ハンニバル〈上〉 (新潮文庫) 後輩と飲みに行ったときに話題に上がった作品。物語内容の時間は、「羊たちの沈黙」から7年後。タフになったクラリスがクレンドラーの罠にはめられます。しかもその裏にはレクター博士に復讐を遂げる、ヴァージャーの姿が……という話。
 確かに意外だったんですけど、リアリティに掛ける。だって人が目の前で殺されてるのに、気付かない(のか見て見ぬ振りをしてる)、FBI捜査官クラリス・スターリング!(32)いくらレクター博士にほれ込んでたって普通、レクターがクレンドラーが殺したら気付くでしょ。クレンドラーと行ったら、レクターが凶悪殺人犯なのに一人で行くのも奇妙な話しだよね。それに襲われたときに抵抗しないのもおかしいでしょう。
 amazonで既に何人かの方が指摘してくれてるように、ハンニバル・レクター博士とクラリス・スターリングとの劣化恋愛小説と化してしまっているのは否めないことでしょうね。そもそも映画化してもらってお金が欲しいって魂胆が見え見えで嫌らしい。わざわざフィレンツェにする意図は?魔女狩りのイメージを持たせたいのならアメリカの古都、ボストンでも普通に魔女狩りの道具展示してあります。
 でもこのテクストはクレンドラーをあえて非人間的に、レクターをあえて人間的に(すくなくてもクラリスに対する態度で言えば)描くことで、人間/非人間と言う対立を反転させています。
 僕だったらハンニバルを何かの比喩にも受け取れるようにしますし、クレンドラーが自分の仲間を出され、人間同士の共食いを頷きながら眺めるハンニバルという風にした方が面白かったんじゃないでしょうか?ハンニバルをかたや神格化する一方、かたや俗っぽい存在として扱うというアンバランスさに戸惑いを覚えます。さらにハンニバル・レクター博士が子供にサンドイッチを振舞う場面や、料理道具を買っている場面で先入観の怖さについて語ることもできただけに、素材は惜しい。『ブラック・サンデー』のようにテロリストに堕ちていく作品もあるだけになおさらこの作品に違和感を覚えざるを得ない。
ハンニバル〈下〉 (新潮文庫) 例えて言うなら途中までフォアグラを使った高級フレンチを堪能したと思ったら、デザートはう○いぼう(納豆味)。うーん、美味しいんだけど激しくミスマッチ。まさにそんな感じ。ラストは大事だね

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