「細菌に【おかされる】」。この字は「冒される」とも「侵される」とも書けるが、どちらで書くだろうか? 「侵される」と書くほうが一般的だが、風邪の諸症状を「感冒」というように「冒す」とも書ける*1。
 こういうときには字源が頼りになる。漢字の字源を紐解いてみると、「侵」は「漸く進むなり、人に従ひ、もて帚を持つ、埽の進むが若し、又は手なり」と説文解字にある。ほうき(帚)を持つ手を「又」で表し「ほうきで狭いすみまではいりこんではくことを示す」*2。
 一方の「冒」は「目の上まで深く被る帽の形」*3、「印(物)の上に冂型のおおいをかぶせたことを示す」*4。例えば、『詩経』には、「日居月諸下土是冒」という一文があり、「日光、月光ともに大地のもろもろを覆う」と訳される。そして、この「冒」は「覆」という意味で使われている。
  また白川静の『常用字解』*5によれば、
「会意。冃と目とを組み合わせた形。冃は帽子の形であるから、冒は頭に深く帽子を被り、目だけを出している形で、“おおう、かぶる” の意味となる。説文では“冡りて前むなり”とあり、頭に兜をつけて進撃するの意味とする。冒死のように、“おかす”の意味に用いる」
 とある。
 『春秋左氏伝』*6には「抽戈楯冒之」とあり、この文章で進撃の意味に用いられている。なお、全体は「戈と盾をもって攻める」という意味である。



*1 国立国語研究所「ことばQ&A」より
*2 藤堂明保『漢字源』(学研)
*3 白川静『字通』(平凡社)
*4 藤堂明保『漢字源』(学研)
*5 白川静『常用字解
*6 春秋左氏伝(平凡社)