革新的国家公務員OBが語りたいこと・伝えたいことー自由と民主主義を信じ国益を考えるーAiming at an innovative official of the national government

36年の公務員生活で培った「防災・復興法制」「都市計画法制」の知識を広く共有するため、書評を通じて、関係する新しい論点を示します。なお、意見にわたるものは個人的なものであり所属する(した)組織の意見や立場ではありません。

2014年06月

稲泉連『ドキュメント豪雨災害』を読んで、異論があるが100年に一度流されてしまう渓谷の村は移転した方がよくないか?

ドキュメント 豪雨災害――そのとき人は何を見るか (岩波新書)ドキュメント 豪雨災害――そのとき人は何を見るか (岩波新書)
(2014/06/21)
稲泉 連

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 十津川村で、村長が妻と娘をなくしながらも、防災活動をしたドキュメント。消防団やテックフォースの活躍もすばらしい。  しかし、この本を読んだ日に、林直樹さんの講演を聴いていたので、別の論点が気になる。  十津川村は、100年ほど前に同様の豪雨災害にあい、2000人ほどが北海道に移住したという。  要は、100年に一度は、渓谷があばれて渓谷の脇の集落を流してしまう。そういう歴史をつみかさねて、河岸段丘ができている。  これから、人口減少が急激に進み、国も災害復旧とか地方交付税とか潤沢にだせる時代は早晩おわる。その前にすることは、従来どおりの災害復旧なのだろうか。  むしろ、必ず災害に一定の確率で襲われる地域を維持するために巨額の公共事業をやるよりも、地域の高齢者がまとまって、もっと下流の安全な集落に移転した方がいいのではないか。  強制はできないかもしれない。しかし、もう、そういう山間の集落に行政サービスは行き渡らせることはできない。例えば公共交通機関はあきらめる、公民館も診療所も閉鎖する、それと、もっと便利な下流の大きな集落に移転するのとどちらかがいいかを、地域住民に判断してもらうことが大事だと思う。  もちろん、国土構造上も、国家財政、地方財政上も、もっと便利なところに移転してもらった方がいいし、それが次世代に残すべき国土構造ではないか。  政治的には不人気な政策だが、人気だけで、無理に公共事業や活性化予算を効率性を無視して小規模集落に投資する余裕は国家財政にも地方財政にも実はもうないことを、明確に示して、地域住民の理解を求めるべき。  コンパクトシティよりも、国土構造全体からみたコンパクトな生活空間づくりの方がずっと大事。

ダニエル・カーエマン『ファスト&スロー』を読んで、人間の直感は相当に非合理的なのがわかる。

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
(2014/06/20)
ダニエル・カーネマン

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ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
(2014/06/20)
ダニエル・カーネマン

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 キンドルで購入。最近の行動心理学の成果をわかりやすく説明して、いかに人間の直感が合理的でないか=一貫性がないかを説明。  生存率で説明するのと、死亡率で説明するので、数字が逆転しているだけで、判断が異なったり、最初に一定の参考となる額をいわれると、無意識に推定する額がひっぱられたり、少ない確率での大きな利益には確率よりもおおく心理的にみつもったり(宝くじの場合)、損失の場合には、確実な損失よりも一か八かの確率の小さな大損失にかける(倒産しかかった企業がおおばくちにかける)とか、すでに買っていた芝居の券を忘れてきて、劇場で買う場合と、財布を忘れてクレジットカードで買う場合で、すでに起きたサンクコストを理解できずに、芝居の券を忘れた場合には、芝居をあきらめる可能性が高いなど、いろいろと人間の判断が感情や幸福感、不満感で左右されることがよくわかる。  ちなみに、この著者は、システム1という直感は人類が生き延びてくるために培われたもので教育の成果がでない。システム2が働き出すように、落ち着いて、確率計算をしてみるととか、サンクコストはすでに使ってしまったコストで勘定にいれないとか、できるだけエラーを減らす努力を提案している。  まあ、時間をかけて落ち着いて考えるとか、死亡率を生存率に言い換えてみるとか、選択肢を全部書き出してみるとか、できるだけ、システム2を働かせることが大事。  

ダニエル・マックス『眠れない一族』を読んで、狂牛病のプリオン説を思い出した。

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
(2007/12/12)
ダニエル T.マックス

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 HONZの推薦。  タイトルは、染色体異常で、致死性家族性不眠症に苦しんだイタリアの家系の話。  これは単なる遺伝病というより、その遺伝によって特殊のプリオンがつくられ、壮年期になって脳がすかすかになり、死亡する。  このプリオンは、遺伝性もあるが、プリオンタンパク質を食べるると、その特殊なたたみ方をしたタンパク質が配座感化と呼ばれる過程を通じて体中に広がる。プリオンはタンパク質の一種でウィルスでもないのに感染する。  イギリスの狂牛病も、牛の死骸などを再度えさとして食べされることによって、プリオン以上で死んだ狂牛病のプリオンを再度たべて、それがまた狂牛病を起こす。これは、イギリスで120名ほどの死者までだした。  なぜ、英国人は、120名しか死ななかったかを分析した結果、プリオン遺伝子がヘテロ接合の人には発病しにくく、ホモ接合をしている場合には発病する。そして、英国人は極端にホモ接合遺伝子をもった人がすくないことがわかった。これを遺伝子学者が推計した結果、食人の風習がホモ接合の人間を多く死亡させた結果という。現実に、スペインのアタブエルカ遺跡では同時の人間が人間を食べたあとが残っている。また、パプアニューギニアのフィレ族も第一次世界大戦後まで食人の風習があって、奇妙な病気に苦しんでいたが、食人風習をやめることによって、死亡者が激減した。  後半は、イギリスとアメリカの農務省がいかに肉食業者の保護のために狂牛病を隠し、そして、その対策が後手にまわったかを、そして、獣医と生化学者との連携の悪さがよくわかる。日本もおなじか?  なお、日本人は、ホモ接合の遺伝を持っている人間がおおいらしいので、気をつけた方がいい。ホルモンとか異常プリオンが多く含まれる部位が食べない方がいいね。  科学ジャーナリストのプリオンを原因とする病気について、わかりやすいエッセイです。

松山恵『江戸・東京の都市史』を読んで、市区改正の時に用地買収の仕方がおもしろい。

江戸・東京の都市史: 近代移行期の都市・建築・社会 (明治大学人文科学研究所叢書)江戸・東京の都市史: 近代移行期の都市・建築・社会 (明治大学人文科学研究所叢書)
(2014/04/10)
松山 恵

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 新聞の書評で発見。  大変な力作。前半部分の江戸から東京に変わる際の、官庁街の移転の動向など初めて知る情報が多い。  また、関東大震災の復興事業などに比べて、その前に行われた市区改正事業の状況(第Ⅲ部)がおもしろい。 (1)用地買収は、最初は地権者の価格の申し出で買っていたこと。 (2)片側拡幅か両側拡幅かもめたが、結局大部分は関係者が少ない片側拡幅になったこと。 (3)日本橋地区で、三井財閥が市区改正に伴い土地買収を積極的に行って、今の旧館のあたりの土地を買収したこと。 (4)市区改正で建物を壊したあとに、地震売買という借地人を追い出す風潮がひろまったため、借地人保護のための建物保護法ができたこと。  とてもおもしろい本だが、ついつい制度論とその運用に関心が向いてしまう。歴史者として読んでもかなりおもしろい。

キャス・サンスティーン『熟議が壊れるとき』を読んで、熟議が極端化を生むという指摘は鋭い。

熟議が壊れるとき: 民主政と憲法解釈の統治理論熟議が壊れるとき: 民主政と憲法解釈の統治理論
(2012/10/15)
キャス サンスティーン

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 かばちゃんの推薦。  アメリカの憲法学者だが、最近の行動心理学の成果なども反映している。最近の心理学の影響は大きい。経済学でも行動経済学という分野までできている。  著者の主張は、第一に熟議の重視、第二に裁判の判断のミニマム化、と理解した。  ただし、最新の心理学の分析では、熟議を続けても、同じ考え方の間で議論していると、結論が極端化していくことが報告されている。そのため、著者は熟議を推奨する一方で、違った意見との対話も必要と言っている。  第二の裁判の判断のミニマム化は、日本の裁判では比較的当然にように行われているが、基本的な準則、ルールをつくってばさっと判断するのではなく、個別案件の事情に絞って、個別に裁判官の同意が得られる範囲に絞って、理屈も、あまり深くなくて、過去の判例を踏襲するような浅い論理で行うべきという主張。    もちろん、これも時と場合によっていろいろ柔軟に対応すべきものという限定はある。  アメリカは、共和党と民主党の思想の分裂が激しいから、特に、誰もが反対しない枠組みの中で、個別に議論を整理し、できるだけ極端な判断にならないようなバランスのとれた判断をするための一つの提案だろう。  本当はもっとアメリカの憲法や判例を知っていると、深く理解できるが、自分はとりあえずそう理解した。 「社会はなぜ左と右に分かれるのか」と問題認識は近いような気がする。
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