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ライプニッツ (Century Books―人と思想)

はじめに

 アマゾンでのレビューが好評だったので借りてみたんですが……、伝記的事実には全く興味がない僕にとって期待はずれでした。また第二部の『ライプニッツの思想』では詰め込みすぎて、どれも散漫な印象を受けました。
 ルネ・ブーヴレス『ライプニッツ』*1が僕好みの概説書だったので、一層がっかりしたのかもしれませんが。
 それでもまとめていくうちに何か掘り出し物が見つかるかもしれないと思って、ブログに書き起こします。

ライプニッツと言えば

 ライプニッツと言えば微分方程式を発明した人で知られますが、それは数学上の発見というよりは彼の哲学とも結びついていました。彼は『単子論』*2でも解るように、一番小さな精神的な単位、理性的な単位を考えたんです。それが今日の微分方程式の発明につながってくるのです。
 哲学、というか神学で言えば、彼は予定調和*3を唱えました。神は最善の状態でこの世を保っている、という考え方です。
 彼の主だった業績は数学の微積分方程式、神学の予定調和、哲学の単子論の三つです。しかし、彼は人間の考えを計算式で表せないかと考えた人です。もちろんこのこと自体はデカルトやトマス・ホッブズにも構想がありました*4が、その構想をもとに計算機を生み出したのです*5。
 以上、他にも法律学や社会福祉、そして宮廷の図書館司書も勤め、図書館情報学にもその名を残しています。図書館情報学の主な業績としては「図書館は人間精神の宝庫になるべきだとして、学術的価値のある資料の系統的収集、目録の整備、利用環境の改善などを唱え、実践した」*6とあります。

ライプニッツの生涯

 さてライプニッツが生きた時代背景を語る上で欠かせないのが、三十年戦争です。「ライプニッツが生まれた一六四六年、全ドイツはいまだ三十年戦争の戦場で」した。
 三十年戦争では、(中略)その後半期になると(中略)皇帝軍とスウェーデン軍が攻撃や占領を繰り返す。一六四二年、ライプツィヒはスウェーデン軍によってひどく破壊された後に降伏し、一六五○年まで占領下におかれた。占領下市民はスウェーデン軍に高額の租税・金品や住居などを徴収され、暴力にも曝されていた
 「それなりに市民生活は送られていた」とありますが、悲惨な状況には変わりません。

社会福祉政策

 ライプニッツの特筆すべき点はこのような状況で、『形而上学叙説』などに見られる予定調和の思想を生み出したことにあると僕は考えています。またこのような環境があったからこそ、社会福祉政策に興味をいだいたのかもしれません。ライプニッツの本職は政治顧問であり、「孤児院、授産所、矯正施設、病院、百貨店、株式会社の設置、国内産業の育成・保護、保険や年金の解説、人口維持政策、死刑廃止論その他きわめて多岐にわたる」「社会整備の構想」という提言をしています。
 ライプニッツの保険論は三つのモチーフが認められます。
1.将来に起こり得る偶然を予測し、対策を講じるという合理的認識の要求
2.国内インフラの整備。不幸に見舞われた人間が脱落するような国家は健全ではない。
3.社会福祉論の萌芽。
 2に関して言えば、相互扶助の観点が挙げられる、と酒井さんは指摘しています。やはりキリスト教の考えは相互扶助なのでしょうか? しかも理性によって正しく社会は導かれるはずである、という考えは共産主義者の考えにつながるところがあります。
 彼らはヘーゲル弁証法をもとに政治形態はやがて、共産主義に向かうだろうと予測していました*7。そしてその前段階として、インフラを国営化した社会主義経済があるのです。だから、ライプニッツは福祉国家の萌芽のみならず、社会主義の萌芽とも言えるかもしれません。
 ハイデガーは、ライプニッツの存在論以外にもこの保険制度について言及しています。ハイデガーが指摘するライプニッツの二大発明は生命保険のシステムと、計算機だそうです。今後ハイデガーの著作を読むときの覚えとして。
 またこのことからも解るように、ライプニッツの国家論は社会による弱者救済のシステムを含んでいます。ホッブズが『市民論』*8で提唱した「万人の万人に対する戦い」とは対立しています。
 またスピノザは『国家論』*9において「常に理性を用いて人間の自由の最高所立つことは各人の力の内にはない」と述べています

独学で

 ライプニッツは独学で哲学などを勉強していたのですが、次のように述懐しているそうです。
 独学のおかげで、空虚でどの道忘れてしまうような、また根拠ではなく教師の栄誉を意味するような事柄から免れ、どの学問でも熱心に諸原理に到るまで探求することができたという。
 僕はこうやって哲学を完全に独学で勉強しているのですが、やはり自分のペースで勉強できることが何よりの強みかなと思います。
 興味のある分野はどこまでも調べますし、逆に興味がなければそのときになるまで調べない。遠回りは遠回りで見える風景があるのです。確かウィトゲンシュタインだったかと思いますが、「哲学では一番ゆっくり走った者が勝つ」と述べています。
 出典を調べようとして、ウィトゲンシュタインの著作を何冊かめくってみたら、世界は記号でできていて演算可能である、とかいう内容のことが書かれてた上に独我論と単子論が重なって驚いたよ……。おおライプニッツじゃん! みたいな。
 一つの問題意識についてじっくりと取り組む人こそが、哲学者としての才能がある、と思います。

暗記術

 「即興で〔ラテン語の〕演説をした」というエピソードもあるみたいです。「語と語の関係によって内容の構造を捉え、そこから理性判断によって全体を構成することが大事である(中略)与えられた命題を概念の結合に還元し、理性的推論をより簡潔なものにすることができれば、人間の幸福と社会の益に奉仕することができる、と彼は主張」しているそうです。
 酒井さんは法律学の分野で重要だと述べています。
 法律には、自然の理性にもとづいて自然の正義と国際法をみるならはっきりとした「答え」が常に存するというものである。つまり弁護士などの詭弁によって審級の度毎にどちらにも転ぶようなものは判決ではない。
 しかし、これは数学の考え方に依っています。つまり、法体系を一つの公理としてみなして、そこから判決を導き出すという考え方です。
 そして理性中心主義につながる系譜を感じました。

*1 ルネ・ブーヴレス『ライプニッツ』(白水社)
*2 ライプニツ『単子論』(岩波書店)
*3 ライプニッツ『形而上学叙説』(平凡社)
*4 酒井潔[他]『ライプニッツ読本』(法政大学出版局)
*5 同上。パスカルも計算機を発明したが、それは単に父親を助けたいという素朴な思いからである。全ての人間の思考は計算式に置き換わるという思想の元ではない。
*6 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会[編]『図書館情報学会用語辞典 第2版』(丸善)
*7 トロツキー『永続革命論』(光文社)など。
*8 ホッブズ『市民論』(京都大学学術出版会 )
*9 スピノザ『国家論』(岩波書店)



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