革新的国家公務員OBが語りたいこと・伝えたいことー自由と民主主義を信じ国益を考えるーAiming at an innovative official of the national government

36年の公務員生活で培った「防災・復興法制」「都市計画法制」の知識を広く共有するため、書評を通じて、関係する新しい論点を示します。なお、意見にわたるものは個人的なものであり所属する(した)組織の意見や立場ではありません。

2017年09月

李相哲『金正日と金正恩の正体』を読んで、北朝鮮崩壊の可能性が高いことを知る。


 著者の李さんは、中国から来日して、今、龍谷大学の先生。

 最近の北朝鮮情勢の緊迫化を受けて、ちょっと前の本を復習。

 参考文献をみると、ハングルに堪能で、北朝鮮、韓国の資料に基づいて、この本を書いている。

 先日も、北朝鮮からの脱北者が日本に漂流してきたが、北朝鮮の経済状況は悲惨なものがある一方で、極端な軍事優先で巨大な軍事力と核兵器を持っている。

 その意味で、緊張して分析しなければいけない国だが、この本を読んでいると、近い将来、政治変動が起きるのではないかという感想をもった。

①父の金正日は、20年以上の時間をかけて、金日成から権限委譲を勝ち取ったが、金正恩には、軍や政治体制を抑える時間的余裕がないのではないか。

②北朝鮮でも、携帯電話などが普及してきており、ひどい経済状況、生活状況という客観的な情報を国民が得やすくなっている、少なくとも、金正日のときよりは、入りやすくなっているのではないか。

③経済状況は、90年代の7割程度まで落ち込んでいるといわれ、金正日が権限を継承したときよりも悪化しており、金正恩は、経済状況を立て直すことは困難ではないか。

 この本自体は、金一家やそのとりまきの詳細なデータを分析しており、それ自体もおもしろいが、やはり、大きな客観状況として、政治体制崩壊の危機的な状況にきていると思う。

 このような政治体制崩壊の危機的な状況分析と最近の米国の政治的経済的軍事的圧力とが一体化した場合に、より一層、日本に対する危険性が高まっている。

 その際の、例えば、軍部の暴発や、難民の流出などに対する、我が国の行政的な緊急対応を考えておく必要がある。

 

『徳川社会の底力』を読んで、江戸時代の統治システムを再評価する動きは最近の歴史学のトピックス。

徳川社会の底力
山〓 善弘
柏書房
2017-05-01

 江戸時代と明治時代で非常に統治システムが極端に改革されたというのは、明治維新政府の一種の宣伝であって、相当程度先進的な行政システムは江戸時代から確立されていて、それをうまく引き継いだから、明治政府は成功した、という考え方が最近の歴史学のトレンド。

 この本もその観点から、江戸時代の統治システムを再評価している。

(1)1707年の宝永大地震及び富士山噴火の際には、これまでの幕府から藩への無利子貸し付け(拝借金)では対応できないとして、小田原藩の被害の大きかった区域を幕府領に編入して幕府が直接復興にあたったこと。その代わりに小田原藩には伊豆など当面積の幕府領を替え地として与えたこと。(p103)

 2011年に東日本大震災で特例としてもうけ、2013年に大規模災害復興法で恒久化した、災害復旧事業の国代行の規定の先鞭ともいえる措置。

(2)江戸時代の村(63000余)は、庄屋などの村役人に対して納めるべき年貢の総量を指示し、その村民への配分は村役人の自治に委ねられていたこと。(p61)

 いわゆる村請制度。

(3)播磨国清水領地では、村→組合村→郡中とより広域的な自治組織が生まれていたこと。(p183)広域的な組織で、定めをつくり、例えば、幕府無許可の勧化料(一種の宗教を背景にした金の無心)を同じ金額で統一して、それ以上の負担を拒否したこと。(p205)

 現在の日本のように地方公共団体の種類や資格が法律で定められていると、行政組織がお仕着せの感じがするが、もともと小さな共同体がより広域的な対応やルールが必要な場合には、広域化していくという素性がもともと日本にもちゃんと存在した。

 江戸時代は農民や商人たちが暗愚で幕府や領主に圧迫されていたのではなく、一定の自治と統治機構をもっていたという事実は、江戸時代が自分たちのひいじいさんの時代の話しなんだから、もっと知らなければいけないし、自信を持っていい話だと思う。

『在日米軍』を読んで、日本の国土と国民の安全につながっているかの判断をする前提として、一国民として知っておくべき情報満載。


 日米安保条約に対して厳しい立場の著者が、在日米軍について書いた本。

 条約、地位協定、ガイドラインなど外交官や防衛官僚の専門事項ではあるものの、一国民としてちゃんと最低限理解しなければいけない事柄。

 自分もそれほど日米安保条約やそれに基づく地位協定など詳しくないので、まず、とっかかりとして勉強。

 プロには常識だと思うし、なんとなくそう思っていたが、この本で確認された点。

(1)ゴルバチョフ・ブッシュイニシアティブの結果、空母を含むすべての艦船から核兵器が撤去されたこと。また、潜水艦に配備されていた核巡航トマホークミサイルもオバマ大統領によって2013年に退役したこと。(p180)

 著者は明確に述べていないが、長距離爆撃機によって核攻撃が可能になっていることから、扱いが難しい艦船や潜水艦に核兵器を配備する戦術的な必要性がなくなったということと理解できる。

(2)在日米軍は、安保条約による日本及び極東の安全の確保の目的が拡張され、主に太平洋軍、さらには米軍全体の世界戦略の一部として運用されていること。(p124)

(3)日本に太平洋軍で最大の人員規模の基地を置いているのは、主に、日本の財政支援が大きく、米軍にとって財政効率的であること。(p142)

 沖縄海兵隊などが、ブッシュ父の時に緊急に始まった湾岸戦争に参加していないことなどの背景として、著者は、海兵隊の訓練などの観点から沖縄が米国本土に比べ規模が極端に小さく、訓練度練度が低いことなどを指摘している。

 高速で地球上に部隊を展開できるといった技術進歩によって立地の束縛が小さくなっていることがわかる。

 なお、現状から基地の配備を変更する場合の対外的なメッセージなど心理的な側面もあることには注意が必要だと思う。

 日本の国土と国民の安全を守るために、米国との関係をどう考え、どう日米安保条約を運用したらいいのかを考える上、基本的かつ重要な情報が満載。

『パラノイアだけが生き残る』を読んで、30年前に起きたコンピュータ業界の垂直統合から水平分業の動きが自動車産業で起きるかどうかが大事な論点。


 インテルの元会長兼CEOが書いた本。2000年より少し前の時代までを扱っている。

 タイトルの意味は、経営者が心配性ぐらいでないと、時代の変化についていくことができないということ。

 1980年代ではIBMなどコンピューターメーカーは、流通販売、アプリケーションソフト、OS、コンピューター、チップ全部の担う垂直統合企業だったが、1995年には、それらが全部別々の企業が担う水平分業の産業構造に変わったというのが重要な指摘。(位置No666)

 インテルは、チップに特化して最初の波を乗り切ったが、日本の半導体メモリー製造に追いかけられ、3年間赤字に苦しんだ結果、ようやく、しかし致命傷にならずに、マイクロプロセッサ製造にシフトして生き残ることができた。

 著者は、「戦略転換点」とよぶ、この状況の変化は簡単には見抜けず、インテルも第6章で記述してあるとおり、結局、戦略転換点ではなかった、X線技術やRICSという新しい技術の採用について経営者が悩むことになった。その原因として著者自身がその分野の技術に詳しくなかったことがある。しかし、著者は中間管理職の技術者のアドバイスによって間違った判断をとることを防ぐことができた。

 結局、著者は、「直観」がものをいうという考え。

 要は「これっ」という、戦略転換点を見つける理論的な解はないということ。

 なお、最初の垂直統合から水平分業への転換が自動車産業でおきるかどうかは、日本製造業にとって重要。現在の内燃機関をもった仕組みではすりあわせ技術が必要で、垂直統合がメリットがあるが、電気自動車になるとパーツが標準化されるので、コンピューターと同じく水平分業が効率的になるはず。

 日本は、垂直統合で多くのサプライヤーを抱える企業体になっているので、水平分業にうまく対応できない可能性がある。このあたりは、野口悠紀雄先生が指摘している点。例えばこの本。http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1010733085.html

 ただし、コンピューターと違って自動車は安全性が重視されるので、一気に水平分業までいかずに既存の自動車産業と電子など部品産業の連携が進むのかもしれない。この可能性としてはホンダジェットの研究開発が参考になる。http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1067390414.html

 いずれにしても、変化について行けない企業は衰退するしかないのは間違いないようだ。
 
 以下、抜き書き。

(1)(解説部分)本書の英文タイトル『Only  the  paranoid  survive』は、直訳すれば、「超心配症だけが生き残る」ということになる。パラノイドという言葉は、偏執症とも訳されるが、英語では日常的に頻繁に使う単語で、あれもこれも心配しすぎる人のことを指す。どっしり構えているのが経営者だという時代は終わった。常に危機感を持ち、状況に敏感に反応し、迅速に対応し、ノイズとシグナルをかぎ分け、新しい実験を重ねていくという能動的な経営手法が、世界有数の優良企業へと導くのである。(位置No3083)

(2)経営者であれば、どんなに詳細な事業計画をもってしても変化を予測することは不可能だと認識しなくてはならない。しかし、だからといって事業計画が必要ないわけではない。〝消防署の事業計画〟とでもいうべきものが必要なのである。つまり、次の火災がどこで発生するかは予測不可能だから、不測の事態に対しても通常の業務と同じように対応できるだけの、精力的かつ効率的なチームを編成しなければならないということだ。(位置No212)

(2)しかしそれは、全体像が見えず、データもそろっていない時点で行動を起こすということを意味する。科学的なアプローチによる経営を信条としている人であっても、このときばかりは直感と個人的判断しか頼れるものはない。戦略転換点という乱気流に巻き込まれたら、乗り切るために使えるものは、悲しいことに直感と判断しかないのである。(位置No594)

(3)私は窓の外に視線を移し、遠くで回っているグレート・アメリカ遊園地の大観覧車を見つめてから、再びゴードンに向かってこう尋ねた。「もしわれわれが追い出され、取締役会が新しいCEOを任命したとしたら、その男は、いったいどんな策を取ると思うかい?」 ゴードンはきっぱりとこう答えた。「メモリー事業からの撤退だろうな」。私は彼をじっと見つめた。悲しみも怒りももはや何も感じられないまま、私は言った。「一度ドアの外に出て、戻ってこよう。そして、それをわれわれの手でやろうじゃないか」(位置No1384)

(4)こうしたカサンドラたちは、自分から探し出さなくてもよいのだ。あなたが経営陣のひとりであれば、向こうからやってくるだろう。まるで愛する商品を売り込むかのように、彼らの心配事を熱心に「売り込みにくる」はずだ。そのとき彼らに反論してはならない。たとえ時間の浪費のように思えても、彼らの話に耳を貸し、情報を得て、彼らがそうした行動をとるに至った理由を理解するように最善を尽くすことだ。(位置No1704)

(5)社風として、ディベート(カオスが広がる)と決断後の進軍(カオスの手綱をとる)という2つの段階に取り組む組織は、強力で順応性がある。 こういった組織には2つの特質がある。
1 ディベートを行うことが容認されている、あるいはむしろ奨励されている。こうした組織のディベートでは、地位に関係なく活発なやり取りが行われ、課題発見に全力が注がれる。また、さまざまな地位と経歴の人間が参加する。
2 組織全体で明確な決定を行い、受け入れることができる。その決定は全組織をあげて支持される。(位置No2525)
 


『伝えることから始めよう』を読んで、ジャパネットで成功した、ものやサービスの売り込み方は「ジョブ理論」に通じるものあり。

伝えることから始めよう
高田 明
東洋経済新報社
2017-01-13

 テレビショッピングで、ゼロから燃焼1000億円まで成長させて、高田氏の自著。

 だれでもあの甲高い声は一度は聞いたことがあるはず。

 立身出世物語としても読めるが、最新のマーケティング論としても読むことができる。

 ジャパネットは、基本はナショナルブランドで特段安売りもしない。ただし、高齢者を中心として、困っていること、面倒くさいと思っていることなど、いわゆる「ジョブ」を解決するもの+サービスとして説明するところが特徴。
 
 例えば、大型液晶テレビを売るときには、「自室にこもっているゲーム好きの息子さんが居間にでてきて一緒にテレビをみるようになる」と説明して、家族の断絶に困っている夫婦の心をとらえる。

 高齢者が若者が使っているタブレットについて、うらやましいと思っているのに対して、タブレットの販売から設定、使い方まで、ものとサービスをセットにして販売する。

 まさに、先日読んだクリステンセンの「ジョブ理論」http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1067496636.htmlを実践している。

 また、経営者の身の振り方として、息子や若手職員が一日特定の商品をテレビ、ちらし、新聞広告で一斉に割引きして販売する戦略を、絶対に失敗すると思って反対していたが、損を覚悟でやらせてみたら、大成功。この結果から、自分の経営者としてのセンスが100%正しくないことを知り、たぶん、時代遅れになっていることを悟って、2016年に社長を退き、一切経営から身を引いたことも、的確な判断だと思う。

 その他、顧客情報がもれた際に一切の営業や宣伝を一時中止するなどの危機管理対応についても、常道ではあるものの、実際には、とっさに大きな損失をだす行動をなかなかとれないなかで、適切な判断をしている点も光る。

 あの高い声でなんかいかがわしいな、と思っていたが、著者がちゃんとした経営者であったことで、自分の認識を改めた。
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