革新的国家公務員OBが語りたいこと・伝えたいことー自由と民主主義を信じ国益を考えるーAiming at an innovative official of the national government

36年の公務員生活で培った「防災・復興法制」「都市計画法制」の知識を広く共有するため、書評を通じて、関係する新しい論点を示します。なお、意見にわたるものは個人的なものであり所属する(した)組織の意見や立場ではありません。

『意思決定の心理学』を読んで、社会心理学や行動経済学で説明されている様々な意思決定理論の全体像が分かる本。


 日本人の心理学者の書いた本。

 行動経済学者のダニエル・カーネマンの『ファースト&スロー』が一番関係が深いが、社会心理学関係の本、『社会心理学講義』や、行動経済学者の書いた本『競争社会の歩き方』などの基礎となる意思決定の最近の知見をうまく整理して説明している。

 感覚的だが、日本人が書いた本のほうが、脱線やつまらない事例紹介が少なくて、読みやすい。

 ポイントは、直感的に判断する部分(システム1)と理論的・合理的に判断する部分(システム2)に分けて人の意思決定を整理すると、理解しやすいということ。

 これは最近の脳画像の検査でも作用する部分が異なることからもある程度実証されている。

 損失回避性の議論、システム2の合理的判断は続けていると疲れてきて、ずるとか不合理な判断をしがちなど、最近よく指摘されている議論も多い。

 やや目新しかったのは、他者の協力といった利他的な行為は、システム1の直感的な判断の方がより優越するということ。
 
 「意外な結果のように思われる方もいるかもしれませんが、他者への協力は基本的には、遅いこころというよりは速いこころが、その主たる役割を担っているようです。ランドらは人間が自発的に協力的になれる理由として、わたしたちの日常生活の多くが繰り返しであり、他者へ協力することの方が結果としては戦略上有利であることを指摘しています。」(位置No1912)

 まだ、科学的に論証されていないが、人間の協力性は先天的で遺伝的に組み込まれているという議論もあるし、18ヶ月の幼児でも自発的に他者を助ける行動が観察されるなどの指摘は、感情的には、ほっこりする議論で、個人的にはなんとなくうれしい。(位置No1918)
 
 まんざら捨てたもんでもないね。我々人類も。

 以下、その他の抜き書き。基礎的なもの多し。

(1)システム2の大きな特徴の一つとして、注意力を要する心理過程を担うことが指摘されています。何か別のことに気をとられていると、うまく機能しません。言い換えると、システム2のキャパシティには明らかな限界が存在しているということです。一度に処理しきれる量には限界があるため、同時に複数の仕事を掛け持ちできないのです。(位置No239)

(2)マシュマロテストのような意思決定場面では、前頭前野は行動を制御して「あと」を選択するシステム、皮質下領域は行動を促進して「今」を選択するシステムと考えると、より理解しやすくなるはずです。(位置No587)

(3)マシュマロテストのような意思決定場面では、前頭前野は行動を制御して「あと」を選択するシステム、皮質下領域は行動を促進して「今」を選択するシステムと考えると、より理解しやすくなるはずです。(位置No1013)

(4)実際、こうした損失回避性と、速いこころのはたらきを担う皮質下領域との関連が、これまでの研究で報告されています。特に、二〇〇七年に報告された『サイエンス(Science)』誌の研究では、損失回避性とfMRIによって測定した脳活動との関係が報告されています[20]。この研究からは、損失回避性の個人差は、腹側線条体の活動の個人差で説明できることが明らかにされています。腹側線条体はこれまでにも何度も登場してきた、側坐核を含む報酬系の一部であり、速いこころのはたらきと損失回避性との関係が示されたものと言えるでしょう。(位置No1134)

(5)背側線条体、腹側被蓋野、眼窩前頭皮質と複数の脳領域が出てきましたが、これらはすべて報酬情報の処理に重要な役割を担っており、恋愛の神経基盤として報酬系を挙げることは、学術的にもコンセンサスが得られていると考えて良いでしょう。恋愛、より正確に言うならば、恋愛対象となる相手は、「獲得」することが望ましい対象であり、その獲得を目指して行動選択に影響を与えます。これはまさに、報酬と同じです。(位置No1239)

(6)実際、男性の実験参加者におけるこの側坐核の活動は、どれくらい相手に対してやり返したいか、という復讐心を測定した質問紙の結果とも相関を示していました。相手に復讐したいとする気持ちが強い実験参加者ほど、不公平な相手が痛い思いをするのを見ている時に、側坐核の活動が強かったのです。(位置No1413)

(7)認知的制御に関わる背外側前頭前野の機能が、情動的なはたらきに拮抗することで、功利主義的な反応を導くのではないか、という考えです。
 つまり、功利主義的な反応をする場合には、義務論主義的な反応をする場合に比べ、背外側前頭前野の活動が高いのではないか、というのです。結果はこの仮説を支持するものでした。(位置No1611)

(8)結果として、ロラゼパム(抗不安薬で情動を抑える効果あり)は義務論主義的な反応を弱めました。ロラゼパムを服用した場合には、偽薬を服用した場合に比べ、歩道橋ジレンマで一人を犠牲にしてでも五人を助けるべきとする功利主義的な反応が増加したのです。トロッコジレンマでは、薬剤の影響は認められませんでした。(位置No1662)

(9)(性善説と性悪線の議論をより科学的に整理すると)報酬への反応性が低い個人は自然に正直に振る舞えるのに対し、報酬への反応性が高い個人は正直に振る舞う際に意志の力を必要としており、この違いは連続的なものとしてとらえることができるのです。(位置No2055)

『逃げられない世代』を読んで、次世代につけを回しているという指摘は同感、ちょっと上から目線かな?


 経済産業省と途中で退官した若者が書いた本。
 
 日本の社会保障制度が持続可能ではないこと、その結果として赤字国債がつみあがっていて、日銀の異次元緩和と国債購入でなんとか支えているけど、将来的ににっちもさっちもいかない時代がくることなど、基本的な指摘はそのとおりだと思う。

 ただし、解決が難しい理由は、にっちもさっちもいかないタイミングが国際化している金融情勢などの左右されるので、いつくるかがわからないこと(下の抜き書きの(5)みたいには単純にいえない)。
 いつ来るかわからない、悲惨な状況に備えて、現時点で苦しい選択を国民ができるか、また、それが必要だとしたら、政治家を含め、現世代の国民は何から始めたらいいのか、ということが非常に難しい。

 この本は、そういう現実を前提にして、基礎的なデータを示しながらわかりやすく示して、国民の理解を得ようとしていること自体で価値があると思う。

 ただし、なんとなく、現状を冷めた感じで見ているので、上から目線とも読めてしまう。

 自分としては、解がない難しい課題に対して一緒に悩み、少しでもましな政治や社会システムをつくるために、一人の国民として、何ができるかを考え続けるつもり。

 以下、抜き書き。

(1)このように先送りをすること自体は必ずしも問題とはいえず、しばしば最良の政策とすらなり得るのですが、問題は経済成長が停滞し人口が減ろうとしている転換期においても日本政府が「先送り」を基本戦略とし続けていることです。(位置No419)

(2)一つの目安として遅くとも団塊ジュニア世代が高齢者になる2036~40年には内政面で日本の先送り型政治システムの限界が来るものと思われます。(位置No630)

(3)なお公共事業関係費については、民主党政権下での削減があまりにも急すぎたこともあり自治体や業界からの反発も強く、近年やや増加傾向で、16年度の予算は7・6兆円となっています。このように民主党政権のムダ削減アプローチは紆余曲折を経て失敗するべくして失敗したわけで、今後同じようなことを議論する意味は乏しいように思えます。(位置No938)

(4)このように異次元緩和はポジティブな面では、
 ① 国債の低金利化によって政府の財政を助ける
 ② 円安により企業収益を改善し株高を演出する
 という二つの効果を生み出しましたが、徐々に副作用が心配されはじめています。(位置No1175)

(5) 日本の家計の金融資産は2017年12 月末現在で1880兆円ありますから、国債の残高が988・2兆円といってもまだ国内で国債を吸収する余裕があると言えるでしょう。
 短期債務や地方自治体の債務などを加えた政府部門全体の債務の規模でも1310兆円ですから、その意味では日本政府には金利さえ抑えれば、まだ問題を先送りする余裕があると言えそうです。ただし近年政府部門の債務は1年あたり20 ~30 兆円のペースで増えていますから、仮に間をとって年間25 兆円のペースで借金が膨らんでいくと考えると、概ね20 年後には限界に達することになります。(位置No1243)

(6)戦前に証明されたように、日本が自由貿易無しでは生きられないのに対して、アメリカは必ずしもそういうわけではないという構造の非対称性を忘れてはいけません。アメリカが自由貿易経済体制を支えているのは「日本とドイツが再び軍事化してアメリカを挟み込む」という第二次世界大戦のストーリーが再来することを未然に防止するという安全保障戦略上の理由に過ぎないのです。(位置No1926)

『リーマン・ショック 元財務官の回想録』を読んで、役人でリスクをとって一企業のために働くことも時と場合によっては大事。


 全体としては、慎重な記述が多く、また、特段びっくりするような情報もない。

 各国政府との為替や金融危機対応をめぐる調整って、結構、人的関係とか貸し借りでなんとか実現する側面が強いのがわかるが、自分の経験でもそうだろうなと思う。

 著者はさらっと書いているが、109頁-111頁のリーマン・ショック時のモルガン・スタンレーへの三菱UFJの出資への対応が立派だと思う。

 実際やったことは、三菱UFJの担当役員から、米国政府の資本注入で三菱の出資が希薄化してしまうのではないか、という懸念に対して、米国財務省マコーミック次官に連絡をとり、米国の資本注入が民間投融資慫慂のためであるなどのアシュアランスをとって、三菱側に提供して、三菱の取締役会に案件を通り安くし、結果として速やかな三菱UFJの出資を可能としたこと。

 これ自体は、まさに一企業の利害に関わることに役人が関与して口利きをしたととれないこともない。しかし、世界全体の金融危機の際に、三菱の出資がモルガン・スタンレーの再生の決め手となることから、役人としてのリスクをとって、自らが自分の判断で動いている。

 いざというときには、より大きな利益、公益の実現のために、役人がリスクをとって企業のために行動することも必要。そういう気概を後輩たちが持つことを自分も期待したい。
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