棋王戦

渡辺明と佐藤天彦の棋王戦

最終局について、渡辺明がブログで次のように書いていた。
あれだけやって歩1枚の差なので、自分の全公式戦の中でも3本の指に入る将棋だったと思います。お互いに大きなミスもなかったですし。
渡辺が具体的にどの将棋を指しているのかは分からないが、本局以外ではすぐに思いつくのは渡辺の△7九角が出た佐藤康光との竜王戦第三局、そして羽生善治との竜王戦第七局である。どちらも伝説的な将棋だけれども、本局もそれと同レベルであると。わりと自分の将棋に対する評価がシビアな感じのする渡辺にも納得のいく将棋だったのだろう。
例の▲7七桂については、結果的には△8五金なら負けだったので、極端に合理的な渡辺だと、「負けだったんだから別に名手とかじゃないですよ、ハハハ」とか言いかねないと心配していたけれども、(いや、あの手について具体的に聞かれたらそう言う可能性もいまだにないとは言えないけれど)、少なくとも将棋全体としては本人も満足できる将棋だったという事である。そもそも、負けだとしても▲7七桂以上の勝負手はなかったわけだし。
昨日も書いたが、▲7七桂は詰めろを消しつつ相手玉が6五にくるのを防いでいるが、その後の進行を見ても実によく守りにきいていたし、また後手の△2七馬のききを▲3四飛▲4五玉とすることで遮断して先手玉が詰みにくくするという読みも複合していて、やはり複雑な組み合わせをよく読んでできている美しい手だったと思う。
しかも、佐藤天彦がツイッターで述べていたように、仮に△8五金としても、後手が指しにくい△4六同玉としないと勝てない難しい局面が続いていたはずで、名局だった事は間違いない。
そもそも、そういう結果的な分析よりも、将棋は生き物なので、生で観戦していた際のあの▲7七桂の驚きや感動はなにものにも代え難いし、個人的には渡辺の△7九角以来の手だと感じた次第である。
そう言えば、ニコ生で解説をしていた深浦康市が、羽生相手の王位戦第七局で指した伝説的な手も同じ▲7七桂だった。ちょっと因縁を感じてしまう。また、あの▲7七桂に対しても実はよく調べると羽生に正しい対応があった事がその後分かった。その点でも似ているが、だからといって▲7七桂の価値が減じることはない。それはその将棋も本局も同じで、将棋全体がそれがなくとも名局なのに、その末にこういうドラマティックな手がでたので感動するわけだ。

今回、正直に言うと事前に私は佐藤天彦がもつれた末に奪取するのではないかと予想していた。佐藤の充実ぶりと、直近の渡辺天彦の内容結果を考えると明らかに流れは佐藤の方にあったと思う。
その流れをいきなり完全に断ち切ったのが第一局である。新手の△73角で完全に流れをつかんで、以下ゆるむところなく完璧にかちきった。
渡辺の勝負強さの秘密は、こういう絶妙な新手を本当に大切な対局に準備して指せることである。羽生相手の急戦矢倉での二つの新手の事を、(ファンとしては苦々しく)すぐ思い出してしまう。単に勝っただけでなく、佐藤の自信をくじいてそれまでの悪い流れを完全に絶ってしまった。
第三局で、一時飛車損になったが、二枚のと金が大きくて指せるという大局観も見事だった。渡辺が勝ちはしたが、佐藤天彦の、もうダメだという局面を何度も何度もしのいでいく驚異の粘り腰も印象的だった。
そして、最終局は文句なしの名局である。恐らく年間最優秀対局の有力候補になるだろう。
ここしばらくのタイトル戦では、羽生世代同士あるいは羽生世代vs渡辺または若手の名局はたくさんあったが、若い世代同士でこれだけ濃密でレベルが高くてファンをうならせる将棋を見せてくれたのは初めてだろう。
そういう意味でも、価値ある画期的なシリーズだったと思う。

二人は仲が良いけれども、盤外でもなかなか楽しいやりとりがあった。
まず戦前には渡辺がブログでこのような印象的な事を述べていた。
・初場所の琴奨菊優勝に豊ノ島が言った「優勝してくれて一番うれしい人。優勝されて一番悔しい人。」この二人は小学生時代からのライバルだから、そこまでではないけども今度の棋王戦も同じような戦いです。
前夜祭でもあった。
両対局者にインタビュー
前夜祭(5)
二人は性格も棋風も対照的である。
鋭い攻めが持ち味の渡辺明に対して、粘り強い強靭な受けが特徴の佐藤天彦。盤外のやりとりでも、そのままの棋風だった。
このように性格が対照的だからこそ、仲もよいのだろう。とても良い「ライバル」である。

渡辺明の▲7七桂

▲3三角成とらしく鋭くきりこんだ辺りでは渡辺明がよさそうなのではないかと言われていた。
しかし、渡辺が普通に▲4五桂とするのにやや成算がもてなくて▲3四桂と工夫したのに対して、佐藤天彦が△2五桂と応じたのが見事で局面が混沌としてくる。(渡辺は渡辺らしくこの△2五桂が見えていなかったと局後に率直に認めていた。)
もう、わけがわからない終盤である。しかし、佐藤天彦が△2七角成としたところでは、その馬が大きくて後手玉は詰まない、そして銀を取ったのが先手玉への詰めろになっている。
ようやくハッキリしたか。解説の深浦康市もそのように述べていたし、観ていた全てのものがそう思ったに違いない。久々にすごい名局を見た、という感慨にふけっていたら…
渡辺が▲7七桂をピシリと指す。
まだ終わっていなかった。先手玉の詰めろを受けているだけでなく、後手玉が中段を逃げてきた際に6五も封鎖しているではないか。
佐藤天彦はもう一分将棋である。
ギリギリまで考えて△8五桂。
深浦も渡辺の▲7七桂に驚嘆しつつも、しかし後手玉への詰めろにはなっていないし、2七馬がきいてその後先手玉を詰ますことができそうと、必死に解説する。
聞き手の中村桃子が、でも▲3四飛と打って△4五玉とすれば馬筋が止まりますよね、と指摘する。
深浦が、いいところに気づきましたねと笑いながら言うが、笑い事ではない。そうなってしまうと、もはや渡辺の勝ち筋である。
本譜もそのように進んだ。何という渡辺の渾身の勝負手だろう。こんな名手は滅多にない。
渡辺が佐藤康光との竜王戦の終盤で放った△7九角以来の名手中の名手である。
佐藤天彦が秒を読まれる中、体をガックリと崩して頭を抱えてしまう。何と残酷で美しい姿だろう。
秒読みは無情に続いている。それでも、佐藤天彦はきちんと座り直して居ずまいを正してから、きちんと投了の意思を告げた。
▲7七桂は本当にすごい手だったけれども、△8五金としていれば後手勝ちだった。その点について、佐藤天彦が局後にツイッターでこのように説明している。
今日は棋王戦第4局対渡辺棋王戦。本当にいろいろありましたが、僕にとってのチャンスは111手目▲77桂の局面でした。ここは△85金と打ち、以下▲34飛△45玉▲46歩に△同玉と取れば勝ちだったようです。▲46歩には△56玉としてしまいそう(△46同玉は▲64角成が痛そうに見える)
ですが、それは負け。この二つのハードルをクリアすれば勝ちだったようです。ただ、実戦では▲77桂の局面で考えたのは△85桂、△84桂、△68飛成。▲34飛△45玉に▲46歩も見えておらず、正確に指せていたかどうか。どちらも一分将棋の中では今の自分にとって難しい選択だった気もします。
この悔しい敗戦を、実に冷静に客観的に振りかえってみせてくれていたのだった。
局後に、大盤解説場に肩を並べて歩いて向かう後ろ姿の二人が変化を話し合っている写真が中継ブログにアップされていた。
あの激闘の直後なのに、元の仲のいい二人に戻っているようにも見えた。

真の佐藤ナンバーワンは誰だ?

将棋界には「佐藤」がたくさんいるわけだが、将棋の強さという事で言うと、今までは「康光」さんが文句なく第一人者だった。そこにここのところ猛烈な勢いで割りこもうとしているのが、「天彦」さんである。
この二人、今期のA級順位戦の初戦でもあたっていた。天彦さんは、B1まですごい勢いで当然のように勝ち進んでいた。しかし、A級ともなれば話も別だ。康光さんは、周知の通り、こと腕っ節の強さでは将棋界でも他に類をみない存在である。だから、天彦さんがどれだけやれるかの丁度良い試金石になるだろうと思って観ていた。
結果は天彦さんの、「ど」がつくくらいの完勝。羽生世代信者の私などは、ちとショックを受けるくらいの内容だった。以降、勢いに乗った天彦さんは白星を重ねつづけて突っ走っている。名人挑戦争いの同世代ライバル、「明」さんも逆転で負かしてしまった。
というわけで、今まで何度も言われながらも羽生世代の厚い壁に阻まれ続けてきた世代交代もいよいよ本格化か?
...という雰囲気の中でおこなわれた、この二人による昨日の棋王戦の準決勝。これがまたすごい内容だった。
後手の康光さんが、飛車先を突き越しておいてからの向かい飛車。何十年前に類似局が何局かあるそうである。また、康光さん自身や最近では山崎隆之もこの飛車先突き越しの振り飛車はやっているような気がする。しかし、少なくともフツーの現代的な若手は決してこんな指し方はしない。
後手の康光さんが銀を8四まで進出させて玉はうすいが伸び伸びとした陣形を築き上げたのに対し、先手の天彦さんはミレニアムのような形にして玉の周りに金銀四枚をつけて低く構えた。堅さを重視する現代将棋の発想である。
但し、先手も6六に銀にいる形があまり良くなく天彦さんも自信はなく、康光さんも模様がよいと考えていたそうである。
しかし、後手も玉が薄いので網の目が破れるとすぐダメになる気をつかう将棋である。実際、こういうところから玉の堅さを生かして何とかするのが現代将棋の手法だ。
まして、天彦さんはこういうところから手をつくるのがうまい。実際、本譜の進行は康光さんの指し手に問題があり、天彦さんがうまく食いついて攻めが決まりそうな展開になってしまう。現代将棋の若手vsベテランではありがちな構図。
ところが、天彦さんも攻め方を誤り、康光さんが局地戦での力強さを発揮しだす。先手の攻めがきれかかってしまう。
そして、7一で金銀が周りにいなくなってポツンと取り残された玉が6二→5一と移動して戦いながら居玉に戻った。藤井システムでも居玉はあるが、それでも周りに金銀はいるし自分から猛烈に攻めている。守りながら二段目には金銀がいなくて玉が孤立している珍しい形になった。こういう力強い玉さばきは、かつて康光さんが久保利明の振り飛車を相手にした際にもあった。
それに対して天彦さんは玉を穴熊の位置に移動して粘ろうとする。両者の玉の位置が対照的で(あくまで結果的にだが)、二人の思想の違いを象徴するようにも見えた。
しかし、もうこうなったら康光先生は逃さず穴熊位置の玉頭にガツンと銀を露骨にうちこんでゆく。天彦さんも諦めずに受け続けるが、さらに康光さんは香車飛車を攻撃に足して最後は全く受けがきかず、後手の居玉が完全に安泰という結構すごい投了図になった。
途中危ないところもあったが、康光さんの持ち味が存分に発揮された実に「らしい」将棋。最後は圧勝で順位戦のリベンジに成功した。
現在の流れから言うと、棋王戦は渡辺明佐藤天彦の仲良し同世代ライバル対決になりそうな気がしていたのだが、康光さんがマッタをかけた。羽生世代は鍛えが違うし有望な若手も本当に大変である。
これで康光さんは勝者組の決勝進出。もうひとつの山は広瀬と阿部健治郎。広瀬は終盤力が抜群だし、阿部健はこのところ、羽生や渡辺を立て続けに破っており覚醒の気配のある有望な若手である。
誰が挑戦者になるかは分からないが、康光さんがこうなると最有望になったようにも思える。しかし、天彦さんも、今の勢いなら敗者復活で再度挑戦者決定戦に出てくる可能性も十分あると思う。
というわけで、将棋界の真の佐藤ナンバーワンは誰か決定戦は、この棋王戦の近いところでまた見られるかもしれない。

渡辺明のゴキゲン中飛車

少し前まで、渡辺明はゴキゲン中飛車のことを、気に入らない戦法、できれば自分の手で撲滅したい作戦(正確な表現は覚えていない)だと言っていたはずである。別に渡辺に恨みがあってこんな話を紹介しているわけではない。だから、渡辺が立て続けにゴキゲン中飛車を採用したのは本当に驚きだった。
王位リーグの佐藤康光戦、王将戦の羽生善治戦、棋王戦の三浦弘行戦と三連続の採用だから本気である。それではなぜか?
本質的な理由は恐らく(特に後手番での)作戦の幅を広げようという事ではないか。やはり、竜王位を十年ぶりに失ったのが事実として大きく、渡辺も何らかの変化の必要を感じたのだろう。
渡辺は竜王を獲得した頃は、後手では横歩取りのスペシャリストだった。しかし、その後に二手目に△8四歩と指すようになり矢倉も角換わりも受けて立つ本格居飛車正統派に変身した。その理由としても、苦労してでも作戦の幅をひろげることで自分の力を高めたいという意味の事を言っていたはずである。
だから、今回は渡辺にとっては恐らく二度目の大きな改造になるのかもしれない。具体的には居飛車の後手番はとにかく苦労が絶えないので、振り飛車も指してみようという考えだろうか。
しかし、なぜゴキゲンなのか。最初にも述べた通り、本来渡辺はゴキゲンがあまり好きではないはずだ。合理的で理路整然とした渡辺からすると、かつてはゴキゲンの悪く言うといい加減で感覚的なところが許せなかったのかもしれない。
でも、最近隆盛の角交換系の振り飛車、藤井流四間やダイレクト向かい飛車ではなくゴキゲンを選んだ。その理由もよく分からないのだが、推測すると角交換振り飛車はそもそも後手で手損するのが前提なので、その不合理性が渡辺にはゴキゲン以上に耐え難いのかもしれない。あるいは、もっと具体的な理由もあるのかもしれないが。
ゴキゲンの方は当初は変わった戦法と思われていたが、今や定跡が隅々まで体系化されて整備されている。だから、もはや普通の「戦法」の一つと言ってもよく渡辺にもそんなに抵抗感がないのかもしれない。
ゴキゲンが最近減少した理由は先手の超速▲3七銀戦法が優秀でその対応にゴキゲン側が苦慮していたためだった。佐藤も羽生もやはり超速▲3七銀だったが、渡辺はそれに対して△4四銀対抗型を採用している。この形は持久戦になり相穴熊になる事も多いが先手が少し指せると言われていたようだが、研究が進んで渡辺はこの形ならば後手でも対応できると考えているのかもしれない。渡辺は合理的なので、当然そういう具体的理由がなければ指さないはずだから。
佐藤戦と羽生戦を見ると、どちらも最初は作戦負け気味、しかし途中からかなり盛り返したりよくなったが、結局終盤は崩れた感じだった。一言でいうと、やはり振り飛車慣れしていない感じである。渡辺ほどの大天才でもやはり振り飛車は勝手が違うのだろうか。少なくとも相居飛車でのあの渡辺の油断もすきもない迫力と比べれば。でも、それはまだ指し始めたからかもしれないし、少なくともいいところなく負けたわけではなかった。
また、個人的にはやはり渡辺は、相居飛車の鋭角的な将棋が向いていて、振り飛車の場合によっては辛抱強く待ったり、時には駒の損得を度外視して捌いたりする(久保利明の様に)のは向いていないような気もするのだがどうだろうか。それとも、いつの間にか振り飛車感覚を自由に指しこなすようになって第二の大山になるのだろうか?
というのは冗談で、渡辺は本格的に振り飛車党に転向しようというのではなく、あくまでも「裏芸としてのゴキゲン」を加えて作戦に幅をもたせようとしているだけのような気がする。

棋王戦では三浦は超速▲3七銀ではなく、▲5八金右超急戦を採用してきた。三浦は渡辺の前二局を見て当然ゴキゲンをある程度予測したはず。そうなると、研究家の三浦は徹底的に事前に対策を練っただろう。そして、激しい変化で定跡研究が大切なこの超急戦を選んだ。三浦の事だから多分詰みの変化までやったのではないだろうか。
ただ、三浦の誤算は渡辺の対応だった。超急戦の最新流行は▲3三香と打つ都成流で、そのあたりの変化は三浦も徹底的に調べたはずである。
ところが、それらの変化になる前の段階で渡辺は△7二玉とした。前例は少ない。それに対して▲7五角として先手か勝っているので、三浦はその前例の変化を信じたか調べてもそれほど深くではなかった可能性が高い。
三浦は前例ではなく▲6三桂成と踏み込んで▲1八角と遠見の角を放つ新構想をみせた。これが研究だったのか、渡辺が当然▲7五角に対する準備がある事を予想してその場で考えたのかは不明である。但し、結果的にはこの三浦の構想はうまくいかなかった。
渡辺がブログで、「考えたことがない展開でしたが、」と述べているのはこの三浦の▲6三桂成以下の順のことを指していると思われる。(勿論、超急戦を想定していなかったという意味ではない。)
だから、三浦も研究していたにしても恐らくそれほど深くではない形、渡辺にとっては完全に以降は自力で指す世界になった。「研究勝負」ではなく、力の勝負、読みの勝負、「大局観」の勝負になった。
まず、先に独特な大局観を披露したのは三浦の方。▲2三歩と悠々と二枚目のと金をつくりにいった。後手玉は中央に厚い防護壁があって、普通だと到底間に合いそうにない。
さらに、後手の桂打ちに対して▲6五香。これも感覚的にはかなり普通ではない手である。香車が逃げると9九の後手の馬の筋が通って先手の1一の龍を取る事ができる。なおかつ龍を取られると先手の2一のと金が1一のソッポへ行ってしまうのだ。それでも、三浦は指せると考えたわけである。
ところが、それに対する渡辺の対応が実に秀逸だった。そのように龍をとっても十分だといわれていたところを、じっと9九の香車を拾っておいた。こうして馬筋もそのままにされると、先手は二枚目のと金をつくっても、そのと金が動くと馬で龍が取られてしまう。つまり、わざわざすぐに龍を取らなくても、この馬だけで先手の龍と二枚のと金が牽制され無効化されてしまっているのだ。
結局その後、先手は後手よりはやい攻めを見つけることが出来ず、渡辺の快勝になった。
▲6三桂成以下の「大局観」勝負で両者に主張があったものの、今回について言えば明らかに渡辺の方がまさっていた。三浦はそもそもの構想がどうだったかという将棋にさせられてしまった。
また、早めに△7二玉と変化する手を用意しておく事で、三浦の深い研究攻撃を防いだ渡辺の作戦巧者ぶりが発揮されたとも言えるだろう。
同じゴキゲンでも、渡辺はまったりとした攻防ではないこの超急戦だと持ち前の鋭さを出せるともいえるかもしれない。もっとも、三浦の方も本来こういう将棋が得意中の得意なのだから仕方ない。
感想戦は、ほとんど本譜の順を並べるだけで30分程度で終わったそうである。だから、この三浦の新手順の成否については何も分からないままである。感想戦をしながら三浦は何を思っていたのだろうか。
何とか第四局までもつれこんで、もう一度このゴキゲン超急戦の形を見てみたいような気もする。

郷田真隆が棋王奪取 2012棋王戦第四局

棋王戦中継サイト
第四局棋譜

感想戦の写真を見ると久保利明が明らかに痩せてやつれていた。今週もこれ以外に二局大切な対局があって結果が出ていない状態で迎えた本局。そして、A級陥落、王将失冠に続いてついに無冠に。ずっととんでもないハードスケジュールも続いていた。
さすがに郷田真隆ファンも今回は無条件に喜ぶ気にはならなかったようである。それくらい久保にとっては過酷な受難の冬だった。A級最終局の深夜の対局姿もそうだったが、全てを失いつつある久保の姿が妙に美しく感じられた。などというのも無責任なファンの残酷な言い草かもしれないが。

久保の石田流を後手の郷田が受ける形に。またしても、早々に△8五歩を突きこす強気な対策である。
久保がそれに対しては軽快に奔放に指しまわして居飛車を翻弄することが多い印象だった。ダルビッシュの多彩で強力な変化球のように(喩えがいちいちオヤジで申し訳ない。)
しかしながら、解説の谷川浩司によると、角道を止める石田流には久保は自信をもっているようで、むしろこの角交換の形が石田流側の懸案課題になっているそうである。ゴキゲンだけでなく石田流対策も着々と進んでいるのだ。
久保がNHK杯の▲永瀬vs佐藤康でも出た▲8五歩から動いて難解ながらも振り飛車が指せそうという評判だったようである。
ところが、その後久保がガタガタと崩れて行ってしまう。▲9二歩を打っておきながら▲9一歩成としなかったのは明らかに手の一貫性としてはおかしい。気になる変化があったためだが、感想コメントによるとやはりまだしもそうした方が良かったらしい。その後急激に形勢が傾いて最後は一方的になってしまった。
本局もそうだが、久保はよさそうな展開の将棋でも、微妙な読みや大局観の狂いがあって勝負どころをことごとく逃してしまい、久保らしさに欠けた。むしろよく分からない局面から魔法のように捌いてしまうのが久保の強さなのである。それが結果が出ず過酷なスケジュールも重なって、久保の精密機械に微妙な狂いが生じてどんどん修正がきかなくなってしまったように思える。
一方の郷田は本局に関しては流れに乗じて勝ったが、第二局第三局でのスケールの大きい受けと将棋の正道をいくような堂々とした指し手が見事だった。久保の特異な振り飛車を真っ向から受け止めてはね返してしまった。郷田らしさが良く出ていたシリーズである。振り飛車対策にも、いかにも郷田らしい個性があった。羽生とは違った意味で、郷田も若手にとっては超えがたい高い壁でありつづけるような気がする。将棋の基本体力や身体能力が桁外れなのだ。
先手の石田流に対して佐藤、郷田の二人掛りで久保がもっとも得意とする空中戦乱戦の展開に、角交換型での対策を講じた印象である。二人の力の強さがあって可能だったのかもしれないが、さらに石田流対策定跡が精緻化して進化することも予感させた。
そして、その対策が爛熟して完成されつつあるのが後手ゴキゲンに対する先手の超速▲3七銀である。そもそも、ゴキゲンも石田流もある程度大らかに互角程度に序盤を進めて、あとは個人の力と独特な振り飛車センスでなんとかするという発想である。久保一流の捌きがその際たるものであろう。
ところが、居飛車党が隅々まで調べつくして一切の誤魔化しを振り飛車に許さない段階まで達してしまった。久保が抜群の腕力を発揮する前にどうしようもなくなるところまで研究が行き届いてしまったのである。
久保個人の不調もあったが、振り飛車全般が危機的状況にあると言えるのかもしれない。藤井猛も、今年の順位戦でこだわりのオリジナリティを追求して角道オープン型四間飛車を採用し続けたが結局結果が出せずに、まさかのB級2組陥落の憂き目を見た。
ゴキゲンもダメ、角交換四間もダメ、先手石田流も先手中飛車も対策が急激に進んでいるとなると、まさしく振り飛車党は振る場所がなくなってしまう。久保は以前「飛車を振る場所がない」と嘆く状態から、ゴキゲンと石田流を開発して二冠まで獲得したが、再び同じ状態に戻りつつあるのだろうか。
久保個人の受難ではなく、振り飛車全体の受難、真冬の時代がこれから始まるのだろうか。
それにしても羽生世代のしぶとさは尋常ではない。現在、森内名人、羽生二冠、佐藤王将、郷田棋王である。そして、渡辺明だけが孤軍奮闘して二冠。羽生世代王朝の栄華と独占状態に、渡辺一人が必死に戦いを挑むというのは、一体何年前に言われていた状態なのだろうか。
時代と完全に逆行している。将棋の世界にどんな異変が起きようとも、羽生世代だけは永遠の生命を保ち続ける謎の仙人のように生き残りそうな勢いである。「達人」位イコール「竜王・名人」になっても私はもう驚かない。
一時期、福崎文吾がほとんど永遠に「前王座」だというジョークが流行ったが、それも去年渡辺が崩した。今年は羽生世代が時代を逆行させているので、恐らく「次期王座」は福崎だと囁かれることであろう。

今回の立会人は加藤一二三で、ニコ生の大盤解説にも登場していた。また、ネット中継では、銀杏記者が棋王戦中継と併行して「加藤一二三中継」を行ってくれていた。
加藤がある時タイトル戦で中原誠と戦って「見事」に勝った。その時、中原が感心するかのように言ったそうである。「加藤さんは堅太りなんだねぇ。」加藤は自分でも太っているのは認めているが、中原はそれを単なるブヨブヨした太り方ではないと認めて、それが加藤流の解釈によると加藤の勝利につながったそうな。
加藤一流のポジティブ・シンキングもさることながら、加藤にそんなことを言う中原も中原である。「自然流」というよりは「不思議流」がふさわしい。なんだかよく分からないが和むいい話である。
しかし、それでも加藤は話し足りなくて持ち時間が全然足りなかった。加藤党党員としても、いちいち話を打ち切られては欲求不満に陥る。
というわけで、ニコニコさんは加藤を単独解説者として呼んで、一日思う存分話しをさせてあげて欲しい。普通なら聞き手がいる方がいいが、加藤先生に関しては全く不要である。加藤一二三独演会で結構。
桂文楽や古今亭志ん生の名人芸に「聞き手」は必要ないのである。

2012 棋王戦第三局 久保棋王vs郷田九段

棋王戦中継サイト
第三局棋譜

二人とも金曜日の深夜までA級順位戦の激闘を続けていた。大変な強行軍である。
特に久保利明は、A級陥落の上に王将戦と棋王戦のハードスケジュールである。順位戦のニコ生解説で行方尚史が「久保さんは最近よく前後際断と言ってますが、本当にこの状況で実行出来たらたいしたものです。」と言っていたが本当にそうだ。
後手の久保のゴキゲンに対して先手の郷田真隆は「超速▲3七銀」。もう最近はこればかりである。A級最終局のBS解説で勝又清和が超速の激増ぶりのデータを示していた。超速は毎年25→116→150と局数が増え、今年度のゴキゲン312局のうち超速がほぼ半数。さらに久保のゴキゲンに対して相手は10局連続で超速で半年以上超速だけと戦い続けてきたそうである。
久保はA級最終局の△4四銀対抗型でなく△4四歩の菅井新手。丸山忠久の対策が優秀だったからか、同じ形を続けるのを避けたのか。どちらにしても、大変なのは次々に新対策が突きつけられてそれに対応しなければいけないゴキゲン側である。
郷田が採用したのは、羽生善治が朝日杯の準決勝で菅井竜也相手に新手で指した▲7八銀型。二枚の銀が中央にとんどん進出する形である。
久保が先に変化して、さらにいきなり△6六角ときる過激な順。しかし、本局も前局に続いて郷田の対応が冷静だった。
久保が強引に竜をつくるが、郷田が銀を投入して動きを封じ込め、角筋を気持ちよく通して角を天王山に進出し、久保がなんとか暴れようともがくのを一つ一つ丁寧に相手して、完全に盤面全体を制圧して久保は全く指す手がなくなってしまった。珍しく早い投了。
前局と全く同じ展開である。久保が強引に手を作りに行ったが、郷田がセンスよく重厚にしっかり受け止め、久保は何も出来なくなってしまった。両局とも久保の動きに問題があったのは事実だが、そう見えるのも郷田の対応がスケールが大きく堂々としていて非の打ちようがなかったからである。まるで、駒落の上手が下手の無理攻めをその狙いの全てを見抜いて完封するかのようだった。
超速という流行の作戦を使っていても、結局勝ち方は郷田流なのが将棋の面白いところである。それは、王将戦の佐藤康光についても同じことが言える。
久保は最後ポッキリ折れたような投了の仕方が気にかかる。普段の久保ならまだまだ粘り抜く筈だが、やはり疲れがあるのだろうか。あるいは、丸山戦でずっと苦しい将棋を強いられた上に、ジワジワと追いこめられてつらい負け方を強いられたのがトラウマになったのか。
次局の久保は先手。少なくとも「超速」は見ないでもすむ。

ニコニコ生放送の解説は深浦康市と本田小百合だった。珍しく女流の聞き手がついた。何でも深浦が第一局の豊川孝弘と第二局の森下卓が喋りの達人過ぎるので、自分一人では大変だと考えて要請したようだ。その辺りも用意周到な深浦流である。
しかし、その謙遜の言葉とは裏腹に深浦のトーク内容が大変面白かった。我々一般将棋ファンは、将棋内容だけでなく棋士たちの個性的過ぎる行状にも大変興味がある。深浦はその辺がよく分かっているようで、魅力的なエピソードをたくさん話してくれた。
しかしながら、深浦が楽しそうに話すのを聞いていて、実は深浦自身もそういうのが大好きなのではないかと思った。いや間違いない。なんせ、加藤一二三が朝食バイキングで大皿を何杯ももお代わりし、最後はフルーツ一杯の一皿で仕上げるのを「遠くから」観察し続けたりするのだから。
深浦が羽生善治とタイトル戦で対戦した時のこと。羽生がおやつにアイスクリームを頼んだ。アイスが運び込まれてくる。しかし、局面が緊迫していて羽生はなかな手をつけない。
逆に深浦が気になりだした。このままでは、アイスが溶けてしまうではないか。しかし、羽生は読みに没頭していてアイスのことなど眼中にない。深浦は気が気でない。どんどんアイスが溶けていってしまう。そしてついに完全に溶けてしまった。
すると、羽生がフト気づきアイス―ではなくヴァニラ・ジュースに手を出すと、ジュルジュルと飲み干したそうである。深浦は思った。「これは到底勝てない」と。実際、深浦は負けたそうである。


2012 棋王戦第一局 久保棋王vs郷田九段

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第一局棋譜

郷田先手で後手久保のゴキゲン中飛車に。郷田の超速▲3七銀に対して久保は△4四銀の対抗形に。
現在将棋世界誌に連載中の「最強久保振り飛車 さばきのエッセンス」で先月からこの△4四銀型を解説している。タイトル戦の最中にその命運を握るような大切な形の講座をしているのもすごいことだ。これがプラスになるのかマイナスになるのかは分からない。手の内を明かすマイナスと相手に対する牽制になるプラスと。
今月号によると、従来△4四銀型は堅実だが捌きにくいと久保も思っていたが、最新研究によるとその後相穴熊になった場合にゴキゲン側が可能性や希望を感じているそうである。
現在のゴキゲンの最新状況を簡単にまとめるとこうなる。
1、居飛車側の対策は「超速」が大流行で決定版になりかけていた。
2、ゴキゲン側はやや対応に苦慮していて△4四歩の菅井新手などの工夫があるが必ずしもうまくいっていない。
3、従来△4四銀型は堅実な代わりにすぐにゴキゲンから動けないので居飛車は穴熊に組めて相穴熊になれば居飛車も十分戦えるという認識だった。
4、現在その△4四銀が見直されてきている。それは相穴熊でもゴキゲン側が戦えるのではないかと考えられているからである。
つまり、本局はゴキゲンの最前線の注目型で王将戦にも影響を及ぼす大切な形である。
郷田は相穴熊ではなく左美濃から銀冠にした。それが、久保の研究の指摘の通りに相穴熊だとゴキゲンも指せるとみたのか、人真似を嫌う郷田の個性なのかはよく分からない。
居飛車も穴熊ではないので、押さえ込んだり分かれでも少しよくしたいところである。しかし、本局の場合は郷田からうまい仕掛けがなかったようで、結局穴熊に組み替えて金をひきつける辛抱の手順を余儀なくされた。
その間に久保は飛車で歩をきって二歩を手にする。久保の作戦勝ちである。もし、居飛車の銀冠の作戦もうまくいかないのなら△4四銀型は有効ということになる。
それにしても、先手は歩がないのが本当につらかった。動こうにも動けずに▲9六銀から8筋で歩交換しようとしたが、久保が△7三桂と穴熊のパンツを脱いでまでして防いだのが好手だったようである。結局その桂馬を攻めにまで使ってしまった。
結果的には久保の快勝だったが、途中のそうしたやりとりは見応えがあった。郷田も自滅せずに辛抱強く指して▲9六桂から相手玉の嫌味をついて怪しくなったようにも見えたが久保が冷静にかわしたようである。当たり前だけれども久保だからこんなに簡単に勝てるように見えるだけなのだろう。
久保は順位戦に続いて勝ち。ようやく調子をあげてきたのだろうか。そもそも調子が悪かったのではなくも居飛車のゴキゲン対策に苦慮していただけなのかもしれない。この△4四銀型が久保にとってタイトル防衛の生命線になるのだろうか。
郷田は別に明確な悪手があったわけではなく、そもそも将棋のつくりに問題があったようである。その意味ではショックは大きくないかもしれないが、分かれがうまくいかないと久保相手だとやはり厳しいようにも思える。
本局を見ても、二人とも中盤から終盤にかけてよい将棋を勝ちにつなげる技術が高いので、序盤の研究がことの他重要になるのかもしれない。

ニコニコ生放送の解説は豊川孝弘。花粉症で鼻をズルズル言わせていたが朝から元気一杯だった。こんな調子で最後までもつのかと思って、昼にのぞいたら全くテンションが落ちていない。さらに夕方見ると相変わらず元気溌剌オロナミンCだった。別にダジャレがうつったわけではない。
味よしみちお、間にあわじひとしげ、あおの取るいち、はたけやま成るゆきといった棋士名ダジャレなど、技のデパートならぬダジャレのデパートあり、将棋界の面白エピソードトークあり、「ニコ様」と呼んでのニコ生運営者いじりあり、と長時間の放送でもとにかく飽きさせなかった。貴重な人材である。彼が聞き手役でトップ棋士をゲストに呼んで話をひきだすというのも見たいような気がした。「ニコ様」の役割を豊川さんがやって。
とにかくマンモス楽しい放送であった。ちなみに「マンモス」のオリジナルが酒井法子であることなど今の若い人ははたして知っているのだろうか?

久保二冠堅持 王将戦第六局vs豊島挑戦者 棋王戦第四局vs渡辺挑戦者

久保利明二冠にとっては、本当に大変な時期の防衛ロードになったが、見事な内容で難敵二人を退けた。現代的な将棋の風潮をまったく意に介さないかのような奔放な久保流の振り飛車が爽快だった。

王将戦中継サイト


王将戦第六局は、久保先手で石田流。豊島は、やはり本石田に組ませる作戦に出た。久保は第四局同様▲6五歩の仕掛けだが、前回は▲7八金型、今回は▲5八金型と常に微妙に形を変えてくる。何度か書いているが久保の振り飛車の研究は、同じ形を突き詰めて優勢にしようとする居飛車的な研究と違って、次から次へと指せそうな形を繰り出して、あとは力で勝負するというところがあるような気がする。きわめて現代的な振り飛車だが、伝統的な振り飛車の水脈と確実につながっているものがあるのだ。
本局では、▲9八銀の辛抱から、見事な捌きと辛抱とを組合わせた緩急自在な指しまわしで、いつの間にか振り飛車必勝の局面を築きあげてしまった。本シリーズを通じて、序盤研究では互角かあるいは豊島の方が少し深い、また終盤では豊島も久保と完全に互角に渡り合っていた。しかし、中盤のいわゆる棋士としての独創的な「大局観」が必要とされる局面で、他の棋士には決して真似することができない独特な感性を発揮して、その部分では完全にシリーズを通じて豊島を圧倒していたように思う。「捌きのアーティスト」の看板に偽りなしで、まさに久保にしか出来ない個人芸の世界で、さらに最近それが進化して達人の境地にまで至ったような充実振りだった。
豊島の局後の感想が、それを分かりやすく物語っていする。
(豊島は)「中盤のよくわからないところで差をつけられることが多かった」、と語っていた。久保王将の印象を聞かれると、「すごい強かったです」。あどけなさが残る顔で、さわやかに笑っていた。
そう、久保は「すごく強かった。」その通りである。そして、それをきちんと言える豊島にもなんとも好感が持てた。
久保の今回の震災についての言葉も素晴らしいので、ここに全文引用して記録に残しておこう。
(大震災後の対局について)「正直、ここで対局していいのかという思いもありましたけれど、対局をやると決まってからは、自分のできることをやるしかないので、粛々と対局に臨もうと思っていました」(久保王将)
「私も兵庫県出身で、阪神・淡路大震災の際には大変なことがありました。東北地方の方々には頑張っていただきたいなと思っていますし、私も何かできることがあればやりたいと思っています」(久保王将)

棋王戦中継サイト

久保もハードスケジュールで大変だったが、渡辺も東京在住で、大きな被害はなかったものの、様々な混乱や不安要素のある中、なかなか万全の調整というわけにはいかなかった筈である。勿論、本人はそれを言い訳にはしないだろうが。
後手の久保のゴキゲンに、渡辺は超速▲3七銀。快勝した超急戦を採用しなかったのは、自身の研究で何か不安があったのか、それとも具体的な問題ではなく研究だけで決まりかねない形なので、連採するのは避けたのか。
よくある飛車銀交換になる形になりそうだったが、渡辺が新研究を披露。以下、渡辺が▲5七銀の好手から快調に攻め立てたが、こういうところからの粘り方が現在の久保の一番の特徴である。王将戦でも述べたように、とにかく久保の中盤は一筋縄では行かない。
飛車交換に持ち込んだあたりでは、難しくなったそうである。しかし、渡辺も終盤戦の競り合いの強さを発揮して、妙手順ではっきり勝ちの場面にまで持ち込んだ。これも、竜王戦などで渡辺がみせつけていた強さであって、両者の持ち味が発揮された将棋になった。
ところが、最後に落とし穴。△7六玉が詰めろ逃れの詰めろで、劇的な逆転劇。無論、渡辺にすれば不本意きわまりないのだろうが、久保がなんやかやとアヤをつけて簡単には勝ちにさせなかったために生じた逆転劇とも言える。竜王戦で、羽生が渡辺を最後のところでうっちゃった将棋とも、ちょっと感じが似ていると感じた。
羽生と渡辺が現在覇権を争っているわけだが、久保も将棋の内容、強さで全然この二人にひけをとっていない。現に、「二冠」なのは羽生以外では久保だけなのだ。しかも、「振り飛車」という武器がある。そして関西。ますます、その存在感を増した二冠防衛だった。
そして、渡辺は相変らず、局後に正直だった。
(「(101手目は)ずっと▲7二龍で勝ちと思っていました。指す直前に▲6三龍もあると気付いたんですが、いろいろ考えるのはよくないと思って▲7二龍と指しました」(渡辺竜王)。逆転負けの心理を吐露。さすがのサービス精神だ)(中継ブログより)
普通なら悔しくて言えないようなことを、サラっと口にしてくれる。こういうところが渡辺の魅力である。

それにしても、今回の二つのタイトル戦での久保の将棋は本当に個性的で面白かった。魅せる将棋である。是非、プロ棋士の皆さんには深い久保将棋分析を期待したいところである。




棋王戦第二局 久保棋王vs渡辺竜王

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後手の久保のゴキゲンに渡辺の▲5八金右急戦。
定跡手順から渡辺が従来▲6五香打のところで▲1三龍の新手。久保が対応をあやまったようで、渡辺がよくなり最後は大差で快勝。
昨日書評を書いた村山慈明の「ライバルに勝つ最新定跡」をカンニングしながら、渡辺新手の狙いを素人なりに推測してみる。
▲6五香打の場合の以下の手順例は、△6六馬▲同歩△5六香▲5七香△同香成▲同金△5六歩▲同金△6七銀▲2八歩△5六銀不成▲2七歩△6五銀。
長くなったが、要するに本局の手順と同じで5六に銀を不成りでいって先手が打った香車を銀でとって先手の攻めを緩和すると同時に、再び取った香車で攻めることが出来るというわけである。
ならば、最初から狙われる香車を6五に打たずに、いつかは活用したい▲1三龍を先にやっておくということではないだろうか。
勿論、それだけの単純な話ではないのだろうが、村山が本で書いている手順が、あまりに本譜と似ていたので、そんなこともあるのかなと思ったのである。
ところで、本譜の久保の△6六馬も渡辺の▲1三龍も久保の△7一玉の早逃げも(従来の定跡で、もうすこし早いタイミングで△7一玉とする菅井新手というのがある)、実はこのゴキゲン超急戦ではよくでてくる手であって、全く新たな筋ではなく、渡辺はそれらの組み合わせやタイミングを工夫して、新手として提出したということである。そういうセンス・頭のよさが、やはり渡辺のすごいところだと思う。
竜王戦の角換わり後手での新手といいい、渡辺はあたためていた新手を大切な将棋で用いて結果を出している。勿論、それだけではなくて総合力もあるわけだが、こういう作戦での緻密な戦略性も、渡辺の大きな武器になっていると思う。
久保は、渡辺の新手に対してわりと早く△6六馬を決断したようである。その後の展開を見ると研究が万全だったようにも見えないので、ここは午前中指さないくらい慎重に手を選択すべきだったのかもしれない。控え室が△2二銀を指摘し久保も第一声でその手について言及していたそうである。また、解説の小林裕の指摘していた△5五飛も掘り下げる価値があったのかもしれない。
これで、第一局は久保の石田流▲7六飛が炸裂し、第二局は渡辺の超急戦での研究勝ちとなり、お互いにやりあった格好になった。改めて三番勝負だが、やはり序盤の作戦から目を離すことが出来ない戦いが続きそうである。
まだ感想戦の内容はアップされてないが、さすがにポイントについて本当のことを二人ともいわないだろう、しかし、渡辺のことだから正直に重大情報を情報公開するのかな?もし、そうだったら後でこの記事に追記でも入れるかもしれません(笑)。

2011棋王戦第一局 久保棋王vs渡辺挑戦者

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今回はニコニコ生放送があった。超時代遅れの私は実は今日までニコ動を登録してなかったんですが、ついにしましたよ。でも、バタバタしてあんまり見られず、午前中に戸辺の解説をちょこっと、午後に佐藤、中川、島が登場した辺りを断片的な見られただけ。本格的に夕方から見ようと思ったら定員オーバーでガックシ。というか終局していた。さらに、今見たら「タイムシフト機能」なるものがあって、事前予約して事後視聴もできるらしい。ビギナーなので知らずに後の祭り。次から試してみます。
というわけで、今終局直後にブログを書いたりしています。

石田流▲7六飛菅井新手に。中継ブログにも書かれていたが、将棋世界3月号の「イメージと読みの将棋観」にとりあげられている。対局者の二人もメンバーだ。
渡辺の発言要旨。
居飛車党は研究課題が多すぎてこの形まで手がまわらない、久保と戦うので研究するしかないが悩む。基本的には、先手が若干無理気味でリスキーではないか。それを先手が研究で補う感じ。△4五角は相手の研究だから打たない。△8八角成▲同銀△2二銀で一局ではないか。
久保の発言要旨。
菅井と話していて同じこの形のことを考えていて驚いた。菅井に実戦では先を越された。△4五角は菅井vs谷川の順で振り飛車が指せそう。△2二銀については、それでも急戦が成立するかをこれから研究する。
この将棋世界が、棋王戦開幕前に発売されている。なんという情報公開だろうか。二人とも、棋王戦でどう戦うかを、正直に話しているのだ。言っている通りの展開になったのだから。現代将棋ならではのエピソードだと思う。
発売のタイミングが直前だったけれども、少なくとも、久保は渡辺がそんなに深くは研究してないこと、なおかつ本譜の△2二銀を考えていることを知ることができただけでも大収穫ではないだろうか。今まで、渡辺のこういう正直なところが、相手のペースを乱したりもしていたが、今回はちょっと「正直者が損をする」ような形になったような気もする。
それにしても、なんというわけのわからない将棋だろう。今期の順位戦で二人が戦った際にも、「これはなんですか。初心者のメチャクチャな棋譜ですか」という将棋になったのだが、今回もそれ以上だ。
久保がこういう大胆不敵な戦い方をするのは最近ではお馴染みだが、問題は居飛車側がどう出るかだ。一番の過激派は佐藤康光で、絶対△4五角を打つ派だろう。慎重派なら、これを警戒して△8四歩から△8五歩を保留するのかもしれない。渡辺は中間派で、ある程度は正々堂々と受けて立つということなのだろう。渡辺はこの形は先手がリスキーで無理気味という感覚を持っていて、それならばある程度堂々ととがめたいという立場のような気がするが、どうだろう。
久保の嵐のような猛攻で、午前中は先手が相当いいように言われていたが、それを難しいと思わせるところまだ持ち直した渡辺の乱戦に対する距離感覚も大したものだ。それこそ、並みの棋士なら一気につぶされていたのではないだろうか。
しかし、久保が▲4六馬として、△5七にと金を平気でつくらせた「異常感覚」が秀逸だったようだ。検討によると、もうそれで後手が困っていたようだ。その後は完全に検討通りに進んでしまった。さらに、▲6三歩と、検討以上に厳しい勝ち方を久保はみせた。
久保ガ石田流の独特な感覚と研究の深さでペースを握り、さらに中盤でも驚異の大局観で一気に勝ちにもっていった会心局だった。羽生とはまた違う大局観だ。居飛車党でなく振り飛車党だという、当り前の事実も勿論重要である。
渡辺サイドからすると、振り飛車とどう戦うかというテーマと共に、一日制のタイトル戦ではどうかというのも注目点である。本局でも、竜王戦でもみせていた決断の早さがめだった。竜王戦では、それがことごとくうまくいっていたが、今回はそれが裏目に出ていたような気もする。
渡辺に限らず、例えば羽生vs深浦も、二日制と一日制では全然違う感じになっていた。二日制と一日制は、我々素人が考える以上に違いがあるのかもしれない。
第二局は後手の久保のゴキゲンが予想されて、先手が好きな対策を選べるので、渡辺も落ち着いて作戦を練れるかもしれない。ただ、それでも久保がまた奔放な指し方をしてくるだろうから、それにどう渡辺が対応するかに注目である。
居飛車対振り飛車の戦いというのは、昔と違って現代では随分様変わりしたけれども、やはり楽しい。




ものぐさ将棋観戦日記 4/2(木)ー棋王戦、将棋大賞、LPSA初のツアープロ、将棋何党アンケート、後手勝率

最近、月、木と決めて、将棋日記を書いているのだが、主要な話題はプロ棋士も一般将棋ブログもすかさず即時に取り上げているので、あんまり意味なくなっている感も。まあ。個人的な日記だからいいっか。


棋王戦中継サイト

棋王戦。久保さんが五度目の正直で念願の初タイトルを獲得した。考えてみれば、これだけ挑戦できるというのが即実力の証明なのだから、もとしもと当然タイトルを取る資格があったということなのだろう。関西のタイトルも振り飛車党のタイトルも久しぶり。特に藤井さん以来、振り飛車等のタイトルホルダーがいなかったというのには、ちょっと驚いた。将棋は居飛車か振り飛車かというのは、先手必勝か後手必勝かというくらい、重大なテーマだと思うのだけれど、最近若手に力戦振り飛車党が増えているのが、例えば十年後、居飛車と振り飛車等がどういう力関係になっているのかも、興味深い。
竜王ブログによると、B1にタイトルホルダーが三人というのが実は初めてでなく、それどころかB2にタイトルホルダーが三人という時代もあったそうである。しかし、あれは旧来の将棋に対して、羽生世代の少し前の島世代あたりが将棋革命を起こしていたということもあって、現在とは比較にならない。現在トップが、本当に実力や将棋観で申し分のない羽生世代の時代にあって、その状況が揺らぎかけているかのかもしれないという意味が大きいと思う。
はっきりイって、羽生世代だって、もうそんなに若くはない。彼らの若き日は、とにかく終盤になると絶対に間違えない、相手はノーチャンスという状態だった。しかし、最近は、羽生さんにしても佐藤さんにしても、相変わらず終盤が途轍も強いことは変わらないないにしても、完全にノーミスではない。彼ら自身の年齢との戦い、そして彼らの将棋を学んで終盤がとてつもなく強くなってしまった後続世代との戦いという二重の要素によって、これからも羽生世代にとっては厳しい状況が続いていくのかもしれない。でも、正直な気持ちを言うと、私が最も人間的にも将棋の内容でも好きなのは、相変わらず羽生世代なのだが。
大盤解説会を実際に見に行かれた方によると、佐藤さんは落胆の様子が激しく、▲9四桂が自分で許せず、何度も操作係に指すのをやめさせたそうである。実に佐藤さんらしいと思う。
私は羽生ファンなので、やはり佐藤さんが一番の脅威であり続けていたわけで、いつ爆発して羽生さんを追い抜いてしまうのだろうかという存在だったのだが、こうなると、やはり一つくらいはタイトルを持っていていただきたいと思う。森内さんも谷川さんについても同じことがいえる。彼らと一緒に私も年をとり続けているということである。


将棋:将棋大賞決まる 羽生名人が2年連続最優秀棋士賞  毎日jp

将棋大賞。年間トータルで考えれば、羽生さんの大賞は文句ないだろう。渡辺竜王は、ブログによるとご自身の成績に不満なようだが、あの伝説(ともう言ってしまってもいいだろう)の竜王戦いを見せてくれただけでも、十分優秀賞の価値はあると思う。
升田幸三賞は、久保さんの石田流▲7五飛。でも、あれ、あの後実戦で現れています(笑)?△8五飛と違って、誰も彼も指すというわけにはいかない。特に居飛車等は指せない、当たり前だ。でも、勿論ただ一人指すとしても、価値のある鮮やかな新手だったと思う。



LPSA公認ツアー女子プロ誕生のお知らせ

LPSAの新制度、公認ツアー女子プロの第一号が誕生した。渡部 愛(わたなべ まな)さん、15歳。今回は、女子プロ育成の中井塾の中から試験に受かった彼女が選ばれたが、今後また、一般公募があるとのこと。
勿論、彼女には今後どんどん実力をつけて、本物の女子プロ、女流棋士になっていただきたい。しかし、他にもツアープロという立場で末永く将棋と自分の生活を両立させる、あるいはまだまだ若いので、今後また新たな生き方を見つけられることだって、場合によってはあってもいいだろう。多くの将棋の才能をもつ女性が、女性という生き方と将棋をうまく両立させる受け皿になるといいなと思う。


将棋ペンクラブログ あなたは将棋では何党ですか?[アンケート]

将棋ペンクラブログさんが、面白いアンケートをされている。

あなたは将棋では何党ですか?
居飛車党
振飛車党
両方指す
ぢちらにも属さない力戦派
将棋を見るファン

アマチュアでは、振り飛車党が多いとされるが本当なのか。あるいは、最近よく言われる「見る将棋ファン」「指さない将棋ファン」は、実際どれくらいるのだろうか。とても、興味深い。私自身は、振り飛車党かつ将棋を見るファンなのだが、最近はもうボナンザとしか指していないので、後者にしてみた。現時点では、なんと「将棋を見るファン」が第一位。なんだか、無党派層が第一位の政党支持調査みたいである。しばらく、投票を続けられるそうなので、皆さんも参加されてみたらいかがでしょうか。


将棋の先手、有利じゃない? 初めて勝率5割切る asahi.com

先手の勝率がはじめて五割を割った。この話題については、プロ棋士、一般ブログとも興味感心が高く、色々な分析がなされている。基本的に後手番での作戦の幅が広がったということである。kuroumaのブログさんの、この指摘が勉強になった。
定跡が確立された近代兵器による戦争ではなく,ジャングルのなかのゲリラ戦に持ち込むこと,それが戦力で劣る(1手後に指さなくてはならない不利がある)後手の戦いの思想であり,今年度はそれがある程度の成果を挙げたといえるのではないか。

しかし,先手がこのまま5割を切る事態が続くとは思えない。未開のジャングルであった新戦法や新手法も徐々に切り開かれ(定跡化が進行して)ていき,再び先手の勝率が上がっていくと思う。それでまた後手が新しい戦い方を考え出していき・・・という循環を経て将棋はより深いレベルに達していくと予想する。
何も具体的に付け加えて言うことはないのだが、少し与太話を。
将棋の神様同士が戦ったら、結果先手と後手のどちらが勝つのかというのは、永遠のテーマだ。まあ、無意味なテーマだ。今までのプロ将棋の実績では、一応基本的には、やはり一手先に指す先手が主導権を握りやすくて、ほんのわずかながら有利なのではないかということだった。人間の実力レベルでは、少しの有利でも将棋の神レベルならば、その先手の有利を絶対的なものに拡大してしまうだろうと。
しかし、最近の将棋を見ていると、本当に将棋というのは一手指すのがいいのかが疑われつつある。飛車先を保留するなど、「自分の形をなるべく決めない」というのが、重要な思想になりつつある。だから、先に何か指さなければならない先手は、形を決めなければいけないので不利という考え方も出来る。極論すると、将棋の場合、何か余計なことを指した方が不利になるという可能性だってないわけじゃない。
だから、将棋の神様同士が対局したらこういうことになるかもしれないのだ。
「どうぞ、お先に。」
「いえいえ、あなたこそ、どうぞお先に。」

ものぐさ将棋観戦日記 3/19(木)−棋王戦、順位戦C級1組、天河戦

棋王戦中継サイト

棋王戦も、王将戦に続いてフルセットに。先手久保八段の四間飛車に対して、佐藤棋王が採用したのは急戦の棒銀。現在は、振り飛車側の対策が進んでいることもあり、指すのは加藤一二三先生くらいになっている。それを、敢えて佐藤は負ければタイトルを取られる一局にぶつけてきた。本当に思い切った作戦を用いるし、なんと言うか、とても男らしい。
しかし、驚いたのは下の図で、既に前例がないということである。
佐藤棒銀(新規棋譜)1手

ごく普通の棒銀の図に見えるが、よく見ると細かいところで色々違う。
\莠蠅藤井システムの出だしなので、急戦には普通は▲5六歩が先なのに、▲4六歩がついてある。そのため、棒銀に対して常套的な角を6八から5七、あるいは5九から4八の動きが使えない。
居飛車も普通は△5三銀左から△4ニ金直と中央を厚くするのを省いて△4ニ銀型のまま仕掛けている。
▲9六歩を先受けしている。9五には角がきいているので、すぐ受ける必要はないが。
さ鑒車も単純な棒銀だけではなかなかうまくいかないので、△6四歩もついておいて組み合わせるのだが、それも省略してある。
要するに佐藤が最もシンプルな仕掛け方をしたのが工夫だったのだろうか。本譜では▲7五歩として、棒銀を捌かせながら▲9五角と幽霊角で反撃する順になった。部分的には定跡ということだが、本来振り飛車側としては7五の歩を極力いじらないままにして棒銀を弁慶の立ち往生させようとするのが基本的な考え方である。だから、本譜の対応は振り飛車側としては少し不本意なのではないだろうか。
佐藤が仕掛けで一本取ったようだが、さらに△9四歩が佐藤工夫の一手だったそうである。しかし、この辺は振り飛車側もベストを尽くせばまだ難しいところもあったらしい。棋王戦中継ブログに、この局面についての感想戦の詳しい解説があるので参考になる。
優勢になった佐藤は、力技で最後は押し切った感じである。前局といい、久保の技を佐藤が力ずくで押さえ込むという、らしい展開になった。最近の流れだけ見ると佐藤ノリが多いかもしれないが、最終局は一発勝負なのでどうなるか分からない。


名人戦棋譜速報

順位戦C級1組。窪田六段が逆転昇級を決めた。前局といい、最終局といい、大変な超手数の激戦を制しての勝利。執念が実ったという感じである。
一方、広瀬五段は相手の宮田敦五段に、よりによって最終局で本来の実力をフルに発揮されてしまったという感じだろうか(笑)。やはり宮田敦は強いと感じさせる一局だった。
広瀬五段の天才的な将棋は、とても魅力的だ。早く上の相手と戦うところを見たかったので残念ではある。しかし、彼は実力があるので、単にそれが少し遅れたというだけのことだろう。どう考えても、結局は自然に上がっていくはずの棋士なので。



NTTル・パルク杯天河戦中継サイト

天河戦は、さすがに中井さんが連勝して終わった。しかし、第二局も、途中まではむしろ成田さんペースだった。成田さんは、まだ中学二年生でとても若い。そういう年齢だと普通ならまだ序盤が荒くて欠点ということが多いはずだが、中飛車を実にうまく指す。現在は、中飛車全盛時代だが、やはり作戦として、とても優秀なのではないかと感じた。
将棋まるごと90分で、女流ネット最強戦のインタビューが流れていた。とても嬉しそうだったが、最近はほとんど自分より若い相手と指すのにもすっかり慣れましたと言って笑っていた。
しかし、中井さんだって、いつまでたっても本当に若々しいままですよね。

・・・あれっ、本当に素直な気持ちを言ったのだけど、こうして文字にしてしまうと、見え透いたお世辞のような感じになってしまうのはなぜだろう(笑)。

ものぐさ将棋観戦日記 3/2(月)−棋王戦、天河戦、女流ネット最強戦、NHK杯、銀河戦

北國新聞社 棋王戦第二局

棋王戦は、久保連勝でタイトル奪取に王手。久保新手▲7五歩が話題になっている。とにかくド派手で「そんなとこで飛車飛びだすのかよ」という手である。渡辺竜王も「軽い捌きを得意とする久保八段ならではの手で、素人は真似しないほうが良さそうですね、僕も無理そうです(笑)」という感想を述べている。
その後も、一直線の斬りあいになって一気に久保が勝ちきった。真っ向から新手に挑んでいって散った佐藤も佐藤らしい。ただ、あの激しい流れの棋譜を見ただけでは何が起こったのかよく分からないので、プロじゃないのでなおさら「専門誌の解説を待つ」ということになる(笑)。
一般ブログでも取り上げられている。

将棋の神様〜0と1の世界 石田流のハメ手の落とし穴

久保新手「ネオ・石田流(9手目▲7四歩)」、「▲7五飛戦法」、または「中座式石田流」とでも呼ばれる日が来るのだろうか。

kuroumaのブログ 久保新手▲7五飛 〜久保式石田流(仮称)は成立するのか?

藤井システム,横歩取り△85飛戦法,1手損角換り,4手目△33角戦法,そして2手目△32飛戦法・・・と近年になって色々な新戦法が開発されたのだが,さすがにもうこれ以上画期的な新しい戦法は出ないのではないか,と言われてきた矢先にこの“久保新手”の出現である。将棋という深いジャングルの中にはまだまだいろんなものが潜んでいることを痛感させられた久保八段の新手だった。

なお、この記事では▲7五飛の狙いが追記で紹介されていて興味深い。


LPSA NTTル・パルク杯天河戦サイト

LPSAの天河戦の決勝三番勝負第一局は、中井さんがかろうじて勝った。本当に「かろうじて」という感じである。中学生の成田さんは本当にすごい。今まで女流棋士をなぎ倒してきたのが決してフロックではなかったのを証明した形に。終盤も力強かったが、じっと△4四銀と耐えておくあたり、とても中学生には思えない。先手でも後手でも中飛車一本のようだが、実にうまく指す。本人の力といえばそれまでだが、現代中飛車というのはやはりとても優秀な戦法なのではないかと感じる。
中井さんは、里見さんが娘さんと同い年だそうだが、成田さんはさらに若い。次から次へと若い相手が出てきて本当に大変だ。でも、中井さんが新団体を立ち上げた目的の一つに、若い女性棋士の育成ということもあるようなので、うれしい悲鳴なのだろう。
LPSAの中継は、動画も含めて相変わらず常に最先端の高いものを追求しようとしている。以下のブログでも、その高い中継力を評価している。

将棋ペンクラブログ 天河戦第1局公開対局・大盤解説会余話

筋違い角日記 中継力


大和証券杯ネット将棋公式ホームページ

中井さんが甲斐さんを破って決勝進出を決めた。上田さんとの決勝になった。
将棋は、後手、甲斐さんのゴキゲン中飛車に対して、先手の中井さんが丸山ワクチンの対抗策を採用。お互い銀冠に組み合った。後手が△5五銀と揺さぶりをかけてくるよくあるパターンになり、甲斐さんがうまくやって少しベースを握ったようにも見えたが、中井さんも気がつきにくい受けの妙手で受け止めて逆にペースを握る。そして終盤は全く緩むところなく一気に相手玉を寄せきった。本当に勝つ時の中井さんは強い。甲斐さんはさすがに実力派で、去年に続いてここまで来たが、惜しくも二年連続優勝はならず。
中井さんは、前日成田さんに相当怖い思いをさせられて、精神的に鍛えられたのが良かったのでしょうか?(笑)


NHK杯。先手の久保が初手▲5六歩の中飛車の意思表示をすると、後手の行方が三間に振り相振り飛車に。久保は石田流の使い手でもあるので、初手▲7六歩として△8四歩なら中飛車という手段もあるのに、相振りでもOKですよということなのだろうか。先手中飛車の相振りの指し方は個人的にもよく分からないので注目してみていた。しかし、久保の指し方は、やはりアマには真似できそうにない。
4六銀型から穴熊にするところは分かるのだが、穴熊を完成しようとせずに、角をのぞいて牽制し、8筋の歩をズンズン突いていった。正直、そんなところを突いている余裕があるのかと感じたが、結局その8筋突きがポイントになる。
将棋自体は行方がうまく立ち回って、飛車を成りこむことに成功。後手の美濃は手付かずで、先手の大切な金が当たりになっていて、もうここでは勝負あったのかと思った瞬間に出た久保の▲8四歩!!!
久保84歩(新規棋譜)1手

「えええっっっーー」と声がでましたよ。手抜かれても歩成りには銀で取られるのに金取りを放置。最初もう諦めて形作りなのかと思ってしまったのは弱い素人の悲しさ。久保の恐ろしいワナだった。行方も、それほど考えずに金を取ったのだが、恐ろしいことにもうそれが敗着になった。穴熊のかたさではなく、ひたすら遠さだけをいかした指し方で、どうやっても先手の一手勝ちになるらしい。行方は、ここで腰を入れて読まなくてはいけなかったと悔やんでいたが、やはり穴熊の遠さというのはプロでもつい感覚を狂わされてしまうのだろう。以下、久保は8筋に歩をたて続きに叩き、飛車を成りこんでたちまち挟撃体勢を築き上げてしまった。
久保の充実ぶりが伺えた一局である。感想戦を聞いていると、冷静に考えると△同歩とするしかなかったとのことで、素人が驚いたほど法外な手ではなかったらしい。あの手自体よりも、8筋の歩を伸ばすことを優先した久保の感覚がすごいのかもしれない。


囲碁将棋チャンネル(銀河戦のページで棋譜閲覧可能)

Dブロックの長沼七段vs田村六段戦が面白かった。後手の長沼がゴキゲン中飛車で、先手の田村が▲5八金右型の超急戦に。それにしても、今日私が書いた記事の中でも、どれだけ中飛車の将棋が多いのだろう。
あの超急戦というのは、あれだけ激しいのによく訳の分からない戦いになる。あの早見えの田村でも、珍しく長考しても読みきれない膨大な変化の将棋に。読みというより大局観で指し手を選ばざるをえない展開になったのだが、攻めるか受けるか迷ったときに、田村は攻めを選び長沼は受けを選ぶというらしい展開に。あの豪腕田村の猛攻を結局きちんと受け止めてしまい、自玉を鉄壁にしてから、うまく攻めをつないで勝ちきった。
長沼は、NHK杯で羽生を破るなど、根性のすわった受けが話題になったが、相変わらず「長沼の受け」は健在である。

ものぐさ将棋観戦日記 2/9(月)―棋王戦、NHK杯、マイナビ、天河戦、銀河戦

棋王戦。考えてみれば(考えて見なくても)、羽生名人がタイトル戦に登場しないのは一年ぶりなので、この組み合わせがとても新鮮に感じる。
それにしても久保さんが指すと、どんな将棋もうまく捌けて駒がよく働く。本局でも△6五歩と取れる歩を取らないで、飛車角が働くような手が巧みで、ああいう手の積み重ねでうまく捌けるのかなあ。
佐藤さんも、序盤の構想といい、▲5六歩の力強い開戦といい、▲5四歩とこわいところ、攻めを引っ張り込むところなど、随所にらしさが出ていた。終盤は意外と難しいという声が上がっていたし、実際感想戦では佐藤良しの変化も見つかっていたようだ。
久保の華麗な捌きに佐藤が剛直な力技で対抗するという通りの将棋になったし、そういう期待通りの面白いシリーズになりそうである。

NHK杯、羽生名人がまたしても有望な若手軽くふっとばしていしまった。佐々木五段も、評判が高いし前局ではA級の藤井を破って勢いに乗っているところなのに、手もなくひねられてしまう。
木村八段が解説で指摘していたが、▲6五桂のような直截手でなく、▲5五歩と筋でついていったのが印象的。その後大きく形勢が傾いた。(実際は、後手が△同歩と素直に応じておけば難しかったらしいが。)羽生の将棋は、マジックとも言われる意外な手もあるが、基本的には筋の良い手の地道な積み重ねでポイントを稼いでいく。やはり王道の将棋だし、美しいし、観ていて勉強にもなる。とは言っても、あのように普通に美しく指すのが弱い素人には一番難しいことなのだけれども。
これも解説の木村が言っていたのだが、羽生は対局前に駒を並べる際に、すこし笑っているように見えた。木村も羽生相手にそういう体験があるそうで、何を笑っているのか不気味だと。将棋を指せると思うと、うれしいのでしょうかね?(違うと思う.

マイナビは、岩根女流初段が挑戦者決定戦に進出を決めた。清水女流王将には、今まで一度も勝ったことがなかったが、ようやく壁をやぶった。実力には定評のある岩根さんだが、最近強い相手を次々に負かしていて、そろそろタイトル戦にも出で来るのだろうか。
ちなみに、昨晩の大和証券ネット最強戦の大切な将棋も戦っていて、大変なハードスケジュールである。男性棋士で言えば、竜王戦決勝トーナメント準決勝の前の晩にネット将棋を指すようなものだから。昨日は斎田さんに負けていたので、これで連敗していたらきつかっただろう。

LPSAの天河戦。アマチュアで現役中学二年生の成田弥穂さんが、見事に決勝進出を決めた。序盤にプロ側に誤算があったのか、飛車を捕獲してはっきり優勢に。しかし、将棋というのはそのあと勝ちきるのが大変なものなのに、全くあわてることなく差を広げて、どんどん相手を追い詰めていき、最後はきっちり即詰みに討ち取った。ビックリするくらいの完勝である。
あの年頃は、一晩ただ寝るだけで強くなっていく感じなのだろう。ということは、決勝の日には、もっと強くなっているかも。と、ちょっと対戦相手にプレッシャーをかけてみた。相手は、中井さんか松尾さん。どちらが出てくるか分からないが、仮に中井さんだとして、さすがに大丈夫だと思うのでこういう軽口も叩けるのである。

銀河戦。佐藤天vs阪口。佐藤がうまく立ち回ったが、阪口も破られた左辺を軽く受け流して粘り強く指し、むしろ振り飛車もちというところまでこぎつけた。アマ振り飛車等としては。ああいうるしぶとい指し方は勉強になる。現在は力戦振り飛車が全盛で、普通の振り飛車が絶滅しつつあるが、それでも振り飛車の極意は変わらない。「人間、辛抱だ」。終盤では佐藤天が力のあるところを見せて、両者の持ち味がでた好局だった。
解説の佐藤紳哉六段と鈴木環那女流初段の掛け合いも面白かった。
環那「棋士の先生方というのは、お話もなかなかしないというか。」
佐藤「そうですかね。」
環那「佐藤六段は別として。お仕事一緒でも、実はわたくしあまりお話しないんですが。」
佐藤「かんなちゃんのテンションが怖いんじゃないですか。」
環那「あっ、そうかもしれませんね。エヘヘヘヘ・・」
女流棋士としてだけでなく、名聞き手としてもこのまま着実に成長していっていただきたいものである。

棋王戦終了し、一方我twitterを開始したりして

まず、個人的なことですがtwitterはじめました。
shogitygooのtwitter
「カキフライはじめました」じゃありません。
って、初歩的なギャグから始めてみましたが、季節感のなくなっている現在、お若い方々には、もはや通じないかもしれません。我々の若き頃、町のとんかつやさんなどでは、その季節になりますと、必ず手書きで「カキフライはじめました」という張り紙が出されて、ああ、もうそんな季節なのかなあとシミジミとしたものです、って恥ずかしいから説明させるなっ!
となぜ、ヤケを起こしているかといいますと、棋王戦が、羽生ファンにとっては、ちょっとばっかりつらい結果に終わったからであります。
しかも完敗だったし。
だいたい佐藤さんというのは、NHK杯でもみんなが応援しだしていた長沼さんを惨殺し、今度は羽生さんの七冠ロード再びの夢をたち、まったくKYもいいところで・・。
すみません。私としたことが。すっかり錯乱して暴発してしまいました。いくら冗談でも、これはひどすぎますね。ちゃんと言っておきます。
佐藤康光ファンの皆様、棋王防衛、二冠保持、おめでとうございます。
なんとなく、言い方が義務的なところはお許しください(笑)。冗談抜きで、やはり羽生さんと、今第一人者を争っているのは、やはり佐藤さんなのかなあという感じがしました。あの、A級順位戦最終局といい、NHK杯決勝といい、やはり力強さと勝負にかける執念は随一です。
とりあえず、羽生ファンとしては、早く再戦を見たいので、棋聖戦に期待しましょう。

さて、twitterについても、ちょっとだけ。
タイトル戦があるごとに何か記事を書いていたのですが、最近は正直書くことがなくても無理やりにという感じになってしまっていました。なので、ブログ記事にするプロ将棋は本当に何か書きたいことがある時だけにして、気楽に一口メモ風にかけるtwitterのほうに、ちょこまか適宜感想を書くというスタイルにしようかと思っています。
他の将棋ブロガーの皆様のプロ将棋についての簡単な感想など読んでみたい気もするので、気の向いた方は始めてくださったりするとうれしいです。私のところによくコメントを下さる方々で、ブログをお持ちではないような方も是非。ついでに、プロ棋士や将棋関係者の方々もできますれば。一応言うだけはいってみました。
右上欄にて、twitterの私の新しい投稿を見られるようにしてみました。

棋王戦第四局 佐藤棋王vs羽生挑戦者

第33期棋王戦中継サイト

佐藤さんの快勝でした。
後手の羽生さんが、またもゴキゲンを採用。恐らく羽生さんの中で、現在後手番での最重要テーマのひとつになっているのでしょう。一方、佐藤さんの対策は、いわゆる「二枚銀」といわれる作戦の基本形に。
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早速、手元の本で基本的なことを調べてみました。
この後、本譜の△3三角以外に、△6四歩とか△4二金という選択肢があり、△4二金は、先手の銀の進出に金で対抗しようとする力強い指し方。△6四歩は、羽生先手森内後手の有名な将棋があり、△3三角では、先後逆の同じ二人が名人戦で戦い、先手の森内さんが快勝しています。ただ、よく調べると難しくて、棋譜解説にあるとおり、最近は後手のほうが連勝していたとのこと。
深浦王位の表現を借りると、二枚銀というのは「軽い攻めには重厚なおさえこみで対抗」ということだそうです。確かに、ゴキゲンに対する居飛車の思想としては、根本的なところで理にかなった戦形なのかもしれません。今回立会いの加藤一二三先生あたりには、もしかすると合う指し方だという気もします。
佐藤さんの工夫は、普通は▲7七銀を先にするところを、▲3六銀と出てしまったこと。ちょっとした違いなのですが、プロではとんでもない意味があるのですね。▲7七銀を先にするのは、△5六歩を警戒してとのことですが、本譜のように、実際にそうやってきても後手は捌けませんでした。この図まで進むと、完全に居飛車の作戦勝ちなのでしょう。
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ということで、今回は佐藤さんの新手、構想力に軍配が上がりました。終盤も、実に佐藤さんらしく豪快に決めていました。
しかし、最近はさすがにゴキゲンに対する居飛車の対策も、かなり進んできたという感じがします。丸山ワクチンでも▲5八金右超急戦でも二枚銀でも、それぞれ有効な対策が出てきて、ゴキゲン側も少し大変になっているのではないでしょうか。

ということで、羽生ファンとしては残念でしたが、まあ、完敗だったので諦めもつきます。
しかし、よいこともありました。今回の中継では、棋譜解説でも中継ブログでも、「太陽がいっぱい」ならぬ「加藤一二三がいっぱい」状態だったからです。
なんで、加藤先生はあんなに将棋を楽しそうに検討できるのでしょうか。本当に、加藤先生を見ていると、何かを心底好きになって、長年続けられるというのが、最大の才能なのだと思います。
昼食も、佐藤棋王に張り合ってか?、うなぎを注文。元気一杯の加藤先生の尊いお姿に接することができて、将棋ファンとして、これ以上、いったい何を望むことがあるというのでしょうか?

棋王戦第三局 佐藤棋王vs羽生挑戦者

第33期棋王戦第三局 新潟日報

羽生さんが最後ははっきり勝ちになっていたみたいですが、その前のポイントがよく分かりません。ということで、せめて序盤の話を書いてお茶を濁そうとしたら、竜王が午前の時点で迅速に序盤の戦形解説を済まされていたようです。まったく、ドシロウトの身としちゃあ、やりにくいったらありゃしない(笑)。もっとも、プロ棋士の方々がこういうことをしてくださるのは、勿論大歓迎なので、皆様どんどん解説していただきたいものです。
えー、竜王ブログを読んだ皆様はご存知の通り(笑)、羽生さんの▲9六角が、王将戦第二局でえらく評判が良かった手。△5四歩が、もともと佐藤新手だったのですが、「『偉大なる悪手』に真の悪手の烙印を押した」とか言われていましたっけ。
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この後は、全く推測になるのですが、多分佐藤さんというのは、そういう言われ方をされると、メラメラと熱い血潮が燃えたぎってしまうタイプなのではないでしょうか(笑)。羽生さん相手に△5四歩で勝ってやろうじゃないか、と思われたとしてもなんら不思議ではありません。
佐藤さんが後手番でゴキゲンを採用し、羽生さんが先手▲5八金右の超急戦を誘う手で応え、佐藤さんが頑固に△5四歩を指し、羽生さんも堂々と▲9六角を打ち放つ、というのは、相当二人とも強情な感じがするのですけれども。
でも、もしその辺の事を聞かれても、お二人とも、研究テーマ局面ですから、程度のことしか言わないに違いありませんが(笑)。まあ、ファンとしては、色々妄想を逞しくして考えてしまいましょう。そういうのはファンの特権なので。
実際、王将戦の後も、△5三玉だと、それなりにムツカシイといわれていた(記憶がある)ので、佐藤さんもきちんと緻密に研究して暖めていたのでしょう。ただ、それにしても佐藤さんの受け方というのが壮絶でした。△6二玉から、▲6四歩の垂れ歩を許すなんて、弱いものがやったら絶対怒られるに違いありません。「自分で自分の王様をあぶなくしてはいけませんよ」、とか。
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大内先生が言われていた、「肉を斬らせて骨をたつ」というのは、こういう時以外にどんな時に使うのでしょうというくらいピッタリな表現でした。青野先生の解説によると、実際後手が受けきる筋もあったらしいとのこと。また、△6七香がどうか、△6八歩とすべきではないかとも言われていました。確かに、その後の手順は、佐藤さんが形つくりのような王手ラッシュを続けるような感じで、あっけなく終わってしまいました。あのあたりが、多分ポイントだったのでしょう。
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きっと、また良く調べれば、難解でよく分からない順というのがあるのに違いありません。トッププロがよってたかって調べても、解明できないこのゴキゲンの戦形は面白すぎます。
将棋というゲームにおける手の広さを感じずにはいられないところです。ちょっと思ったのですが、コンピューターソフトというのは、こういう乱戦形の将棋で、どの程度の精度で正解手を指せるものなのでしょう。苦手なのか、あるいは人間と違って、どんな局面でも同じに冷静に考えられるので、得意なのか。

今週の週刊将棋は、なかなか内容が充実していました。
棋王戦第二局、羽生さんの最後のミス以外に、見ていて佐藤さんの方も、▲2六角と打った後、角をたたききって▲5三金とガジガジやればよかったんじゃないかと思っていました。しかし、それにはその後進んで△5二銀の絶妙の受けがあって、佐藤側がダメだとのこと。つまり、二人ともそれが分かっていたので、その順にならなかったということです。トッププロの将棋だと、こうすればいいのではないかと思っていても、後から調べると、深く読んでいて回避していた手順というのが実に多いと思います。本当に棋譜だけ見ただけじゃよく分かりません。
それ以上に、王将戦第五局の記事が面白かったです。
単純な大ポカのように言われた久保さんの▲7五玉ですが、正着の▲7六玉のほうも、実は桂馬を三枚駆使した王手ラッシュが続く上に、同時に羽生玉の詰み筋を防止する複雑な変化が秘められていたようです。受ける側からするといかにもこわすぎる変化なので、久保さんが7六に逃げるのをやめたのも、よく納得できます。正確に指せば久保勝ちなのですが、秒読みの実戦ならちゃんと勝ちきれたかどうかというくらい難解な変化です。
王座戦第三局の最終盤にも「幻の名手順」がありましたが、こちらもそれに勝るとも劣らないすごい変化だと思いました。羽生さんと久保さんの将棋には、なぜかこういうすごい手順が現れます。

春の嵐と棋王戦第二局

今日は、外は春一番だったそうで、風が吹き荒れていた。
この時期は、どうも気持ちが落ち着かなくって困る。

春風の花をちらすと見る夢は覚めても胸のさわぐなりけり 西行

って、ウチは松本博文ブログですか?

さて、棋王戦、中盤の羽生さんの仕掛けから終盤まで、一貫して変化の広く難解でコクのある将棋だったようだ。
この二人の、一日制のタイトル戦でのど迫力は、本当にすごいものがある。巨神兵同士が熾烈で過酷な格闘を繰り広げているのを見ているかのようだ。
北国新聞社のコメント書き込みも面白かった。とにかく、控え室の検討の変化手順を惜しげなく記入していた。なかなか理解しきるのが大変だったくらいだが、いかに広い手の中から二人が選択しているのかがよく分かった。
大熱戦だったのは間違いない。しかし、弱い者が言うのはなんだが、終盤戦では二人とも間違ったんじゃないかと、私の直感が囁く。どちらにも、自分が負け、自分が勝ちの局面があったんじゃなかろうか。特に羽生さんの最後は、なんからしくなかった感じがするよなあ。
とにかく、重量感のあるスリリングな戦いをこの二人は見せつけてくれる。
春の嵐のような一局だった、と言ったら強引過ぎるだろうか。
今は、細かく将棋のことを考えるような気分じゃないので、熱戦の余韻にひたすら浸っているところである。

願わくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ 西行

棋王戦第一局 佐藤棋王vs羽生二冠

京都新聞棋王戦第一局

棋譜解説がないので、分からないことだらけな上に、相当色々あった将棋のように見えるのですが。
プロ、ましてこのお二人なのだから、必ず深い意味があるのに違いないのだが、かえって素人が見ると色々素朴に疑問に思ってしまうものだなあ。
私が全然分からない一手損角換わりで、後手の佐藤さんの対策というのは、私の持っている勝又、深浦、村山本には出てないのだが、こういう対策もあるのか。
羽生さんが、角銀交換で成り桂を作ったのは、はたして攻めとして、でかしているのだろうか。
佐藤さんが角を打ち込んで、みすみす取られたのはなぜなんだ。
7六に歩を叩いて桂を打ったのはいいが▲6五銀と堂々と出られて、準王手飛車をかけられると困るので取れないようでは、これも変だ。
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羽生さんが、惜しげなく歩を叩きまくって寄せにいったが、△2二角の逆王手をされて、結局は▲9六歩と手を戻すようでは、やはり寄せ方がおかしかったのだろうか。
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しかし、佐藤さんの執念の粘りはとにかくすごかった。
でも、▲5五馬も、やっぱりハッとする手だなあ。
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△8五桂とはねたあたりは、ど迫力でどうなるのかとおもったら、羽生さんも手順を尽くして角を手に入れて、王手桂取りで8五桂を抜いたのも、良くこんなもつれた(感じに見える)将棋で冷静に指せるものだ。
その後も、佐藤さんの頑強な粘りに会ったが、最後は落ち着きを取り戻して(あるいは、実はずっと落ち着き払っていて)勝ちきったみたいである。佐藤さんは、あんなに頑張ったのに、終わってみるとチャンスらしい場面はない報われない将棋だったような気がする。
▲3八香で、やっと受けがきかない形になるのか。本当にプロの場合、勝ちきるのは大変だ。
とにかく、延々と続いた終盤は、善悪を超えて見ごたえがあり、すごく興奮した。棋譜解説がないのも、私レベルだとよく分からずに、ずっとハラハラできるのでよいという面もある。でも、冷静に考えると、ずっと羽生さんがリードを保ち続けていたのかなあ。
繰り返しになるが、佐藤さんのど根性というのも、本当にすごいものがあると感じた。

以上、とりとめのない感想ですみません。
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