今回は糸谷哲郎と糸谷哲郎が戦っているようだといっておこう。
とにかく、この二人が戦うと確実に何かが激しくぶつかりあう。ものすごい緊張感である。かつて色々なライバル関係があったが、こういうはっきりとお互いに譲らない感じはあまりなかった。谷川をはじめとして基本時に皆紳士ということもあったし、あの大山も若き日の中原にはあまり激しい闘志を燃やすという感じではなかった。となると、この二人の関係に近いのは、さらに遡って、大山vs升田とか木村vs升田ということになるのかもしれない。
勿論、羽生も渡辺も、古き時代のライバルのように表だって口でやりあったりはしないが、そのかわりに、指し方や指し手に黙って表現されるものに、私はそれと同等の激しさを感じ取ってしまうのだ。
しかもだ。なんと竜王戦第二局と全く同一手順をたどり続ける。わずか数分間で、竜王戦第一日の棋譜を並べ終えてしまった。

(参考)竜王戦中継サイトより 第二局棋譜

あの将棋は、先手羽生の▲4六銀・▲3七桂型に対して後手の渡辺は△9五歩型。先手が▲6五歩の宮田新手という定跡手順から、羽生が「コロンブスの卵」といわれた▲1五香の新手を出して、先手がよくなったが、渡辺の端歩攻めが鋭く、羽生も対応を間違え、渡辺の逆転勝ちだった。
と言われているのだが、渡辺は実は逆転勝ちではなくて、この将棋は私の方が本来よい将棋だったと主張しているわけである。羽生が新定跡を発見してよくなった、というところから全否定にかかっているのだ。もし勝てば往復ビンタである。しかも、注目の集まるNHK杯で。渡辺もこわい男である。
本譜の▲6四銀で、竜王戦では▲1三桂成だった。つまり、羽生の方から、この方がよりよいと修正してきた。
竜王戦の際も、この順は検討されていて、以下▲6四銀△同歩▲3五飛△2四銀▲1一角で先手も指せるとされていた。しかし、羽生はここでも▲1一角成ではなく、このタイミングで▲1三桂成。
当然▲1一角とするとどうなるかが気になるのだが感想戦で種あかししていた。▲1一角△3一玉▲3二飛成△同玉▲2二歩△2五成銀▲2一歩成△3三銀上に▲3七桂△3六成銀▲2五桂△同銀▲1三角成△2一玉▲3三角成△同金▲3一金。で、きわどいながらも先手の攻めがが切れていると。
羽生が手順を主導していたが、渡辺もこの順は把握していたようにも見えた。渡辺がこの形を採用したからには、当然この変化でも指せると考えていたはずだ。それを羽生が看破していて変化したわけである。渡辺の恐ろしい罠。
この辺は、二人が事前にお互いにどういう研究をしていたか真相はよく分からないが、ものすごくスリリングだった。
以下も、羽生の攻めがつながるか、あるいは切れたりぬるくなって、その瞬間に持ち駒豊富な渡辺が△8六桂などと反攻して後手勝ちになるか、最後まで緊張感のある局面が続いた。
結局、羽生が細そうな攻めを緻密に芸術的につなげて勝ち。投了図だけみると先手が一方的に攻めて終わったように見えるが、そこに至る過程に実にみごたえがある将棋だった。
郷田の言っていたように「羽生さんの名局」である。
そして、既に少しふれたが感想戦が実に濃密だった。一番のポイントは▲7一馬に一度△8三飛と逃げて▲7二馬とさせて馬の位置をずせたらどうかということだったようである。
感想戦でもギリギリの攻防が繰り広げられていた。二人とも、言葉も表情もやわらかかったが、まだ戦い続けていたようにも思えた。
渡辺としては、NHK杯ではまだ優勝がないので、羽生の三連覇の可能性を自分でとめたかったところだろう。一方の、羽生も竜王戦の結果を受けているので、ここで負けると王者交代のイメージを持たれかねないので特に負けられない戦いだったと思う。
というわけで、竜王戦の借りを羽生が少しだけ返した。しかし、竜王戦をみても今日の戦いを見ても、お互いに勝ったり負けたりのハードな戦いが当分続くような気がする。しかも、この二人の場合、大変シビアな妥協のない戦いになる。見ている側にとってもしんどいが、やはり現在一番魅力的なカードであることは間違いない。
今回の名人戦でみたかったような、やっぱり後回しになってよかったような複雑な心境である。

女流ネット最強戦 里見vs矢内、天河戦 石橋vs中井、銀河戦 広瀬vs糸谷、NHK杯 丸山vs三浦

大和証券杯ネット将棋公式ホームページ

先手里見で中飛車。後手の矢内は居飛車の意思表示。最近ゴキゲンを多用しているが、相手にゴキゲンをされた場合の対策も兼ねているのかもしれない。
後手の金銀四枚の銀冠穴熊に対して先手は片銀冠。玉の硬さだけだと大差だ。普通に見れば先手作戦負け。
矢内が千日手のゆさぶりをかけたが、里見は千日手にはせず。
どうするのかと思ったら里見が▲8四角から▲7四歩で手をつくりにいき、攻めるのでなく龍を自陣にひきつける「大山流」。
苦しそうながらも粘り強い振り飛車らしい指し方だ。龍をしっかりひきつけると後手の穴熊も駒が片寄りすぎているようにも見える。
矢内が玉頭から攻めかかる手もあったようだが、龍を4七に回られて攻めにくくなってしまったようである。
さらに強気にいったりしっかり受けたりの緩急自在な指しまわしで、いつの間にか優位に。なんとなくだが、攻め合わないで受けに回りがちな矢内の棋風を見透かしているようにも思えた。これも、大山流?
但し、普通に△6五銀と打っておけば居飛車も指せてまだ難しかったようである。
本譜は▲7七歩で後手の馬を働かなくさせ。後手のガチガチの穴熊にと金攻めを間に合わせてあっという間に穴熊崩壊。
うすい片銀冠が、ガチガチの銀冠穴熊を退治してしまった。振り飛車党ならこういった穴熊退治に憧れるだろう。
前回の上田戦といい、薄い玉形で芸術的に指して居飛車穴熊を負かした。玉の堅さ絶対主義の現代将棋の風潮に一石を投じた、といったら大袈裟か。
里見は大山将棋に憧れているそうだが、この穴熊退治の仕方はちよっと大山を連想させる。本当に里見は見ていてワクワクさせてくれるし、ゼニの取れる将棋を指してくれる棋士だ。

NTTル・パルク杯 第3期天河戦中継サイト

先手の中井の▲2六歩に対して後手の石橋は△7二飛。個人的には、こんなのをネット対局でされたらカッとなりそうだが、中井は大人の対応で飛車先の歩を交換したことに満足して引き飛車にして普通に組んでいた。ところで、この△7二飛を具体的にとがめようとしたら、どうすればいいのだろうか。引き飛車にしないで浮き飛車、あるいは突っ張って▲2五飛にしてみるとか。角道がつけないので引き角にするとか。私にはよく分からない。
中井が相掛かりの棒銀のような構えから右銀を細かく動かして玉に寄せ、石橋は横歩取り△8五飛の松尾流△5二玉で構えるという、ちょっと不思議なお互いわが道をいく展開に。
お互いに馬をつくりあったが、と金が出来た分石橋がポイントをかせいだのだろうか。さらに金桂交換になり駒得を重ねて先手玉に厳しく迫って優勢に。中井も必死の勝負手で迫ったが石橋が冷静にかわして勝ち。
変った石橋の序盤を中井がうまくとがめることが出来なかった感じである。具体的に中井のどこが問題だったのだろうか。駒組の構想からしてうまくなかったのだろうか。

囲碁将棋チャンネルHP(棋譜閲覧可能)

広瀬先手で▲7六歩△8四歩の出だし。糸谷の△8四歩は珍しいが広瀬相手で振り飛車を想定して引き角をやりたっかたということか。若い世代ほど合理的あるいはシビアにこだわりなく指し手を選ぶという印象。例えば、谷川あたりなら相手をみてというのはやらないところだろう。
その後駆け引きがあって、角交換で広瀬の中飛車に。広瀬が穴熊で糸谷が右辺の位をとって盛り上がり、広瀬は8筋に飛車を転換して仕掛けて飛車交換に。そのあたりで△6二桂と一見ただ受けるだけのような桂を平気で打っていたのがらしいと思った。ベテランには打ちにくそうな感じの手だが若い棋士はこういう手に抵抗がないような気がする。
糸谷の飛車打ちからの攻めの方が厳しそうだったが、広瀬が▲1六角や▲7七飛といった流石の工夫の勝負手を披露して迫力ある終盤に。
糸谷が穴熊に厳しく迫ってすぐ終わりそうに見えたが、ここもさすがに穴熊スペシャリストで▲6九飛の自陣飛車で粘って簡単には土俵をわらなかったが、糸谷が一度は受けに回って勝ちを決めて逃げ切った。
少し苦しめのところから、気がつきにくい勝負手を連発した広瀬の終盤力もさすがだったし、それに苦しめられながらもきちんと勝ちきった糸谷も強かった。さすがに二人とも終盤力が高くて、それを広瀬は王位戦でも証明していたが、糸谷も互角に渡り合っている感じだった。将来タイトル戦でこの組み合わせになっても全然不思議ではないだろう。と思わせる二人の強さだった。
感想戦によると、広瀬のひねった▲7七飛が問題で、▲5三と△同金▲5一飛△4二銀▲7一飛成として糸谷が穴熊を攻めきれるかどうか難しかったようである。感想戦でも二人ともさすがに手の見え方が違うと感じた。

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丸山先手で横歩取りに。後手の三浦が△8四飛と引いて中住まいにする少し古い形に。解説の深浦によると、かつては後手から角交換して△3三桂から△2五歩として駒組みして一局という将棋だったが、三浦が角交換しなかったのが工夫ということである。現代風の形を決めない発想なのだろうか。研究家の三浦らしく入念に準備したのであろう意表の作戦を短い時間の将棋でぶつけてきた。
その場で対応しなければならない丸山も大変だったろうが、自然に3筋を伸ばすなど、無理なく対応していた。三浦が両方の桂馬を跳ねて飛車も5四に回って、先手が玉だけで守っている玉頭を狙っているあたりではいかにも先手が気持悪そうにも見えた。
しかし丸山も▲5六角と受けて3筋の桂頭を攻めるのをみせ、一方三浦も飛車を細かく何度も動かして桂頭のピンチをしのいでおさめた。この辺の攻防は、さすがにA級同士だけあって見応えがあった。
三浦から攻めに出たが、やはり丸山が的確に受けて決め手を与えない。三浦が事前に丸山相手だと攻めきるのが容易ではないといっていたのが正直な感想なのだなと感じる展開に。
さらに三浦が守りの金を繰り出して攻めに行ったが、その際の丸山のカウンターが厳しすぎて、先手がよくなったようである。以下、丸山らしく激辛で受けきると見せて、さいごは思い切って踏み込んできっちり勝ちきった。この将棋を見る限りでは、三浦の攻めを丸山が柔かく巧みにうけとめてしまって、二人の対戦成績でも丸山がリードしているのが何となく納得できてしまう内容だった。
三浦は終局直後に集中しすぎていたためか丸山が話しかけても言葉が出てこない。
「いやいやいや・・。うーん?いやいやいやいや・・。えーーーっと。えーーーっと?」
やはり加藤一二三の後継者は三浦弘行しかいない。



NHK杯 羽生vs佐藤康、女流ネット最強戦 甲斐vs中井、銀河戦 脇vs大平

大和証券ネット将棋サイト

後手の甲斐のゴキゲンに先手中井の超速▲3七銀。空前の大流行と言いたくなる(笑)。
後手が3筋から動いて戦いに。少し中井が良さそうながら、難しそうな局面からさすがにお互いに筋のはずさない手で均衡を保ってレベルが高いと感じた。
中井が、▲5五成銀から▲4五成銀と受けに回ったのが巧みで優勢になったように見えた。だが、その後も受けに回るのでなく、桂香を拾って攻めあい、甲斐もと金攻めで迫り、中井も少しあせらされる感じに。但し、甲斐は攻めが細くて悪いと感じていたそうである。
中井は受けに金を使ってもらってよくなったと感じたそうである。その後も中井が攻め続けて最後もきわどそうだったが後手玉を見事に詰まして一手勝ち。
最後解説の西尾が△8二玉で詰まないのではと聞いたら、二人から即座に詰み筋の答が返ってきたのがおかしかった。女流もしっかりしていてレベルが高いということを、西尾さんが身を持って証明してくれる形になりました(笑)。
中井は三連覇に王手。

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脇先手で相矢倉。後手の大平が、本家の脇システムを受けて立った。勿論私は脇システムの定跡など知らない(自慢することじゃありません。)ものすぐい勢いで進んだが、感想戦によると△4六馬に▲3七銀としたのが新手で、そこまで前例があったそうである。だからほとんど止まらなかったのか。
脇の攻めを大平が角と金銀の二枚換えをして入玉含みで受ける展開に。入玉を阻止するのが難しそうで大平が良さそうに見えた。大駒三枚持っている脇は相入玉を目指す方法もあったと思うが、大平玉を必死に捕まえに行った。この辺は棋風なのだろう。結局大平が完全に入玉して脇投了。

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すごい将棋だったので、記事のトリに持ってきました。
後手佐藤のゴキゲンで、相穴熊に。解説の加藤一二三先生が「対局前に羽生さんは最初から緊迫感のある将棋になればといっていましたが、そうはなっていませんね。」と、ごもっともなツッコミをして和ませつつ、じっくりとした展開に。
佐藤が△2五桂とはねたのに対して、羽生は左辺から動いていき、角を切って金と交換して後手の穴熊を弱体化させたが、佐藤も△8七歩のたたきをいれつつ4四角のにらみを利かせて攻めを見せる。羽生も端攻めから露骨な金の打ちこみと実戦的な迫り方をしたが、素人目にも振り飛車がよさそうに見えた。
しかし、羽生の▲7五歩を手抜いて佐藤も△7六歩、さらに▲7四歩△7七歩成▲7三歩成と何回お互いに手抜けば気が済むのだという加藤先生もビックリ?の過激な順で局面が一気に緊迫。
しかし、結局お互いに手を戻して、羽生が▲9八玉と詰めろを解消しながら逃げて佐藤が△9四香と打ったところでは佐藤勝ちになったように見えた。そして問題は▲9五歩△同香となった局面。普通に▲9六歩だと△7九龍で困る。羽生絶体絶命か?
以下文字で再現してみよう。
羽生▲9六金!!!!!!!!!
加藤 ああぁ!うわぁーーっと!驚きました。いやぁーーー!ひやぁーーー!もう、大変な驚きの一着で。うーーーん、こんな手がありましたか。
さて、この驚きの一着がでまして▲9六金。ひやぁーー、いやぁーーー。これは、うわぁーー、にわかに、うわぁーー。これ、うなりれましたね。うわぁーーー。
加藤先生、あなたは擬音語のデパートですか。加藤先生、あなたはかつての長嶋茂雄ですか。うわぁーー(私までつられた)。
録画を何度も巻き戻してみたら、佐藤も指された後に一瞬間があって、目を見開いて驚いていたようにも見えた。
金をただ捨てすることで、先手玉の上部脱出が可能になり、風前の灯だった先手玉が一瞬にして全然簡単にはつかまらなくなってしまったのだ。
以下も、佐藤も粘りに出て長い戦いが続き、佐藤がもしかしたら再度逆転かというところまで追い込んだが、羽生が逃げ切って勝ち。
但し、感想戦がなっかたので対局者二人の対局中の形勢判断はよく分からない。
とにかく、▲9六金は目の覚めるような一着だった。
今年はNHK杯の60回記念大会。そして、羽生の伝説の▲5二銀をくらったのが加藤一二三。羽生の新たな伝説の▲9六金を解説したのが加藤で、何か因縁めいたものを感じずにはいられなかった。
また、羽生が中川に大逆転勝ちした将棋を解説していたのも加藤。加藤が羽生の将棋を解説すると何かが起こるのだ。


将棋日記 女流最強戦 里見vs上田、銀河戦 日浦vs菅井、高崎vs横山、NHK杯 郷田vs糸谷、久保芭蕉

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今終わった、里見vs上田。里見の指し方にちょっと衝撃を受けた。先手の里見が角道を止めるノーマル中飛車から、▲4七銀▲4八金のオールドファッションな形。解説の伊藤が「大山先生のようだ。」と言っていたが、これが今日のキーワードになる。
上田が居飛車穴熊をいかして(里見の囲いは美濃などと比べて相当弱い)、暴れようとしたのか敢えて△5四歩を受けずに指していたが、里見に逆に▲5四歩を打たれて苦しくなり、必死に暴れに行ったが里見に丁寧に受けられて完全に切らされてしまった。どんどん上田の攻めが細くなって、里見も切らした後も次々に玉の周りに金銀を打ち、上田は本当に何も出来なくなってしまった。「大山先生のようだ」である。
解説の伊藤も指摘していたが、女流棋士は基本的に猛烈な攻め将棋が多いが、相手に無理に攻めさせてきっちり受け止めるという男性棋士感覚の指しまわしである。
平手なのだけれども、まるで駒落ちの上手のように指しているようにも見えてしまった。薄い玉で、自由に居飛車に穴熊に囲わせて、徹底的に受け潰してしまうというのは、まさしく大山ではないか。
里見は現代風の石田流やゴキゲンを中心にしているが、こういう昔風の振り飛車も裏芸として指せるのだ。一体どこでこういう指し方を覚えるのだろうか。
そして局後の感想では「玉が薄いので自信のある局面はありませんでしたが、楽しく将棋が指せたと思います」と。「楽しく」ですか。おそるべし。

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日浦vs菅井。
菅井先手で中飛車。お互いの角道が通ったまま菅井が▲5五歩と仕掛け、さらに日浦が玉を囲おうとしたところから再度機敏に動いて攻め込んで、そのまま攻めきってしまった。完勝。
ここの所数局連続して菅井の先手中飛車を見たが、シンプルに動いてそれが必ずちゃんと攻めになっている。アマチュアもこのように指せれば真似したい。一時期私も定跡書などよんで気持のいい順が多いので試してみたが、やはり独特の感覚が必要でかなり指しこまないと難しいと感じた。一見分かりやすい指し方だが、そこには膨大な研究の裏づけと、実戦で鍛えぬいた感覚があるのだと思う。見た目はアマチュアでもわかり易そうだが実は難しいという現代将棋なのだろう。
これで、5連勝。破竹の快進撃である。まだ続きそうな勢いだ。

高崎vs横山。
先手高崎で、石田流の出だしから、後手が角交換して▲7六銀型の変則的な向かい飛車に。その形を生かして▲7七桂から後手の8五の歩をパクリと食べてしまった。当然後手の横山は右辺方面から反発するが、先手も激しく切り込んでペースを握る。高崎が攻め続けるが横山もしぶとく凌いで容易には崩れず、終盤は優劣不明の大熱戦になった。最後本当にきわどく高崎が勝ちきったが、若手実力者の二人が終盤の強さを見せつけた将棋だった。この辺の若手のレベルも相当高い。時間がなくて感想戦がなくてポイントが分からなかったのが残念。
聞き手の藤田綾さんによると、高崎五段は「レコーディング・ダイエット」で痩せたそうである。レコーディング・ダイエット?何か歌ったり踊ったりしてレコーディングするの?と思った私はアホで、食べ物を記録(レコード)することで食生活を管理する方法とのこと。なるほど。

NHK杯HP(棋譜閲覧可能)

郷田先手で、後手糸谷のもはや御馴染みの一手損角換わり。郷田の早繰り銀に糸谷も早繰り銀で対抗する、ちょっと珍しい相早繰り銀に。これも糸谷のことだから相当研究しているんだろうなぁ。先手の攻めを警戒して後手が四間に振ったが7筋に振りなおして動き、郷田も3筋2筋から動く。糸谷にも誤算があったようで郷田が普通に駒を捌いて指しやすくなった。感想戦によると▲3八銀を打たずに単に▲8二飛と打っておけばはっきり先手良しあるいは勝ちだったそうである。
しかし、それを逃して糸谷が△4三金から△4四飛としっかり受けて郷田の攻めをあせらせたのがうまかったとのこと。解説の井上が対局前に、糸谷の特徴は受けで、受けなら棋界でも5本の指に入ると言っていた通りの展開になった。そして一度攻めだしたらいつもの完全ノータイム指しであっという間に郷田玉を寄せてしまった。
感想戦でも郷田は「どうも読みがあわない」とボヤいていた。この二人は2008年の対局の感想戦でも郷田は「ちょっと感覚が破壊されるな。」と嘆いていたのである。いまだに糸谷に慣れることの出来ない郷田という感じか。
糸谷も△2六馬と指しかけて、王手馬取りをくらうところを寸前で気づいて駒を離さずに難なきをえていた。こういうあぶなっかしいところも糸谷の面白いところである。

王将戦のスポニチさん、今度は久保さんを松尾芭蕉に仕立てあげてしまいました。でも、この帽子は芭蕉というよりは(以下各自ご自由に発言ください)。

スポニチannex第3局一夜明け…久保王将、芭蕉の宿を散策

久保芭蕉の写真

王将戦中継ブログ 芭蕉の愛した里で

「NHK杯将棋トーナメント60周年記念・歴代優勝者が選ぶ名勝負十局」感想

最初から最後まで余すところなく語りつくしたくなるような貴重な番組だった。以下、呼び捨てにしてはいけない方々が次々に登場するのだが、敬称略で統一して書かせていただく。

十局中、羽生善治の将棋がなんと七局を占めた。やはり、NHK杯の歴史は羽生善治の歴史だったといえるだろうか。今回は歴代優勝者が選んでいるので、特に現役世代の将棋が多くて昔の名局が抜けているかもしれないが、やはり現役世代にとって、NHK杯に限らず将棋の歴史がそのまま羽生善治の歴史だということを感じさせた。
選ばれた将棋では、やはり羽生が、大山康晴、加藤一二三、谷川浩司、中原誠という歴代名人を連破して優勝した伝説の大会が印象的である。一位に加藤戦、四位に決勝の中原戦が選ばれた。
加藤戦については、伝説の▲5二銀があるので一位は予想通りである。当時の映像で全ての指し手を再現したので、将棋の流れが分かって良かった。角換わりの将棋で羽生が先手で加藤のお株を奪う棒銀で攻め倒した将棋である。そういう将棋の内容もそうだが、羽生の指し手、指す手つき、全てに迷いがなくて若々しい。新鮮である。羽生睨みも出ていた。それに、負けずと加藤もど迫力の対局態度と手つきで対抗していたのも爽快だった。伝説の▲5二銀よりも、羽生が若くて攻撃的に年長の棋士に襲い掛かる様子に感慨を覚える。最近、逆の立場の竜王戦を見終えたばかりなので。
米長邦雄が、いつものように賑やかな解説で盛り上げているのだが、羽生の若々しい将棋の勢いに反応していたところもあったように感じる。ちなみに、▲5二銀の瞬間に、米長がマイクの音声が割れるくらいの大声、奇声をあげたのだが、羽生によるとそれが防音された対局室にまで聞こえてきたそうである。そんなことは後にも先にも、その一度きりだとのこと。
加藤戦よりも将棋の内容が鮮烈だったのが中原戦である。当時の映像とスタジオの映像を見比べて感じたのだが、羽生はやはり今より顔も細身でシャープな印象である。黒澤明の「椿三十郎」で、三船敏郎扮する素浪人のことを大名の奥方が「あなたは抜身のないむきだしの刀のような方ね」と評するシーンがあるのだが、若き日の羽生の映像にも、ちょっとそんなところを感じた。
将棋自体も、角と飛車を次々に叩き切り、以下も鋭い寄せで中原玉を捕獲してしまった。その流れるような攻撃手順は本当に見事だ。羽生も振り返って、「今見ても信じられないくらいうまく指せていますね。自分の持っている力以上の将棋が指せた。出来すぎという感じがします。」と言っていた。後半は謙遜だろうが、羽生も自分の過去の姿を見て何か思うところがあったのではないだろうか。先日までの竜王戦では、どこかアンバランスで踏み込むべきところで自重したり逆に辛抱すべきところで無理に行ったりしていた様に思えた。素人が偉そうに言うべきことではないのだろうが、将棋に迷いのようなものを感じた。相手の渡辺明には、指し手に全く迷いが感じられなかった。そういうアクセルの踏み方緩め方が将棋では一番難しいのだろうが、かつての全く迷いのない羽生に何かのヒントがあるのではないたろうか。羽生ファンとしては、羽生にその何かを見つけてもらいたいなどと感じたりもした。
解説が大山だったのだが、当然ながら実に的確で鋭かった。最近、羽生が「大山先生は読まないでも局面を見ただけで急所がすぐに分かる」とよく言うが、まさしくそんなことを感じさる伝説の解説でもあった。永井英明の名聞き手ぶりも懐かしい。

羽生が負けた将棋も入っている。長沼洋が驚異の受けで羽生をうっちゃった将棋も当時話題になったものである。同票の七位。羽生が投了した瞬間に、長沼が何か申し訳ないとでも言うように、ほとんど畳に頭がついてしまうのではないかというくらい頭を深く下げていたのも印象的だった。長沼の人柄を感じさせると共に、羽生に勝った嬉しさがにじみ出る名シーンだった。
羽生が決勝で山崎隆之に負けた将棋も六位にランクインした。羽生も当時を振り返って、山崎の△3九銀が珍しい筋で印象的だったと語っていた。この手に象徴されるように、世代的にそれまでとは「線ではなく点で考える」新感覚の棋士が現れたなどとと騒がれたものが、今にして思うと世代の問題というよりは山崎の強烈な個性だと感じる。
羽生が決勝で村山聖と戦った将棋が三位。最後受けておけば村山の勝ち筋だったのを、ウッカリで飛車を抜かれて急転直下で負けにした将棋である。スタジオで映像を見つめる羽生も、やはり感慨深げだった。
中原と米長の重量級の対決が二位。ランクインした中では懐かしい感じがする組み合わせである。実はこのお二人での決勝はこの一回だけだったそうである。ちょっと意外だった。さすがに将棋も対局姿も迫力満点だった。
櫛田陽一が四段で一気にかけあがって優勝した決勝の将棋が流れたのも嬉しかった。第五位。やはり、この頃から櫛田は堂々と居飛車穴熊にくませて、堂々と作戦勝ちして勝っていたのである。そして、それを今でも変ることなく続けている職人肌で頑固な棋士である。フリークラスに自主的に転出した関係で、引退の時期が近づいているのだが本当に惜しい。何とかならないものだろうか。
中井広恵がNHK杯で女流が初勝利をあげた将棋も同票で七位に選ばれた。その回のトーナメントで、中井は佐藤康光もほとんど負かす直前のところまで行ったのである。本来その将棋が選ばれるところだったので、あれは残念だった。オマケで中井がNHK杯に初出場した際の映像も流れたのだが、対戦相手の先崎学も含めて、いや若い若い。他にも懐かしい聞き手や読み上げや記録が映っていたが、女性の場合、やはりファッションや化粧が随分変るものだと感じた。本当に余計なことだけれども。
番外編では、小林健二の時間切れブザー鳴り。ブーと無機質なブザー音が響き渡る絵はなんともシュールだった。有名?な豊川孝弘の二歩も。直後に豊川は「あっ、失礼失礼、申し訳ない」と。咄嗟に「申し訳ない」と出てくるのが豊川らしい人柄の良さを感じさせた。

羽生善治以外に、もうひとのこの番組の主役がいた。加藤一二三である。ラジオ時代の話をされていたのだが、若き日の先生のモノクロ映像が。クールな眉目秀麗な感じの痩せた美青年である。最近のファンは驚かれたのではないだろうか。対戦相手の大山が当時37歳というのにも貫禄がありすぎて私は驚いたのだが。
加藤の場合、今とその当時のイメージに落差がありすぎる。しかし、米長が羽生vs加藤の解説で加藤の少年時代を紹介していた。「若い頃はとてもお喋りだった。有吉さんが『ピン(一)ちゃん、うるさいよ』、そういう風に叱ったというくらい早口で喋る少年だった。」と。つまり現在の加藤は少年時代に先祖帰りしたということであろう。
同票の七位に、羽生が中川大輔に大逆転した将棋が選ばれたのだが、この将棋に関してだけは主役は解説の加藤だった。これは私もリアルタイムで見ていたが、中川玉の頓死を発見した後の加藤は伝説である。「あれっ、あれあれあれあれ。」あれを何度言ったか私は数え切れなかった。そして「ひゃあー」の繰り返し。擬音の天才。スタジオの羽生によると、「私も、あれ、っくらいは思った。ひゃあー、までは思いませんでしたが」とのこと。
第十位は加藤vs大山の古い対局。残念ながら映像が残ってないそうだが、その代わりに「加藤一二三・当時を振り返って語る」を観ることが出来たのはファンにとって僥倖であった。加藤一二三必勝の将棋を最後頓死を喰らってしまった将棋について、自分にショックな将棋なのに、加藤は嬉しそうに滔々と熱弁をふるったのである。▲8八金とやったために、すかさず△同角成とされて簡単な3手詰めの大頓死である。加藤先生曰く。
「ファンの方が言うのには、△8八角成と金を取った時の大山先生のね、この手の素早さ、つまりね、加藤さんに絶対にマッタは許さんぞ、という気迫のこもった△8八角成だったと。」と、少年当時と同じように早口で解説されたわけである。
これは谷川も印象に残っている将棋だそうで、スタジオの羽生も大山の電光石火の手つきを覚えているそうである。
唯一、この番組で残念だったのは、「加藤一二三・羽生の▲5二銀を振り返って語る」がなかったことである。
というわけで、BS特番「加藤一二三・6時間将棋を語りつくす」をどうっすか?NHKさん。

怪物糸谷、渡辺竜王をふっとばす

まぁ、スポーツ紙なら、こんな感じの見出しなんでしょう。
関西には「いらち」という言葉がある。笑福亭鶴瓶が師匠の松鶴のことを、よくそう表現していた。「せっかち」「気が短い」「イライラしやすい人」といった意味である。普段の糸谷五段がどうなのかは知らないが、将棋を指している時はまさしくそんな感じだ。
NHK杯の場合は読み上げが入るのだが、もうそれを聞いているのももどかしいといわんばかりにパチリ。しかも、駒を豪快に叩きつける。
記録係が糸谷五○回目の考慮時間に入りました。」と言っても、そんなことはお構いなしにすぐ指す。普通は一分間遣って慎重に検討するところだが、「もう、考えなくても、指し手はこれに決まっているでしょ」といわんばかりに。竜王が相手でも関係なし。
そして、上目遣いにチラチラ竜王の方を見やる。「羽生ニラミ」ならぬ「糸谷ニラミ」けである。羽生ニラミがほとんど無意識な集中力の発露だとしたら、糸谷の場合は、本当にストレートな闘志の現れ。相手を威嚇するというよりも、自分の指し手に絶対的な自信を持っていて、「どうだ」と相手の反応をみる。闘争的なのだけれども、真っ直ぐで混じりけのない心の在り様の表現だとすぐ分かるので、イヤミには感じない。
早指しの棋士の場合、相手に早指しで飛ばされると意外に調子が狂うということも聞く。渡辺竜王も、もともと序盤は早いタイプだけれども、糸谷に負けずと飛ばしていた。竜王は、指し手以外の部分も意識的に考えるタイプなので、そういったことも考えていたのか、あるいは単に気合負けしないようにつられただけなのかは分からないが。もっとも、竜王がどんなに早指しで飛ばしても、糸谷はそれを上回る早さで返していて、結局は竜王が早指し負けせざるをえなかった。
今月の将棋世界の東西対抗戦にも糸谷は登場している。ここではもっと強烈な「糸谷ニラミ」の写真を披露している。まだ、NHKではテレビなので、あれでも随分遠慮しているのではないだろうか。
NHKでは、猛烈に勢いで一気に渡辺玉を寄せきる展開になったが、その渡辺が糸谷将棋を将棋世界でこう評している。
糸谷君の本質は受けだ。
久保棋王もこういう。
ああ見えて糸谷君は粘りの将棋。
NHKの森内戦も、銀河戦の佐藤天彦戦でも、超手数をいとわずに、負けない将棋を指していた。今回は、そんな粘りを出す必要もなく竜王を撃破してしまったわけである。竜王に誤算があったとはいえ、間違えれば一気に持っていく力もある。
糸谷五段の場合、勝ちになってからも、ほとんど考えずに指す。「勝ちになったら慎重に腰を落とす」というセオリーも通用しない。相手にしてみれば、ほとんど考えずに負かされるのだから、同じ負けるにしてもこれはこたえるだろう。渡辺竜王も、最後の方は、心なしか頬が高潮しているようにも見えた。今までは、常に年上に挑む立場だったが、これからは糸谷や豊島といった、渡辺以上に現実主義でシビアな将棋を指す若手を相手にしなければいけないのである。
決勝の相手が羽生名人になるか丸山九段になるかは分からないが、どちらにしても楽しみである。決勝だからといって、一切指し方を変えてほしくないものだ。
最後に渡辺竜王の糸谷評をもう一つ紹介しておこう。この二人の対戦は、来月の将棋世界でも見ることが出来るのだ。
糸谷将棋は関西のというより、全棋士の中でもかなりの異能派。プロから見てもあの早見えはすごい。

女流名人戦 清水vs里見、NHK杯 鈴木vs糸谷、銀河戦 遠山vs長岡

女流名人戦は里見さんの会心譜だった。
清水さんの仕掛けに問題があったらしく、うまく対応した里見さんが優位に立ったのだが、その後はまるで振り飛車はこうやって勝つものだという講座のような展開に。清水さんがこんな負け方をするのも珍しい。
まずは、相手の攻めを丁寧にいなして封じ込めて自玉の美濃は鉄壁。相手が馬を作って粘ろうとしても許さず、飛車で桂香を悠々と拾って、▲2六香。この香車を打って▲2三香成から▲4一竜を狙うというのは舟囲い攻略の基本中の基本で、それがこのように綺麗に実戦で実現したのも珍しいのではないだろうか。
振り飛車党なら、▲2六香の瞬間に「打つ、打つ!」と一斉に唱和してしまったのではないだろうか。「クイズ100人に聞きました」の客のように。と、たとえが古いのは大盤解説担当が豊川先生だったこととは特に関係ない。
豊川先生は和服でビシッと決め手相変わらずファンサービスに努められていたようである。棋譜解説でも「タラちゃん」という相変わらずのダジャレが飛び出していた。ここをご覧の将棋ファンの方ならすぐ理解できるかもしれないが、もしかすると初級者の方はわからなかったかもしれないので、念のために説明しよう。
豊川先生が指摘していた▲7二歩のように。敵陣などに歩を打って次にと金を作ったり駒を打ち込むのを狙うのを「垂れ歩」と呼ぶ。その歩を「垂らす」を「タラちゃん」とかけたというわけである。
このようにダジャレを解説するというのはそもそも反則攻撃であり、ただでさえオヤジギャグ気味なのにその面白さをさらに半減させる行為だと承知はしているが、あくまで将棋の解説のために心を鬼にして申し上げたのでなにとぞご了承いただきたい。

さて、(何がさてだ)NHK杯。糸谷流対振り飛車右玉の記念すべきお披露目の舞台となった。糸谷のデビュー当時に大変話題になったのだが、私もそうだがなかなか実際に見る機会がなかった人も多いのではないかと思う。
確かに組みあがってみると、振り飛車の飛車と対面して自玉が位置しているが、金銀が密集していて右辺から振り飛車が攻めたり捌いたりするというイメージがわかない。本局でもそうなったが、結局振り飛車の玉がある左辺が戦いが起こる事が多いのかも知れず、一見奇異に見えるが実は理にかなっているのかもしれない。
それにしても糸谷の指し手は止まらない。解説の片上六段がさかんに言っていたが、時間をかけないと勝ちを読みきれないし普通なら読みたくなるようなところも、本当にヒョイヒョイ指してしまう。片上分析によると、これが糸谷流の終盤で、どんどん指しても決して大きなミスは犯さず勝ちきってしまうそうである。その話を聞きながら、それってちょっと現在のソフトの終盤み たいじゃん、と思ってしまった。
感想戦も面白かった。糸谷は鈴木の早い玉あがりをみて穴熊かと思ったそうである。
鈴木 後輩には穴熊を組まないのを知らないんですねえ。
糸谷 あっ、そうなんですか。
鈴木も最近糸谷流は指してないのであまり研究していなかったとのこと。二人ともマイペースである。
鈴木の△4五歩を糸谷が▲同桂と堂々と取ったのがポイントで、鈴木は普通なら取るべき香車をとりきれず、後はひどい目に会った。
鈴木 (香車を)取ったらすごい(自分が)良さそうな顔をして取れなかったね。取れるもんじゃないという顔で取られて。
片上 どうだって顔していましたもんね。
糸谷恐縮。確かにライブでも糸谷がそういう顔をして鈴木を見ているのをカメラが捉えていた。まっすぐな糸谷流である。
鈴木 こんなにうまいとは思わなかったですね。糸谷流はやられたら何とかなると思っていたら何ともならないなあ。いい戦法ですね。
がしめの言葉だった。鈴木先生も人がよい。

やはり片上解説だった銀河戦の遠山vs長岡がとても面白い将棋だったことを思い出したのでそれについても少々。
先手長岡で後手の遠山がゴキゲン中飛車。先手の長岡が早めに▲6六歩を突いて向かい飛車にするのを牽制する研究手順を採用。結果として先手がほとんど無条件に馬をつくることに成功して優勢に。ゴキゲン党としては少し対策が気になる順だった。
しかし、それ以上に驚いたのはゴキゲン側の粘り方だった。結局先手が金銀と桂交換のものすごい駒得になり、なおかつ先手陣は馬つきの金銀四枚で、普通に見れば将棋が終わったように見えた。しかし片上解説によるとそうでもないということである。ゴキゲン側は最近は御馴染みの片銀冠。これが予想以上に堅いのを発見したのは鈴木八段だそうで、金にヒモがついていて、変な表現だが玉にもヒモがついていて堅く、上部も厚くて自分の方から端攻めも可能。本局では、遠山陣はその片銀冠に飛車と角がくっついていて、残りの右辺は完全に焦土状態という構えだが、それでも十分戦えるという。そういう一種現代風ともいえる局面の捉え方・考え方に何より驚いた。囲碁将棋チャンネルの銀河戦Eブロックで棋譜を閲覧可能なので、興味のある方はご覧になられると良いと思う。
とはいえ、さすがに駒得が大きくて厳密には居飛車有利だったようだが、最後は遠山に次々に桂を跳ねて詰めろ逃れにするいかにも気持ち良さそうな手順が生じて勝った。
現代風の振り飛車では、悪くなってもこのように指せばよいという感覚が参考になる一局だった。

藤井感想戦システム

昨日のNHK杯をご覧になった方も多いだろう。もしかすると、感想戦についてまたあのアホが何か書いているんじゃなかろうかと、本ページをのぞいておられる方もいらっしゃるのかもしれない。しかし、私も一応は人間らしい心を少しは持ち合わせているのである。さすがに藤井先生に対して悪いのでないかと。だが、そういう気持ちよりも、あの感想戦からにじみ出てくるほとんど人間のギリギリの形での悲しみや自嘲や誇りがない混ぜになったとても人間らしい光景に対する感動が上回って、こうして私に書かせているのである。というのは真っ赤なウソで、結局私はあの感想戦を心底面白がってしまったロクデナシに過ぎない。
芸術的な攻めの構想で圧倒的な優勢を築き上げた藤井が、信じられないようなウッカリの一手だけで一局をだいなしにしてしまった。そして、丸山がその手をとがめる当然の一手を指したのを見て、藤井は秒を読まれる中、即投了。肩を落として、まるで「ガックシ」が背広を着ているかのような哀愁の姿がテレビ上に映し出されていた。
具体的指し手については、勝又教授が来年「新手ポカ妙手選」で紹介されるはずなので、そちらを参照されたい。と、なんでこんな意地悪なことを書いてしまうのか、自分で自分がよく分からない。
画面では終局直後、藤井が丸山に話しかけている。
まぁ、こんなもんかね。大爆笑だね、しかし。
丸山も笑うしかないのだが、見る者は既に涙をこらえることが出来ない。
木村と矢内が入ってくる。藤井が木村に話しかける、誰かにものを言わずにはいたたまれないかのように。
いや、芸術的でしょう。
(木村)でも、攻めのつくりはすごく良かった・・。
しかし、オチがひどいね。
(今度は矢内を見て)
笑ったでしょ、これ、いくらなんでも。
しかし、矢内は表情を硬くしたままみじんも笑顔を見せない。木村と矢内の優しさ、心遣いがひしひしと画面を通じて伝わってくる。以下、藤井の悲しくもおかしい自虐節が炸裂し続ける。その場は笑いに包まれるが、笑いを取れば取るほど、藤井の姿が孤独で寂しくなっていくような空間。こういうのが、残酷なようだが、命がけで戦っているプロ棋士たちの尊い姿なのだと思う。
悪手にしても、悪手を指したいよね。(といって、飛車を分かりやすくタダで取られる場所に置く)
(木村が藤井の鋭い攻め筋を褒めると)こんなとこ、うまく指してもあんまり意味がないんだよね。オチがひどいね。しかし。
必勝なんですよ。必勝なのは分かっているんですよ。確かにね。頭では分かっているんですけど、体が反応しないんです。
よく見たら、桂をとるじゃん。ひどいじゃん、これ。なんで投げないの?なに、これっ。ひどいじゃん。一勝損しちゃったよ。
木村も矢内も笑いながらも、同業者として気持ちが痛いほど分かるのだろう、藤井への気遣いが美しい。
しかし、そんな中、丸山は常にいつも通りの丸山であった。勿論、丸山だって藤井の心情はよく分かっているに決まっているが、特に態度を変えたりしないのが、丸山の良いところである。
終盤丸山に△8六桂という強引に藤井玉に迫る手が出たのだが、
木村 玉頭桂がいやらしいんですかねー。
丸山 しかし、まぁ、なんでもないですからー。
といつもの丸山スマイルでおっしゃった。
その通りです。丸山先生。でも、藤井先生は、その「なんでもない桂」で動揺してやらかしちゃったんですよ。実際その通りだし、悪気など一切ないのでしょうが、そのお言葉は結果的に藤井先生に対する致命的なダメ押しになってしまっているのですよ。

木村一基八段のボヤキ節独演会

おひさです。
最近、将棋を観てはいたものの、今ひとつブログを書くほどのパワーがなかったのですが、日曜日のNHK杯木村vs山崎の感想戦をみて、また筆をとりたくなった次第です。この件については、twitter等でも結構言及している人が多くて、なんでこんなに将棋って楽しいんだろうと改めてつくづく思いました。将棋は最高の頭脳勝負であり芸術的営為ではありますが、つまるところ、その魅力というのはギリギリのところに出てくる人間のありのままの姿の尊さに尽きるのではないでしょうか。そういう魅力を感受することについては、どんな将棋ファンも棋力には一切関係なく平等なのであります。木村さんのボヤキ節をニヤニヤしてながめながら、そんなことを考えておりました。つまらぬ前置きが長くなりました。相変わらずくどい性格は変わらないようです。
将棋は、後手木村の△8五飛戦法(最近木村さんは一手損角換わりをやめちゃったの?)に対して山崎が自身の山崎流で対抗する形に。そこから山崎が一見相当無理そうに見える強襲をかけたのですが、それがズバリ決まって山崎大優勢に。後は、山崎がどう着地するかというだけの展開に。ところが、そこから山崎がもたつき迷走して、かなりおかしい感じの局面になったのですが、結局山崎が勝ちきりました。一気に殺してくれれば、木村も諦めがついたのでしょうが、きわどくなったために返って悔しさが倍増したのが、ボヤキの伏線になったわけであります。我々の世代のファンにとって、「ボヤキ」の大家と言えば、石田和雄先生をおいて他にいらっしゃりませんが、木村さんをその正統な継承者として、ここに勝手に認定します。
いやはや、ボヤくことボヤくこと。

ボクはバカだなあ。
そうか、悪魔を呼び込んじゃったようなものか。

(北浜)木村先生らしいかと。

いや、らしいけと、やられちゃしょうがないねぇ。これじゃ。
もし、(自分が)こう指していて(山崎に)何もなかったら、ちょっとつらいんだけど。

(山崎)いやっ、(何も)考えてなかったんですけど。

そうなんだよなあ。
そういう人だと思ったんだよなあ。
考えてないと思ったですよ。
これで何もなかったら、おうちに帰って泣きますよ。
おバカちゃんもいいところですよ。
呆れました。

(北浜)でも、強い手だと思いましたけれど。

いや、弱い手ですね。気だけは強かったという。
あぁ、ひどいなぁー。
こうなれば、私でもいい勝負ですよ。
接待もいいところだよねぇ。
ひどいねー。
寝てた方が良かったということですよ。
泣きそうですけど。

(北浜)こんな変化もあるかなと解説で気楽で言っていたんですけれども。

私も解説がよかったよ。被害者だからねぇ。
ひどいよ。どうせ温泉気分でゃやっているんだと思いましたよ。
もうやけっぱちで。

(山崎が角打ちの両取りを見逃す手を感想で指して、それが木村が指摘すると)
(山崎)ウッカリです。

読んでないねぇ。オレを悔しがらそうとしているのかな。
ひどいねー、そう打ってくれよ。
相当見えてないそぶりだから。
でも、いい手がなくて。神は私を見放したと。
(本譜でも実際に山崎が角による両取りをウッカリする手を指してしまい)
場を盛り上げようとしているんじゃないか、この人はと。
大丈夫かよと思ったけど。

(山崎)ウッカリですよ。

そう、ウッカリしているんだよねぇ。
一瞬その気にさせて。
ひどいよね。
二重のショックですよ。
(最後山崎が木村がこうしていれば自分が負けだったかもしれないと指摘して)
いや全然(それじゃ)大したことないとワタシは見たが。
結局いい勝負にされて負けちゃうんだよね。
(と実際に検討してみたら、実は木村に絶妙の香打ちがある事が発覚)
あっ、香車がある!

(山崎)負けかもしれないですね。

ほんとかよー。
悔しいねえー。
いやぁ。泣きそうですけど。

と、綺麗にオチがついたところでお開きになりました.
木村さんに、何とかしてタイトルを取らせてあげたいと思うファンが従来以上に激増したであろうことは言うまでもない。

ものぐさ将棋観戦日記 2/17(火) 朝日杯、NHK杯、ネット女流最強戦、銀河戦(追記あり)

私は少しばかり憤慨しているのである。最近こうして将棋日記のようなものを書いているわけですが、普段は大したアクセス数もないのに、昨日ちょっと別のことを書いたら、たちまちアクセス倍増。そうですか、そうでもしないと私はアクセス取れませんか。そうですか、私が将棋自体のことを語ったところで用無しですか、皆さん。興味なしですか、と。
いやいや、そんなことを言ったらバチが当たる。別に強くもないアマチュアが観戦したプロ将棋について、見たそのまんま東(あっ、豊川先生だ)をただ日記に書いているだけなのだった。見てくださる方がいらっしゃるだけでもありがたいと思わないと。本来、こんなものはお見せするべきではないと、ブログにアップするのを自粛すべきところを、そのまま図々しくも衆目に晒してしまっているのでした。
と、笑いを取ることだけを目的でしているこの将棋日記ですが、いきなりその唯一の目的もうまくいかなかったような気もしないでもないので、早速いつも通り始めさせていただきます・・。

朝日杯。阿久津さんが優勝。久保さんの△6五飛というかっこよすぎる一着で決まったと思いきや、▲6八銀という粘り強い受けで逆転勝利。ご本人も、本当に嬉しそうに素直に喜びを表現していて、周りもそれにつられてか有楽町でみんなで万歳三唱したそうである。随分早い時間帯から出来上がった奴らだと思われたことだろう。優等生タイプの多い現代棋士には、ちょっと珍しいタイプで、今後の活躍も楽しみである。
ちなみに、朝日新聞の「ひと」によると、「端正なルックスはギリシャ彫刻のよう。女性ファンを呼び込める素質も十分で、」という事だそうである。

NHK杯。本当に相穴熊の将棋というのは、全く別感覚の世界なのですね。広瀬ワールドに佐藤さんも完全にはまりかかっていた。居飛車穴熊を金銀四枚でガチガチに固め、右桂を攻撃に参加させて、銀との交換に成功。普通なら、居飛車が寝ていても勝てる展開になりそうなものなのに、実は振り飛車の方が指せているという不可思議な世界。龍を自陣にひきつけてみると、振り飛車の玉が全然寄る気配がない。解説の藤井さんも指摘していたが、その龍を5五に飛び出したのがどうだったか。あそこでゆっくり▲6四歩と取り込んでと金攻めを目指していたら、どうなっていたのだろう。もしそれで広瀬勝ちだったら、棋理の追求にシビアな佐藤はなぜ負けたのか、悩んで夜も眠れなかっただろう。
お互いに穴熊に囲うだけで、全く異次元ワールドになってしまうというのが、たった81マスの将棋の無限性を象徴しているともいえようか。

大和証券ネット女流最強戦。これも相穴熊だったのだが、大変な名局だとブロガー棋士たちが口を揃えて言っていた。確かに、中盤以降延々と続いた力のこもったねじりあいは迫力十分。石橋さんの腕力にはもともと定評のあるところだが、それに一歩も引けをとらないで伍して戦っていた上田さんは見事だった。女流名山戦A級最終局の千葉さんとの将棋も見たことがあるが、それも大変スリリングな終盤だった。なんと言うか、とても根性のある将棋を指す棋士だと感じる。ブログもしていて、この将棋について、「それでも最後負けになってから踏ん張れたのは、日頃色んな方々に殴られ続けている成果だと思います笑」だそうです。「ま、いろいろあるよね」ということで、なにか面白そうな人である。

銀河戦。西尾vs横山。居飛車の西尾がうまく押さえ込んだように見えたが、横山が左辺を軽く受け流し右辺から相手玉を攻める態勢をうまく築いたのが、振り飛車党としては勉強になった。但し、終盤再逆転されてしまったが。
中座vs金井。本家中座の△8五飛に対して、金井が激しい決戦策を選んだが、中座が切れ味のある寄せをみせて鮮やかに決めた。本家の貫禄を示した格好。
両対局の解説は、若手の上野と飯島だったが、二人ともなんとも人柄が良いなあ。上野は聞き手の藤田綾さんを、それはたててたてて話していたし、飯島は指摘もされないのに自分の読みぬけを勝手に告白しだしたりして。
プロ棋士というのは、やはり一種独特な人達である。島明の「純粋なるもの」という名言が滅びることは多分永遠にないだろう。


(追記)当初この記事をアップした際に、ある棋士の方の既婚について書いたことは間違いでした。既に該当箇所は削除済みです。もし当初ご覧になった方は、そういうことですのでご了承いただきますようお願いいたします。その棋士の方にはご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。

ものぐさ将棋観戦日記2/2(月)―NHK杯、ネット女流最強戦他

NHK杯、佐藤康光vs金井、佐藤先手で急戦矢倉に。佐藤が▲7五歩と位を取る新構想を採用。8一の桂を使わせないということなのだろうか。相手が急戦気味に動こうとしているところに、堂々と位をはるというのが佐藤流?/当然、後手の金井も反発し、不安定な玉形の佐藤陣に激しく襲い掛かった。ところが、佐藤も危なそうな形をうまく受けて。むしろ金井の攻めが細くて、つながるかどうかという展開に。それでも、なんだかんだと手段を尽くして、金井が攻めをつなげていき、さすがプロだと勉強になるところも多々あった。しかし、結局佐藤が完全に受けきり態勢に入り、最後は反撃を決めて快勝。見ごたえのある攻防だったが、結局は佐藤の力、トップ棋士の壁というものを感じさせずにはいられない将棋だった。金井も見ていて相当強いと思うのだが、それでもトップ棋士たちとは、実際に戦ってみなければ分からない力の差というものがあるのだろうか。

大和証券の女流ネット最強戦。中井vs千葉も、急戦矢倉になった。千葉さんは、後手番で得意にしているそうである。竜王戦第六局と第七局と似ていて異なる形に。第七局で飛車先の歩を2五に伸ばす前に、▲7九角とひいておくという順。これが途中図。第七局では、▲7九角△7三角を入れない形で、△3三銀と受けたのが渡辺新手だった。
竜王戦第七曲aaaaaちちちち081217-h27手

しかし、この場合に△3三銀と受けると、▲7五歩△同歩▲7四歩△5一角▲4六角△9二飛▲6五歩と盛り上がられてしまう、と将棋世界2007/12の付録の「阿久津流後手矢倉△5五歩戦法」にある。(あの竜王戦で気になったので、引っ張り出して類似変化を調べたことがある。)
そそそそそ竜王戦第七曲081217-h35手

但し、一年前の付録なので、現在はもう違っているかもしれない。とにかく、竜王戦では微妙に現れなかった順なので、もしこうなっていたらどうなったかというのもちょっと気になるところである。
両者研究済みなのか、猛烈に指し手が速かった。千葉さんも、本譜では△3三銀ではなく△5四銀だった。結果は、中井さんが曲折ありながらもうまく指して勝ち。当たり前だが、やはり強い。一時期不調が続いていたが、最近本格的に復調の兆しが見えてきたようである。

女流名人戦は、第一局に続いて長手数になった将棋を清水さんが制して一勝一敗に。がっぷり四つの戦いが続いている。

LPSAの天河戦では、アマチュアの成田女子アマ王位が、準決勝まで進んでいる。ここまで、予選を含めてプロ三人を連破して負け知らず。今流行の中飛車を使いこなしている。まだ中学生だそうだが、棋譜を見ると、とてもそうは思えないくらい落ち着いた指し回しだ。将来が楽しみである。里見さんもうかうかしていられない?

女流棋士育成会では、渡辺弥生さんが女流棋士に。東大出身の才媛との事。渡辺明ブログ大矢順正の記者ニュース松本博文ブログでも、取り上げられていた。おめでとうございます。

一方で、女流棋士育成会今期で廃止され、研修会に合併されるとのこと。女流王将戦の休止、公益法人問題と関連して女流棋士会が独立して社団法人の資格取得を目指す動き、相変わらず事態が改善する気配の見られない女流両団体の分裂状態と、女流棋界は先行き不透明である。

いまや将棋のネット中継が大変活発だが、ついに専門家の手による中継マニュアルまで出た。
松本博文ブログ ネット中継マニュアル【Kifu for Windows設定編】
松本博文ブログ ネット中継マニュアル【実戦編】
今後は、プロだけでなく、アマ、それもトップアマだけではなく、仲間内の大会でも中継して楽しむ時代がくる、かもね。

NHK杯 郷田と糸谷の感想戦より

先手郷田で、後手糸谷の一手損角換わりになり、郷田の攻めを完全に切らした糸谷が快勝。早見えで定評のある郷田を圧倒した糸谷の大物ぶりが際立った一局だった。勝ちになってからも、ほとんどノータイム指しに近く、郷田を押しきってしまった。
糸谷の奨励会時代に幹事をしていた畠山鎮七段が、色々エピソードを紹介していた。とにかく、元気いっぱいで落ち着きのない子だったそうである。
有名な話だが、糸谷が相手の駒をとって、それを相手の駒台にエイッと叩きつけてしまったことがあるという。対局をとめて手をあげて幹事に裁定を頼み、井上幹事が糸谷の反則負けにしたそうである。
かわいいと思うのは、ちゃんと手をあげて裁定を依頼するところである。別に、相手の駒台から黙って自分の駒台に移してしまえば、マナーは相当悪いにしても厳密には反則ともいえない気もするのだが。元気はいいが素直な子供だったということなのだろう。
ところで、対局以上に面白かったのが感想戦。
郷田 全然考えてくれないからねえ。

図は、郷田が本譜とは別の手順で攻めていたらどうなるかという局面だが、ここで糸谷が即座に示したのが△4二桂。
糸谷郷田58手

郷田 桂ですか。しかし、桂はどうかなあ、こっちがいいような気がするけど。これは、いいんじゃないかなー。桂ならさすがにいいと思う、ちょっと・・。
畠山 △4二桂がすぐ出るというのが、将棋観の世代の違いですね。
具体的説明は詳しくはなかったが、桂をアッサリ手放して、ただ受けるというのが、郷田の世代には感覚的には抵抗があるということなのだろうか。一方、糸谷にしてみれば、▲4四歩と垂らされてから▲4一銀を狙われると困るので、とにかく黙って桂を受けておくしかないということのようである。
プロの場合は、やりたくても感覚的には指せない手、指しにくい手というのがあるようなのだが、感想戦全体を通して聞いていると、糸谷の場合は感覚にとらわれずに、仕方ない場合は指すべき手をアッサリ指すという違いなのかなとも感じた。
他にも、玉が△5五に出て来る「いかにも糸谷流ですね」(畠山)という手が飛び出したりした。
郷田 ちょっと感覚が破壊されるな。

とまで言っていた。
渡辺竜王よりさらに若い糸谷五段。将棋も人間もとても個性的で要注目である。

LPSA 1day マンデーカップ 船戸女流二段が初参加初優勝、NHK杯解説の福崎文吾

LPSAの1day マンデーカップは、船戸さんがいきなり優勝をかっさらって華々しいデビューを飾りました。一日で三局勝ってですから、たいしたものです。しかも、決勝の相手は石橋さんでした。
先手石橋で、後手の船戸さんがゴキゲン中飛車に。石橋さんが▲5八金右で超急戦を誘うと、船戸さんも真っ向から受けてたちました。こういう超乱戦は、石橋さんがもっとも力を発揮する形といえるでしょう。
定跡から△2一歩と船戸さんが変化したのですが、石橋さんに龍引きからと金つくりを目指され、船戸さんが相当忙しくなってしまいました。かなり先手が余せそうな形になったのですが、バッサリきめにいった石橋さんに、船戸さんも必死に抗戦。△2四角と攻防に打ったり、やむをえずながらの△2二香打ちで頑張ります。
とはいえ、石橋さんが確実に詰めろをかけて結局勝ちきったのかと思いきや、船戸さんが王手攻撃をかけだすと、眠っていた馬と飛車が働き、先述の△2二香まで役立って、一気に詰ましてしまいました。つらい受けの香打ちが、最後には役立ったのは、執念が通じたという感じです。
銀河戦の聞き手などでも、すぐによく手が見える棋士だと思っていたのですが、やるものです。他のLPSAの女子プロたちも、さぞ刺激を受けたことでしょう。

NHK杯の井上vs山崎戦は、井上さんが惜しい将棋を落としました。しかし、主役は解説の福崎文吾さんでしょう。さっそく聞き手の中倉宏美さんとのちょっと風変わりな漫才を紹介してみましょう。
福崎 (山崎さんの将棋は)宇宙空間で指しているような。どこが上かどこが下か分からない、トリッキーな感じです。
中倉 あぁ、ちょっと分かりやすいです。
あのー、全然わかりやすくないんですけどー。
福崎 (山崎さんは桂頭二つに傷を作ったりして)いじめられるのがすきなのかもしれません
福崎 (山崎さんの将棋は):元気というか積極的というか無謀というかムチャというかやりすぎというか
中倉 山崎さんはNHK杯優勝していますよ。
福崎 (過去)三年くらいしか覚えていません。
福崎 上着を脱いでいますから。体温が上昇しているんですね。なんか虎みたいでしょう。豹とか。ゴロゴロ、獲物を狙っているというか。
あ、△9五歩いきましたね。やっぱり何か狙っていると思いました。
   狙いは分かりませんけど。
一番肝心なところ、分からないんすか。
福崎 井上さんはC2から上がり損ねて、泣いていたんですね。そうしたら兄弟子の谷川さんから手紙が来て立ち直ったそうなんですね。私もそんな兄弟子が欲しいです。
中倉 あっ、わたしもそのお話、どこかで聞いたような気が。
福崎 確か今月の雑誌にのっていたと思うんですけど。
情報元は将棋世界7月号かい。一般ファンと同じじゃないですか。
福崎 歩が三つ以上当たると初段以上といいますね。この二人とも初段以上ということですか。
中倉 あっ、それは多分特には・・。
福崎 ほめていることにはなりませんか。
福崎 プロでも王手といってもいいんですよ。別に。
中倉 いいことはいいんですか。
福崎 無視されますけどね。
真面目に答えていた中倉さんが気の毒です。
井上さんが頭を抱えて必死に考えてる画。あれっ、若干頭頂部付近の頭髪が・・。
福崎 頭がフル回転ですよ。ハゲていくかも、あまり考えたらね。アブないかも、考えすぎたら。
中倉、あっ(思わず噴き出して)、○△×☐・・。(言葉にならず)
福崎さん。見たことにそのまま反応して口に出すのはやめましょう。
感想戦も三人で賑やかでした。関西では、普段からこんな感じでやっているんでしょうね。

NHK杯、石田&加藤の魂の感想戦。アレッ、でも加藤先生は対局者じゃないし、北浜先生タジタジだし、感想戦の名局でした

石田先生、時折ご自分の頭をバシバシ叩きながら気合の対局姿。しかし、とにかく攻めまくるのが持ち味の北浜さんの、やや無理気味な突進を受け止め損ねて残念な結果でした。しかし、本局はここからの感想戦が本番でした。
石田先生、ボヤくこと、ボヤくこと。駒を、こぼして落とすこと、落とすこと。北浜さん、思わず噴きだす。
石田 駒ポロポロ落とすようじゃ、だめだなあ。
他にも
石田 よくかいちゃった。角得だから。場合によっちゃ、入玉と。入玉あんまりしたことないけど。
石田 角得ですよ!おかしいですねー。
石田 あー、負けですね、これは。おかしーなー。
とにかく、角得てなぜ悪いかが、どうしても納得できない様子の石田先生でした。というところで、▲5四馬とも金をとったらどうかという話になりました。そこで、加藤先生がひらめいてしまったのです。
加藤(4一の部分を、実際に指で指して)ここで銀打ちですか。これいいじゃないですか。次銀ひいたら、角出があるし。▲2四桂もあるし。
加藤先生、とまらなくなってしまいました。
北浜 見えにくいですね。
加藤 こりゃ、北浜さん、悩みますよ。(本当にうれしそうに笑いながら)こりゃ悩みますよ。こりゃ悩みますよ。こりゃ悩みますよ。
加藤先生、四回同じことを言われました。さらに興奮して
加藤 これ、もういっぺん。なるほど、いい手ですね。
と、自ら盤に手を出して▲5四馬まで強引に戻しました。
加藤 これは有望だ。これは駒の損得はないんですよね。
北浜 いえ、金損ですから。
石田 金得。
加藤 (興奮して笑う。)ああ、そうか、金損ですもんねー。
石田 あなたもどうやりますか、秒読まれてたら。
北浜 (苦笑して)いやぁーー。
加藤 いや、この銀打った局面は、石田さんがいいですよ。
石田 いいっ!
北浜 はぁーー。
加藤 自信が出てきた
北浜 (もう笑うしかないといという感じで笑う。)
棋士の方にこんな言い方するのはなんですが、北浜先生、本当にいいヤツです。両ベテランの猛攻を、全て素直に真正面から受け止めて見せていました。棋風の攻め将棋とは正反対に。
北浜 (銀は)ちょっと気がつかないです。
石田 ウン、気がつかない、気がつかない。
といって悔しそうにも駒を盤に叩きつれて見せたところでお開きとなりました。
中倉 そろそろお時間になりましたので、ありがとうございました。
石田 アリガト。 
最高でした。
それと、対局直後に、石田さんが悔しそうな様子をしている映像から、解説室に戻った際の加藤先生の表情。ベルトのあたりを両手でわしづかみにして、なんとも慈愛に満ちた笑顔で石田先生を見つめていました。
ーーいやー、石田先生残念だった、頑張っていたんだけどなあ。
と、その尊いお顔には書いてあるように見えました。長らく同時代で競い合っていた対戦相手への敬意や愛情がにじみ出ていたのです。
いいものを見せてもらいました。

順位戦始まる

昨日、B1の高橋対屋敷戦とC2順位戦が開幕した。
備忘のためにメモ書きしておこうと思う。あくまで、棋譜の具体的内容にはふれない程度の雑談で。
また、中継者がどんなに頑張っても、全ての棋譜を完全にフォーローするのは不可能なので、ただ棋譜を再生して並べただけでは、私程度の指し手には分かっていないことだらけである。ピント外れの可能性があることも、一応お断りしておこう。あと、登場人物が多いので、文中敬称略(笑)。

屋敷が初戦勝利。高橋の経験のある形だったらしいが、難しい将棋を屋敷が終盤でうまく抜け出したように見える。屋敷といえば「終盤のマクリ」だが、このクラスでも健在のようだ。順位戦では、実力に反して全くあがれないことで有名?だったが、ついにB1まで来た。「新鬼のすみか」で、猛者たち相手、現代風の研究将棋相手にどのように戦うかに注目である。
児玉対稲葉。児玉の伝家の宝刀「カニカニ銀」が炸裂。新人に痛烈な洗礼を浴びせた。オジンファンとしては痛快である。序盤では猛烈に攻め込むかと思いきや、中盤では敵陣に打った金で桂香を悠々と拾っていて、変幻自在の指し回しだった。「敵陣奥深くで金駒が動くのが児玉流」だそうである。将棋は深い。海よりも深い。
中座対田中。田村の豪快な見切り終盤がかっこよすぎた。
豊島対田中悠。田中がなんと佐藤康光創案の「ニート飛車」の形をとった。(細かい形の違いはよく分からないが。)順位戦でこういう珍形が平気で見られるのが現代将棋なのか。
高対村田智。先手高が、角道を止めずにいきなり向かい飛車。本当に力戦振り飛車が多い。特にC2は先端の現代将棋の実験場と化すのかもしれない。
西尾対川上。通常角換わりで、後手川上が、渡辺竜王が開発した右金を攻撃に使う作戦を採用。力戦振り飛車とともに、角換わりも多い。いまや、この二つが主流戦法という感じさえする。
室岡対大平。後手室岡が「普通」の角道を止める四間飛車。これが新鮮に見える恐ろしい時代だ。室岡は後手藤井システムで「室岡新手」を編み出した棋士でもあり、アマ振り飛車党としてはがんばっていただきたい。
大内対山本。大内が途中辛抱した上で、最後は怒涛流の寄り身で豪快に勝ちきった。ベテラン健在である。やっぱりうれしい。
佐藤天対横山。千日手になり、翌朝までの激闘に。最後横山が強烈な勝負手を繰り出すも、佐藤が冷静に対応して勝ち。やはり順位戦の醍醐味は、翌朝までの死闘だろう。

かつて、「ハスラー」という名画があり、ポール・ニューマン扮する若きハスラーが、ジャッキー・グリーソン扮するベテランハスラーと頂上決戦をするシーンがあった。腕前では上かも知れぬニューマンだが、グリーソンの冷徹な粘りで、一晩がかりの長期戦に持ち込まれる。ニューマンが、あせりまくって精神的に混乱するのに対し、グリーソンが朝方に悠々とひげを剃りなおして身だしなみを整えるシーンが忘れがたい。結果はグリーソンが勝つ。
将棋の順位戦というのは、「ハスラー」の死闘が、現実に実際に見られる場とも言えよう。大変だろうなどという野暮は言うまい。そういう戦いが出来るのはプロ棋士のみに与えられた特権なのだから。

NHK杯 高橋九段vs広瀬五段

まったく、相穴熊というのは別のゲームみたいだ。特に今日の将棋は、お互い金銀四枚でガチガチに固めあい、先手はさらに馬つきに。当然、使用可能な残りの駒の数が少なく、相手玉への距離感や速度の観測ゲームみたいになる。味気ないといえば味気ないし、独特の嗅覚感覚が必要で面白いともいえる。
やはり、スペシャリストの広瀬五段に一日の長があったか。△4九角とか、いかにも思いつきにくそうだし、なんと言っても、角飛車を続けざまにきって、金銀四枚馬つきの穴熊を一気にはがして受けなしに追い込んだのは、鮮やかだった。広瀬の穴熊の終盤、恐るべし。もっとも、あの攻めを未然にふさいでおけば、まだまだ難しい将棋だったとのことだが。

中倉宏美さんが高橋九段とボーリングに行ったら、人差し指の節にタコができているので聞いてみたら「これは職業病で、正座するときに踏んばるので、手を畳につくので、長年やっていると、こうなっちゃうんですよ。」ヘェー。いろいろな職業病があるものだ。

解説の鈴木八段によると、金銀八枚全部取ることを「判定(勝ち)」と呼ぶそうだ。そうなると、ほぼ負けることがないので「判定勝ちを狙う」とか使うとのこと。ヘェー、って、ウチは将棋のトリビアの泉ですか?

銀河戦 飯島五段vs豊島四段、NHK杯決勝生放送

NHK杯の決勝は生放送でした。NHKさんも、先日A級最終局を、計7,8時間は放送してくれて、録画を見るのも大変なくらいでした。なおかつ、今日もなんと約4時間の生放送。すごい。こういういいことは毎年やっていただきたいものです。
しかし、生放送中に届いていた、あのファックスの数というのはすごいものですね。一部の将棋マニアしか見ていないのかと思いきや、ファックスだけであの数なのだから、実は馬鹿にならない数の人間が見ているのかもしれません。あまり将棋が分からない層も含めて。
なんだかんだ言っても、やっぱりまだテレビの影響力というのが強いのですかねえ。私などは、もはや、ネットのほうが中心になっています。昔なら、手持ち無沙汰になったら、とりあえずテレビをつけてみるという感じでしたが、今なら、気がつけばネットをのぞいています。テレビの方は、はっきり見たい番組がある場合だけ。実感として、テレビよりもネットのほうが中毒性ははるかに強烈だと思います。まあ、ネットというのは、究極の多チャンネルなんで、気ままに色々見てみるのには最高ですから。最近は、無意味にネットを彷徨う時間をどう抑制するかを考えているくらいなのです。
さてと、肝心の将棋なのですが、後手の鈴木さんが、佐藤流の一手損角換わり向い飛車を採用。▲1六角が、ポイントだったようですが、佐藤さんはいつもは自分がやられて、どう対応するかを考える側なのだといっていました。
なんとなく、佐藤さんの快勝に見えましたが、感想戦では、鈴木さんは意外に形勢を楽観していたようです。実際、色々調べると、難しそうなことを言っていましたが、結果的には、佐藤さんがきっちり押し切る展開になったようにみえました。佐藤さんというと、どうしても、あの順位戦最終局のすごい表情を思い出してしまいますが、今回は、わりと落ち着いて指していました。まあ、いつもあんな感じで指していたら、心身ともにとても持たないでしょうけど。
余った時間で、今年の回顧をやっていて、長沼さんの画もたくさん映っていました。先週の佐藤戦は、あまり力が出せないまま終わってしまったのは少し残念でした。でも、あの松尾戦とか羽生戦とか、ほとんどすぐ寄せられてしまいそうなところをひたすら受けめき、しのぎぬいて、最後体を入れかえて勝った将棋のあの爽快感と感動は最高でした。言ってみれば、大石蔵之介が、ひたすら耐え難きを耐え忍び難きを忍んで、最後には討ち入りして憎っくき吉良の首を討ち取るようなカタルシス感というか。ハイ、お分かりの通り、この比喩、完全に間違っています。
長沼さんの、あの独特の人柄のよさもあって、やはり、今回を盛り上げた最大の功労者でしょう。もし、あの羽生戦が決勝だったとしたら、きっと大反響だったと思うのですが、まあ、なかなかそうはうまくいかないものです。


囲碁将棋チャンネルの銀河戦Hブロックのページで棋譜閲覧可能。
銀河戦は、四連勝中の期待の大型新人豊島四段が登場。前回の銀河戦で旋風を巻き起こした飯島さんとの注目の対局でした。
将棋は、後手の豊島さんがゴキゲンを採用。飯島さんの対策は、丸山ワクチンから、▲5八金の「飯島スペシャル」(解説の橋本七段命名)でした。
a

意図は、簡単に言うと、危険を伴いながらも、場合によっては穴熊に組むことも狙うということだそうです。その後、飯島さんが5筋に飛車を振って銀交換したのが機敏で、さらに、▲5二歩がいきなりパンチが入ったような感じ。
b

△同飛なら▲6三銀。他にどう受けても、味が悪すぎるので、豊島さんは△6五歩ともアヤを求めてきました。はっきり飯島さんがいいのは明らかなのですが、豊島さんは動じた様子を全く見せません。さらに進んで、一方的にと金が出来たのですが、△3二銀としぶとく受けて、なかなか決め手を与えません。
c

実は、この後逆転するのですが、解説の橋本七段も、そのポイントが対局中には把握しきれなかったようです。勿論、私になどは、分かるはずがありません。さらに進んで、先手が銀得の場面で、△5二銀と、3二からではなく受けていました。
d

それに対して、飯島さんが▲5一金と捨てて飛車を5五に捌いたのが、よさそうに見えて実際はどうだったのか。後手が駒損を回復して△9五角と出た場面では、既に妙なことになっているそうです。さらに進んで、豊島さんが△5一歩と底歩で受けたのがかたすぎて、もはや優劣不明。この辺の豊島さんの指し回しは、やはり得体の知れないすごいものがあります。豊島さんが△7三角と当てた場面で、橋本七段は「これは逆転しましたね」と言い出しました。橋本解説は、とてもストレートなものの言い方で分かりやすいです。
f

本譜もそうなったのですが、▲同角成△同桂の後の△6五桂がメチャクチャ厳しい。実際、豊島さんがはっきり勝ちになったようなのですが、このあとは飯島さんが腰の重さ、受けの強さを見せて、延々と戦いが続いて、飯島さんが入玉したのにも驚きました。しかし、豊島さんは、最後は自玉を完全に安全にして、攻めに回る、若いのに似合わぬ落ち着いた指し回し。厳密には、他の寄せ方もあったのかもしれませんが、とにかくあわてません。最後は、こんな投了図になりました。
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豊島さんは、将棋まるごと90分にゲスト出演した際に、出来れば十代のうちにタイトルを取りたいと、堂々と言っていました。実際、豊島さんは、谷川さんとか羽生さんの若い時のような、超然とした大物感が漂っています。将棋界においては、いんにも大物になりそうなキャラクターの持ち主だというか。これで、決勝進出が決定。本当に楽しみな棋士が、また一人出てきました。
しかし、ハッシーこと、橋本七段は、ファッションだけでなく、解説者としても、かなり現代風です。将棋界の一番長い日にも解説で出ていましたが、行方さんが、朝ヘッドフォンを着用して、将棋会館に入ってきたのを見て、
「行方さんは、ロックが好きですからね。気分は、ロックンローラーというところでしょうか」
とキメ台詞的に言っていました。なかなかコピーライター的なコメントをいう才覚があります。他にも「やっぱり、藤井さんには四間飛車がよく似合う。」とも言っていました。太宰治の「富士には月見草が良く似合う」を意識しているのかどうかは分かりませんが。
今回も、最後に、豊島四段を評してこうキメてくれました。
「(勝勢だった)飯島さんの具体的などの手が悪かったのか、私にも全く分かりません。(豊島さんは)本当に恐ろしい強さです。もう、バケモンですね。」
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