革新的国家公務員OBが語りたいこと・伝えたいことー自由と民主主義を信じ国益を考えるーAiming at an innovative official of the national government

36年の公務員生活で培った「防災・復興法制」「都市計画法制」の知識を広く共有するため、書評を通じて、関係する新しい論点を示します。なお、意見にわたるものは個人的なものであり所属する(した)組織の意見や立場ではありません。

経営学

『ハーバード・ビジネス・レビューBEST10 論文』を読んで、有名な経営学者の言葉を蘊蓄としてメモしてみる。


 昨日、経営学の本に対する批判のなかで取り上げたので、中身を紹介。

 クリステンセン、ドラッカー、レビット、コトラーなど有名な経営学者の論文が日本語で紹介されている。

 経営学というのは学問としては今ひとつピンとこないが、こういう有名な論文をハンディにまとめて日本語でよめる本という企画自体は大事なことだと思う。お手軽に原典に当たれるメリットは大きい。

 以下、抜き書き。

(1)クリステンセン、オーバードルフ「イノベーションのジレンマへの挑戦」から
・持続的イノベーションとは、メイン事業の顧客がすでに価値を認めている技術を活用して、商品やサービス機能・性能を向上させる持続的技術が原動力になっている。
・破壊的イノベーションとは、新しい種類の商品・サービスの導入によりまったく新しい市場を創造するものである。(p17)

(2)ドラッカー「自己探求の時代」から
 第二の人生の問題は、三つの方法によって解決できる。
・第一の方法は、文字通り第二の人生を始めることである。
・第二の方法は、パラレルキャリア(第二の仕事)を持つことである。
・第三の方法は、ソーシャル・アントレプレナー(篤志家)になることである。(p81)

(3)カンター「イノベーションの罠」から
 イノベーションを成功させる処方箋(p174からp184)
・戦略面の改善策:イノベーションを探求する範囲と活動領域を拡大させる
・プロセス面の改善策:計画立案と管理システムの柔軟性を向上させる
・組織面の改善策:イノベーション・チームと既存部門を緊密に連携させる
・スキル面の改善策:人間関係を重視するリーダーを選抜し、コラボレーションによってイノベーションを支援する文化を醸成する

(4)レビット「マーケティング近視眼」から
 実は成長産業といったものは存在しないと私は確信している。成長のチャンスを創出し、それに投資できるように組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できる。(p219)
 最も重要なことは、企業が売ろうとするものが、売り手によって決まるのではなくて、買い手によって決まるという点である。売り手は買い手からの誘導によって動くのであり、売り手のマーケティング努力の成果が製品となる。けっしてその逆ではない。(p229)

『ノヤン先生のマーケティング学』を読んで、マーケティングとか経営学は切り口としてはそれぞれ役立つ情報があるが、あんまり論理的に体系だっていない感じがする。


 タイトルはちょっと変だが、IBMからコンサルタントに転身した著者が、ふくろうのノヤン先生の言葉で、マーケティング学なるものを説明している本。

 それ自体は、ちまたによく聞くマーケティングのフレームワークをわかりやすく説明していて有益。

 例えば、STP(マーケットをセグメントし、そのなかで狙いをさだめ(ターゲティング)、そこに発信する(ポジショニング)のフレームとか(位置No88)、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威に分けてできるだけ客観的に分析)(位置No701)など。

 まず、経営コンサルタントなどはこのような横文字を連発するので、それに負けないために基礎的情報として役立つ。

 ただし、これらの経営学やマーケティング学のフレームがそれぞれ論理的に体系だっているかというをかなり怪しいと思う。

 まず、ドラッカーとかコトラーとかの本や論文を読んでも、それぞれ説得的なところや印象的な事例は多いが、いわゆる論文としての実証性には乏しいように思う。社会科学、特に法律などの論文も実証性には乏しいものが多いが、法律は根っこの論理の緻密さと、憲法とか各種の基本法、外国との比較法分析など、それなりに論理的に積み上げた議論がされている。

 それに対して、ちまたに多く見かける経営学などの本は、いわば特異な事例をひっぱてきて褒めたり、けなしたりしながらフレームを提示するという論理展開が多く、実証性、論理的緻密さについてはやや疑問がある。例えば、『ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文-世界の経営者が愛読する-』
などを読んでもそんな印象が強い。

 以前読んだ、この本は、ちまたにあふれる経営学の本は本当の経営学学界で議論されているものとは違うとの指摘をしていて、自分の感触ともあっている。http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1068031888.html

 要は、いろんな気づきに使える切り口が一杯あるけど、どう使うかは経営者の直観に委ねられているような気がする。

 さらに、やっかいなのは、例えば、小さな試みを積み上げて変化に対応する「リアルオプション戦略」とそれは「持続的イノベーション」で「破壊的イノベーション」には対応できないというフレームとは、現実には相矛盾する側面もある。

 こういう弱点をかかえた、まだまだ検証途上の理論として、でも、世の中のビジネスパーソンがよく得意がって使う切り口であることとして、割り切って情報を入手するということが大事。

 以下、抜き書き(なお、語り口はふくろうなので注意)

(1)マーケット(市場)を細分化(セグメント)し、その中のギフト市場に狙いを定め(ターゲティング)、そこで自らの考え方をメッセージとして発信(ポジショニング)する。図書館で読んだフィリップ・コトラー博士の提唱するSTPそのものが目の前で展開されていたんじゃよ。(位置No88)

(2)コトラー自身も著書の中で書いておることじゃが、マーケティングの歴史の中でコトラーの果たした最も重要な貢献は、このSTPをマーケティングの最も基本的なフレームワークとして位置づけたことじゃろうな。 マーケットを細分化し(Segmentation)、その中から勝てる土俵、つまりターゲットセグメントを探し(Targeting)、そのセグメントの中の人や企業に対してベネフィットを宣言する(Positioning)というフレームワーク(位置N294)

(3)つまり新しいテクノロジーを真っ先に採用して、短期間で素晴らしいポジションを取ることができても、そこを守れなければ意味がないんじゃよ。では、守れた企業と守れなかった企業の戦略にどんな違いがあるのかのう?その鍵がトレードオフなんじゃ。トレードオフとは、そのポジションを奪いに行く時に「何を捨てたか?」と言うことなんじゃよ。何かを捨てなければエッジが立たず、競合にあっという間に模倣されてシェアを奪われてしまうんじゃ。だから、競合が捨てられない何かを捨てることで競合優位性を確固たるものにするんじゃよ。(位置No384)

(4)当然じゃが、SWOT分析をするということは、同時にそれぞれに以下のような回答を導き出す行為でもあるんじゃ。 
「いかに強みを活かすのか」 
「いかに弱みを克服するのか」 
「いかに機会を活用するのか」 「いかに脅威を排除するのか」
(位置No702)

(5)考察の結果、彼(ノーバート・ウィナー)は、星や山などの周辺環境と通信しながら制御しているのではないか、という説をまとめ、1947年に『通信と制御』という論文を発表して世界に衝撃を与えたんじゃ。この論文の中で体系化したのがサイバネティクス理論なんじゃよ。「通信(コミュニケーション)し、結果をフィードバックすることを繰り返しながら小刻みに軌道を修正(制御)すれば、途中の気候や地形の変化などに惑わされずに目的の沼にたどり着ける」という考え方なんじゃな。(位置No1074)

(6)ソリューションブランドを創るには、ターゲットにできるだけ具体的な事例を伝え続けるしか方法がないんじゃ。「快適なビジネス環境をサポートする」などという抽象的なメッセージでは企業ブランドを上げることはできても、ソリューションブランドには効果がないんじゃよ。(位置No1450)

(7)エレベーター会社はメンテナンスの子会社を持っておるし、それには所属しない独立系のメンテナンス会社もあるんじゃ。彼らは全国の営業拠点に専門知識を持った多くのエンジニアを抱え、基本的な設備を搭載した車を配備しておるんじゃが、彼らの顧客のLTVの項目には、エレベーターの保守・メンテナンスしかなかったんじゃ。もし、ビル管理にも営業拠点ネットワークとエンジニアリングの機動力を応用できると考えていれば、今のビル管理会社にとっては手強いライバルになっていたかもしれないのう。(位置No1598)

(8)経済合理性から見れば不可解なことも、同一人格ならば起こり得ることなんじゃよ。人間は理性ではなく感情の動物じゃからな。じゃからBtoCのマーケティングは徹底的に感情、つまりエモーショナルな部分に訴える手法を採るんじゃ。(位置No1717)

(9)一般的には、パレートはBtoB企業の売上構成、意思決定、人材のスキル分布や営業成績などに当てはまり、ロングテールはBtoC企業の売上構成や、顧客分布、商品構成の販売分布などに当てはまると言われておるんじゃよ。(位置No1764)

(10) 「戦術のミスは戦略でカバーできるが、戦略のミスは戦術ではカバーできない」という原則があるんじゃ。マーケティングの貧困に起因する戦略のミスであれば、いかなる戦術でもカバーすることは不可能なんじゃよ。マーケティングに立脚した経営戦略を再構築するしか再生の道はないじゃろう。最適なマーケティングパートナーを探して、事業を再構築できた企業だけが生き残り、小手先の戦術や、景気の回復に期待している企業は残念ながら太平洋戦争の日本と同じ運命をたどるじゃろうな。(位置No3551)

『急に売れ始めるにはワケがある』を読んで、最近の行動経済学や経営学のネタがざっとわかる本。原典を紹介していなのが惜しいな。


 2000年発行の本だが、最近の行動経済学や経営学のネタになっている理論をざくっと紹介しているので、便利な本。

 ただし、元ネタとなる原典を紹介していないので、それがちょっと惜しい。

(1)ティッピング・ポイント:すべてが一気に変化する劇的な瞬間。ハッシュパピーが急に売れ出したり、ニューヨーク市の犯罪率が低下したのがその例。共通の特徴は、感染的であること、小さな原因が大きな結果をもたらすこと、変化が徐々にではなく劇的に生じること(p19)

(2)少数者の法則:一気に感染を拡げるのは、80対20の法則ではなく、ごく少数者。特に、社会をつなぐコネクター(ここでミルグラムの六次のつながりと理論と弱いつながりの理論がでてくる)、通人(メイヴン)、セールスマンの三つの性質を持つ人が重要。(第2章)

(3)背景の力:感染は、起こる時の場所の条件と環境に敏感に反応する。割れ窓理論、ニューヨーク地下鉄の改善のために、まず落書きと無賃乗車を取り締まった事例の紹介。この環境がどれだけ影響を与えるかの説明に、「模擬監獄の実験」が紹介される。(第4章)

(4)ダンバー数、150:150人を超えると、グループ内の道徳規範が一気に緩んだり、分派行動が起きる。逆に150以下の小さな集団が外に対して大きな感染力を持つ。(第5章)

(5)キャズム、溝:イノベーターと初期採用者(アーリーアダプター)と初期多数派(アーリーマジョリティ)の間には溝があり、この溝を超えると爆発的に売れ始める。(第6章)

 元ネタとしては、個人的には、シュナイダー『狂気の科学』http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1038864899.htmlや、『友だちは何人』http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1018937631.html、『キャズム』http://blog.livedoor.jp/shoji1217/archives/1024892147.htmlをおさらいすると良いと思う。

『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』を読んで、競争戦略の議論は再開発とリノベーションの議論につながるな。


 ややタイトルに誤解を招く感じアリ。

 要は、経営学のドラッカーのような経営者向けの本ではなく、統計分析などを駆使した経営学の学術誌で議論されている経営学の知識を紹介した本。
  
 競争の型と競争戦略のタイプの比較は、都市計画にも示唆多し。

(1)IO型(産業構造が安定している状態)⇒ポーターのSCP戦略(差別化とコスト削減)が有効
(2)チェンバレン型(参入障壁が低く、複数の企業が激しく競争)⇒RBV戦略(自社の技術力やサービス力など経営資源に注目)が有効
(3)シュンペーター型(競争環境が不確実な状態)⇒リアルオプション戦略(常に不確実な事業環境に柔軟に対応する)(位置No490)

 シュンペーター型の競争環境では、ちゃんとした戦略を立てることには意味はなく、「とにかくまず少額でもいいから投資をしたり、小ロットでもいいから製品・サービスを市場にだしてみる」というリアルオプション戦略が有効。『リーンスタートアップ』にも近い発想。

 日本の都市開発をめぐる状況も不確実性という観点では同じ状況。

 2020年以降の日本の経済状況や床需要などは極めて不確実性が高い状況。この段階で100億円単位の投資を相当長期間にわかって行う再開発事業よりは、小規模で特定の地区でビジネスを始めて段階的に規模を拡大していくリノベーションの方が経営戦略上もマッチしているということ。

 その他、面白い指摘

(1)既存の知識に縛られた(ドミナントデザイン)を壊す「アーキテクチュラルな知」は、研究者の会社の枠を越えたコミュニティによる知識交換と、会社内でも分野の垣根を越えた幅広い情報交換が必要。(位置No929)

(2)「全般的に成功体験はよい効果をもたらす」が、「失敗体験が乏しいまま成功体験を重ねてしまうと、むしろその後は失敗確率が高まる」(位置No1480)

(3)小規模企業が成功するための経営幹部に必要なpostureは、innovative,proactive,risk-takingの三つ。(位置No2994)

(4)女性活用や外国人活用などのダイバーシティ戦略は中途半端では組織内グループができ生産性が落ちる、やるのであれば徹底的に複数次元でダーバーシティを進める必要がある。(位置No1992) 

 その他、抜き書き。

(1)最も根本的な誤解から述べさせてください。それは「経営学は『役に立つ』ことを目的にした学問である」と思われがちなことです。実は、経営学者の多くはそう考えていません。(位置No246)

(2)経営学は何を提供できるかというと、それは(1)理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」と、(2)実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果、の二つだけです。(位置No341)

(3)経営学は、企業の戦略を「競争戦略(事業戦略)」と「企業戦略」に大別します。前者は「特定の業界・市場で、企業がどのような戦い方をしていくか」を考えるもので、後者は「複数の業界にまたがってビジネスする企業が、全体としてどのように戦略を進めるか」を考える分野です(広義の多角化戦略といえます)。(位置No442)

(4)SCP戦略(注1)とも呼ばれるこの戦略は、米ハーバード大学のマイケル・ポーターが中心となって発展させたもので、1980年代以降の競争戦略の代名詞になっています。代表的なフレームワークが、「ポジショニング戦略」です。 ポジショニングとは「業界内のライバルと比べて、自社がどのような製品・サービスを顧客に提供していくか」を考えるものです。この「ポジション」は2種類に分かれます。一つは、同業他社と差別化した製品・サービスを提供して顧客に追加価値を提供する「差別化戦略」であり、もう一つはコスト削減に注力して、例えば同業他社よりも低い価格をつけて市場シェアをとる「コストリーダーシップ戦略」です。(位置No429)

(5)SCP戦略と対比するように使われるのがRBVです。米ユタ大学のジェイ・バーニーを中心に90 年代に打ち立てられた考えで、「企業の競争優位に重要なのは、製品・サービスのポジションではなく、企業の持つ経営資源(リソース)にある」とする考え方です。 経営資源の代表例は、なんといっても人材や技術でしょう。優れた人材、他社がまねできない技術、といった自社の「強み」を磨くことで企業は安定して高いパフォーマンスを実現する、という考え方です。(位置No436)

(6)IO型競争をしている業界で有効な戦略は、ポーターのSCP戦略です。なぜなら、SCP戦略はそもそも「競争環境が寡占化に進むほうが、企業は安定して高い収益を上げられる」という前提に立った考えだからです。「(寡占状態を維持するために)新規参入をどうやって阻むか」「自社はライバル社とどのように異なるポジションをとって、ガチンコ競争を避けるべきか」などを考えるのです。(位置No459)

(7)チェンバレン型: IO型よりも参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型です。この型では「差別化しながら競争すること」が前提になっているので、その「差別化する力」を磨いていくことこそ、各社が重視すべき戦略になります。結果、各社は少しでも優れた(差別化された)製品・サービスを提供するために、自社の技術力やサービス力に磨きをかけます。従ってこの型の業界では、技術・人材などの経営資源に注目するRBVに基づく戦略が有用なのです。(位置No465)

(8)リアル・オプションについては経営学ミニ解説2で詳しく紹介しますが、これは事業環境の不確実性が高いことを前提にした考えです。その含意を平たくいえば、「不確実性の高いときには、とにかくまずは少額でもいいから投資をしたり、小ロットでいいから製品・サービスを市場に出したりしてみよう」という感じでしょうか。(位置No520)

(9)第一に、新興企業のビジネスモデルにおいて決定的なのは、そのデザインが「新奇性」が高いこと、すなわちイノベーティブであるということです(結果3)。すなわち「いままでつながっていなかった人と人をつなぐ」「いままでつながっていなかった企業と人をつなぐ」あるいは「そのつなぎ方を新しくする」といったデザインです。逆に、この点で従来の企業と大差ないビジネスモデルを組んでいる限り、企業価値は高まらないことになります。
 第二に、それ以上に興味深いのが、結果1と4です。結果1が示すように「効率性」を追求するビジネスモデルも企業価値を高める可能性があるわけですが、しかしイノベーティブなビジネスモデルの企業が「効率性」も同時に追求すると、それは逆効果となり得るのです(結果4)。「新奇性と効率性の二兎は追わず、メリハリをつけたほうがよい」ということでしょう。(位置No629)

(10)企業・人は様々な知の組み合せを試せたほうがいいですから、常に「知の範囲」を広げることが望まれます。これを世界の経営学では「Exploration」といいます。本書では、「知の探索」と呼びましょう。 一方、そのような活動を通じて生み出された知からは、当然ながら収益を生み出すことが求められます。そのために企業は一定分野の知を継続して「深める」ことも必要です。これを「Exploitation(知の深化)」と呼びます。この知の探索と深化をバランスよく進めていくことを、両利き(Ambidexterity)というのです。(位置No760)

『虚妄の成果主義』を読んで、自己決定の感覚が高いほど職務満足度が高まり、金銭的インセンティブが負の効果があるという指摘は重要?

虚妄の成果主義
高橋 伸夫
日経BP社
2004-01-17

 東京大学の経営学の先生が書いた本。

 大胆な物言いの本で、東大の先生でもこんな思い切った発言をするのかど、その点でもびっくり。

 経営学もどきの本はたくさん読んでいるが、今ひとつ最新の経営学の大系が理解していないので、全体的な評価は、もう少し経営学の本を読んでからにする。

 気になった点。

(1)日本の経営学は米国の経営学を輸入している。そして米国の経営学は、戦後直後は、日本の終身雇用や年功序列を固定費を高めるものと批判していた。しかし、日本の高度成長期には、同じ学者たちが、日本的経営の優れた点として高く評価した。例えば、アレグレンとドラッカーの主張。 
 この米国経営学者の動きに日本の経営学者も右往左往している。(第2章)

(2)現在は日本の終身雇用や年功序列を批判し、成果主義を取り入れる動きが大企業に多い。しかし、金銭的なインセンティブを入れるとかえってやる気を失う効果がある。金銭的なインセンティブの範囲内でしか働かなくなるという逆効果を生む。米国経営学者のデシは、やる気を出させるためには、金銭的報酬がパフォーマンスによって直接決まらないようにするのがよいと指摘する(p170)

(3)やる気をださせる「内発的動機付け」には、自己決定度(上司から権限委譲されているとか、自分の意見が尊重されているなど自分の判断がいかされているという感覚)を高めることが重要という仮説が提示され、日米とも実証的研究で裏付けられている。(p159)

 これらの指摘は、ある程度は自分の国家公務員の経験に合致する。「仕事の褒美は仕事」というよういに次から次への難しい仕事をあてがわれ、対応していくうちに自分の自己決定度が高まり、満足度が上がったことは事実。

 このようにミクロに社員、職員のやる気や生産性という観点からは、極端に金銭インセンティブを重視する成果主義が企業や職場の生産性向上に寄与せず、むしろ逆効果になることは納得感がある。

 しかし、若い時代に仕事にみあった給与をもらえず、管理職になって仕事もしないのに給与は高くもらうことで自分の企業人生での収支をとるような仕組みは、企業や経済が成長しなくなると、若者に負担が大きくなり、また、若者は将来の企業でのポストに不安があるので、働く意欲を欠く可能性がある。この点の是正は必要と考える。若い時代にもう少し仕事にみあった給与を払うバランスで、仕事をしない中年の社員については、現状よりも給与水準を下げていくこともやむを得ないのではないか。

 また、年功序列制度をある程度は維持するにしても、途中採用の社員、職員について、たたき上げと同等の給与を支払うこと、これによって、能力の高い社員の企業間の流動性がもう少し高まることが大事だと思う。これは、ポストがなくて鬱屈している中年管理職予備軍に対して、能力に応じたポストを外部に見つける可能性を高め、日本経済全体としては望ましい結果になる可能性がある。

 さらに、あえていえば、企業規模によっても成果主義か年功序列主義かを重視するかは違いがあってしかるべきだし、実際にもそうなっている可能性も高い。新しく起こしたベンチャー企業であれば、経営者が全社員に目も行き届くし、有能な社員に成果に応じて給与を払っても別に問題は起きないはず。
 それが企業が成長していくにつれ、管理部門も増えてくるし、社員数も増えてきて、経営者が自分で社員全部に目配りできなくなってくる。そういう大きな企業では、ベースとして年功序列制度を維持していくことには一定の合理性があり、現実にもそうなっているのではないかと思う。
  
 これらの留意点を前提にした上で、成果主義万能とかそれを上っ面だけまねた目標管理の手続きなどについては、猿まねしないことが大事という指摘は極めて重要。
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