しゅ〜る之助の夢日記

京都で「坐禅とラン」で生き抜く!そんな暮らしの中で、思ったことや感じたこと、あるいは、自分が見た夢の解釈を通じて、自分の心の世界を綴ります・・・・。

2008年11月

映画「ユージュアル・サスペクツ」と「プレッジ」1

一昨日は「ユージュアル・サスペクツ」というサスペンスモノを観て、「お〜久々に骨のある洋画であった!」とすっかりよい気分になっていた。そ〜は言っても、最初の15分位で、僕にはすでに黒幕(カイザーソジ)の正体は分かってしまった。最後にどれだけのどんでん返しがあるのか、楽しみにしながら観ていのだが、やっぱり思った通りだった・・・・。

しかし、内容的にはなかなか見応えのあるもんがあったし、ラストで足を引きずって歩いていくシーンが長々と続き、その歩き方が段々まともな歩き方に変わっていく、という演出はなかなか秀逸であった。

主演はケビン・スペイシーで、この人は人のよさそうな善人顔でありながら、冷酷な悪人役をやらせると、その善人づらが余計に悪人らしさを引き立てて、とてもシャッキとするタイプの役者だと思った。

で、昨夜は「プレッジ」というサスペンスモノをみたのだが、これはもっと凄かった。主演は僕の好きな「ジャック・ニコルソン」。先日観た「最高の人生の見つけ方」でのジャック・ニコルソンにはちょっと不満があっただけに、この作品のニコおじさんには十分満足できた・・・。何度もこの日記で書いたが、この人ほど「狂気」の似合う役者はいない・・・・。名作「シャイニング」の狂人ニコおじさんを観て以来のファンなのだが、思い起こせば「カッコーの巣の上で」もそ〜だったし、バッドマンのりメイク第1弾もそ〜だった。

とにかく、徐々に壊れていく人間を演じさせたら、この人は多分世界一だろう・・・・。で、この作品の監督はショーン・ペン。俳優としての彼は「ミスティック・リバー」「俺たちは天使じゃない」などで有名だが、監督作品ではあまり記憶に残っているものはない。前夜にユージュアルサスペクツで、早々に犯人を当てた僕としては、このプレッジでも「真犯人はニコおじさん!」と予測した・・・。しかし、進むにつれて、段々わからなくなってきた・・・。この時点で、凄い監督だと思った。犯人が全くわからないどころか、ラストの落としどころも全く不明になっていく。

これまでの米映画であれば、危機一髪のところで、昔の同僚が助けに現れて、犯人を射殺して終わり!って〜ところだ。ところが、この作品では、犯人らしき男は現場に行く前に、途中交通事故で死んでしまう。周囲を巻き込んで犯人の登場を待っていたニコおじさんとしては立場がまったくなくなる。愛する恋人に「自分の娘をオトリに使った」と非難され、母娘は彼の元を去っていく。元警察の同僚たちも、「ついていけない」と去って行く・・・・。そして、一人になった彼は段々狂気の世界へ・・・・。さびれたガソリンスタンドの前で、イスに坐ったニコおじさんが、何か独り言を言っているシーンで終わる。

全く理不尽で救いのない、僕らの大好きな「因果応報の法則」を無視した作品だ・・・・。しかし、観終わったアト、見応えのある作品だった事は間違いないと確信できる作品でもある。みゆきに言わせれば「このラストの方がより現実的であり、こういう理不尽さが、世界には溢れかえっている」との事だった。

う〜〜〜ん!しょ〜ゆ〜ものか!名前はしゅ〜る之助でも、実際の僕自身は、けっこう秩序や勧善懲悪や因果応報といったものを求めていることを、痛烈に感じさせるよい作品であった・・・・。

ねこうどん111

ひこにゃんと拙者はすすりかけて、ぶらぶらしていたうどんを「ちゅる!」と吸い込むと同時に、「かもかも殿〜〜!」と叫びながら、戸口に向かったでごじゃる。引き戸を開けると、そこには確かに社中の仲間の「かもかも殿」が地面の上で仰向けになって、ばたばたしていたのでごじゃる・・・・。

「かもかも殿、どうされたでごじゃるか?こんな山里に突然現れて!」と言いながら抱き起こすと、かもかも殿は、大きく息を吸い込んで、弱弱しく話しだしのでごじゃる。
「うどんのえ〜匂いがしたんで、釣られてついつい、ここまで来てしまっただカモカモ・・・。おいらはJRのマスコットキャラだから、JRの架線から発する電磁波をエネルギー源にしているだカモカモ・・・。だからJRの線路から100メートル以上離れて5分以上過ぎると、段々エネルギーが消耗して、動けなるだカモカモ・・・」

「それは、よ〜知っておるでごじゃるじょ。かもかも殿が社中で暮していけるのも、嵯峨野線の丹波駅の近くに社中のマンションがあるからじゃと、いつもこ〜おじ殿から聞かされているでごじゃる。それが何ゆえにこのようなところまで?」
「実は、嵯峨野線沿いに、ひこにゃんとしましゃこにゃんを捜していたのだカモカモ・・・。線路沿いに飛んでて、保津峡駅の近くまで来た時、えらくうまそ〜なうどんの匂いがしてきたのだカモカモ。おいらは、うどんが大好物だから、ついついそのうどんの匂いに釣られて、ふらふらここまで飛んできたのだカモカモ・・・・。で、架線から離れたものだから、エネルギーが消耗して、動けなくなったがカモカモ・・・」

「それは、大変だにゃん!あと何分くらい持つだにゃん?」
「せいぜい頑張っても、アト30分もすれば、命が危ないだカモカモ・・・・ふ〜」
「それは一大事でごじゃる!では、早速、国鉄の線路のそばまでかもかも殿を連れていかねばならないでごじゃる!お婆さん!ここから一番近い国鉄の線路はどこでごじゃるか?」

「やっぱり、嵯峨野線やろな〜・・・でも、ここから行くと、途中に保津川があるさかい・・・そこをど〜やって渡るか・・・トロッコ保津峡駅にかかる橋までちょっと距離があるさかい、随分遠回りになわなな〜」
「あい、わかったでごじゃる!それでは早速われらは、保津川に向かうでごじゃる!お婆さん方、此度は大変お世話になったでごじゃる。おかげで我らの虎と馬は見事に成敗できたでごじゃる。このご恩は一生わすれないでごじゃる。又、機会があれば、ねこうどんを食べにきたいと思うので、その時はよろしくでごじゃる。では、ごめん!」「ごめん、だにゃん!」

「あ〜そんな丁寧な挨拶はよいから、その友達のカモノハシを早く連れてっておやり。あんたら、きっと又おいでや!待ってるさかいな〜」と二人のお婆さんはわれらを快く送り出してくれたのでごじゃる・・・。

「かもかも殿、大丈夫でごじゃるか!気をしっかり持たれよ!きっと拙者とひこにゃんでかもかも殿を国鉄の線路まで連れてってやるでごじゃるからの〜!」
「かもかも〜頑張れ〜、だにゃん!」と、拙者とひこにゃんは、かもかも殿を励ましながら、めったに人も車も通らぬ道路から離れて、川に降りる急斜面の崖を駆け降りたのでごじゃる。

崖には、うっそうと木が生えており、かもかも殿を肩に乗せた拙者とひこにゃんは、たびたび崖を転げそうになったのでごじゃる・・・・。

やっとこさ、川べりまで転げるように降り立ったのでごじゃるが、かもかも殿はも〜すでに青息と息の状態で、今にも気を失いそうなまで衰弱していたのでごじゃる。それに、目の前の保津川は川幅が五町(約500メートル)以上もありそうな急流の川でごじゃっての〜・・・。有名な川下りの船が人気なほどの急流でごじゃる。泳いで渡るわけにもいかず、さりとて、お婆さんが言われたように、トロッコ保津峡駅にかかる橋までは上流に一里(約4キロ)ほど・・・、とてもわれらの足では間にあわないし、はてどうしたものか・・川を目の前にほとほと思案に暮れたのでごじゃる。

川の向こう岸の崖の上に観光トロッコ列車の架線が見えるだけに、拙者は「ギリギリ」と血の滲むほど歯軋りしたのでごじゃる・・・・。

しかし、そのまま思案していても、無駄に時間がたつばかりでごじゃる。ここはイチかバチか、川に飛び込んで、川を泳ぎ、なるべく向こう岸に近付くしか方法がないのでごじゃた。その時、崖の上から先ほどお別れをしたトラ婆さんとキリ婆さんの声がしたのでごじゃる!

「あんたら〜!アトで気づいたんやけど、この桶に乗って下流まで下ればハヨ着けるで〜!ここから投げるさかい、この桶に乗って急流下りをしなはれや〜!木の棒も持ってきたさかいな〜これを櫂にして、なるべく向こう岸に寄って下れば、そのカモさんも元気になるんちゃうかいな〜!」と大きな声で、われらに言ってくれたのでごじゃる!

「かたじけない!お婆さん方、この借りはきっと返すでごじゃ・・・」と、言う間にわれらの前に、寿司桶と棒が落ちてきたのでごじゃる。「さ〜、ひこにゃん!かもかも殿を桶の中に乗せるでごじゃる。一刻も猶予はならんじょ!」
「どぶ〜〜ん!」とかもかも殿とひこにゃんを乗せた寿司桶を水に入れ、櫂の棒を持った拙者は、岸からひらりと桶に飛び乗ったのでごじゃる。

われらの乗った寿司桶に向かって、崖の中腹に立った二人のお婆さんは手を振りながら「達者でな〜〜!気ぃつけてな〜!」と励ましてくれたのでごじゃる!

「お婆さ〜ん!返す返すもかたじけないでごじゃ〜〜る!さらばでごじゃ〜〜る!」と、櫂をあやつりながら、拙者も手を振ったのでごじゃった・・・。

ねこうどん101

「うちの茶店で、ねこうどんを売り出した時には、「マタタビ」の匂いに引き寄せらた清滝中の猫が店のまわりに寄ってきてな〜、そりゃも〜にゃ〜にゃ〜煩かったもんや・・・。マタタビの混ざった麺をさらに、タマの肉球で一晩踏ませて仕上げた麺と、鰹節で摂った出汁で、まさに猫の好きなうどんでな。猫に係わりが深かったさかいねこうどんじゃ・・・決して猫をぐつぐつ煮て作ったようなうどんではないぞ、正反対に猫の大好きなうどんや!うっほっほっほ」

お婆さんたちは、そう言うと、また笑いが込み上げてきたのか、再び二人で大笑いを始めたのでごじゃる。拙者とひこにゃんは、ちょっと恥ずかしくなってきたのでごじゃるが、心の中の虎と馬の姿が段々薄くなっていったのでごじゃる。やがて、「がお〜、ひひ〜ん」の泣き声もぱたりと聞こえなくなり、心の中からすっかり姿を消してしまったのでごじゃる。

ひこにゃんの顔を見ると、ひこにゃんはニコニコ顔で「ははは!だにゃん!」と笑っているし、拙者も腹の底から笑いがこみあげてきて、お婆さんたちと一緒になって「わっはっはっは!」と大笑いしたのでごじゃる。

みんなで、ひとしきり笑ったアト、ひこにゃんが「ねこうどんのことはわかったにゃん!僕はも〜ねこうどんが怖くないにゃん!でも、まだ肉球のことが残っているにゃん!肉球って〜一体なんだにゃん?」とお婆さん達に質問したのでごじゃる。

「あ〜、それはゆりねのことじゃ。この近辺の里には昔からゆりねがたくさん採れてな〜。いろんな料理に使える貴重な野菜なんや。形が猫の肉球に似ているさかい、この近所では「肉球」と呼ぶ人もおってな〜。ねこうどんが好評やったさかい、ゆりねの事をおと〜はんが、猫つながりで「肉球もあります」としゃれて、看板に書いたんや。

うちらは潰して、よく三食団子にして食べたもんや・・・。」と、お婆さんが質問に応えたので、ひこにゃんはすかさず「僕も三食団子が食べたいだにゃん!」反応したのでごじゃる。

「そ〜かい、白猫ちゃんは団子がよっぽど好きなんやな〜。ほなねこうどんと一緒に作ってあげるさかい、うどん作るのを手伝ってや」とトラ婆さんに言われて「はい!だにゃん!」と元気よく応えたのでごじゃった。

お婆さんたちが、白い粉を練って、ひと塊にしたものに手ぬぐいを載せて、拙者とひこにゃんは、その上で二匹で意気揚々と行進したのでごじゃる。心の中の虎と馬の姿は消えうせたのでごじゃるが、我らにとって、このねこうどんの正体であるマタタビ麺の上を歩いた時こそ、正にねこうどんの戦いに勝利した瞬間のような気がしたのでごじゃる。

よって、拙者とひこにゃんは、まるで凱旋する武者のように、足を高くあげて、何度も何度もねこうどんの麺を踏みしめたのでごじゃる。ねこうどん退治を思いつき、長い長い旅を経て、苦しい思いもし、ここに至ったこと思えば、自然と拙者の目から涙が零れ落ちたのでごじゃった・・・。しかし、拙者は武士故、ひこにゃんには決して涙をみせないようにしたのじゃがな・・・・(出来ればインディージョーンズの主題曲を頭の中で思い出しながら、この時の二匹の姿をイメージしていただければ幸いです。筆者)

その間にお婆さんたちはうどんの出汁とゆりねの三色団子を作ってくれたのでごじゃる。小一時間ほど経った頃、「ま〜今回は一晩っちゅ〜わけにもいかんさかい、も〜そのあたりでえ〜やろ」と、やっとお婆さんたちの許可が降りのでごじゃる。そしてキリ婆さんがまな板の上で、塊をトントンと細い麺の形に切ったのでごじゃる。

お婆さんたちの作ってくれた、ねこうどんはそれはそれは美味でごじゃった。ほのかに麺から漂うマタタビの芳香としこしこした弾力、たっぷり鰹からとった出汁。拙者が今まで食べたどのうどんよりもおいしゅうごじゃった・・・。ひこにゃんと拙者が「ふ〜ふ〜」しながら一心不乱に麺をすすっている時でごじゃった・・・・。

いきなり外から「ばたばたばた!」という羽音と「カモカモカモ〜〜!」というカモカモ殿の鳴き声が聞こえてきたのでごじゃった!一体、社中のカモカモ殿がど〜してこのような山深い里にいきなり現れたのか・・・拙者とひこにゃんは、箸を止めて、お互いの顔を見つめあったのでごじゃった。

五条烏丸交差点1

その店は五条烏丸の北東角にある・・・。休日の昼前後、彼女と二人で鴨川沿いを走ったアトによく寄る店だ。僕はビックマックのセットで彼女はレタスバーガーのセットをよくオーダーした。二階喫煙室の烏丸通り側のカウンターが二人の定席だった。満席だったことは殆どなかった。可能な限り僕らはその烏丸通側のカウンターを選んだ。目の前には、烏丸通を横断する歩行者専用の信号が見下ろせた。

店内にはいつも、ボリュームを押さえた品のいい、しゃれたジャズのBGMが流れていた。殆どはピアノトリオで、時々サックスのカルテットの曲が流れていた。僕は、そのカウンター席から、眼下の街の様子を眺めるのが好きだった。横断歩道を前に地図を熱心に見入っている観光客や、青の点滅信号を急いで渡る若者、時には赤信号を無視する自転車のおばさん、いろんな人たちがそれぞれの形で、烏丸通りを横断する横断歩道と関わっていた。

場所柄、西洋人とおぼしき観光客も多かった。東本願寺方面からやってきて、これから北に向かうのか、あるいは東に向かうのか・・・。そんなことを想像しながら僕は彼らを眺めていた。

時には右翼の街宣車が、隊列を組んでるかのように、南から北に大きな音を鳴り響かせながら、行進して行った。僕と彼女は、言葉数も少なく、それぞれの思いに浸りながら、いつもの街の様子を眺めていた。

交差点の斜め向いのビルは胡散臭い健康食品の会社の本社で、その隣にはこれまた悪評高い宝石会社のビルが建っていた。「五条通にある大きなビルは、割と胡散臭い商売をしている会社が多いね」などと話し合ったりした。右翼の街宣車も、ひっきりなしに通過する大型観光バスも、健康食品と宝石の胡散臭い会社も、横断歩道を渡る様々な人々も、すべてが僕らとは関わりのないものだった。

だから、僕らはハンバーガーやフライドポテトを食べながら、それらのものを街の風景として眺めることができたのだ。

ビッグマックを頬張っている時に、ビル・エバンスの演奏と思われる「いつか王子様が(Someday my prince will come)」という曲のBGMが僕の耳に届いた。ふと、僕は思った「いつも、この曲を心の中で聞きながら(響かせながら)生きていかねば」と・・・・。「あえて言えば、どんな苦しい時であってもね・・・・。」僕は隣に坐っている彼女に、そう言葉に出して伝えたかった・・・。

僕がそう言えば、彼女はきっと「現実はそんな美しいものでも、きれいなものでもない。きれいな言葉で飾ることで物事の本質は何も変わらない」と反論するに違いない、と思った。確かに彼女の言うことは正しいのだろう。「しかし・・・・」と、僕は思ったが、それ以上しばらく言葉がつながらなかった。

「しかし・・・・しかし、せめて自分がそうある事で、自分に、もし少しでも生きる勇気みたいなものが湧いてくるのなら、それに越したことはない」と言葉をつないでみたが、やはり、それでは彼女を納得させることはできないだろう、と思った。

「どんなに苦しくても、忘れてはいけないことがある。自分の好きな美しいメロディや風景や詩人の言葉を大切にすることで、その現実に汚されない自分が、どこかに保てるのであれば、それはそれでありかも・・・」

しかし、結局僕は何の言葉も口にすることはないだろう、とわかっていた。それは、自分に果たして「どんなに苦しくても、美しいメロディラインを自分の心に中に流し続ける」なんてことができるかどうか、自信がなかったからだろう。それは「そうであればいいね」という単なる僕の願望だったのかも知れない・・・・。

曲が変わった・・・。

少しスローテンポなバロック風の曲になった。僕は再び、街の風景を眺め初めていた・・・・。

ねこうどん9

その光景を見た拙者とひこにゃんは、しばらくそのまま固まってしまったでごじゃる!しかし、すぐに我に返った拙者は、「ひこにゃん!いじゃとなったら、ひこにゃんはキリ婆さんの顔に飛びかかり、得意のかきむしりで婆さんを懲らしめるでごじゃる!拙者は、トラ婆さんに飛び掛り、この背中の刀で成敗してくれるでごじゃる」と、ひこにゃんの耳元で囁いたのでごじゃる。

「ムシ養いは済んだのかえ?ほいじゃ〜、いよいよ、あんたらにもねこうどんを手伝って貰おうかね。さ〜こっちへおいで!」と両方のお婆さんが我らに近付いてきたのでごじゃる・・・。

「ひえ〜〜!」我らは同時に叫び、そして「ひこにゃん!今じゃ!飛び掛れ〜〜!ふにゃ〜〜〜お!」と、ひこにゃんに声をかけつつ、拙者はトラ婆さんに向こうて跳躍し、背中の刀に手をかけたのでごじゃる!

ところが・・・。相手の方が一枚も二枚の上テでごじゃった・・・。さすが、厳しい山中で暮してきたおなご、婆さんとは故、身のこなしがことの他早く、手に持ったカナ柄杓で「ポコン!」と頭を殴られたのでごじゃる・・・。

空中で、「ポコン!」とカネ柄杓で頭を叩かれた拙者は、そのまま土間の地面に落ちてしまったのでごじゃる。そして、「あんたは性悪なカオをしてなはるが、根も性悪な猫かいな!」とトラ婆さんに叱られながら、柱に紐でくくりつけられたのでごじゃった。

ひこにゃんは怯えて、最初からず〜っと固まったままのようでごじゃったが・・・。


一生の不覚で、拙者は囚われの身となったのでごじゃった・・・・。「この白猫ちゃんは、おとなしいよい子やけど、あんたはなんで、うちに飛びかかろうとしたんや?」と、ひこにゃんを指で指しながら、拙者に詰め寄ったのでごじゃる。そばでひこにゃんは恐怖のあまり、ぶるぶる震えていたのでごじゃるが・・・。

「ふん!婆さんらは、拙者とひこにゃんをその大釜に入れて、猫の出汁をとるつもりでごじゃろう!我らはねこうどんとはどういうものか調べにきたのでごじゃるが、多分、猫を熱湯に入れて出汁をとったうどんのことであろう、と思おておる。あまりのおぞましさに、心の中に虎と馬が住み着くようになり、それを払拭する為に、ねこうどんの正体を暴く旅にでたのでごじゃるよ!こ〜なったら、拙者も武士の端くれ、ひこにゃんともども、うどんの出汁でもなんでも好きにするがよかろう!」

と二人のお婆さんを交互に睨みつけながら、ここまでの経緯を説明したのでごじゃる・・・。いつものようにそれを聞いたひこにゃんが「うわ〜〜〜ん!だにゃん!」と、泣き出したのは言わずもがなでごじゃるがの〜・・・。

お婆さんたちは、口をぽか〜んと開けたまましばらく拙者の話を聞いておったが、やがて二人とも大きな口をあけて「わっはっはっはっは!」と笑い出したのでごじゃる。「ね、ねこでうどんの出汁を・・・・あ〜〜〜はははは、も〜腹が痛くてたまらんわ!」とトラ婆さんは笑い転げながら涙を流し、同じくキリ婆さんも「そ、そ、そんなうどんがあったら、うちも食べて・・はははは・・・食べてみたい!」と土間を転がりながら笑い続けるのでごじゃった・・・。

「????」この二人のお婆さんたちが、何故このように笑い転げるのか、さっぱりわからず、拙者とひこにゃんはしばらく、二人の様子を見つめていたのでごじゃる。

やがて、ようやく笑いが納まったのか、トラ婆さんはまだ涙を流しながら、拙者を柱にくくりつけている紐を解いてくれたのでごじゃった。

「あ〜、おかしい猫ちゃんたちやね〜、ほんまに!」とトラ婆さんは拙者の頭をなでてくれたのでごじゃるが、内心拙者は少しビクビクしたのでごじゃった。何故なら、拙者の後ろ頭は普段はカブトに隠れておるが、カブトを脱ぐと、実は後頭部は刈り上げになっておっての〜・・・・。みゆき殿によると「あら?しまさこの後頭部は随分かわゆいんだね〜」と、言われておるのでごじゃる。みゆき殿は褒めてくださるのじゃが、拙者は大変恥ずかしいのでごじゃる・・・。

「ねこうどんちゅ〜のんはな〜・・・。ネコの頭や体で出汁をとったうどんやの〜て、うどんの粉にほんの少しだけ「マタタビ」の実を粉にしたもんを混ぜた麺やねん。茶店をやっとった頃、「新しい里の名物」にしようと、死んだおと〜はんが考えはったんや。ある晩、麺打ちをしたマタタビ麺を袋に詰めて土間に置いておいたら、うちで飼ってた猫のタマが、マタタビの匂いに寄せ付けられはって、一晩中、麺袋の上でウロウロしとったらしいわ。翌朝、それに気づいたおと〜はんが、麺を取り出してみると、なんと微妙な弾力のある麺に仕上がっておったんそ〜や・・・。」とトラ婆さんがねこうどんについて語り始めたのでごじゃる・・・・。

今度はキリ婆さんが話しのアトを継いで、「コシがあって、尚且つ弾力もあってな〜・・・。おと〜はんは、これは猫の足の肉球で一晩中踏まれたせいで麺が変化したんやと思うて、何回もタマに踏ませた麺を作ってみたんやそ〜な。それがねこうどんの始まりや・・・。その茶店の新メニューにして出したら、たちまち大評判になってな〜、その頃は茶店も大繁盛で・・・。うちらをキョーダイまで行かせられたんは、あのねこうどんのおかげや、て、よ〜、おと〜はんがゆ〜たはったわ・・・・」

「・・・キョ、キョーダイとは、あの都にある京都帝国大学のことでごじゃるかの?」「うんにゃ、京都大工専門学校のことや。うちらはそこの女性卒業生の1号と2号なんやで・・・」

「ガクッ!だにゃん!」「ガクッ!でごじゃる!」

「うちらの友達に焼き芋屋の子が一人おってな、その子は焼き芋のおかげで、京都女子大を卒業できたんや。ほいで、その子が卒業して売り出したんが「大学芋」や!」

「今度は、マユに唾をつけるだにゃん!」「真に、しゃれのきついオババ殿でごじゃるの〜・・・」

ねこうどん81

「ところであんたら腹へったやろ?うちらは、ねこうどん作る準備するさかいに、それまでの《ムシやしない》しときや。白猫ちゃんの好物はなんや?」とトラ婆さんがひこにゃんに向かって聞くと、ひこにゃんは無邪気に「僕は串だんごが大好きだにゃん!」と応えたのでごじゃる・・・。「お〜そ〜か、串だんごが好きなんか。でも生憎、串だんごはないさかいに、草餅でもえ〜か?」「草餅も大好きだにゃん!」

「ほな、そちらのシマ猫はんの好物はなんや?」「・・・・むむむむ、拙者は、やっぱり酒でごじゃるかの〜」と、拙者も正直に応えたでごじゃる。「ほ〜〜!なかなか豪快な猫ちゃんやな〜。朝から酒かいな!おほほほ」と、キリ婆さんがにこやかに笑ったのでごじゃる。

お婆さんたちが、ひこにゃんの前に草餅を、拙者の前に湯飲み茶碗の酒とオニギリを置いて台所に立ち去ったアト、拙者はひこにゃんに忠告したのでごじゃる。「ひこにゃん、その草餅を食べてはいかんでごじゃる!これはきっと、我らを少しでも太らせておこうという、婆さんらの計略でごじゃるじょ!きっと眠り薬でも入っておるに違いないでごじゃる・・・。」

「それに婆さんたちが言ってた、《ムシヤシナイ》とは、一体なんの事でごじゃるかの〜・・・・。」と、拙者が腕を組んで考えていた隙に、「ゴク!お腹がすいて、倒れそうだにゃん!僕は食べるだにゃん!これで殺されても構わないだにゃん!」と、拙者の制止を振り切って、ひこにゃんは草餅をもぐもぐ食べてしまったのでごじゃる・・・・。

あっという間に、三つあった草餅を全部平らげたひこにゃんを、拙者はじっとみつめて観察したでごじゃるが、ひこにゃんは「おいしかったにゃん!もっと食べたいだにゃん!」と平気な顔をして、自分の口の周りをぺろぺろ舐めるばかりでごじゃった・・・。

すると今度は「ぐ〜〜〜!」と、拙者の腹の虫が大きな声で鳴いたのでごじゃる。「お〜〜!そうでごじゃったか、拙者の腹の虫が鳴いたのでわかったでごじゃる。《ムシヤシナイ》とは《虫を養う》つまり、腹の虫を静かにさせる、という意味でごじゃったのか・・・・。ならば、拙者も、思い切って虫養いするでごじゅるじょ!ぱくぱく、ぐびぐび」と、握り飯と酒を交互に喰らったのでごじゃる。「いざとなったら、この背中の刀で婆さんらを成敗してくれるわい!」と、腹が据わったのでごじゃる。(作者注:現在でも京都弁で「虫養い」という言葉は使われていますd(^o^)b)

朝酒を一気に飲んだので、たちまち拙者は酔いがまわったのでごじゃるが、握り飯を食べたおかげで、元気がもりもり戻ってきたのでごじゃる。「ひこにゃん、心配するでないぞ!婆さんらがもし我らを襲ってきたら、その時は、命にかけても、ひこにゃんを守ってやるでごじゃるよ。大船に乗ったつもりでおるがよいじょ!うっはっはっは!」と、酒の酔いもあって、段々拙者の腹は据わってきたのでごじゃる。

しばらくすると「しましゃこ〜!な〜んか、いい匂いがしてきただにゃん!くんくん!とってもいい匂いだにゃん!」と言いながら、ひこにゃんが、ふらふらと台所の方に歩き出したのでごじゃる。「お〜〜!そ〜言われれば、確かに!しかし、なんとも甘美な匂いでごじゃるの〜・・・」と、拙者もひこにゃんのアトを追ったのでごじゃる。台所に近付くと、その方向から、「ペタペタ、トントン」という音が聞こえてきたのでごじゃる。

畳の上を歩きながら、ひこにゃんは段々夢遊病者のような足取りに、なっていったのでごじゃる。その時、拙者はその匂いの正体がわかったのでごじゃる。とろり〜んとした目のひこにゃんに思わず「ひこにゃん!この匂いは!」と言葉をかけた瞬間、ひこにゃんがガラリと台所へ続く障子を開けたのでごじゃった・・・・。

そこには、かまどの上で、ぐつぐつ煮えたぎる湯釜の前に立った、カネ柄杓を持ったトラ婆さんと、大きな包丁を持ったキリ婆さんが、ニタニタ笑いながらこちら振り返って我らを見つめていたのでごじゃる・・・。

ねこうどん71

暗い里の夜道をひこにゃんを背負って、とぼとぼ人家に向かって歩いていくと、いきなり、山側のガケからか猛烈なスピードで飛び出してきたものでいたでごじゃった。こちらが避ける間もなく、ガシーンとぶつかって、拙者は目から火の玉が30個ほども飛び出したでごじゃるよ・・・。

ひこにゃんは拙者の背中から投げ出されて、道の上をころころころがっていったでごじゃる。目から出た火の玉の一瞬の明かりで、その飛び出してきたものの正体を拙者は見逃さなかったでごじゃる。このあたりが戦で培った動態視力の凄さでごじゃるかの〜・・・ふふふ。

そやつは、少し小ぶりでごじゃったが、確かに「イノシシ」殿でごじゃった!そのイノシシ殿は振り向きざまに、もう一度こちらに向かって突進してきたでごじゃる。拙者は、思わず、背中を丸めて、尻尾を立て「ふにゃ〜〜ご〜〜!」と大音声で叫んだでごじゃる。これが我ら猫族の戦闘体制でごじゃるからの〜。しかし、反撃体制もそこまで、何せ疲労と空腹で、イノシシ殿と闘う体力も気力も失っていたでごじゃる。

拙者は、ものの見事にイノシシ殿の突進をガツーンと受けて、ひゅ〜〜っと、再び遠くに跳ね飛ばされたでごじゃる。飛ばされながら、拙者は観念したでごじゃる・・・。体力もつき、疲労困憊の極みで、他の生き物に憑依もできず、社中の仲間やこ〜じ殿みゆき殿、それに彦根におられる「いしだみつにゃん公」に「さらばでごじゃる!。拙者しまさこにゃんの命も、もはやこれまででごじゃる〜〜!」と、心の中でお別れをしたのでごじゃる・・・。

数間飛ばされて、地面に落ちた時、拙者は気を失い、そのまま猫の命を閉じ・・・。

る、はずでごじゃったが、拙者は明るい部屋のようなところで目を覚ましたのでごじゃる。目の前には大きなひこにゃんの顔がにこにこしながら拙者を見つめていたでごじゃる。「お〜〜!ひこにゃんも拙者と一緒に極楽に来ていたのでごじゃるか!」と拙者は叫んだのでごじゃる。「違うだにゃん!ここは極楽じゃないにゃん!ここはまだ落合の里の中だにゃん!」と、思わぬことを言うのでごじゃった・・・。

「むむむ、なんと、確か、暗闇でイノシシ殿の突進を食らって、数間跳ね飛ばされたでごじゃるが、まだ生きておるとな・・・」と、拙者が訝っておると、「お〜〜、シマ猫はんもやっと目が覚めたよ〜やな〜・・・よかったの〜」とお婆さんの声が後ろから聞こえたのでごじゃる。拙者が振り返ると、そこには同じ顔をした腰の曲がったお婆さんが二人、にこにこしながら拙者を見つめていたのでごじゃる・・・・。

拙者は、目をパチパチしながら、しばらくふたりのお婆さんの顔を交互に見たでごじゃる。「うほほほ、何をそんなに驚いておるんや・・・このババたちがそんなに珍しいのかいな・・・。なかなか勇猛なツラ構えをしとるが、愛嬌もあるがな〜」と、おばあさんは一緒に同じ事を言ったでごじゃる。

ひこにゃんの話によると、その二人のお婆さんが、夜道に倒れていた拙者とひこにゃんを連れて、この家に連れてきたのだそうでごじゃった。お婆さんたちは、われらを拾ってくれた上に、キズの手当てをしてくれたのだそうでごじゃる。ひこにゃんの足には白いホータイ、拙者の顔にも白いホータイが巻かれていたのでごじゃった。一晩眠って、ひこにゃんが先に目を覚まし、拙者がそのアトに目を覚ましたのだそうでごじゃった。

「真にかたじけない。お二人は命の恩人でごじゃる。このご恩一生忘れないでごじゃる」とひこにゃんと二匹で正座して、頭を下げたでごじゃる。「お〜〜!なかなか礼儀正しいねこちゃんやな〜・・・・」と誉めてくれたでごじゃる・・・。「して、大恩人のお名前をお聞かせ願いたいでごじゃる・・・」と、われらはも一度こうべを垂れたでごじゃる。すると一方のおばあさんが「ははは、そ〜かいな、うちの名はトラ」「うちはキリや」と応えたのでごじゃる!

一瞬、拙者とひこにゃんは絶句したのでごじゃるが、かろうじて拙者が「ひ、ひょっとして、清滝で飯屋を営んでいた方々ではごじゃらんかの〜・・・しかし、清滝の里ではトラ殿とキリン殿と聞いたでごじゃるが・・・」と質問したのでごじゃる。「おやおや、よ〜ご存知で・・・。でも、キリンっちゅ〜のは聞き間違えやな〜、そんな名前の人はい〜ひんやろ。うほほほ」「うちらは、親から愛宕参りのお人たちの為の、お山の麓の茶店を引き継いで、10年ほど前まで二人で切り盛りしてたことがあるねん」と交互に応えてくれたのでごじゃる。

それを聞きながら、そばにいたひこにゃんがにわかに緊張するのを感じながら、拙者は思い切って「ねこうどん」のことを聞いてみたでごじゃる。すると、「お〜懐かしいの〜!ねこうどんかいな・・・あれはよ〜売れたな〜」「そやそや、今日はえ〜お猫はんが二匹も来てくれたさかい、久々にねこうどんでも作ってみようやないか、の〜トラね〜さん」「お〜、それはえ〜事を思いついたの〜キリちゃん。そ〜じゃ、こんなイキのえ〜猫さんが二匹もいるんやさかい、久々にねこうどんを作ってみようか・・・うっはっはっは!」

その二人の言葉にわれらの心の中の「虎と馬」が「がお〜!ひひひ〜ん!」と大暴れに暴れ出したのごじゃる!ひこにゃんはぶるぶる音をたてて震えるし、拙者も歯がカタカタなるほど恐しくなってきたのでごじゃる・・・・。

「なみだ船」の夢1

休日の土曜日の夕方、走ったアト、部屋でうたた寝をしていた。その時に見た夢であるが、ちょっと変わった夢なので記録しておこう・・・。

僕がうたた寝をしていたのは夕方の6時前後であるが、その時、そばでみゆきがテレビを観ていた。

夢の内容は非常に簡単な夢なのである。

僕は夢の中でテレビを観ていた。あるいは眠りながらテレビの音だけを聞いていた、という感じだった。夢の中のテレビでは「演歌の解説」という番組をやっていた。取り上げていた曲は北島三郎の「なみだ船」であった。僕はこの歌はうろ覚えでなんとなく憶えていただけなのだが(多分子供の頃に聴いただけ)歌詞の詳細や曲名自体も知らなかった(以下の曲名や歌詞はアトでサイトで調べたもの)

番組では、歌詞の説明から、この曲に歌われている漁師の服装などを解説していた。それもかなり昔の漁師で、手ぬぐいで頬っかむりをし、上半身は綿入れの着物、下は股引キャハンスタイルで、腰には小刀のような棒を差していた。

その番組は30分番組(何となくそう思った)で、僕は目を覚ました時、まだ頭がぼ〜としていて、みゆきに「今演歌の解説番組をやっていただろう?」と尋ねたが、みゆきは「いや、そんなものはやっていなかったよ」と応えた。

そこでやっと自分が夢を見ていたことを悟った。

参考までに下にウエブで調べた歌詞を書いたおくが、この歌詞の中でちょっと解らないのは「やん衆」という言葉だ。日本に遠州や上州のように「やん州」と呼ばれる地域があるのかと思い、みゆきに聞いたら、「それは中国にあるのではないか?」と言っていたが、そんなアホナな!(^_^;)・・・・。

調べたら、「ヤン衆」という字が正しいらしく、意味は「北海道のニシン漁のために本州から渡ってくる若い男たち」のことらしい・・・みゆきにこの事を話したら、「お〜、そ〜か!それはヤング衆の略に違いない」と言っていたが、そんなアホな!

何故、唐突に(これほど唐突な夢も珍しい!)こんな夢を見たのかまったく謎のままだが、この歌詞の中に何らかの意味があるかもしれないので、調べた歌詞を下に掲載しておく・・・・。

           北島三郎「なみだ船」

一番 涙の終りの ひと滴 ゴムのかっぱに しみとおる どうせおいらは ヤン衆かもめ 泣くな怨むな 北海の 海に芽をふく 恋の花

二番 クルクル帆綱を 巻きあげて 暁の千島を 忍び立ち あてにゃすまいぞ ヤン衆かもめ 舵であやつる 舟のよに 女心は ままならぬ

三番 惚れたら遠慮は できまいが いやというなら ぜひもない 夢をみるなよ ヤン衆かもめ にしん枕に 北海の 月に哀しや なみだ船

ねこうどん6

落合の里への道は、少し進むと河原を歩くような道となったでごじゃる・・・・。河原にはごろごとを大きな石が転がっており、我らは、大石の間をすり抜けたり、石を上り超えて進まねばならなかったでごじゃる。これは小さな猫である我らには事の他、身に応えたでごじゃった。道をふさぐ石を避けるために、時には川の浅瀬にじゃぶじゃぶ入って、進まねばならなかったでごじゃる。そのせいで、体は濡れ、山の秋の風が身に染みて、ぶるぶる震えるほど寒かったでごじゃる。

しばらく河原の道を歩いているうちに、はだしの我らの足は、とがった石で切れた傷口から血が流れだし、白猫のひこにゃんの足は赤い血で染まってしまったでごじゃるよ。なんと痛々しい姿で、まるで赤い長靴を履いた白猫のようでごじゃったの〜・・・う、う、う。

それに、問題はも〜ひとつごじゃった。朝出かけに愛宕念仏寺の「こうちょう住職殿」が持たせて下さったアンパンを、風呂敷に包んで背負って歩いていたでごじゃるが、そのアンパンが水に濡れ、麩のようになって中の餡子も流れてしまったでごじゃる。よって、食べるものもなく、腹が減って、歩く体力がなくなりそうでごじゃった。

拙者は、若い時から鍛えておったでごじゃるから、まだ体力には自信があったでごじゃるが、彦根のお城暮らしが長かったひこにゃんは、事の他体力を消耗したようでごじゃった。見る見る歩く速さが遅くなっていくひこにゃんを見かねて、拙者は得意の「尻尾振り漁法」で魚を採ることを思いついたでごじゃる。拙者の尻尾はこれでなかなかキュートな尻尾でごじゃるからの、その尻尾の先を水に入れて、ふりふりしておると、魚が「???」と寄ってくるのでごじゃる。拙者はシマ猫でごじゃるでの、多分ミミズと間違えるのでごじゃろう。それで、寄ってきたサカナをさっと手で掴むのでごじゃる。

このワザでたちまち一尾のサカナを採った拙者は、「ひこにゃん!腹が減ったでごじゃろう。これを食べるがよいぞ」とひこにゃんにサカナを一尾差し出したでごじゃる。するとひこにゃんは「僕は生ザカナは嫌いだにゃん!」と驚く事をほざいたでごじゃる!。「な、なんと勿体無いことを、貴公は猫ではごじゃらんか!その猫が生ザカナが嫌いとは、はたまた面妖なことを!」「僕は、エビフライは大好きだけど、生ザカナは食べないにゃん!」と、申すのでごじゃった・・・・。この時ばかりは、盟友のひこにゃんとはいえ、さすがに腹がたったでごじゃる。

「そんな我がままを言うのなら、喰わんでもよいわ。しかしの〜、ひこにゃんが食べぬのに、自分だけ食べては、拙者も武士の端くれ、拙者も我慢するでごじゃる」「う、う、うえ〜〜〜ん!そんなこと言わずに、しましゃこは遠慮なく食べてくれだにゃん!僕は好き嫌いが激しいから食べられないだにゃん!僕のために我慢することないだにゃん!」とひこにゃんは泣き出したのでごじゃる。

「いや!そ〜ゆ〜わけにはいかんでごじゃる!拙者も我慢するでごじゃる!ささ、こんなところで言い争いをしておっては、日没までに落合の里に着けんでごじゃる。先を急ごうでごじゃる!」と、二人で又歩き出したでごじゃる・・・。

「ひこにゃん、ちょっとしょんべんがしたくなったゆえ、先に行っておいてくれでごじゃる」とひこにゃんを先に歩かせ、拙者は石の影に隠れて、先ほどの生ザカナをさっさと食べたでごじゃるよ、うふふふふ。あの魚はなかなか美味(うも)〜ごじゃったの〜。何しろ、二人とも共倒れでは、元も子もないでの〜。その上、ひこにゃんには恩を売っておく、策略家として名を馳せた拙者の面目躍如でごじゃる!

半日ほど歩いた時点で、とうとう疲労と空腹と足の痛みで動けなくなったひこにゃんを背負って、拙者は河原の道を黙々と歩いたでごじゃる。もし、サカナを食べてなかったら、我らは共倒れになっておったでごじゃる・・・・。

日がとっぷり暮れかかった頃、ようやく人家がまばらに見える里らしきところにたどり着いたでごじゃる。河原の道が普通の道に変わったところに「落合」という看板が見えた時は、拙者もさすがにほっとして、力が抜けそうになったでごじゃるよ・・・。

ねこうどん51

拙者とひこにゃんは、清滝の里の乗り合い大型籠停留所広場から、坂道を下り、清滝川の橋を渡ったでごじゃる。そこにあった民家の庭先に繋がれた白い飼い犬殿に「ねこうどんとやらがこの里にあると聞いたが、ご存知ごじゃらんか?」と声を掛けたのでごじゃる。白犬殿は大きなあくびをしたアト「それなら、この先の古い食堂にあったちゅ〜話しを聞いたことがあるで〜」と教えてくれたのでごじゃる。

ついでに「貴公は、その〜、ねこうどんとやらを観たことがごじゃらんか?」と訪ねたでごじゃる。「昔、そんなもんがあったっちゅ〜話だけで、観たことはないな〜・・・・」「そ〜でごじゃるか、かたじけないでごじゃる」と、二匹でペコリと頭を下げて、その古い飯屋とやらに向かって急いだでごじゃる。

清滝の里は静かな里でごじゃっての〜、昼前なのに、通りには人っ子一人いなかったのでごじゃる。とことこ歩いて行ると、ひこにゃんが突然大きな声で「しましゃこ〜!僕、今気づいたんだけどにゃ〜、この村には人間もいないけど、猫もいないだにゃん!」と、叫んだでごじゃる。「う〜〜ん、確かに飼い猫も野良猫もいないでごじゃるの〜・・・」「ふぎゃ〜〜!きっとみ〜んな、ねこうどんの中に入れられて食べられたんだにゃん!ぶるぶる」と震えだしたのでごじゃる。

拙者もその鍋の中の様子を想像したら、さすがに恐怖で震えがきたのでごじゃる。またまた虎と鹿が暴れだしたのごじゃる・・・・。「僕はも〜ねこうどんを捜すのを諦めるだにゃん。想像通りだったら、あまりに怖いだにゃん。しくしく」と、とうとう泣き出したのでごじゃる。

「なんと言うことを・・・・。拙者も怖いでごじゃるが、このまま一生ねこうどんの幻に怯えながら生きるのもいやでごじゃる。このままでは、怖さがますます増すばかりでごじゃる!」「しくしく、でもこわいだにゃん・・・・」「か〜〜つ!ねことはいえ、貴公もかってはイイの殿様に仕えた武士猫でごじゃろう!恥ずかしいとは思わんのか!ここは踏ん張って、拙者についてまいれ!」と、盟友のひこにゃんを叱ったでごじゃるよ・・・。

「しくしく、ひっく・・・・わかっただにゃん。も〜わがままは言わないだにゃん。腹を決めて、しましゃこに付いていくだにゃん・・・」「お〜〜〜!それでこそ武士!よく決意したでごじゃるの〜・・・では、その飯屋に行くでごじゃるぞ!」

拙者とひこにゃんは、白犬殿に教えられた道順を辿って、とうとうその飯屋の前に到着したでごじゃる。飯屋の壁にはこ〜じ殿とみゆき殿が言われたとおりの「品書き」が書かれていたでごじゃる。「ねこうどんできます」「肉球あります」確かにそ〜書かれていたでごじゃる。

拙者とひこにゃんは、様子をさぐる為に、まず裏口に回ったでごじゃる。随分古い家屋で壁にはところどころ穴があいていたでごじゃる。それに、人の気配がまったくなく、まるで朽ち果てる寸前のような感じでごじゃった・・・。

われら二匹が裏口に回った時、ごみ籠とおぼしき朽ちかけた大きな汚れた籠があったでごじゃる。拙者たちは、しのび足でその籠に近付いたでごじゃる。心臓が張り裂けそうなぐらいドキドキと鳴り出したでごじゃる・・・。ひょっとして、そのバケツの中には、たくさんの猫の死体が・・・と思いながら、中を覗いたでごじゃる・・・・。

「ぎゃ〜〜〜!」ひこにゃんと拙者は同時に飛び上がって叫んだでごじゃる!なんと、そのバケツの中には、案の定、猫の死体が・・・・一匹!

と、思ったら、その猫の死体も拙者らの叫びに驚いたのか、「ぎゃ〜〜!」と叫びながらバケツから飛び出したでごじゃる。「ふぎゃ〜〜〜!死んだ猫が生き返っただにゃん!」「ひこにゃん!うろたえるでないぞ!こやつは生きた猫でごじゃる!」と、ひこにゃんを戒めたのでごじゃる。

「な、な、なんや、あんたら・・・一体どこの猫や・・・この辺りではみかけん猫やな〜・・・ほんまびっくりしたわ、人がせっかくバケツの中で居眠りしとったら、いきなり叫びだしたりして・・・」
「失礼つかまつったでごじゃる。我々は、京の都から参った旅の猫でごじゃる。元々は彦根の出でごじゃるがの〜・・・ひこにゃんは元イイ家の武士猫で、拙者は・・・」
「そんなことはど〜でもえ〜ねん!なんで、いきなり叫んだんや、ちゅ〜てき〜てんねん」
「お〜そ〜でごじゃったの〜。実は我らは、ある筋からこちらにねこうどんという名のうどんがあると聞いての〜・・・そのねこうどんとやらを見てみようと、旅をしてまいったのでごじゃる。して、この飯屋の壁に《ねこうどんあります》、と書かれておったのでの〜。どこから中に入ろうかと入り口を捜しておったのでごじゃるよ〜驚かして、ごめんでごじゃる。ぺこり」
「な〜んや、そ〜やったんかいな・・・。確かに、わしら猫にとっては怖い名前のうどんやけど、この飯屋は随分前につぶれたらしゅ〜ての〜、わしがこの里に住み着いた時には、も〜飯屋はやってなかった。里の長老に聞いても、誰も見たことがない、っちゅ〜ことやった。ただな・・・」

「ただ?」
「うん、長老の話では、ここの飯屋をやっとったんは、落合の里に住んでた双子のお婆さんやった、ちゅ〜のんは、聞いたことがあるんやけど・・・・」
「ほ〜落合の里というのは、ここからどれくらいのところにあるでごじゃるかの〜」
「清滝の川をず〜っと下ったところにある里やねん。川沿いにいけば、今日中には着けるんとちゃうかな〜・・・」
「そ〜でごじゃるか、かたじけないでごじゃる。して、そのお婆さんの名前は聞いたことがごじゃらんかの〜・・・」
「う〜〜ん、聞いたことがあるんやが、確か、動物の名前だったような・・・ツル、カメ、タツ・・・ちゃうな〜・・・そ〜一人は確かわしらの親戚のような奴やったにゃ〜・・」
「まさかとは思うが、トラでごじゃるかの〜」

「お〜〜そ〜、トラやったわ!あんた賢いにゃ〜!さすがおサムライはんや!も〜一人はウシ・・・ちゅうな〜・・・・え〜っと・・ウシに似たやつで、も〜少〜〜し首がなご〜て・・・」
「ひ、ひょっとして、まさかとは思うが・・・・ウマではごじゃらんかの〜」と拙者が言うと、そのノラ猫殿は「お〜〜〜〜!」と叫んだでごじゃる!

「ふぎゃ〜〜〜!ここにも虎と馬でいただにゃん!」
とひこにゃんが泣きそうになったところで、そのノラ殿は
「いや、ちゃうがな!そんなアホな!トラとウマやなんて、いくら小説でもそれはでき過ぎやで・・・思い出した、確かキリンや!」
「ガク!・・・その名前の方ががよっぽど出来すぎじゃとと思うでごじゃるが・・・ま〜、名前まで教えていただき、かたじけないでごじゃる。それでは、先を急ぐゆえ、これで失礼つかまるでごじゃる。ぺこり」

我らは、元来た道を引き返し、橋を渡って、川沿いの道に入り、トラ婆さんとキリン婆さんの住む落合の里に向かったのでごじゃる・・・。
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