ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊 (中公新書)

要約

 動物学者による「ケータイを持った珍種のサル」の観察記録。統計学、論理学に通じており、非常に興味深い。また終始一貫した論理的思考に感銘を受けるばかりである。

終始一貫した論理と科学哲学

 一見すると、携帯電話、ルーズソックスなど若者の風俗、そしてその親への攻撃的な姿勢など論点がぼやけているようにも見えます。しかし彼のこういった主張は表面的なものにすぎません。
 むしろその奥に隠された〈団塊イデオロギー〉が重要となるのであり、その弁証法的な解決に乗り出さなければいけないのです。著者自身が明らかにしているように「安保闘争」に参加するなどする典型的な団塊の世代です。
 また自然科学に歴史修正主義を用いるなどして、斬新なアプローチが特徴です。それにはポパーにも勝る科学哲学に裏打ちされているのです。もっとも、これには先例がないわけではありません。例えば、ES細胞を発見した黄教授などが有名です。

大胆な統計処理

 またこの正高氏は凡人では考えられないような統計処理を行なっています。
 例えば、子どもへの愛情を示すのにお金をいくらかけているかということで測っています。「子育てに情熱を注ぐ程度が強ければ強いほど、出費をいとわないのではないか」と、このことは一見すると従来の統計処理に叶っているようです。
 しかし「平均年収は1000万円、両働きは殆ど無い核家族を調査対象」としています。このことから錬金術師の家庭かエスポワールの常連客を調査対象にしたのでしょう。われわれ庶民はつまるところ正高氏にとってはサルなのであり、こういった月収80万〜85万の父親のみが人間として認められているのです。
 この辺り、とても四枚のカード問題を出す人とは思えないのですが、章立てにも巧妙な意味が読み取れます。もしも四枚のカード問題を先に出したら、イデオロギーのために駆使した統計学の意味がなくなってしまうのです。
 また、彼は人を真っ二つにしても生かすことのできる外科の天才、まさにブラックジャックも真っ青なゴッドハンドの持ち主です。そのことが解るのは第四章の実験。逆算すると1.75人になります。この辺りも切ったら死ぬ人間はサルとして扱われ、四分割されても死なない動物が正高氏のいう人間なのです。
 なお、家庭の教育方針を示すデータはアメリカと日本しか出てきません。これを見た読者は恣意的な統計だと憤慨されるでしょう。現にパリオ・マッツァリーノの『反社会学講座』(筑摩書房)は社会学の手法として1.意図的な誤読2.欧米のみのデータ集計3.都合のいい部分の抽出を挙げています。
 これは社会学に皮肉を浴びせる本ですが、正高氏はそんな卑怯なまねはしていません。そうではなく正高氏はアメリカ人と日本人以外はまさにサル同然だということを意味しています。ウッキー!

サルの言葉が解る天才動物学者

 自然科学において重要なのは事実です。動物学も自然科学である以上は事実を重視します。さて、その上で次の一文を読んでみましょう。
 ニホンザルは仲間からが自分から空間的に離れていたときに、むしろ声を出し合うことがわかる。(中略)自分が声を出して応答があることで、彼らは仲間と一体であるという安心感を得ているらしい。
 このことを科学的に立証するためには、ニホンザルにインタビューするか、ニホンザルに電極をつけてα波などの脳波を調べるしかありません。しかし後者はそもそも器材や環境面で無理があります。
 したがってここではサル語でインタビューしたとしか考えられないのです。本書で正高氏はサルにも言葉があると述べていますので、サル語でインタビューをしても不思議じゃありません*2。ウッキー!
 このこととケータイでの無用なメールをする高校生を見てサル化していると結論づけています。
 とりわけ若者が携帯でメールをやりとりするのと、そっくりだと思う。そもそも携帯を使い出すと、常に身につけていないと不安な気分陥るらしい。さきほどまで会っていた相手と離れるや、ただちに「元気?」とかあえて伝える価値のない情報を更新している。しかし、そんなことは大昔からサルがやっていたことなのだ。ニホンザルも起きている間、誰かとつながっていないと落ち着かないようである。
 ニホンザルが誰かとつながっていないと落ち着かないのは、きっとお得意のサル語でアンケートで聞きとり調査を行なったんでしょう。
 ここで僕が強調したいのは、正高氏がいかに想像力豊かな研究者かということです。凡人の僕にはとてもとても、
A.サルは無意味なコミュニケーションをしている
B.若者も無意味なコミュニケーションをしている
故に若者はサルである、
という結論は導き出せません。正直、「その発想はなかった」。この点で正高氏は賞賛されるべきです。しかも学術書という体裁で出しています。この点において、歴史修正主義を応用した正高論理学はもっと注目されてもいいのでは?
 森昭男『ゲーム脳の恐怖』、竹内一郎『人は見た目が九割』など最近、きわめて統計学的に斬新なアプローチをした本が増えているという印象があります。
 また人間らしさが崩壊する前に読者の腹筋を崩壊させるという正高氏の企みがあります。この点においても注目すべきでしょう。

*1 世界で最も進んだ技術力を持つ北朝鮮の公的思想。あそこの国のプロレタリアートは人民の勘定に入っていない。これが平等な社会を実現する秘訣である。
*2 なお2012年中には正高氏によるサル語の文法書、サル語大辞典が発売される。これはニホンザルのみであるが、将来的にリスザルなどにも対応していきたいとする。

続きを読む