王位戦

羽生善治王位が防衛 2012王位戦第五局

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棋譜

後手の藤井が藤井システムを採用。今シリーズは、角交換型四間飛車を中心に戦ってきて、なおかつ序盤では作戦勝ちをおさめ続けてきた。ところが、カド番に追い込まれた状態でのシステム採用である。
藤井のシステムへの愛着のようなものも感じるし、また、システムを見たがっていたファンの期待にここで応えるのも何とも藤井らしいところだ。
但し、(特に後手番での)藤井システムは最近ほとんど観られなくなっていた。その辺の歴史については勝又清和「最新戦法の話」「第三講 藤井システムの話」に詳しい。
今回改めて私も再読してみたのだが、いかに実に精密で微妙な駆け引きによってシステム定跡が進化してきたのがよく分かる。
ここでは、そういう細かい話は全て省略して本当に要点だけをまとめると以下のようになる。
・振り飛車にとっては居飛車穴熊が天敵で振り飛車党は対応に苦慮していた。
・そこに藤井が居玉のまま穴熊に組む前に襲いかかって居飛車を叩き潰してしまう藤井システムをひっさげて登場。
・居飛車も無条件には穴熊に組めなくなり様々な対応を模索し始める。穴熊にすると見せかけて急戦にして後手の居玉の弱点をつくなど。
そして、その急戦の代表が本局の▲5五角急戦である。
後手が穴熊対策で△6四歩と早めに突くところに▲5五角と飛び出してその歩を狙い、後手が△6三銀等と受けたところに、角を転換するのではなく、▲3五歩と仕掛ける。その際、後手の形が乱れているのがプラスになっている。
この居飛車の作戦が大変優秀で、システム側はうまい対応が見出せずシステム自体が下火になる大きな原因にもなっていた。
実際、過去にも▲羽生vs△藤井でもこの形で戦って羽生が勝ち、藤井に「もうこの戦法は指せない」とまで言わせたことがある。
(なお、棋譜コメントで羽生がこの形で先後両方で勝っているのが紹介されているが、後手では作戦では必ずしもうまくいかず羽生の終盤力で何とかした将棋もあった。)
というわけで、この▲5五角急戦は、ちょっと大袈裟に言うと後手藤井システムの命運を握る重要型、重要定跡なのである。
藤井がこの大きな対局で採用してきたからには、当然何らかの対策、修正案、新手を準備しているものの期待された。
ところが、何と先に新手を出したのは羽生の方だった。37手目▲1六角。羽生らしいふんわりとした玄妙な角で意味や意図を簡単に説明できない種類の手だが、結局これが好手だったらしい。
感想戦で、藤井はこの手を考えてなかった(研究していなかった)ことを率直に認めている。
本来なら、藤井システムは藤井の土俵で誰よりも知り尽くしているし深く研究もしているだろう。まして、今回満を持して採用したからには、新たな研究の裏づけがあったはずだ。
ところが、その将棋でアッサリ羽生に新手で出し抜かれてしまう。これは、手の良し悪し以外の面でも藤井には精神的にこたえたのではないだろうか。
それにしても、超多忙な中で研究家の藤井相手にタイトル戦で有効な新手を提出してくる羽生には驚かされる。今回は事前に藤井システムもかなり予想されていたので、羽生も重点的に研究してあたためていたのかもしれないが。カド番でシステムをやっと採用した藤井がそれにぶち当たったのは不運だった。
今シリーズは、序盤だけだと千日手指し直しを含めて藤井の5勝0敗というくらいに藤井の序盤術、序盤感覚が冴えわたっていたが、この羽生新手によって、初めて羽生が序盤でうまくやったか少なくとも互角以上になったのだから。
とは言っても局面はまだまだ難しそうに見えた。しかし、感想戦を見ると▲5四歩が入ったあたりでは既に先手がよくなっていたそうである。
しかしながら、後手も角成から迫ってきて大変そうに見えたが、▲6八玉の早逃げ(一度目)など羽生の受けがまたしても正確にして絶妙。第三局でもそうだったが、藤井に攻めさせておいてギリギリに、しかしそれでいて余裕を持って残してしまう受けは流石である。藤井が攻め将棋ということもあるが今シリーズは羽生の受けも印象的だった。
藤井の攻めが段々細くなってきたあたりでは既に先手勝勢と言われだす。そして、△4六歩を手抜いて▲3一飛と打った辺りでは、完全に勝ちを読みきったかようにも思われた。
ところが最終盤で一波乱に起きかけた。羽生の二度目の▲6八玉の早逃げが洒落た手のようでいて危険だったらしい。羽生は指した瞬間にイヤな感じがして、藤井はもしかするとと思ったそうである。感想によると先に▲5三歩成を入れておけば何の問題もなかったとのこと。
実際△6五歩とされた場面では次の△6六歩が厳しくて先手は後手玉に詰めろをかけなければいけない。控え室が決め手をなかなか発見できない中、大内先生が▲3二龍引が詰めろあることを指摘。そして、程なく羽生もその手を指した。
後で棋譜だけ見るとこれで勝ちということになるのだろうが、生で見ている際にはドキドキした。ライブならではである。羽生も危ない橋をわたったが▲3二龍引があってホッとしたというところではないだろうか。

結果的には四勝一敗で羽生が防衛。しかし、先ほど述べたように序盤だけなら逆の結果である。
特に今回は、それほど定跡が確立していない角交換四間飛車で、研究というよりはその場で秀逸な構想を立ててくる藤井のセンスにプロアマ問わず唸らされたのである。
そして、この角交換四間飛車(とその類型の将棋)は、若手振り飛車党の間で大流行の兆しがある。やはり、藤井は作戦、戦法のパイオニアなのだ。
また、昨今は初日は定跡型を猛烈な勢いでたどるだけというケースも多かったが、今シリーズは初日からプロの構想力を緊張感を持って楽しんで観る事が出来た。
一方の羽生は、相変わらず中終盤力が鬼過ぎる。特に前局の第四局は、(実際には僅差だったらしいが)あの逆転勝ちの仕方はインパクト十分だった。
よく将棋界では「将棋というのは、最後には羽生が勝つゲームである。」という軽口が叩かれる。今回はまさしくそんな感じのシリーズだった。初日は藤井の世界、二日目は羽生の世界という分かりやすいシリーズだったのかもしれない。

今回は中継サイトでは、対局者の様子を連続静止画中継していた。終局後の様子も伝え
ていたのだが、そこには里見香奈が両対局者の様子を食い入るように見つめ、また一言たりともその言葉を聞き逃さないぞという様子で、ずっと熱心に見続ける姿が映し出されていた。
彼女が「いつの日か、わたしもこの場に」とひそかに思っていたかどうかは知る由もない。



2012王位戦第四局 羽生王位VS藤井九段

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棋譜

藤井先手で、やはり角道オープン型の四間飛車。第二局で藤井が快勝したのと同じ進行になった。羽生としては納得できないのでもう一度ということかもしれないが、先に手を変えたのは藤井。研究が深いと同時に広くて毎回形を変えてくる藤井らしいところである。
結局、後手は居飛車穴熊に組み、先手は四間から向かい飛車に振り直して棒銀の仕掛けをみせた。後手がその仕掛けを警戒して△7四歩としたところで藤井が▲6五角と筋違い角を放った。
今回の初日のツイッター解説は勝又清和で、京急将棋祭りの会場から、現場の棋士たちの声を交えて解説してくれた。以下はそのつぶやきからの抜粋である。
勝又清和>▲6五角!ですか、この場面では全く考えませんでした。さすがは将棋界の創造王ですね〜
勝又清和>これが藤井さんが指したかった手だったんですね。
勝又清和>△3三角の自陣角を打たせたのは大きなポイントで、1歩得していますし振り飛車ペースと思います。将棋を創り上げるという事においては藤井九段に勝てる棋士はいないのではないでしょうか。
というわけで、藤井らしい独創的な筋違い角の研究新手。羽生の対応が問われたが、結局△3三角と自陣角を据えて先手の動きを牽制した。しかしながら、先手に自然に▲6六銀から△7七桂と活用されて、控え室や京急組の評判は、後手がどう指していいのか分からない、振り飛車が指しやすいという評判だった。
またしても、初日では藤井の序盤術が一本とった形である。
二日目に入って、羽生も必死に動くが藤井にやはり自然に的確に対応されてしまう。66手目△4七角成とした局面では、先手が角金交換の駒得の上に、飛車で後手の桂香も拾えそう、さらに後手は持ち駒が金銀しかなく右辺に歩が打てず、先手玉に直接迫る手段が全くない。
△5一歩の底歩の居飛車穴熊が堅くて遠いのが唯一の主張点だが、感覚的にはどう考えても大差で振り飛車が指せるように思えた。
しかしながら、ここからの羽生の指しまわしが羽生たるゆえんだった。まず△8七歩と一応「羽生ゾーン」に歩を叩いてから△7九銀とソッポの僻地への銀打ち。こういうのが羽生流である。
全く先手玉にはすぐには響かない筋悪の銀打ちなのだが、馬と飛車を交換してじっと△6八銀成。
しかし、よく見ると先手も簡単に後手玉に迫る順がない。穴熊が遠い。先手としては優勢を意識しながらも、ほんの少しだけ焦りを感じさせられるところだ。
しかし、藤井も冷静に香車を拾って▲5四香から確実に金をはがしにゆく。決して方針としては間違っていないように思える。先手玉はまだまだ安泰だ。
その間、羽生は△6八成銀を、なんと先手玉に寄せてゆくのではなく6七→6六と先手のほとんど遊び駒の銀を取りにいった。これが善悪を超えた羽生流の勝負術で、あせって迫っても届かないので銀を入手しておいて自滅しないという考え方だ。なかなか実戦ではこんな指し方が出来るものではない。
さらに、その銀を△4九に打って先手にイヤミをつける。先手としては、まだ優勢だと思っているだろうが、段々気持ち悪くなってきて焦りの度合いが少しずつ増してゆくところだ。
この辺の羽生は、変な言い方をするとまだまだ生き続けられそうな先手玉に対して、遠くから死神のカウントを響かせて心理的に圧迫するような指し方である。
そして先手▲3二銀の瞬間についにラッシュをかけて、△5八金とへばりつく。今回はまだ感想コメントがないので対局者の感想が分からないが、恐らくここがポイントだった。
控え室でも室岡克彦のツイッター解説でも▲4一角と攻め合えば先手の一手勝ちではないかと言われていた。将棋を解析していたGPS将棋も、この角を打てば先手が勝勢と判断していた。
しかし、藤井の指したのは▲1八玉の早逃げ。この後の展開を見ると、少なくとも先手が簡単に勝つという展開ではなくなった。特にGPSはこの手一手で先手勝勢から後手優勢に一気に形勢判断を変えたのである。
但し、羽生も△5八金としたからには当然▲4一角に対する対策があった筈である。藤井も何かが見えたのでトッサに玉を寄ったのだろう。こればかりは対局者の感想が分かるまでは何とも言いようがないが、少なくとも本譜の展開よりは、仮に難しいとしても▲4一角の方がよかったような気もする。
とは言ってもまだまだ難しそうな終盤が続きそうだった。しかし、ここでも羽生が見事な勝負術を見せる。
以下進んで97手目▲3九香とした場面では、後手も飛車で馬をきって寄せに行く選択肢もあった。少なくとも先手に詰めろはかかってそれが続くかどうかという勝負だ。
しかし、ここで羽生は一転して△3三金と受けた。藤井としては焦るだろう。攻められても難しいのに一分将棋の状態で、急に受けられて何とか攻めを見つけないといけない。
さらに、羽生が△4二金と受けにしっかり受けて、もはや先手が寄せきるのは大変そうだ。時間があれば何か見つけられたのかもしれないが、結局藤井は普通に攻めて後手玉の寄せに手数がかかる形になり、▲4一馬を手抜かれて△2六歩が先手への詰めろでは勝負あった。
羽生は決して心理的な作戦を弄するタイプではない。最後の金打ち連続の受けにしても、攻め込むと勝ちきれないと見ての冷静な判断だったのかもしれないが、結果的には藤井にとっては心理的にも大変厳しい結果になった。
また、僻地の銀打ちから手数をかけての銀拾いにしても、そうするしかないし、自滅して負けを早めないという合理的思考にすぎなかったのかもしれないが、結果的にはそれが藤井に大変な心理的プレッシャーを与える指し方になった。
羽生おそるべし、としかいいようがない将棋であり勝ち方だった。
この両者の対戦だと、羽生が藤井相手に完全の敗勢の将棋から▲2三金とゾーンにソッポの金打ちをして大逆転勝ちしたのが伝説的である。今回は、そもそも見た目ほど差がなかったのかもしれないが基本的には同じパターンだ。負かされるほうはたまったものではない。

2012王位戦第三局 羽生王位VS藤井九段

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羽生先手で、後手藤井の角交換型四間に。少なくとも藤井後手の場合は、今回はこの形がテーマになりそうである。
第一局にも出た△2四歩と突く形から藤井が△3五歩と位を取った。毎回少しずつ形を変えるのが藤井流の趣向だ。去年のB1順位戦の▲橋本vs△藤井でも類型があり、その際は橋本がうまく勝ったがそうした経験もいきているのだろう。
羽生が強く▲3六歩から反発したが、そこで△2二飛と回っておくのが藤井流の巧みな序盤術だった。解説によると、その瞬間先手が金を動かしにくく、後手はかためやすい。羽生も他に指す手もなさそうで▲5八金としたが、予想通り後手が動いてきて、結局銀交換から先手だけ銀をつかわされて、しかもその銀が▲2八にバックを余儀なくされて部分的にはひどい形である。
形だけ見ると後手がうまくやったように見えた。しかし、どうもよく読むと難しい局面のようで、これまでのように藤井が明らかに作戦勝ちではなかったようにも思える。
後手も陣形が低くて左辺でなく右辺の3筋から攻めるしかないので結局2八の銀に働きかけるしかなく、銀が遊ぶことはない。見た目とは違って、これでも十分指せるという羽生の大局観が今回は働いた。ほぼ互角の序盤ということだったのではないだろうか。
ところで銀杏記者の棋譜コメント(27手目)によると藤井は次のように述べていたそうである。何とも奥深い藤井流の序盤感覚だ。
さて、この局面は先手がかなり手得している。以前、別棋戦の観戦記で、「していい手損としてはいけない手損がある」と藤井が話した記述を見たことがある。本局はしていい手損なのだろう。その判断基準を理解することは、藤井の将棋観を理解することそのものだろう。
二日目はわりとシンプルな捌きあいから、藤井の攻めが続くかというギリギリのスリリングな展開になった。
ただし、控え室の山崎も後手が攻めきるのは大変と見ていて実際その検討通りの順で羽生が受け続ける。対局者も当然よく読んでいて藤井は先手▲3二歩の時点で既に際どいけれども足りないと感じていたそうである。
かといって他に後手にめぼしい指し方があったようにも思えないので、厳密には元々先手が少しだけ指せる分かれだったのかもしれない。
以下△8六桂というハッとさせる手で藤井も必死に迫るが、それもやはり足りなかったようだ。当然、羽生もこれくらいの手は予想していて、時間を使ってその後の展開を確認していたのだろう。とは言っても藤井も他に有効な迫りようがないので仕方ないし、まだまだギリギリのスリリングな局面である。
例えば以下進んで△6五桂の局面では▲7四桂から▲5五馬として王手龍をかけてしまえば簡単なように見えるが、そうすると山崎指摘の順で先手玉が寄ってしまうそうである。
しかし、当然両対局者はその辺もきちんと読んでいて、羽生が間違わずにきちんと受け続けて結局は後手の攻めがきれてしまった。最後は大差になって羽生勝ち。
感想戦によると、藤井にも勝負手があったようだが、それも正確に指せば先手が残していたとのこと。
と言うことは、大変際どい面白い終盤だったが、もともと本当に僅差ながら羽生の方が指せていて、そのリードをずっと保ち続けて勝ちきったという感じだろうか。あくまでそれは対局後の感想を聞いて言えることで、観ている時は勝負の行方が分からない面白い将棋だった。そして、当然ながら両対局者共に本筋、正しい筋をきちんと読んでいて、お互いベストを尽くしていたようである。

立会いの加藤一二三は相変わらず元気一杯で大活躍の様子だった。棋譜コメントでもその様子は十分伝わってきたが、29手目コメントの中原と羽生の将棋の比較は大変興味深い。二人と実際に戦っている加藤ならではの分析で貴重である。
加藤九段は「羽生将棋は攻めをつなげていくのがうまい。多少の駒損でも攻めが続くならいいというところがある。僕もそういう将棋で2回やられたことがあるんだ。羽生さんは悪くなったときの中原さんと似ているの。攻め味を残しているんだよな」。


2012王位戦第一局 羽生王位VS藤井九段

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棋譜千日手局
指し直し局

振り駒で先手羽生に。後手の藤井はシステムではなく角交換型の四間飛車に。
最初に藤井がこれを連採し始めた頃はあまり評判がよくなかった。しかし、最近はこの藤井型あるいは少し形の違う角交換振り飛車を若手が盛んに指すようになってきている。
藤井システムといい藤井矢倉といいこの作戦といい、最初は理解されず段々プロが認めて流行するというパターン。藤井の序盤センスは並外れている。
特に今回は二日制で序盤にじっくり時間をかけられるので、大変デリケートでこくのある駆け引きが続いて見応えがあった。最近は初日から定跡をものすごい勢いで辿るだけということが多かったので、その意味でも新鮮だった。
ツイッター解説の山崎隆之が、二人特に藤井の序盤センスに敬意を払いつつそれを伝えようとしているのも参考になった。
羽生が▲7四歩と突っかけたが本格的な戦いには至らず、羽生が一筋の端歩を詰めたりしつつお互いが矢倉に組み替えて対抗形の相矢倉に。後手も銀をきっちりひきつけて十分な形に。
少なくとも序盤から中盤にかけては藤井のセンスが長い持ち時間をいかして発揮されたと言えそうだ。以下、藤井が△3六歩から仕掛け、羽生も▲1六角の意表の角打ちから先手が桂損するが歩を大きく得して後手は歩切れという分れに。
形勢判断も難しそうだったが、羽生は馬で飛車をいじめて千日手の順を選択。藤井も少し強引に打開することも考えたようだが、後手ということも考慮したのか自重して千日手に応じた。

指し直しは当然短い持ち時間での再開となった。先手の藤井は誰もが期待した藤井システムを満を持して登場させた。
一方の羽生は△5五角急戦、あるいは挑決で渡辺が見せたような持久戦を目指したようだが、△5五角に▲4五歩が藤井がタイトル戦に向けて温めていた構想。
羽生も短い時間での対応を強いられることになり、銀冠から△2五歩と伸ばし、さらに角ぶつけを警戒しての△1二香とその場で苦心して考えたような順。
藤井が▲6八角と引いて仕掛けを誘いも羽生も△8六歩以下それに応じた。
当然藤井も自信があるから誘ったわけだし、その後の展開は控え室では振り飛車がうまくやっているのではないかと言われていた。後手は角が成っても取る駒がなく、先手は▲4五歩をいかして角を絶好の▲4六角に転換できる。桂馬も▲8五桂に跳べて飛車先を押さえ込める。
振り飛車党の感覚なら十分指せそうだと考えても当然だろう。
ところが、進んで見ると振り飛車も容易ではない。藤井も、局後には仕掛けさせたのがまずっかたし▲8五桂が敗着と感想を述べたいたが、それは多分事後の感想であって、その場ではこんなにうまくいかないとは思っていなかったのではないだろうか。
その辺は控え室にいた深浦康市が率直に感想を述べていた。
中継ブログの「不思議だなあ」後から利いてくる手
よく見ると居飛車ペースで、序盤であまり評判のよくなかった△2五歩や△1二香がいきる展開に。それを見越した羽生のセンスとも言えるが、深浦のように「不思議だ」というのが正直なところだ。
以下羽生の端攻めも絶妙のタイミングで厳しく、藤井も粘ったが端にと金をつくられてから悠々と龍に自陣に引き上げられてしまい、あわてず勝ちに来られて最後は大差で藤井無念の投了となった。
改めて持ち時間の短い将棋での羽生の鬼のような強さを証明した。また、大きく離れている対戦成績に現れている藤井の羽生に対する相性の悪さも感じずにはいられなかった。藤井は、渡辺相手にはほぼ互角なので、やはり実力以外の何かが介在しているとしかいいようがない。
とはいえ、序盤では二局とも藤井が作戦勝ち気味だった。二日制なので藤井の奥深い序盤センスが今後も堪能できそうである。次も藤井先手なのでシステムがみられそうだ。
また、藤井がみせる表情も若い頃とは一味違う円熟味がある。非常に人気の高い棋士だが、これらの中継ブログの表情を見ていても何とも憎めないところがあるのだ。
腹が減っては  
続・腹が減っては

鰻職人タケシの帰還

とある下町の夕暮れ時、街外れにある鰻屋は客もまばらで、おかみさんが客をさほど期待することもなくボンヤリと座り込んでいる。
すると深編み笠姿の浪人風の男が、静かに店に入ってくる。おかみさんが立ち上がると、人のいい―年増の色気を滲ませながら―笑顔で「いらっしゃい」と声をかける。
男は深編み笠をかぶったまま席に座る。
「何にいたしましょう。」
「鰻」。
男はボソリと答える。
「ハッ、その声は・・。」
男は何も言わない。
「おまえさんだろ、誰がその声を忘れるもんか・・。」
男はためらいつつも、ゆっくりと編み笠を脱ぐ。
「やっぱりタケシかい・・。まったくどこを
ほっつき歩いていたんだい。あたしがどれだけ心配したか、あんたは分かっているのかい・・。」
おかみさはオイオイ泣き出す。男はただ一言ボソボソと、
「すまねぇ・・。」
以下、夫婦の仲直りの感動の場面は、読者諸賢のご想像にお任せして省略することにする。
さてここで説明の必要があるようだ。タケシは江戸の町では知らぬものなき鰻職人だった。その辺の経緯は、「鰻職人タケシの冒険」に詳しいとか。
タケシは鰻職人の名声も身分も捨てて、屋台をひいて蕎麦職人に転身したのだ。誰もがバカなことをすると言ったのだが、そこは天才料理人のタケシ、あっという間にタケシの蕎麦は江戸の町でも有名になり、老舗の食堂でもタケシ蕎麦が取り入れられるようになったのだ。
そこまではよかった。それで満足していればいいものを、タケシの向上心は限りなく、よせばいいのに江戸の料理の家元ヨシハルに料理で勝負を挑んだのだ。(今で言うところの
「料理の鉄人」だが、この番組ももう古くなって分からない御仁もいるかもしれないが、そういう事は気にしないことにする。)
結果は残念ながらタケシの惨敗。ヨシハルは「タケシさんの蕎麦の味は他の誰にも出せません」とニコヤカに何の邪心もなく慰めたのだが、プライドの高いタケシはいたくショックをうけ江戸の町から姿を消してしまったとさ。
そして冒頭の夫婦再会のシーンへつながる。
「すまねぇな、苦労をかけて。でも、腕前が一流のトシアキのやつに任せたから、ちゃんと店はうまく行ってたんだろ?」
「それがおまえさん、きいとくれよ。トシアキさんは、最初のうちは真面目に鰻を焼いていたんだけどさ、そのうちにもう今時鰻なんかはやらねぇと言いだしてさ。
わけまのわからないトシアキ流の寿司にすっかり夢中になって、そればっかりさ。でもそれが信じられないほどうまくて、大流行さ。あんたには悪いけど鰻の比じゃなかった。あたしだって、店が繁盛するんで文句は言わなかった。
ほら、常連のヒフミ先生がいただろ。昼も夜も鰻重の松を食べに来てくださってさ。あたしたちも、いくら好きでもあんなに食べれるもんじゃないって笑っていたじゃないか。
ところが、そのヒフミ先生までも昼も夜もトシアキ寿司の特上にぎりの連続さ。今度はトシアキと、ヒフミ先生も好きだねぇと笑っていたのさ。
それがトシアキ寿司は飽きられるのもビックリするくらいはやかったのさ。向かいにある料理屋が、回っていて待たずにすぐ食べれる寿司を始めたのさ。それが大流行。
すぐ食べれる・・、すごくはやい・・、超速・・、ばんざーい、こん平でーす。」
「はっ?お前何言ってるんだ?」
「ごめんよ、取り乱してわけわからないことを言って。とにかくそんなわけで、あっという間にウチは閑古鳥さ。
トシアキはすっかりノイローゼになって、寝言では超速超速とうなされる始末でさ。
ついに、知らない間にうちから姿を消してしまったんだよ。かわいそうに、トシアキも男前もいいし腕もいいし本当にいい男だったんだけどねぇ・・。」
「おまえっ、もしかしてトシアキの奴と・・。」
「おまえさんもバカだねぇ、いい年して嫉妬するのはおよしよ。あたしが本当に好きなのは本家の鰻屋だけさ。」
「へっ、バカいうないっ、照れるじゃねえか。」
以下夫婦がいかに仲直りして愛を語りあったかは、馬鹿馬鹿しいので読者諸賢のご想像にお任せして省略することにしよう。
といったわけで、めでたくタケシは鰻屋の主人に再びおさまった。最初は腕のなまりを心配する向きもあったけれど、さこはさすが、筋金入りの職人だ。前と変わらない本物の鰻の味。鰻だけは回る鰻で対抗できるわけもない。(今時はファミレスの鰻っていうんですか?)
というわけで、鰻屋は前と変わらぬ大繁盛。
以前の常連もすっかり戻ってきて、やっぱりタケシの鰻は絶品だと舌鼓をうった。
でも、そこは研究心旺盛なタケシのことだ。従来の鰻重だけじゃなくて、新しいメニューも始めた。と言っても今度はちゃんとした鰻料理だ。鰻の開きとかいう変な料理だ。
鰻の開き・・、角道を開いたまま・・、角道オープン四間・・、おいっ、強引過ぎるけどばんざーい、こん平でーす。
昔からの常連にはこの新料理はすごく評判が悪い。タケシは普通に鰻重をつくっていた方がいいのにと。ところが、さすがはタケシ、こちらも段々人気が出てきて、特に若手の鰻職人は最近はこればかりになってきた。
結局、昔ながらの鰻をやっているのは気がつけばタケシだけになってしまった。でも、おかみさんも幸せそうで一件落着のはず・・だったのだが・・。
ある時、タケシが言い出す。
「なぁ、おれはもう一度ヨシハルのやつと戦ってみたいんだけど。今度は鰻でな。」
「おまえさん・・・何度バカを言えば気が済むんだい。やっとつかんだ幸せをまたぶちこわそうっていうのかい。いいじゃないか、こうして大人しく鰻を焼いていれば誰もが幸せで。」
「すまねぇ、でもこれは男の意地ってやつなんだ。もう最近は鰻なんかはやらねぇと世間の奴らは思っている。俺はそれが歯がゆくてならねぇ。ヨシハルの奴は本物さ。おれもそれは骨の髄まで分かっている。でも、こういう時代だからこそ、ヨシハルにおれの鰻をぶつけてみたいのさ。」
おかみさんが、しばし沈黙する。そして長い間があった末に・・。
「わかったよ。あんたがそうしたいならそうおし。一度言い出したらあたしの言うことなんか聞いてくれないんだろう。
でも、タケシ。あたしは本当は嬉しいんだよ。あんなみたいな本物の職人を旦那にできて。店の事なんかきにしないでいいよ。思いっきり戦っておいで。」
タケシはもう何もいえない。あっ、タケシの目から涙が一筋・・。
夫婦の感動の場面は涙なしには語れないので、読者諸賢のご想像にまかせて省略することにする。
というわけで、またしてもタケシとヨシハルの大勝負。言うまでもなくお江戸の町は上に下への大騒ぎさ・・。

・本文は完全にフィクションであり、実在する人物団体等とは一切関係ありません。


第53期王位戦七番勝負、羽生善治王位に藤井猛九段が挑戦する第1局は明日7/10(火)に長野県松本市で始まる。




羽生が王位奪還 2011王位戦第七局 広瀬vs羽生

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まずは、広瀬さんのことから。私を含めて終局後に羽生ファンの喜びが爆発したようだが、要するにそれはそれだけ広瀬に苦しめられて大変厳しいシリーズだったからである。
第一第二局で見せた終盤の正確な読み、切れ味。今まで羽生を負かしたり苦しめたりした棋士はたくさんいるけれども、少なくとも終盤では羽生がやはり一番(少なくとも相手と互角以上)ということには揺るぎがなかった。しかし、広瀬に関して言うと、場合によっては純粋な終盤力でも羽生より首の皮一枚上回るのではないかと思わせるところすらあった。
そして言うまでもなくノーマル四間飛車穴熊という特殊な武器、技能。第五局では完膚なきまでに羽生を叩きのめした。という表現は適切ではないかもしれない。全く相手の力が出せない状態に追い込んで自分だけスイスイ指して勝ったという感じである。
かと思うと第四局のように前例をたどってあっさり負けたり、第三局も似た感じで「なんとかなる」と思っていたらどうにもならずにズルズル負けたりする。もともと振り飛車党というのも関係しているのかもしれないが、わりと大らかに大局観で局面を把握して指して、うまくいかない時は完敗というケースも多いように感じる。
要するに、強い時もあれば弱い時もあり、強みもあれば弱点もあって、まだ棋士として完成されていないということである。逆に言うと、そういう状態でこれだけ羽生と戦ったポテンシャルの高さを感じずにはいられない。まだまだ伸びしろがありそうな未完の大器なのである。
その点、若くして完成していて隙のない渡辺と比べても、末恐ろしい存在である。多分、現在と比べてどんどん精度をあげつつも、やはりある程度は波のあるタイプであり続け、その変わりに調子のいいときは誰も手がつけられないというタイプになっていくのではないだろうか。

さて、最終局は第五局の裏返しのような一方的な将棋になってしまった。相穴熊はえてして一方的になりがちなのだが、それにしても極端な将棋が二局出てしまった。
広瀬が▲4五歩と仕掛けたタイミングが恐らくポイントで敢えて金を4九の位置のまま仕掛けたのには形に通暁する広瀬の深謀遠慮があったはずである。
それに対して、普通は△8六歩を入れて飛車が走れるようにしておきたいところを、アッサリ△4五同歩と取って角を打ったのが羽生の工夫で、それが少し広瀬の意表をついたのかもしれない。
結局、羽生の飛車は9二に逃げこんだので、△8六歩は不要になったが、羽生は長考を重ねてかなり先のところまでの図式を思い描いていたのだろう。
最近の二日制での羽生は、どうも序盤から中盤にかけてあまり良く出来ずに、少し苦しめの終盤を持ち前の力でなんとかするという展開が多かったような気がする。
その点、今回はその後の△4一香もいかにも感触の良さそうな一着で、その後の△4二飛の転換とあわせて実に中盤をうまく組み立てることに成功した。立会いの森先生もこの手を指摘していて、指された時には「ほらほらほらほら〜」とわが意を得たと喜ばれたそうである。他にも「あやややや」という不思議な擬音を発しておられたそうである。まさしく加藤一二三先生と並び称されるべき存在である(意味不明。
広瀬も馬をひきつけたり▲3七銀と埋めて穴熊の再構築をはかった。後手が先手以上に鉄壁なので、羽生がいいにしても、アマチュアならどうこの穴熊を攻略するのか途方にくれてしまいそうなところだが、4八の地点を清算して△4七歩と叩くのがいかにも急所の攻めで、と金が出来てはさすがに勝負あった。ちなみにGPSはこの攻めをしっかり指摘していた。この程度はプロならすぐ見える筋かもしれないが、しっかりしたものである。
広瀬もさすがに相穴熊テクニックを発揮する余地は全くなかった。一回悪くすると挽回がきわめて困難という相穴熊の特徴に、スペシャリスト広瀬自身が泣くという皮肉な結末になった。一方、羽生は相穴熊を避けずに挑んでいったのが好結果をもたらすことになった。

これで、羽生は大山康晴十五世名人の持つ通算タイトル獲得80期(歴代1位)に並んだそうである。中継ブログに羽生のインタビュ−が掲載されているのだが、これが大変素晴らしい。

王位戦中継ブログ 記者会見

最近、羽生は書籍も多数出しているし、インタビューも多い。それだけに、さすがの羽生も同じ内容を繰り返すことが少し多くなってきたのだけれども、今回のインタビューで若手棋士、現代の将棋について述べている部分が大変新鮮で興味深かった。
「この王位戦もそうですし、王座戦もそうなのですが、若い20代の人たちが台頭していて、一局勝つというのが最近は大変だなとしみじみと実感することが多いです。もちろん記録が懸かっているというのはあるのですが、それ以上に私自身も新たにいろいろと研究・勉強しながらいまの将棋を理解して、それにプラスして自分の個性を出せたらいいなと思っています」
「戦術的なところで昔の将棋と今の将棋は変わってしまっているので、その辺のところを意識的にマスターしていくというか、知っていくということをしないと置いていかれてしまうという感覚があります。たとえば今期の王位戦では、広瀬さんの振り飛車穴熊という非常に強力な作戦がありました。棋譜を見ても分からないところがあるので、実際に真剣勝負で対局していく中でしっかりと感覚というか戦術を自分なりにマスターしていくことになると思います」
この若手や現代将棋に対する、謙虚とも言え、柔軟とも言え、貪欲ともいえる姿勢はどうだろう。
今回の広瀬や渡辺、あるいは関西の豊島や糸谷や菅井など、現在は若手が猛烈な勢いで実力をつけ存在感を増してきている。基本的に世代交代の真っ最中という見方も可能だろう。
その中で羽生は、彼等と戦うと同時に自身の年齢とも戦わなければならない。当然厳しい状況である。
しかしながら、こうした羽生の発言を聞いていると、そうした状況をむしろ楽しみながら自分が進化するきっかけにしようとしているようにも思える。
今回の王位戦でも、広瀬穴熊の威力や、強烈な終盤力を体感しながら、いつの間にか広瀬(若手)将棋のよさを戦いながら吸収して、自分の栄養にしてしまった感すらある。しかも結果まで残してしまった。
普通なら、年配者は若い者によって乗り超えられてゆく宿命にあるのだが、羽生の場合は逆に若い人間の強さや勢いをすべて吸い込んで、さらに強大になっていくような柔軟さがある。若い人間が強くなればなるほど、それに逆らわずに便乗して強くなっていくしたたかさとでもいうべきか。
年を取ると、普通は自分の価値観に固執して自己が硬化していきがちなものだが、羽生の発言を聞いていると、年を取ってますます好奇心旺盛で柔軟で形をかえていきそうである。羽生は実際には40代なのだが、全く「ベテラン」という雰囲気ではないのも、その辺が関係しているのだろう。
恐らく、今後の羽生のさらなる進化のキッカケとなり力を与え、結果的に最も助けることになるのは渡辺や広瀬といった若手棋士たちなのだ。


2011王位戦第五局 広瀬王位vs羽生二冠

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広瀬の相穴熊における練達職人ぶりばかりが目につく将棋になってしまった。
羽生は、事前に当然広瀬の四間飛車穴熊を予想して十分に研究してきたのだろう。▲1六歩と端歩を突いておいて▲2四桂と仕掛け、▲1七桂とする順。但し、後手もすぐに先手が成った馬を捕獲して、先手も思ったほどの戦果はあげられなかったようだ。羽生も定跡をつくるくらいの勢いの研究で臨んだのだろうが、広瀬穴熊の懐もなかなか深い。
広瀬が封じ手時刻前に、△5二同飛と堂々と取った手が羽生の感覚を若干狂わせたのか。▲4三成銀の飛角両取りが見えているが、いざやってこなさいと言われるとやりにくいところもあるのではないだろうか。結局、羽生は封じ手時刻を過ぎても少し考えて迷った末に▲3三ととしたが、結果的にはこれが敗着になってしまった。
羽生が敢えてひねった封じ手にしたのは、と金と成り銀をじっくり寄せているのが有効という大局観だったようで、普通はこういう羽生の大局観がよい結果を残すのだが、広瀬が▲3三とを緩手にする穴熊テクニックが抜群だった。
ちなみに、▲4三成銀でも後手が指せるという意見もあったようだが、対局者は難しいと、特に広瀬は千日手に出来れば上々くらいに考えていたようである。どこまで正直に言っているのかは分からないが。
さて、広瀬は5筋につくったと金を生かして△6七角以下角金交換に持ち込んで、スピーディーに先手の穴熊を弱体化させる。穴熊戦では、角より金が大切、と金が重要というセオリー通りである。感覚が普通の将棋とは明らかに違うのだ。
その結果、先手の穴熊だけ薄くなり、後手の穴熊はしっかりしたまま、さらに羽生がゆっくり寄せて活用するはずだった成り銀が完全に遊び駒にされてしまった。本当に穴熊戦の感覚が秀逸で、棋譜だけ見ていると普通に後手がよくなったように見えるが、多分プロでも誰もがこのように指せるということはないのだと思う。
その後も、一回△6九龍をきかすテクニックなども抜け目なく危なげなく手勝ちを読みきって完勝した。
ちなみに、当然かもしれないが△6一歩と受けたのも手堅くて、生で観戦して例えば△7二金左なら先手も負けずと角をきってへばりついたら苦しいながらもなんとかなるのではと考えていたが、しっかり底歩を受けられると本当にゲンナリする。結局、最後の寄せ合いの部分でも手数計算が実に分かりやすくなってしまった。
最後は他のプロも後手の一手勝ちを明快に読みきっていたようで、よくあることだが相穴熊は一度差がつくと大差になって逆転の余地が少なくなってしまう。最後の羽生玉には、死刑宣告を早々に受けていながら、どうすることもできないような切なさがあった。
というわけで、広瀬が相穴熊王者ぶりを遺憾なく発揮して、羽生さへも吹っ飛ばした―というよりは蹂躙したという感じの将棋だった。
羽生は作戦にも問題があって完敗だったので、後に引きずることはないだろう。羽生が、また広瀬穴熊が出た場合にどういう対策を取るのかにも注目したい。

2011王位戦第四局 広瀬王位vs羽生二冠

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今回の対局は誰が書いたって似たようなことになってしまう。「現代将棋の定跡・研究・データのこわさ」である。昨年の順位戦B級1組の▲畠山鎮vs△井上と延々と同一手順を辿り、その将棋でも後手が勝った順に近い形で、後手の羽生善治が勝ってしまったのだ。
先手広瀬章人で横歩取りの将棋になり、▲5八玉が早めのタイミングだった。広瀬の感想コメントによると、後手の形を限定したかったそうである。横歩取りは従来先手は一つだけ作戦を決めればよくて、後手はあらゆる形の対策が必要だったが、△5二玉型が出現して△4一玉との二択、さらに飛車を引く位置も△8五と△8四の二通りあって後手の作戦にも幅が出てきて、そのような事情があっての広瀬の工夫だったのかもしれない。
そんな駆け引きの末に結局、横歩取りで、ややクラシカルな形に落ち着いた。渡辺明が森内俊之から竜王を奪取したシリーズの第四局もこの形で、本譜の66手目で△8六龍で渡辺は△8五龍だったところまで同一手順である。結局、その将棋は渡辺に△3七歩という妙手が出て勝った。当然羽生もこの形は経験豊富である。少し古い形なので広瀬は実戦経験は少ない。
高橋道雄「最新の8五飛戦法」によると、28手目の△2五歩が重要な分岐点で、△7三桂と活用しておくのも有力である。むしろ、高橋は後者を本筋と考えていて、この△2五歩以下の順は「後手の勝率高し。ただし右桂が残るので本道とは言えず、目先を変える変化球的なスタンスだ」と述べている。確かに右桂をじっくりと活用するのは重厚な高橋らしいが、羽生は△2五歩以下の順を得意にしており、その辺は各棋士の棋風によって評価が異なるところなのかもしれない。
さて、以下延々と畠山鎮vs井上を辿るわけだが、69手目で▲4五桂で高橋本は▲7八銀と一度逃げる手を紹介している。▲4五桂も「かなり際どい」と述べているが。本譜のように▲4五桂とするとより一直線の攻めになるので、広瀬はこの辺りでは当然ある程度成算があって踏み込んだのだろう。
ちなみに、広瀬も畠山vs井上は知っていたようである。名人戦棋譜速報の掲示板を見ると当日は広瀬自身も対局があり、対局後にも検討に加わったのかもしれない。だから、結局後手の井上が攻め勝った順も知っていたが、きわどくて先手も何とかなると思っていた可能性がある。但し、広瀬の場合は、純粋居飛車党ではないし、いわゆる現代風なガチガチの研究家ではないので、ハッキリ先手がやれる順を見つけていたというよりは、大まかにこれなら指せそうと考えていたというのが実際のところなのではないだろうか。そもそも、広瀬得意の四間飛車穴熊も終盤でなんとかするという大らかなところがあるのだ。
ところが、今回はなんとかならなかった。結局、95手目の▲5三香まで同一手順で進んでしまった。既に先手陣は△4九銀と打たれて火がついている。相当難しいにしても、厳密に調べれば勝負が決まっていても―この場合は多分後手の羽生勝ち―おかしくない。
羽生がここで手を変えたが、これも井上が△6一玉と逃げたのが疑問で本譜のように△5三銀ととっても詰まないと当時の棋譜コメントにも書かれている。羽生の感想コメントを見ると、明らかにその将棋の感想コメントまで覚えていたようだ。つまり、手が変わりはしたが、羽生は前例でベストとされる順をさらに辿り続けたわけである。
以下、広瀬にも▲3五銀とするハッとする勝負手が出てその後も猛烈に最後まで粘ったが、冷静に羽生が勝ちきった。勿論、我々アマチュアレベルからすると本当にギリギリの僅差の終盤だけれども、この二人の対局者のレベルだと、ギリギリながらも後手勝ちの順を確認したようなものである。指している時は羽生といえども大変なのは当然だけれども。
要するに結果的には畠山vs井上の棋譜と感想の結果通りになってしまったわけである。棋士によっては、広瀬は事前に▲3五銀で勝ちと思ってしまったのではないかという意見もあったそうだが、その局面はあまりに進みすぎていて、事前に大雑把に勝ちかもしれないと思ったとしても、対局で深く読むと先手負けだと広瀬レベルなら理解するはずなので、その前のどこかで変化するはずだろう。
だから、私としては、やはり広瀬が事前に何か先手が勝ちの具体的手順を想定していたというよりは、なんとかなるだろうという大局観で踏み込んでしまって修正がきかなくなったのだと解釈している。勿論、本当のところは広瀬本人に聞いてみないと分からない。
先日の順位戦の郷田vs渡辺でも角換わりの将棋で、先手の郷田が研究で負けとされている順に飛び込んでそのまま負けたことがあった。その場合、郷田は本当に研究手順を知らなかったそうである。今回、広瀬は前例を知っていたにもかかわらず修正がきかなくなってしまったようである。現在の研究の恐ろしさをより感じさせる一局になってしまった。
そうなった理由には、やはり広瀬がもともとは振り飛車党で、現代の研究派居飛車党ではないというもあるのかもしれない。というわけで、そろそろ次局ではいよいよ伝家の宝刀を抜いて、四間飛車穴熊登場となるのではないだろうか。

2011王位戦第二局 広瀬王位vs羽生二冠

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まぁ、ブログでタイトル戦を書く建前としては、なるべく個人的感情はおいて公平に書くことにしている。しかし、今回の負け方は、羽生ファンとしてはちょっとばっかり悔しかった。
最後、ニコ生の阿久津解説を聞きながらみていたけれど、かなり難解な終盤になっていた。ところが羽生が△6六龍以下詰ましにいったのがらしからぬミスで、広瀬はどうも▲6六桂合で詰まないことを見切っていたようである。あんまり羽生ファンとしては言いたくないが、終盤の絶対性を誇っていた羽生が、新生代の広瀬にあっさりはめられた感じである。第一局でもあったけれども、広瀬は詰む詰まないの読みがコンピューターソフト並に正確かつ迅速である。詰め将棋解答選手権でも常に安定して上位である。
なんとなく、今回の王位戦を観ていると、羽生が最強ソフトと戦う予行演習のようにも思えてしまう。というと広瀬に大変失礼なのだが。ただ、広瀬の終盤を見ていると今回は羽生の猛追を受けて流れ的にはかなり悪かったが、冷静に最善手を重ねてくるところが、「ソフトのように」冷静だと思った。
具体的に▲1五龍と手を渡して冷静に詰めろを消した手が素晴らしかった。ニコ生で阿久津が指摘していたが、この場面では何か攻めの手を指したくなるところである。しかし、自玉の不詰みをきっちり読みきって相手に手番を渡した。これは羽生が常に対戦相手にしてきたことではないか。
△6六龍では△5四銀としていれば、アヤがあったようである。但し多分厳密には先手勝ちなのだろうが。それについて広瀬が言っていることが結構すごい。
「時間がないので、こちらが間違えますね」(広瀬)。
羽生オタとしては結構これは腹が立つ(笑)。これではまるで上位者が下位者を上から視線でいう言葉ではないか(笑)。勿論、広瀬はそういう悪意をもって言うタイプではなく、彼なりに気を遣っての発言なのだろう。それは多分間違いない。昔の棋士とは違って腹に一物あるタイプでは多分ない。ただ、こういうことをさりげなく言う、いい意味での大らかさ、悪い意味での鈍感さが広瀬の強さだという気がする。そういうところは、ある意味すごく敏感な渡辺明ともまた違ったタイプでとても面白いと思う。
羽生は別に今回初めてピンチになったわけではない。森内に圧倒されて一冠になったこともある。しかし、純粋な終盤力において脅威になる存在に遭遇するのは今回が初めてなのではないだろうか。
羽生ファンとしては、大変ドキドキするが(笑)、新しいタイプの広瀬と今後どう戦ってくれるかが楽しみでもある。勿論、二連勝した広瀬がどのよように戦い続けるのかにも、大変興味がある。



2011王位戦第一局 広瀬王位vs羽生二冠

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振り駒で羽生先手になり、▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛の出だしで相振り飛車に。実は羽生は竜王戦の決勝トーナメントで、橋本相手に後手を持ってこの形を指しているが、終盤羽生らしくない失速をして負けている。まだ、それから日も経っていない。
常人なら、思い出したくないのでこの形を指すのを避けたくなりそうなものである。しかし、羽生は「あっ、この先手の指し方はあるし、この相振りは現在の興味深い研究テーマですね。」という感じで、アッサリ指してくる。自分を冷静に突き放して、もう一人の羽生が上空からリアル羽生を俯瞰しているかのような達観ぶりが羽生ならではと思う。
その一方で、負けた将棋をそのままでは済まそうとしないきわめて人間的な負けず嫌いの側面もチラリと垣間見えて、冷静かつアツいのが羽生の面白いところである。
相振りで、後手はすぐに3筋の歩を交換して先手は金無双に構えた。橋本戦もそうで、これかが最先端なのかもしれないが、実は少し前に流行したのが一周して戻ってきた感じである。特に、金無双は古典的な相振りではデフォルトの囲いだったが、現在は壁銀の悪形や発展性のなさや手がついたときの脆さから激減かしていた。それには相振りカリスマの杉本昌隆が相振りシリーズの著書で美濃の優秀性を指摘して変わってきたという歴史などもある。
ところが、またこのシンプルな金無双が見直されているようだ。具体的理由は専門家でないと分からないが、もう一人の相振りカリスマ藤井猛の相振り著書全四巻を実は私も読んだことがある。藤井らしく茫洋とした相振りの世界を整理してシステム化しようとする試みで面白かった。相振りの囲いには、金無双、美濃、矢倉、穴熊と四種類あって、各囲いの相性や組み合わせに敏感に反応して指さないといけないようである。例えば、金無双も穴熊相手に速攻をかけるにはコンパクトで優れているとか。角換わりの腰掛銀、棒銀、早繰り銀にジャンケンの法則があると言われるが、相振りの囲いは四種類でさらに攻撃体制も様々なので、まさに指す人間のセンスが問われるのである。
とにかく金無双は、発展性がなくて持久戦には向かないので、何か先に動きたいというのが原則らしい。控え室の指摘で後手△2四銀の瞬間に▲6五歩とする筋が指摘されていたのもそういう意味なのだろう。羽生がそれを見送った理由は不明だが、やはり封じ手直前に動いていったのもそういうことなのだろうか。「損して動かなければならないので作戦的に面白くなかったですね。」という感想もあったようだ。
それに対して、広瀬も反撃に出て銀交換して先手玉を薄くしたが、結果的には金無双の壁銀が捌けて楽になったと言う意味もある。この辺までは、先手後手共に相振りの指し方の難しさを感じさせる不思議な展開だった。
むしろ、攻める権利を得たあたりでは先手有望、あるいは優勢と控え室では言われていたが、広瀬の反撃の△4九銀以下が、ことの他厳しかったようである。ということは、そもそも先手がそんなに良くはなかったということなのだろうか。羽生自身は、どうもずっといいとは思っていなかったようである。
それにしても、決して簡単そうではない終盤を、羽生相手にきっちり勝ちきった広瀬の終盤力には、やはり瞠目せざるをえない。
というわけで、今回の王位戦も激戦が予想される。それにしても二日制のタイトル戦での羽生の出足の悪さは何とかならないのだろうかと、羽生ファンとしてはどうしても思ってしまうところである。

王位戦挑決は羽生vs藤井に

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今期の王位リーグは大混戦で、四者プレーオフ三者プレーオフの可能性もあったようだ。しかし、紅組は藤井が勝って競争相手の戸部が敗れたために、あっさり藤井に決まった。
後手番の藤井が、谷川相手に採用したのは最近多用している「藤井流角道オープン角交換四間飛車」。角交換振り飛車はゴキゲンをはじめとして現在全盛なのだけれども、これをよく指すのは実は藤井くらいである。
将棋世界の勝又教授講座での藤井の弟弟子の阿部のインタビューによると、藤井は居飛車振り飛車を問わずにあらゆる形を研究しているそうである。だから、藤井は多分ゴキゲンを指そうと思えばいくらでも指せるはずだ。しかし、敢えて大流行のゴキゲンを避けて、自分のオリジナルの形を追求しているのが、いかにも藤井らしい。そして、あくまで「四間飛車」なのだ。藤井システムを完全に捨てたわけではないという、藤井らしい専門の鰻屋職人らしい隠れたメッセージが見え隠れする。
但し、この指し方は華々しい「藤井システム」や「藤井矢倉」と比べると、正直に言って今ひとつインパクトがない。角交換してしまうために、先手も後手も動きが制限されて、場合によっては後手なので千日手でもOKという(藤井らしからぬ)消極的な思想にも感じられるのだ。
しかし、本局の谷川戦については、藤井らしさがよく出ていた。△5四歩の「誘いの隙」に対して、当然谷川前進流が果敢に挑みかかっていったのに対して、△6四歩と一旦は渋く受けておいてから、△8九角成とバッサリ大駒を切ってガジガジ食いついて自分の玉は安泰、攻めをつなげさえばよくて、実際にきっちつないで快勝。
こう書くと、まるで全盛時の藤井システムのようではないか。深い研究によって相手を翻弄してあくまで自分の土俵で戦い、終盤はガジガジ流で相手に一切チャンスを与えずに(アメリカプロレスWWE総帥のヴィンス・マクマホンのテーマミュージック"No chance"のように)圧勝してしまう。そういえば、まだプロ棋士たちが藤井システムの凄みを理解してない時に、竜王戦で藤井の最初の最大の被害者になったのも谷川(当時)竜王だった。歴史は常に繰り返す。
というわけで、今ひとつ意図が分かりにくかった「藤井流角道オープン角交換四間飛車」が真価を発揮した一局だった。果たして、後手番で第二の「藤井システム」になるのだろうか?

さて、一方の白組は、羽生が村山を連破して優勝した。両局とも、村山にとっては「将棋に勝って勝負に負けた」とでも言うべき実に惜しい将棋だった。村山がその実力の高さを証明したとともに、相変わらず羽生が魔術的・呪術的終盤力を発揮していると感じさせる将棋だった。
特にプレーオフ局は、本当に素晴らしい羽生マジックだったのだけれども、私がどうこう言うより現場もいた勝又教授が素晴らしいブログ記事を書かれているので、それを紹介するだけで終わりにさせていだく。

突き抜けないブログ 王位戦プレーオフ

さて、挑戦者決定戦の羽生vs藤井が本当に楽しみである。後手番の藤井新システムも面白そうだが、それよりも藤井が先手になって藤井矢倉になったら本当に楽しい。
名人戦第二局で先手の羽生が藤井矢倉っぽい形を採用したが、いわゆる藤井矢倉ではなく、居玉のまま戦いを挑む羽生オリジナルだった。藤井は、たまたま当日に日本将棋連盟の解説会を担当していて、「これは藤井矢倉ではありません。」と断言したそうである。また、王位リーグの白組最終局でも、羽生は村山相手に先手で藤井矢倉っぽい指し方をしたが、あまりうまくいっていなかった。
藤井は「羽生さん、藤井矢倉を採用してくれるのは嬉しいです。屋台のラーメンを超一流店が正式メニューに採用してくださるのは、本当に光栄。でも、できれば私のレシピ通りにして勝手なことはなさらないてでいただけますか?」と、本心では言いたいのではないのだろうか。
ということで、挑決の羽生vs藤井は、本当に大変な大一番なのである。将棋ファン必見です。

深浦との死闘を制して広瀬新王位誕生ー千日手続きの激闘

私のような羽生ファンにとって、正直言って深浦さんは当初敵役だった。王位戦で二年連続のフルセットで羽生を倒した。しかも、深浦の場合、かなり闘争心が正直に表に出るタイプだ。羽生ファンとしては、どうしても負けて欲しくない相手だったのである。
しかし、王位戦やその後の羽生戦を含めた深浦の戦いぶりを追って行くにつれて、まず何よりその将棋の質の高さ、厳しさ、プロフェッショナルな取り組みに感心させられる。将棋の内容自体で、否応もなく説き伏せられ、深浦の実力を納得せざるをえなかったのだ。
さらに、現在の将棋界のトッブには世俗離れしたタイプが多くてそれもある種の良さなのだが、深浦はとても人間的なタイプである。すこし正直すぎるところもある深浦の人間味にも、ある種新鮮な魅力をいつの間にか感じ始めていた。
簡単に言うと、段々深浦のことが棋士としても人間としても好きになってきたのだ。
今回の王位戦では、いつもの通りカメラの静止画像の中継があった。そこに映し出される深浦は、常に真剣そのもので集中しきっていて、まさしく将棋に「喰らいつく」ような姿勢を終始一貫徹底していた。そして、最終盤になると、集中のあまりに表情が赤鬼のように紅潮し、終局後もそれがしばらくおさまらない。素晴らしいプロの対局姿であった。

最後の二局は周知の通り、素晴らしい死闘になった。両方とも千日手になり、なおかつ千日手指し直しは二局も掛け値なしの名局になった。特に最終局は、広瀬の穴熊全く手付かずの状態から、深浦が決して折れない心で猛追して、ギリギリのところまで追い上げた。最後は深浦玉が「桂頭の玉寄せにくし」の連続でどうしても寄らない奇跡のような玉形になった。ついに、深浦が追い抜いて勝ちになったとも思った。深浦玉は入玉含み、広瀬の攻め駒、持ち駒には飛車角香車桂馬しかない。金気が全くない。押さえがきかない。普通ならもう深浦玉を捕まえるのはもう無理だ。ところが、まるでつくった詰め将棋のように広瀬は深浦玉を網の目の中に収めてみせた。全くそれに気づいてなかった私は愕然とする。深浦も広瀬の最後の方の▲5三角をうっかりしていたそうた。その角が7五に成り返って馬になると深浦玉はどうしても逃げきれない。まさしく名局だった。
第五局も第六局もあまりに内容が濃密すぎて、まだよく分からない部分が多すぎる。まさしく「専門誌の解説を待つ」しかない、今回は将棋世界誌の責任がとてつもなく重い。

それにしても広瀬の終盤力は本当に見事だった。どんなに賞賛しても賞賛し足りない。やはり、終盤力だけで言うと深浦さえも首の皮一枚う上回っていたという印象である。
静止カメラに映し出される姿も深浦とは対照的だった。どんなに難しい局面でも、苦しそうなところでも、どことなく飄々としている。広瀬の周りにだけは、常に涼しげな風が吹いているようにも見えた。余計なことを考えずに、とにかく読みに没頭できるのが広瀬の強さなのだろう。かなり心臓が強いタイプだという気もする。
かしながら、そんな広瀬でもやはり二日目の夕食は少なめにしていたようである。大変なプレッシャーの中、若くて経験も浅いのに激闘を戦いぬいた広瀬の精神力も凄まじいというべきだろう。
振り飛車穴熊を武器に勝ち取った王位だけれども、やはりその魅力は何と言っても底知れぬ終盤力だろう。これからもも、いまだに終盤力では他を寄せつけない羽生世代との激闘が本当に楽しみである。

それにしても、今回の深浦といい、木村といい、三浦といい、なんでこんなに敗者たちが皆魅力的なのだろうか。現在の将棋界のトップには、本当に素晴らしい奴らが揃っている。我々が過ごしている俗世間のことを考えると、ほとんど奇跡と言っても差し支えないだろう。
当たり前のように見てしまっているが、現在のプロ将棋を観戦出来ている我々ファンは、最高に幸せ者なのだ。

2010王位戦 深浦王位vs広瀬挑戦者 第四局までを振り返って

明日から第五局。仕切り直しの三番勝負である。
まず、懺悔から始めなければいけない。私は勝手にツイッターでした事前予想で、深浦 4−広瀬 0のストレート防衛を自信満々に予言していたのである。第一局でいきなり大ハズレ、その後も一進一退の攻防が続いている。
とにかく王位戦の深浦では、羽生名人との死闘の印象が強烈すぎる。羽生相手でも深浦はすこしも気合負けすることなく、それどころか攻撃的に序盤から切り込んでリードを奪い、終始羽生にペースを握らせなかったという印象が強い。大変な序盤巧者であり研究も深く思い切りもよい。百戦錬磨の羽生でもなかなか作戦勝ちできていなかった。羽生も玲瓏管理人氏のインタビューでこのように述べている。
深浦さんは序盤から主導権をとるのがうまいんです。今回の棋聖戦ではうまく主導権を握られないように出だしから慎重に駒組の工夫をしたというのはあります。
だから、広瀬もなかなか作戦勝ちできずにリードを奪われて、持ち前の終盤力で追い込んでも届かないという展開になるのではないかと考えたのだ。さらに、広瀬得意の振り飛車穴熊にしても、そもそもすこし苦しめなところを逆転する将棋だと鈴木八段も指摘していたし、なおかつ深浦王位も徹底的に対策を講じて二日制をいかしてじっくり指すだろうから、どうだろうかと。
しかし、広瀬の振り飛車穴熊は予想以上に奥が深かったし、その終盤力も想像以上だった。私の予想なんてどうでもいいのであって面白いことになった。

広瀬挑戦者は初タイトルなのに、ほぼ普段通りに実力を発揮しているようだ。大物である。読みも深い。将棋世界の自戦解説で、第一局の終盤で実際には現れなかった水面下の深い読みを披露している。実に終盤で手がよく見えるし緻密に細心な読みをしている。第三局でも、一目寄ってしまいそうで実は自玉が寄らない順に誘導したようなところもあって、穴熊王子の終盤には本当に天才を感じる。
広瀬が順位戦で指した「神の寄せ」について私も記事で紹介したことがあるので興味のある方はご覧頂きたい。ど派手な一手が飛び出すのだが、それよりも徹底的に緻密に読みきっていることに驚嘆させられる。

一方の深浦王位。羽生に対してはとにかく攻撃的にチャレンジするだけだったのかもしれないが、今回は挑戦者が年齢も自分より下だしでも実績でも自分が上だ。つまり完全に受けて立つ立場なのだが、それが色々と微妙な影響を及ぼしているような気もする。
例えば第三局。後手の深浦は広瀬が居飛車の意思表示をしたのに対して、△3三角戦法から振り飛車穴熊にした。最新定跡によると端を突きこされて穴熊になるケースが多いらしくある程度事前から想定していたのかもしれない。だが、深浦といえば相居飛車の深い研究で知られている。どんな形にも通暁している。普通に考えると、広瀬はまだ居飛車の「屋台を出したばかり」(藤井九段が自分の矢倉のことを当初こういっていた)なのだから、居飛車では「堂々たる老舗」の深浦なら普通に受ければ作戦勝ちできそうではないか。
だが、深浦は敢えて思い切った作戦を採用した。これは私の勝手な考えなのだけれども、深浦は冷静にシビアに指すようでいて、結構人間的な熱い思いの強いタイプなのではないだろうか。恬淡とした羽生とはタイプが違う。だから、第三局も普通に指したのでは面白くないから、敢えて後手で広瀬が得意とする振り飛車穴熊を自分が採用して勝って相手にダメージを与えようとしたのではないか。勿論私の勝手な深読みにすぎないのだが、今シリーズ全体を通じて深浦王位が広瀬挑戦者を人間的に意識しすぎて指しているような気もしないでもないのである。
深浦王位と親交の深い梅田望夫氏が「シリコンバレーから将棋を観る」や最近の棋聖戦の観戦記でも深浦の素顔を紹介しているが、実はとても人間的で熱いハートの持ち主だというのがよく伝わってくる。
深浦が羽生から王位を奪った際の自戦記もとても面白かった。かなり率直に羽生たちに対する思いを語っている。
なかなかタイトル戦に出られない時、いつも常連の羽生さんには「ずるい」と思ったし、自分から挑戦権を奪い去っていく佐藤さんには「にくい」とも思ったことがあった。(将棋世界2007/12より)
だから、深浦王位が今回もなんだか超然として大物っぽい若き天才にたいしてひそかに闘志を燃やしていてもおかしくはないだろう。違うのかもしれないけど、そうだと面白いと私のような無責任な野次馬は思う。
第四局で深浦の決め手となった▲7二龍は、いかにも穴熊崩しの見本のような手で、広瀬がいつも相手にくらわせているような手だった。挑戦者決定戦で羽生を葬り去った▲2二馬と感じが似ている。深浦にしてみれば相手のお株を奪った形で会心の一手だったのではないだろうか。まして地元である。
ところが、対局後に大盤解説上に両対局者が挨拶に行った際に、広瀬は「深浦さんの地元ですから」とアッサリと笑って言ってのけたそうである。広瀬らしくあっけらかんと何の他意もなくいったのだろう。しかし、それを「あまりに人間的な」(ニーチェ)深浦はどのように聞いたのだろうか。
徹底した努力の人、闘将深浦王位と、超然とした若き天才、大物の新人類(死語ですみません)広瀬挑戦者の対決という人間的な側面も今回は見逃せないと私は思うのだ

王位戦第七局(昨日の記事のさらなる補足)

昨日の記事で書くのを省いた手順だけ紹介しておきます。はっきり言って自己満足です(笑)。
但し、詰ます手順は他にもありそうですし、コンピューターだけにやらしたのでなく、私自身で考えた部分も混ざっているので、間違いがある可能性があります。特に75玉と逃げた場合の変化は、よく分からないし自信がないです。
もし、いろいろな変化を考えていらっしゃる方がおられたら、参考になることが少しでもあれば、という程度のことです。

銀合いの変化
▲63金△同玉▲61竜△62銀□テ蔚
▲同金以下△53玉▲65桂△同歩▲52金△44玉▲34飛△55玉▲56銀打ち まで詰み
▲同金以下△同角▲52銀△53玉▲65桂△同歩▲54飛△42玉▲43銀成△同玉▲52竜△33玉▲34歩 まで詰み

桂馬が飛んできたとき玉が逃げる変化
▲63金△同玉▲61竜△62金▲同金△同角▲53金△同玉あ65桂
▲65桂以下△44玉ア54飛
▲54飛以下△35玉▲31竜△26玉▲36竜△15玉▲16歩 まで詰み
▲54飛以下△33玉▲34飛△22玉▲31飛成△12玉▲21竜 まで詰み
▲65桂以下△42玉▲52飛△33玉▲31竜△44玉▲54飛成 まで詰み

桂馬が飛んできたとき、同歩ととる変化
▲65桂以下△同歩Β52飛
▲52飛以下△44玉▲54飛成△35玉▲31竜△26玉▲36竜△15玉▲16歩 まで詰み
Β52飛以下△64玉▲62飛成△75玉▲53角△85玉Б86角成
▲86角成以下△94玉▲76馬△85銀▲86桂△84玉▲66馬△同歩▲73竜△同玉▲65桂△82玉▲73角△92玉▲91竜 まで詰み
Б86角成以下△84玉▲73竜△同玉▲95馬△84銀▲85桂△82玉▲62竜△81玉 以下詰まない

なお、昨日の記事中の、▲53角でなく、▲64竜とひく変化について。
最後の、△85玉の形は、相当危ないように見えますが、例えば▲52角と打っても、△76玉と香車を取ってしまっても、詰まないようです。
さらに、先手が▲76香ととったとき、もしも相手が75に合駒してくれたら、金をうっても、銀をうっても、他の駒をうっても、▲52角から▲64竜の手順で、詰め将棋のようにきれいにつみます。(ただ、金合して、さらに63に桂を中合いする手など、さっき思いついたのですが、それも65竜の空き王手で詰むようです。)
ただ、この変化は、後手の76の桂馬をはずすことが可能なので、なんとなく攻めながら自玉を安全にする方法もありそうなのですが、相手にも駒を渡しすぎているので、私にはよく分かりませんでした。(その辺は昨日の記事のコメント欄に書いておきました。)

王位第七局をしつこく、囲碁将棋ジャーナルをみてソフトまで引っ張り出して調べて・・・(笑)

囲碁将棋ジャーナルの解説は、あの難局にふさわしい適任者、佐藤二冠でした。時間があまりなく、細かい変化までは言及できていませんでしたが、とにかく△7六桂を打っていれば、やはり羽生勝ちということだそうです。
今となって正直に言いますが、羽生さんが△6九銀不成とやったのは、もしかして、読みのエアポケットに入って、詰みを見落としたんじゃないだろうかと、ちょっと疑ってしまっていました。でも、そんなことでは全然なかったようです。羽生さんは、△7六桂もちゃんと見えていて、両方負けだと思って、△6九銀不成の方を選んでしまったそうです。当然、▲5三角のすごい詰み筋も見えていた。ただ、▲6三金以下の筋で詰むと思われたそうです。一瞬でも羽生さんを疑ってしまった私は、ファン失格ですね(笑)。でも、私以外にも、そう思っていた方、結構いらっしゃるんじゃないっすか?(笑)負けても、やはり羽生さんの読みはとてつもなく広く深かったということです。
ただ、佐藤さんが▲6三金以下の変化はムツカシイと言われていました。番組で紹介していたのは、▲63金△同玉.▲61竜△62金▲同金△同角▲53金△同玉▲65桂△同歩以下、追っても玉が75に逃げてつかまらないということでした。プロのトップが謙虚にムツカシイといっているのに、私は最近の記事で、「△ 62金以下詰まない」で済ませてまった、とんでもない男です(笑)。で、海より深く反省して、普段めんどくさくて全く使わないソフト、といっても相当古い東大将棋、を引っ張り出して調べてみたのですが・・。すごい深みにはまってしまいました。驚いたことに、受け方間違えると後手玉が詰む変化が、いっぱいあるんですね。とりあえず、詰まない順だけ書いときます。
(不詰みの順)△76桂▲63金△同玉▲61竜△62金▲同金△同角▲53金△同玉▲65桂△同歩▲52飛△64玉▲62飛成△75玉▲53角△84玉▲73竜△同玉▲62角成△64玉▲63馬△75玉▲64馬△84玉▲96桂△94玉で、手が続かない。
(不詰みの手順)上記手順中▲53角でなく▲64竜△85玉▲74竜△同玉▲76香△85玉で手が続かない。ただし▲76香に△85玉と逃げず△75に合駒すると▲52角から▲64竜の筋で詰んでしまう。
ちなみに、手順中▲62に合駒するのが、金でなく銀だと詰み。▲65桂に△同歩でなく、44に玉が逃げても、42に玉が逃げても詰み。▲52飛に、44に玉が逃げると詰み。▲5三角に△85玉と逃げると、詰み筋がある(きわどい逃れ方の変化はある。)せっかく調べたんで、全部具体的に書いてやろうかと思ったんですが、もう力尽きました(笑)。
あと、先手が受けに回る手は、さすがにダメなんでしょうねえ。

王位戦第七局(補足) 銀河戦 渡辺竜王vs飯島五段、銀河戦決勝 渡辺竜王vs森内名人

まず、昨日の王位戦の最終盤について。▲7七桂が芸術的な詰めろ逃れの詰めろだったわけですが、方々のブログを見てまわると、さらに△7六桂という詰めろ逃れの詰めろ返しがあったということです。私は、それは後手玉詰むじゃん、などと思っていたのですが、ある高段者の方が某SNSで書かれている日記を見て飛び上がりました。以下、私の同類のウッカリハチベエのために(笑)、簡単に手順を紹介しておきます。
まず、△7六桂自体は、△8八桂成▲同玉△7九銀打以下の簡単な詰めろ。
なので、先手は詰ましにいくのをまず考えるわけですが、本譜と同じ手順でいくと、▲5一龍以下、△6三玉▲5三飛△7二玉のとき、7六の桂が邪魔で▲7四香が出来ないので詰まず。

(9/28追記)
△5一竜以下の変化について、コメントでご指摘をいただきました。この変化だと別に香がなくても▲7三歩で簡単に詰んでしまいます。▲7八香が関係してくる正しい変化は、▲5一竜△5二歩▲5四飛△6三玉▲5二飛成△7三玉▲7一竜△8四玉。その時、香がきいていないので▲7四竜と出来ずに詰まない、でした。単純ミスで恥ずかしいです。お詫びします。


また、△7六桂に対し、▲6三金は△同玉▲6一龍△6二金以下詰まず。
で、私が飛び上がった順ですが、後手も桂馬を打ってしまうと、合い駒に使えず危ない筋が生じます。△7六桂に対して、▲6二金打△同角▲6一龍△8二玉▲6二龍△7二銀(桂がない)▲7一角△8一玉▲7二龍△同玉▲6二金△8一玉▲8二銀△9二玉▲9三銀成、の時になんと後手の6六の角がきいていて取られてしまいます!
ということで、△7六桂は詰めろ逃れの詰めろ。先手は、さらに詰めろ逃れの詰めろで返すか、一度どこかで受けなければいけないわけです。さすがに前者は無理そうなので、どこかで受けるのでしょうが、後手も7六の桂が動くと詰み筋が生じるので超難解ということなのでしょう。さあ、後は皆さん、ご自分でたっぷり考えてください(笑)。

銀河戦の準決勝、後手の飯島さんが▲7六歩に対して△3二金。これは昔なら「挑発」と呼ばれたわけですが、今では佐藤康光二冠も、タイトル戦などでも用いた「根拠ある戦術」です(笑)。もっとも、先手が居飛車党の場合に限定で、藤井さん相手にやったら飛び上がって喜ばれてしまうわけで、「戦術」と呼ぶのには、なんとなく抵抗のあるところですが。飯島さんは、対羽生戦でもこれを用いていて、羽生さんは「大人」に居飛車で応じましたが、渡辺竜王は、位取り中飛車で対抗。これも勿論「挑発に乗った」とは今では言わず、▲3二金に対する有効な対抗手段ということになるのでしょうか(笑)。
将棋は、渡辺竜王が▲9五角と飛び出て、▲5七銀から七筋に飛車を振り直したのが、機敏な発想だったようです。以下、竜王が、厳しく攻め続けて押し切ってしまいました。渡辺竜王、やっぱり強いなあ、厳しい将棋だなあ、こわい人だなあ、と思わせる将棋でした。
でも、飯島五段が悪くしてからも実に粘り強く堂々と受けているのも、すごく印象的でした。よく将棋を知りませんが、相当腰の重い受け将棋のようです。そういえば、あの羽生さんも攻めあぐねて負かされていました。
実際、▲8二龍の時に、8七の馬を見捨てて△3三玉と力強く上がっていると、かなり難しかったそうです。すごく竜王が一方的に攻めているように見えた将棋ですが、プロがしっかり受け止めるとそう簡単には決まらず、バランスがとれていて、なおかつ、どんな将棋でも、一度は不利な方にもチャンスが来るものなのだなあと思いました。
とか書いているうちに、決勝が始まってしまいました。こういう場合、同時録画時間差再生という便利なものが出来たのが、ありがたいところです。←オヤジ。

ハイ、決勝を見終えました。将棋三昧もいいところです(笑)。
渡辺竜王、和服で登場。渡辺先手で、森内さんが矢倉を受けてたちました。戦形は、竜王が先手後手でも得意とする▲4六銀▲3七桂型。森内さんが、△8五歩を伸ばし、先手が穴熊に組もうという、決勝トーナメントの片上戦でも指されていた、最新のテーマ図の形に。二人とも、研究しているところは、本当にガンガン飛ばしていました。
森内流の対策は△3五桂から、桂を成ってもたれてくるというやり方でした。しかし、▲2六桂から香車を無条件に取られ、解説の谷川先生によると「入玉でもしないと勝てない形」に。いくらしのぐのが得意な森内名人といえども、こんな形を研究で想定していたとはとても思えない展開になってしまいました。
でも、その後の森内名人の受けの強靭さがすごくて、さすがの渡辺竜王も持てあました感じになり、一時は谷川先生も「逆転したかもしれません」とまで言われていました。▲5三歩成を素直に△5三同銀ととっていたら、どうなっていたのでしょう。
しかし、最後はゴチャゴチャの形がうまくほぐれて、渡辺竜王が勝ちきりました。決勝戦で感想戦はナシだったのですが、中盤の分かりにくかったあたりなど、きっとブログで読めるのでしょう(笑)。
不調といわれながらも、きっちり棋戦優勝。これでも調子が悪いといわれるのは、一流棋士の勲章なのだと渡辺ファンとしては言っておきます。一方の佐藤さんも同じ。二冠を保持していて竜王に挑戦できても、まだ不満と思われる棋士ということなのでしょう。竜王戦、両者とも、準備と調整が万全なはずなので、どういう序盤作戦を用いるかなども楽しみです。
今日は、聞き手も、本田さん、矢内さんという好きな女流だったし、渡辺さんが優勝したので気分が良く、昨日の羽生ショックから少しだけ癒されました(笑)。



王位戦第七局 深浦王位奪取

いや、終盤何が起こったかわからないまま書き始めています。最後の方をライブで見ていたのですが、羽生さんの一手勝ちなのかなどと、ノンキに見ていたのですが▲7七桂が絶妙の詰めろ逃れの詰めろなのですね。驚きました。
まあ、羽生ファンとしてはショックです(笑)。でも、今回のシリーズを通じて、やはり深浦さんの底力が光りました。最後もこうして終盤で競り合って勝ったのですから脱帽するしかありません。やはり、深浦さんは、実力をいかんなく発揮して一流のトップ棋士の一人だということを証明したシリーズでした。深浦ファンの皆様、おめでとうございます。
でも、最終盤、本当に羽生さんの勝ちはなかったんでしょうか。もしあったとしたら、その方がショックなんだけど・・・。
ゴキゲンのスペシャリストの一人、遠山四段が、△3二金を研究したことのある手だと言われていましたね。しかも、先手が穴熊に組み替えるのまで、研究されているとか。本来近藤さんのオリジナル戦法だったのが、とんでもないところまで細かく深く研究されているのだなと思いました。一番被害をこうむっているのは、多分近藤さんなのでしょう(笑)。
今、王位戦のページに「道新スタッフブログ」というのがあって、かなり具体的に手の解説をしているのを見つけて読んでみました。最終盤、プロでもすぐには▲7七桂は気づかなかったらしい。他にも、色々変化手順があった難解な戦いだったようです。うまそうに見えた△3一金がどうだったか、△6三玉でなく8二に逃げるとどうだったか、△7三同桂でなく同玉ならどうか、そして最後何とか7七桂の必殺技を回避できなかったのか、さらに最後の最後詰まされるしかどうしようもなかったのだろうか、など、色々な疑問がわくところです。先手には▲5三金以下の千日手の権利があったわけですが、あえて打開して踏み込んだのが、結果的に勝利を呼び込んだ形になりました。
とにかく、深浦さん、強い。まあ羽生さんもこういう人たちと年中戦っているのだから、やりがいもあるのだろうと、負け惜しみで言っておくことにします
(笑)。

王位戦第6局、銀河戦 羽生三冠vs飯島五段

王位戦は棋譜解説がないので、相変わらずよく分からないまま書き始めている。
後手番の羽生さんが採用したのはゴキゲン中飛車だった。今回の羽生さんのテーマは、深浦さんが通暁して得意とする最新形の相居飛車を真っ向から受けてたつことかと思っていたが、ここに来て始めて振り飛車。やはり深浦さんの相居飛車の先手の力を認めたという、うがった見方も出来るかもしれないが、こういう柔軟なところが羽生さんらしいともいえる。まあ、なんせ羽生ファンなもんですから。また、あらゆる戦形をレベル高く指しこなすからできることでもある。
深浦さんの対応策は、5筋を突かずに腰掛け銀から玉頭位取りに組み替えるというもの。組みあがった感じを見ると、深浦さんの厚みがすごい上に、羽生さんの守りが薄く玉頭に弱み、爆弾を抱え、さらに常に先手に▲5六角ラインの筋があって、なんとなく深浦十分に見える。
羽生さんが桂を飛んで動いてきて、深浦さんが堂々と一歩交換から桂を召し取るという展開になった。
その後、飛車交換してから、何が起こったのかがよく分からない。△6九角が、想像以上に厳しかったということなのだろうか。それまで流れとか駒損とか関係なく、ひたすら羽生さんが攻勢になっているのには驚いた。金をポロッととって、再び馬が入る余裕があるようでは、さすがに相当羽生さんが良さそうなのだろうと私にだって分かる。粘り強い深浦さんが、全く抵抗できないままに押し切られてしまった。今回羽生さんが勝つパターンはいつもそうだ。
なぜ、最後こんなに一方的になったのか、どこがまずくて深浦さんが悪くしたのかが、よく分からない狐につままれたような印象だ。まあ、弱い私としては解説を待つしかない。

銀河戦、羽生先手で角換わり腰掛銀同型に。渡辺明プログで自戦解説されていた、△3七歩成りの「渡辺新手」と全く同じ展開になった。当然二人とも知っているはずだ。特に後手の飯島さんは、それこそ詰みまで研究したのに違いない。渡辺フログでの、先手▲3五桂でなく、▲1一角と打った。しかし、それを飯島さんにうまく受け止められて、さすがの羽生さんもほとんど見せ場を作られずに斬られてしまっていた。感想戦では、▲1一角でなく、▲3二香成、△同玉。▲2一角、△同玉、▲2三飛成、の変化を熱心にやっていたが、これもまた難しいそうである。
この△3七歩成は、早く△7六桂と打つ狙いだそうだが、確かにこれ一本打たれただけで、たちまち先手玉は気持ち悪くなる。しかも、その後飛車が入れば一手詰みの形になるので、先手は飛車を渡さずに攻めなければいけないという条件まで背負う。
と書くと、相当有効な手段に思えるが、私のようなファンがこうして書いたりしているころには、もう徹底的に研究されて先手の対応策も見つかったり、指されたりしているのだろう。
どちらにしても、羽生さんみたいな人が、何も好き好んで飛び込むような変化の将棋ではないと思う。でも、「最新戦法の話」を読むと、羽生さんというのは、常に最新形に顔を出して、結論を出したり結果をさらっていく一番の棋士ということだ。但し、さすがの羽生さんも8五飛戦法では、結構研究で痛い目にあったらしい。この角換わり同型でも、徹底的に研究が可能なので、痛い目にあう危険があると思うのだが。それでも敢えて飛び込んでいくのが羽生流なのだろう。

王位戦第五局、銀河戦 佐藤二冠vs中田宏樹八段、将棋世界2006/7「佐藤新手の謎」

王位戦第五局、なんと言ってもインド人もビックリ?なのが、▲9七同玉!(いくつくらいこのマークをつければいいのでしょう)でした。私が深夜酔っ払って24で30秒将棋を指しているような手である(笑、いや我ながら笑えない)。
銀桂交換でも、相手が歩切れということ以外思いつかないわけだが、深浦さんが怒ったように?猛攻をかけた最強の手順できたところを、きっちりカウンターして、最後は私でも分かるような一気の寄せで完勝。もっとも、深浦さんの指し方も、平然と銀桂交換を許したのをとがめようという意図、歩切れなのでゆっくり出来ないということで、方針としては理にかなっているのかもしれません。なんか、第三局の終わり方と似ていますね。
▲9七玉は、羽生さんらしい常識にとらわれない手といってしまえばそれまでですが、無論、きちんとした合理的根拠があるわけで、それを詳しく具体的に知りたいところです。

銀河戦、佐藤さんがまた新趣向を見せてくれました。後手無理矢理矢倉のような出だしから、△4三金から向かい飛車で、しかも穴熊!(また、このマークいくらあっても足りません)。どシロウトでも、この形で穴熊にするのは「バランス悪っ」と言いたくなってしまうのですが。
以前、佐藤将棋について書いたとき、佐藤ファンの方から、「佐藤将棋の序盤は、少しでも得を追求しようとする合理性だ」という意味の指摘をいただいて納得しました。本局の場合、居飛車側に穴熊に組ませず、自分は最後まで囲えなくても、とにかく玉を攻めから遠くして、玉形の差で戦うといったことなのでしょうか。いや、そんな大雑把な話のわけはありませんが。
しかも、解説の森内名人もビックリの△5四歩の最強のツッパリで乱戦に持ち込み、最後は戦いながら鉄壁の遠い、遠い穴熊囲いを作り上げて圧勝。佐藤将棋も、やっぱり魅せてくれます。

この前、調べものがあって図書館に言ったときに、将棋世界のバックナンバーに「佐藤新種の謎」があったので読んでみました。週刊将棋の特集以上に踏み込んだ内容で面白かった。
王位戦対羽生での△1二飛車の「ニート飛車」(週刊将棋記事の命名)。王座戦対羽生の「モノレール向かい飛車」。どれもこれもすごいのだが、佐藤二冠自身の具体的説明を聞くと、やはり「合理性」を考えて指しているようです。いくつか、佐藤将棋を考えるポイントになりそうな部分を引用してみます。
「力戦とか奇襲とか言われますが、自分としてはいつも理論的に最善の手を積み重ねているつもりなんです。それがたまたま、変わった形になるだけで」
この記事を読んで、具体的にこの発言の意味が、なんとなく分かった気がしました。
「(初手△3二金をタイトル戦のかどばんで指したことについて)大事な将棋だからこそ試す価値があるんです。」
最近羽生さんが負けると苦しくなる王位戦で、勝率の悪い後手角換わり腰掛銀同型を採用したのを連想しました。
「僕は序盤で思い切った手を指す時はその前に必ず自問自答するんです。これで負けても悔いはないか、と。そして悔いがないと確信がもてたときだけ、その手を指すようにしているんです。」
うーーん、男らしい(笑)。
「僕の場合、無駄な手を指しているかどうかが、序盤の形勢判断の基準になっている気がします。」
多分これが一番のポイントなのだろう。この考えを本当に徹底して推進すると、一見「普通じゃない」佐藤序盤になるということのようです。
「(あるインタビューの中で「自分の目標は将棋の必勝法を見つけることだ」と言ったことについて)あきらめることはしたくない。じぶんがやっていけば、なんとか見つかるのではないかと思っています。将棋を勉強しようという意欲も、好奇心も探究心も、つまるところそういう意識から生まれるものだと僕は思っているんですけど。」
佐藤康光とは、羽生善治とは、また違った道をたどって、将棋の神様に近づこうとしている棋士なのだ。
NHKの講座で、高橋和さんをアシスタントに入門講座をされるそうです。どうしても「普通じゃない」のを期待してしまうんですけどね(笑)。
コメントを承認制にさせていただいています。反映まで時間がかかりますが、お気軽にどうぞ。
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