プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える?
アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン
日経BP社
2018-03-23


 『機械との競争』http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1010732554.html、『ザ・セカンド・マシン・エイジ』http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1044551521.htmlを書いた著者の最新刊。

 AIの発達などが、人の労働や経済に大きな影響を与える可能性については多くの本で指摘されている。

 この本の中で、AIが発達した時代でも企業組織はなくならないとする。その理由として、

(1)(市場の足りない機能として)「市場はある点ではきわめて効率的だが、いくつかの領域ではコストが嵩むとコースは指摘する。主なものを挙げておこう。
● 検索費用:市場で適正な価格水準を探り、取引相手を探す費用
● 交渉費用:その相手と交渉し合意するための費用
● 契約費用:取引相手との合意内容を確認し有効な契約にするための費用
● 監視費用:契約の履行状況を監視する費用(位置No5562)

(2)(これらの費用を前提とすると)「企業が存在する根本的な理由の一つは、市場参加者が必要に応じて都度集まるやり方では完備契約が結べないことにある。完備契約を結べないということは、現実の世界で将来に想定外の事態が起きたとき、誰がどうするかが決まっていないということだ。企業という存在は、この問題に対する解決になる。企業が資産を所有していれば、不完備契約で決まっていないことについて残余コントロール権を行使することになるからだ。これがまさに、企業の所有者(すなわち株主)に代わって経営陣が行う仕事である。」(位置No5656)

 さらに、AI時代になっても、マネジャーの必要性と優れた社会的なコミュニケーション技術は一層必要になるという。


(3) 「マネジャーが増えたり、マネジャーでない人にまでソーシャルスキルを求めたりするようになったのだろうか。主な理由は三つあると私たちは考えているが、その三つは互いに深い関係がある。 第一は、世界がひどく複雑になり、変化のペースが早くなったことだ。このような世界で生き抜くには、絶えず調整やすり合わせや根回しが必要で、それを全部ソーシャルメディアなどで代用することはできない相談だ。やはり橋渡し役となるミドルマネジャーが必要になる。(位置No5738)
 デジタル社会でもソーシャルスキルが重宝される第二の理由は、大方の人間は数字やアルゴリズムだけでは納得しないことにある。たいていの人は、無味乾燥な数字よりも、説得力のあるストーリーやエピソードに心を動かされるものだ。そのうえでなら、統計データにも納得する。もちろんこれは人間につきまとう認知バイアスであるが、だからといって無視することはできない。このため賢い企業は顧客に対してだけでなく、社員に対しても高度な説得術を駆使する。(位置No5747)
 第三の理由は、漠然としているけれども、もしかするといちばん重要かもしれない。それは、人間というものは一緒に働き、助け合うのが好きだということである。(位置No5756)

(4) 私たちが取材した成功しているテクノロジー系企業に共通するマネジメントのスタイルについて、二点だけ言わせてほしい。第一は、平等主義である。とくにアイデアを出す、アイデアを聞くということについての平等主義だ。(位置No5765)
 成功しているテクノロジー系企業のもう一つの特徴は、透明性が高いことである。一般的な企業と比べ、より多くの情報をより幅広い人々の間で共有している。(位置No5796)

 AI時代になっても企業組織は必要だし、適切なコミュニケーションスキルをもったマネジメントが必要というのは、当たり前ではあるが、あえて指摘する点に意味がある。

 そのほか、ブロックチェーンが不動産登記に使えるという指摘もそうだなと思う。貨幣と異なり、簡易で効率的な管理の仕組みがあれば不動産登記はいいはずなので、貨幣よりも不動産登記で、よりブロックチェーン技術は実現可能性があると思う。

(5) 「たとえば土地の登記簿として、株式の発行と所有権移転の記録として、不動産売買契約の記録として、あるいは赤ちゃんの出生記録としても使える。要するに確実に記録し、真正であることを証明できるようにしておきたいすべてのことに使えるのである。誰でも閲覧できるという点で真の公開記録であり、したがってつねに精査することが可能であるから、あとから書き換えることも、なかったことにもできない。」(位置No5153)

 その他の抜き書き。

(1)「第一のトレンドは、アルファ碁に代表されるような「マシン」すなわちコンピュータの能力が急速に成長・拡大していることである。」(位置No357)これらの企業は、さまざまな情報を集めたり交換したりする「場」、あるいはモノやサービス展開の土台となる環境、一言で言えば「プラットフォーム」を提供する企業であり、有形資産はほとんど持たないものの、旧来の企業にとっておそるべき競争力を持ち合わせている。 第三のトレンドは、GEの家庭用製氷機の目新しい開発プロセスに象徴されるように、不特定多数の人々すなわち「クラウド」の力が改めて注目されるようになってきたことである。このクラウドはクラウドコンピューティングのクラウド(cloud)ではなく、クラウドファンディングのクラウド(crowd)であり、膨大な数の人々の知恵や知識や情熱を意味する。それらは世界中に分散し、これまで十分に活用されてこなかったが、いまやオンラインでアクセスし、グループを形成し、活かすことが可能になった。(位置No365)

(2)「私たちが言いたいのは、近年の技術の変化を踏まえ、企業は人間とマシン、モノやサービスとプラットフォーム、コアとクラウドのバランスを見直す必要があるということだ。(位置No389)

(3)「旧来の技術に習熟し、知識と経験を積み、現状で成功し繁栄しているからこそ、次に来るものが見えないのである。だから、新しい技術の潜在性にも、それがもたらす変化にも気づかなかった。このような現象は、「知識の呪い」とか「現状維持バイアス」などと呼ばれている」(位置No478)

(4)「私たちは、ミールやダヴェンポートとまさに同じ理由から、意思決定に人間を介在させることに賛成である。だが同時に、可能であればそのやり方の「成績をつける」ことをおすすめする。つまり、アルゴリズムと人間の決定の精度を長期にわたって記録しておくのである。人間の判断を優先させたときにアルゴリズムより正しければ、そのまま続けてよいだろう。だがそうでないなら、見直しが必要だ。そのときに何よりもまずすべきことは、人間に精度の低さをはっきり認識させることである。」(位置No1054)

(5)「超能力者は別として、私たちから読者への基本的なアドバイスは、予測にあまり頼らないほうがよい、ということである。今日の世界はどんどん複雑になっており、しかも絶えず変化している。したがって何かを予測するなどということは、「非常に困難」と「ほぼ不可能」の間と考えるべきであり、スパンが長いほど「ほぼ不可能」に近づくと肝に銘じるべきだ。」(位置No1126)

(6)「未来の進化した医療システムにおいても、人間の役割はけっしてなくならず、むしろ重要な価値を持ち続けるだろう。ただし、今日と同じ役割を果たすわけではなさそうだ。有能な診断者やヒッポとしてではなく、感情の機微を理解するケアコーディネーターとして表舞台に登場することになると考えられる。」(位置No2251)

(7) 「O2Oプラットフォームが普及するほど、資源の浪費は減っていくだろう。パワフルなモバイルコンピュータが世界に普及し、クラウドコンピューティングなどの技術が進歩し、起業家がビットの世界の経済的メリットを原子の世界に持ち込むにつれて、資源の無駄はますます減っていくと私たちは信じている。」(位置No3544)

(8)「経済学者のタイラー・コーエンとアレックス・タバロックは、情報の非対称を解消する方法として、プラットフォーム利用者によるレビューに注目している。非対称が大幅に緩和される要因として彼らが挙げるのは、第一にスマートフォン、センサー、ネットワークなどの技術の進歩と普及、第二に大量のデータが収集可能になったことだ。「シェアリングエコノミー型サービスの多くは……相互評価システムを導入している。たとえばUber では、利用者がドライバーを評価するだけでなく、ドライバーも利用者を評価する。法規による縛りがなくても、この相互評価方式が膨大な取引の維持を可能にしている*31」。(位置No3781)

(9)「このように、プレーヤーが少なく、供給する製品やサービスが複雑な市場は、プラットフォームに適していない。したがって、発電プラントの設計・施工、大型合併・買収に対する法務・税務上のコンサルティング、美術館での大規模展覧会の企画や出展品の手配といった大規模かつ複雑なプロジェクトは従来通りのやり方で行われ、プラットフォームが活躍する場面はないと考えられる。(位置No4055)

(10)(専門家をクラウドが打ち負かす理由として)「あくまで推測の域を出ないが、おそらくこういうことではないだろうか。一つは、重要な新しい知識はあらゆる学問分野で毎日のように生まれているが、それがコアに届くまでには時間がかかることだ。(位置No4606)クラウドがしばしばコアを上回る結果を出す理由は、もう一つ考えられる。多くの問題は、ちがう視点から見ると思いがけない解決が得られるということだ  *7。こちらのほうが、単なるミスマッチよりも示唆に富んでいる。ちがう視点とは、ひらたく言えば、コアとは年齢も性別も学歴も経歴もちがえば、発想も問題解決のアプローチも使うツールもちがう人たちの視点である。これはまさにクラウドの定義にほかならない。(位置No4615)

(11)「となればなぜ「テクノロジーは私たちに何をしようとしているのか?」と問うのだろうか。むしろ、「私たちはテクノロジーを使って何がしたいのか?」と問うべきではないか。何がしたいのか─ ─ このシンプルな問いを深く考えることが、いまこそ求められている。より多くのパワー、より多くの選択肢を持つということは、それをどう使うかを決める私たち自身の価値がかつてなく高まっているということでもある。(位置No5929)