橘玲氏の新刊。

 従来の橘氏の本とかぶるところが多いが、個人的には見つつまされる点が多い。

(1)閉鎖系の伽藍と開放系のバザールの比喩で、前者はできるだけ目立たず悪評をさけること、後者はできるだけ目立ってよい評判を立てることがゲームの基本。別に米国でも学校のいじめなどは、伽藍の世界だが、日本の会社が典型的な伽藍の世界であること。40代を超えると再就職は不可能で、組織内で我慢して定年まで働くしか道がなくなる、そういう抑圧的な状況だと「学習性無力感」が生まれる。(位置No1294)

(2)イングルハートなどが5年ごとに行っている「世界価値観調査」の「自分の人生をどの程度自由に動かすことができるか」の問いで、日本人は調査対象57カ国中最下位。(位置No2293)

(3)幸福度がフリーエージェントと公務員で高いのは、前者はやりがいがある、後者は安定がある、サラリーマンはやりがいも安定もないので、相対的に幸福度が下がる。(位置No2687)

(4)幸福への人生の最適戦略は、ア 金融資産は経済的自立を図る、イ 人的資本は子どものころのキャラを天職とする、ウ 社会資本(人間関係、共同体意識など)は、政治空間(閉じた人間関係、親族、友情関係)から貨幣空間(浅いつきあいで、お金でやりとりできる空間)に移る(位置No2764)

 著者が最後に「ひとは、自分と似ているひとからの助言がもっとも役にたつ」と指摘されている。橘氏が自分に似ているかよくわからないが、結構刺さる点多し。

 以下抜き書き。

(1)①年収800万円(世帯年収1500万円)までは、収入が増えるほど幸福度は増す。②金融資産1億円までは、資産の額が増えるほど幸福度は増す。③収入と資産が一定額を超えると幸福度は変わらなくなる。(位置No669)

(2)市場経済の長期的な拡大を前提とすれば、金融資産を株式市場に投資した方が有利だとの考えもあるでしょう。そんなひとには、投資対象を選別する費用対効果も含めれば、東証の「上場インデックス世界株式(1554)」に積立投資するのがお勧めです。これは円建てのETFですが、投資対象が(日本株を除く)世界の株式なので特定の国や企業にリスクを集中させることを避けられますし、円が下落すればその分だけ株価は上がります。証券会社や銀行の店頭で販売されているファンドとちがって販売手数料は不要(株式の売買手数料のみ)で、インデックスファンドなので運用手数料も安く、海外株に投資する際の円から外貨への両替には大口割引が適用されています。(位置No813)

(3)こうしてバザール空間でのデフォルトのゲームは、「できるだけ目立って、たくさんのよい評判を獲得すること」になります。これがポジティブゲームです。それに対して伽藍は閉鎖系で、いったん押し付けられた悪評はずっと付いて回ります。このゲームの典型が学校でのいじめで、いったん標的にされると卒業までいじめつづけられるのですから、「できるだけ目立たず、匿名性の鎧を身にまとって悪評を避けること」が生き延びる最適戦略になります。これがネガティブゲームです。ここで注意しなければならないのは、伽藍とバザールが日本と欧米の国民性のちがいによるものではないことです。アメリカの学校でも陰湿ないじめが社会問題になっているように、閉鎖された空間で濃密な人間関係が支配するムラ社会に押し込められれば、日本人であれアメリカ人であれ、悪評を避けつつ相手に悪評を押し付けるネガティブゲームがデフォルトの生き残り戦略になるのです。(位置No1267)

(4)セリグマンの「学習性無力感」の実験(犬に電気ショックを与え、一方は止めるスイッチをつけ、もう一つはつけない場合、つけた犬はスイッチを学んで、活動的なままなのに、スイッチがない犬は無気力で動かなくなってしまった実験)は、監禁された状態で長期にわたって苦痛にさらされると、こころに重大な損傷を被ることを示しています。そして閉鎖系の伽藍空間である日本の会社は、仕事につまずいたり周囲との人間関係で折り合えなくなると、たちまちこの条件を満たしてしまうのです。(位置No1295)

(5)これが、日本の会社がイノベーション競争で後れをとる第1の理由です。画期的な商品やサービスを生み出そうとすれば失敗する可能性も高くなりますが、雇用の流動性がない(伽藍の)会社では、いったん失敗した社員は生涯にわたって昇進の可能性を奪われてしまうのです。第2の理由は、大きなリスクを取ってイノベーションに成功したとしても、成果に相応しい報酬を与えられないことです。「正社員の互助会」である日本の会社では、一部の社員に役員や社長を上回る高給を支払うことができません(この矛盾は発光ダイオードの発明をめぐる訴訟で明らかになりました)。(位置No1747)

(6)(プロフェッションを持つ個人が収益最大化と自己実現を実現する基本戦略は)①好きなことに人的資本のすべてを投入する。②好きなことをマネタイズ(ビジネス化)できるニッチを見つける。③官僚化した組織との取引から収益を獲得する。(位置No1784)