ガラスの城 (講談社文庫)

あらすじ

 社員旅行の最中、販売課長が失踪。やがて手と首を切断された状態で見つかる。OL、三上田鶴子は独自調査を始め、それを手記にまとめた。しかしその三上も失踪し……。ガラスの城のような高層ビルで何が起こったのか。

ストーリーについて

 まずはストーリーについてもう少し詳しく見ていきます。

トリックについて

 いくつかのトリックが使われているのですが、目次を見た瞬間に一つは冊子がつきました。読み進めていくと案の定、信頼できない語り手でした。やったね。そもそも手記やノートが出てきたら、いや、一人称の推理小説は叙述トリックをまず疑ってかかるべきです。でも予想していた展開とは少し違い、ちゃんと犯人が解るようになっていました。ただ、この理屈で行けば、的場のノートもまた信憑性に欠けてしまい、結局、真相は藪の中になってしまいませんか?
 僕は互いが互いを犯人だと思い込む、という結末を想像していたのですが……。

捜査について

 僕も推理小説を書いているのですが、聞き込みは雑談を装うことで上手く誤魔化せます。しかし科学捜査の描写が難しいんですね。特に主人公が会社勤めをしている場合、時刻に制約がある上、たかだか一介のOLに話すわけがないと思ってしまうんです。土の成分分析などは、園芸に凝っているなどの設定を与えるにしても、本格的な科学捜査はできません。そんな知識があるのなら、それ相応のところに就職していると思いませんか?
 『ガラスの城』では友人に大学の助手がいて、調べてもらう、という筋立てですが、相手にも仕事があります。一度ならまだしも、二度は気が引けてしまうのが一般的な感覚。

女性について

 さて『ガラスの城』は女性の社会的問題を扱っています。上司、部下の関係が『ガラスの城』に登場するような形で持ち込まれることはないと思います。

仕事と結婚

 しかし、下記の描写はどうでしょうか。
 しょせん、女子社員は男子社員の事務補助にすぎない。いつまでたっても同じ仕事の繰返しである。あたえられる仕事に希望も進歩もないし、もとより栄転もない。
 少し調べてみたのですが、女性管理職の割合は平成24年時点で「課長相当職は7.9%、部長相当職では4.9%であり、いずれも長期的には上昇傾向にはあるものの低い水準にとどまっている」*1のです。
 また結婚しない女性を白い目で見る風潮も『ガラスの城』では描かれています。もちろん三上の主観も入っているのですが、的場郁子がその例です。「オールドミス」と三上の手記では揶揄されているのですが、的場は「美貌をもたず、さほどの才能もない女性」の代表として描かれているのです。
 「四十ちかい」年でも結婚しない(あるいはできない?)ので、的場は「お局様」。しかし問題は表立っては言わないにしても的場のような女性を白い目で見るような空気が平成が終わろうとしているにもかかわらず社会全体に流れているような気がするということです。
 『ガラスの城』の的場は「高い化粧品を買っても、しょせんは無駄だとさとっているらしい」と開き直っているのですが、彼女のように開き直れる女性がどれだけいるでしょう。

女性が探偵役を勤めること

 さて、『ガラスの城』では女性が探偵役になりますが、上記に述べたように完全な傍観者です。特に的場は仕事だけでなく恋愛においても。だからこそ、三上が手記に書いているように「客観的に」人間観察ができるのですが、女性が探偵役を勤めることについての意味はそれだけではありません。
 ミス・マープルなどの一部例外はありますが、推理小説において探偵役は男性が多いんです*2。そのような中で女性が男性の犯罪を暴くというのは、男性社会への挑戦とも言えます。しかし、「警察署員をまじえた、わが社の課員たちの黒い群れ」とあるように男性社会*3に頼らざるを得ないという実情が垣間見えるのです。


*1 内閣府男女共同参画局「第2節 就労の場における女性」。
*2 キャスリーン・グレゴリー・クラインはジェンダー批評の立場から女性探偵について分析している(キャスリーン・グレゴリー・クライン『女探偵大研究』晶文社)
*3 ここで警察署員が出てくるのは極めて象徴的である。なぜなら警察官はホモソーシャルだからである(Wikipedia「ホモソーシャル」)