米農務省は9月末に発表する「全米在庫」(Grain Stocks)で、
(ⅰ)四半期ごと在庫データを公表するだけでなく、
(ⅱ)1年前の生産高について、「期末在庫」と合致するように調整をおこなう。
つまり、9月「全米在庫」では、1年前の「作付面積」「収穫面積」「反収」「実収高」について全面的に改定する。これまでの相場で、すでに「確定したもの」として前提にしてきたものをここで弄(いじ)るので、市場人気を落ち着かない気分にさせます。
9月29日(金)、シカゴ(CBOT)トウモロコシ先物は「全米在庫」の発表後に下落した。しかし、「全米在庫」が「弱気要因」になったわけではない。本日の「日報」(穀物)は、まずこの点から説明します。
【1】昨年(2022)9月30日発表の全米在庫
米農務省が昨年(2022年)9月30日に発表した「全米在庫」でも、1年前の2021年の「作付面積」「収穫面積」「反収」「実収高」を大幅改定した。
2021年 それまでの数字 2022年9月30日発表の全米在庫
作付面積 9335万7千エーカー → 9325万2千エーカー ▲10万5千減
収穫面積 8538万8千エーカー → 8531万8千エーカー ▲7万0千減
反収 177.0 bu. → 176.7 bu. ▲0.3 bu.減
生産高 151億1517万0千bu. → 150億7382万0千bu. ▲4135万bu.減
期末在庫 15億2500万bu. → 13億7692万1千bu. ▲1億4807万9千bu.減
【2】本年(2023)9月29日(金)発表の全米在庫
週末9月29日発表の「全米在庫」でも、1年前の2022年の「作付面積」「収穫面積」「反収」「実収高」を改定した。
2022年 米農務省9月12日発表 9月29日発表の全米在庫
作付面積 8857万9千エーカー → 8858万9千エーカー +1万0千増
収穫面積 7920万7千エーカー → 7911万5千エーカー ▲9万2千減
反収 173.3 bu. → 173.4 bu. +0.1 bu.増
生産高 137億2971万9千bu. → 137億1467万6千bu. ▲1504万3千bu.減
期末在庫 14億5200万bu. → 13億6130万3千bu. ▲9069万7千bu.減
(ⅰ)全米在庫と期間の消費量
四半期ごとの「全米在庫」によって、その期間の米国トウモロコシの消費量を知ることができます。
米国トウモロコシ
農場在庫 非農場在庫 全米在庫 期間の消費量
単位ブッシェル
09/01(2023) 6億0540万 7億5590万3千 13億6130万3千 27億4600万6千
06/01(2023) 22億2080万 18億8650万9千 41億0730万9千 32億9336万9千
03/01(2023) 41億0600万 32億9467万8千 74億0067万8千 34億2052万9千
12/01(2022) 67億4800万 40億7320万7千 108億2120万7千 42億7035万9千
2022年生産高 137億1467万6千ブッシェル
09/01(2022) 5億0950万 8億6739万0千 13億7689万0千 29億7207万8千
06/01(2022) 21億2070万 22億2826万8千 43億4896万8千 34億0906万8千
03/01(2022) 40億8000万 36億7803万6千 77億5803万6千 38億8314万5千
12/01(2021) 72億3400万 44億0718万1千 116億4118万1千 46億6715万1千
2021年生産高 150億7382万0千ブッシェル
09/01(2021) 3億9490万 8億3961万2千 12億3451万2千 28億7666万9千
06/01(2021) 17億4360万 23億6758万1千 41億1118万1千 35億8696万7千
03/01(2021) 40億3650万 36億5964万8千 76億9614万8千 35億9760万2千
12/01(2020) 70億4600万 42億7775万0千 112億9375万0千 47億4416万1千
2020年生産高 141億1144万9千ブッシェル
(ⅱ)米国トウモロコシの総需要
米国トウモロコシの市場年度は「9月1日~翌年8月31日」、2022/2023市場年度の「米国トウモロコシの需要」(米国内消費と輸出)はその期間の消費量を合計したものです。計算すると137億3026万2千ブッシェル。
それに加えて米国のトウモロコシ輸入。米国南東部の養鶏業者などがブラジル産トウモロコシを「約4000万ブッシェル」輸入している。それを合わせると、米国の2022/2023市場年度のトウモロコシ総需要は「137億7026万2千ブッシェル」と推定できます。
米農務省が9月12日に発表した「月次需給見通し」で、米国の2022/2023市場年度のトウモロコシ総需要は「136億9500万ブッシェル」だったので、実際の需要はそれより「+7526万2千ブッシェル」多い「137億7026万2千ブッシェル」になった。
米農務省の9月予想よりも、米国トウモロコシの総需要が多かったので、2023年9月1日時点の全米トウモロコシ在庫は「13億6130万3千ブッシェル」に減少した。
9月1日時点の米国トウモロコシ在庫「13億6130万3千ブッシェル」は、今年度 2023/2024市場年度の期初在庫であり、前年度 2022/2023市場年度の期末在庫です。週末9月29日(金)に発表された「全米在庫」に基づき、2022/2023市場年度の需給概要を表にすると下記の通りです。
2022/2023市場年度、米国のトウモロコシ需給概要
. 米農務省9月12発表 9月29日発表の全米在庫
作付面積 8857万9千エーカー → 8858万9千エーカー +1万0千
収穫面積 7920万7千エーカー → 7911万5千エーカー ▲9万2千
反収 173.3 bu. → 173.4 bu. +0.1 bu.
期初在庫
13億7689万0千bu. → 13億7689万0千bu. unch
生産高 137億2971万9千bu. → 137億1467万6千bu. ▲1504万3千bu.減
輸入 4000万bu. → 4000万bu. unch
米国内需要 120億3000万bu. → 121億0526万2千bu. +7526万2千bu.増
輸出需要 16億6500万bu. → 16億6500万bu. unch
総需要 136億9500万bu. → 137億7026万2千bu. +7526万2千bu.増
期末在庫 14億5200万bu. → 13億6130万3千bu. ▲9069万7千bu.減
【3】9月29日発表の全米在庫は「トウモロコシ売り」要因ではない
シカゴ(CBOT)トウモロコシ先物は全米在庫の発表後に下落した。しかし、説明してきたように全米在庫は「弱気要因」ではない。
推測するなら、とくに小麦下げ(各限月の一代安値)が波及した可能性が高い。
あれがアノ値段なら、これはコノあたりという、社会通念上の比較感がある。
各限月の新安値に下げた小麦との比較感。
大豆下げとの比較感。
そうした社会通念上の比較感がトウモロコシに影響した可能性が高い。
そして、9月29日(金)のトウモロコシ下げを実際に売ったのはファンドだろう。
このあと10月相場で、シカゴ(CBOT)トウモロコシ先物は新しいバランスに回復すると思います。