革新的国家公務員OBが語りたいこと・伝えたいことー自由と民主主義を信じ国益を考えるーAiming at an innovative official of the national government

36年の公務員生活で培った「防災・復興法制」「都市計画法制」の知識を広く共有するため、書評を通じて、関係する新しい論点を示します。なお、意見にわたるものは個人的なものであり所属する(した)組織の意見や立場ではありません。

2015年07月

小林登志子『文明の誕生』を読んで、メソポタミアの城壁都市の歴史がおもしろい。


 役所の図書館でなんの気なしに購入。

 特にメソポタミア文明の知識を総動員して、都市、暦、法、馬などのトピックで文明の誕生期の動きを分析。

 特に都市と城壁の分析が、今後の中世以降の都市の姿に影響しているようで興味深い。

 紀元前2000年ぐらいのメソポタミアの都市は、襲撃から守るため、環濠と土に藁をまぜて固めた土のれんがを積み上げた城壁を巡らしていた。逆に城壁を破壊することが、即その都市の敗北となる。

 バビロンも伝承での高さや見張り台の数は信憑性に欠けるものの相当巨大な城壁が築かれていたことは間違いなく、トロイア市でのトロイの木馬の伝承も、城壁の突破がいかに困難かを表している。

 日本でも、戦国時代には、江戸の周囲に環濠と土塁で囲む総構という防御設備ができていたが、江戸時代に撤去され、外堀などのお堀だけが残ったという。(p14)

 中国でも、「城」という言葉が、武装した都市そのものを表すこと、ルーヴルもザクセン語で要塞、クレムリンもロシア語で城塞をあわらすなど、城壁に由来する言葉が残っている。(p23)

 ここからは、西欧や中国と日本の都市の歴史の違いとして小生が考えたこと。

(1)人が集まって商業活動とか行政活動をする都市は、敵に狙われやすいことから、それを防御するために掘をくつったり、城壁をつくったりするのは、西欧も中国も日本も共通。

(2)特に、その経済活動や行政活動を行っている都市住民までを殺害するかどうかは、異民族意識や異宗教徒意識が強いと激烈になり、経済的価値からみて非合理であっても全滅する作戦をとりやすい。これは、民族意識が細分化され、キリスト教でもカトリックとプロテスタント、さらにイスラム教との戦争に明け暮れた中世以降が都市の防御が強化され、いわゆる城壁都市が完成した。
 日本でも、大和朝廷が東北に侵攻した際には、敵を「土蜘蛛」というなど、異民族意識があったが、中世以降は異民族意識を北海道を除いてあまり強くもたなかったのではないか。
 また、宗教戦争としては一向一揆などがあって激しき殺戮が繰り返されたが、江戸時代にはいってからはほとんど大きな内戦もなく、それが散在的な都市や農村集落の立地の伝統につながったのではないか。

 石井紫郎先生がいうような、土地所有権といった法制的な観念よりも、生きるか死ぬかという観点から都市のすみ方に違いがでたという方が説得力があるような気がする。

大竹文雄『経済学のセンスを磨く』を読んで、チェックポイントとしては重要だけど政策そのものの立案には役立たない?

経済学のセンスを磨く (日経プレミアシリーズ)
大竹 文雄
日本経済新聞出版社
2015-05-09

 労働経済学の先生、「日本の不平等」で日本の格差拡大の相当部分が高齢化によるものを証明したことでも有名。

 この本は、直観でまちがいそうな点を行動経済学などの知見を生かして優しく解説した本。それ自体、とても有効なんだけど、なんか、しっかりした思想的な枠組みがないので、政策立案の根っこの考え方としてはあんまり役立たない気がする。

 経済学ってそんなものかな。

 大事なチェックリスト

(1)平均の回帰の罠
 体罰をすると成績があがり、褒めると下がるというのは、因果関係ではなく、失敗したあとには、成功し、成功したあとには失敗するという平均の回帰を誤解したもの。民間療法が効くと誤解するのも、それをするしないにかかわらず自然と体調は回復していくが、それを効果と誤解するため。(p76)

(2)損失回避
 損失を利得よりも大きく感じることをいう。たとえば、「2万円を一度渡して、くじをひいて2万円をそのまま保持するか、2万円を返却するかをきめる」、という選択を、「1万円返せばそのくじをひかなくていい」、という選択よりも好むことがその実例。(p126)

(3)トービンのqが1以下の時の法人税減税
 投資した額のどの程度が企業の価値の上昇につながるかというトービンのq(1以上だと投資した額以上に企業価値が高まるので投資の価値がある)が、日本では1970年代以降1を下回っており、この状況で法人税減税をしても消費に比べて過剰な設備投資を生む可能性がある。(p140)

(4)努力よりも運の価値観
 アメリカの研究では、18歳から26歳の間に不況を経験した場合、日本の研究では前年よりも大きく不況になった年に就職した男性に、「努力よりも運」という価値観が生まれるとの研究結果あり。(p184)

 とっても、大事な知見だし、政策のチェックには重要だと思うけど、もう少し思想の基盤になるようなしっかりした政治思想体系って経済学からはでてこないのかな、という感想を再度もった。

ホフマン『ALLIANCE』を読んで、会社と社員が相互に高め合う関係は日本にも必要。

ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ
ダイヤモンド社
2015-07-10

 アマゾンのおすすめ。通勤電車の田園都市線、半蔵門線はキンドルしか読めないので、おすすめからなんとなく購入。木下くんのAIAでアライアンスという言葉にちょっと惹かれた。

 この本は、シリコンバレーなどの伸びている企業は、法人と雇用者が、一定の期間に一定の成果をあげる、そのために法人はこういう支援をし、こういう経験や研修を雇用者に提供するという、一種のパートナーシップ協定を結んでいるという話。

 これをしないで、失敗した事例として、ディズニーがCGの提案をしたデザイナーを首にして、あとから巨額の金でその会社を買収して、大きな機械費用をかけたことをあげている。成功した事例として、アマゾンは、クラウドの提案に物販に関係ないにもかかわらず、社内で受け入れて、どんどん支援したため、現在はアマゾンの収益の柱になっているという話を最初に紹介している。

 日本の役所や会社は、一種の家族思考が強くて、「職員、社員をいろんな経験をさせて成長させて、法人とウィンウィンの関係になろう」という発想よりも、家長であるトップに職員、社員が尽くすべきといった発想が強すぎると思う。

 それでは、これから社会人になる学生や現在の社会人にとっては、自分の成長につながらなし、将来の糧にもならないので、だんだん魅力が失われていくと思う。

 もう一つ、著者が指摘しているのは、社員の私的ネットワークの活用。
 私的であろうと公的であろうと、人脈を生かして、組織の発展、新しい情報の収集など、必要なことは当然だと思う。日本の会社は、フェイスブックで遊ぶからといって、職場のパソコンで、SNSをブロックしていたりするが、SNSだって、ビジネスに役立つし、それを許容しても遊びには使わないという信用のおける社員を採用するのが先だと思う。

 いろんな人的ネットワークを生かせないと、日本国内だけでなく、世界でも勝ち残れないのではないか。

開沼博ほか『1984フクシマに生まれて』を読んで、社会問題をビジネスにして解決している方々の話がいい。


 なんか、キンドルでない本を読みたいなと思って積ん読の中から取り上げた本。

 開沼さんと大野さんという福島県出身の同い年の二人、境遇、ご苦労いろいろあるのだが、呼んできて話しを聞いている「人それ自体」が貴重な情報だと思う。

 ALSの母をもち介護ビジネスを立ち上げた、川口有美子さん、病児の保育所運営をしている駒崎弘樹さん、原発に一番近い南相馬の病院に転勤した医師の小鷹昌明さん、オウム事件や東日本大震災のドキュメンタリー映画をとった森達也さん、茂木健一郎さん、筑紫哲也の番組プロデューサーの金富隆さん。

 こんな人っているんだな、と思うだけで、貴重だと思う。

 特に感銘を受けた二人。

(1)ITで儲けていた駒崎さんが、病児保育という保育システムで対応できない部分をビジネスとして立ち上げるとともに、20人以上でないと認可保育園になれない制度を、ロビーイングをして「子ども・子育て支援法」で、小規模認可保育所を認めさせ、おうち保育事業を始めたこと。(p115)

 これなら、住宅市街地の空き家をうまく使って、子育てサービスができるかもしれない。

(2)お母さんがALSになって、痰の吸引をリスクがあるとして、通常の訪問介護事業所でやってくれないため、自分で介護事業所を立ち上げて、ビジネスとして、ALSの患者さん用の介護事業を実施していくと、自分が患者なので、明らかに他の介護事業所よりもよいサービスが提供できる。(p85)

 介護事業は、追加で料金をとって良質なサービスを提供することは可能であり、ALSだけでなく、通常の高齢者介護でも、質の高いサービスをちゃんと預金をたくさん持っている高齢者からとって提供するビジネスは可能性があると小生も考える。

(3)南相馬で医師をしている小鷹さんは、60歳代の地域の若い方の高齢者に、「介護の地産地消」といって参加を働きかけている。(p168)

 これも、いわゆるボランティアという意識ではなく、地元の言葉で丁寧に介護する、その代わりにちゃんとした賃金を介護保険事業以外の部分もいただく、たとえば、病院に一緒に付き添ってあげるとか、いろんなサービスが独居老人には求められており、それを地域の60歳代の高齢者がビジネスとして収入を得ながら行うという仕組みは十分ありえると思う。

 その他、森監督や金富ディレクターの話もきっとおもしろいのだろうけど、僕は、今、時間があまりないので、情報の効率的な収集は本と論文、あとは現場に限っていて、テレビと映画をみないので、ちょっとコメントを控える。

水内俊雄ほか『モダン都市の系譜』を読んで、大阪、京都、神戸の都市史を知る上では必読書。


 役所の図書館で発見。

 これは読みがいがあった。

 大阪、京都、神戸の江戸時代から明治、そして戦前、戦後、現在までの具体的な地図を示して、その変遷と社会問題を的確に分析している。

 特に、戦前の貧困層や朝鮮人、沖縄出身者の集住状況、盛り場、花街、いわゆる赤線、青線など、通常の都市計画の本では触れることの少ない、社会問題を空間的に分析する視点がすばらしいと思う。

 また、戦後の西成区のあいりん地区の歴史、社会政策の状況の分析など、正直言って初めて知る事実も多い。

 やはり、自分では、都市政策は地域の具体の問題、社会問題の解決に目を向けるべきと主張しているが、その分野の歴史や現状についての情報が不足していることを痛感した。

 著者は関一大阪市長を分析する章の最初で、「都市計画の時代は都市社会政策の時代でもあった。」(p120)と記述している。まさに、最初に都市計画を導入しようとした官僚は、いまより縦割りではなく、正面から社会問題に立ち向かっていたと思う。

 今、縦割りの問題が叫ばれ、一方で、社会保障制度が地域にシステムを丸投げするような方向性が見えている現代こそ、再度、先輩の思いに立ち返って、都市計画、空間計画は、社会問題の解決にどう貢献するかという視点を持つべきだと思う。

 ちなみに、国も地方公共団体も、この著者のような都市地理学の先生との交流があまりないと思う。きちんと都市の社会問題に立ち向かうためにも、都市地理学や都市社会学との交流が必要だなと痛感した次第。
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