やさいのいぶき〜有機農園 けのひの日常〜

脱サラ夫婦が神奈川県愛川町で新しく農業をはじめた日常を綴る。畑と食卓、畑と街、畑と社会を繋いでいきます。

2009年11月

PB250234ここのところ3日と晴れない日が続いています。晴れたと思えば雨が降り、やるべき畑作業もかなりおしてしまっている状況です。そうこうしているうちに気が付けばもう師走。毎年のことながら1年はあっという間だなと感じる季節です。

さて、11月に入ってからというもの、夏頃から蒔いてきた様々な野菜が収穫シーズンを迎えており、毎日朝から日暮れまで収穫・袋詰め作業に追われています。大根、春菊、水菜、ほうれん草、小松菜、キャベツ、カブ、ネギ、ブロッコリーなどなど、冬の食卓を彩ってくれる野菜たちが畑のあちらこちらに点在し、寒空の下に緑の風景を作ってくれています。現在までのところ、概ね順調に収穫が進められていますが、この冬の作付けを計画するにあたり、継続的に収穫するための様々な工夫をしました。一般的にほとんどの野菜は収穫適期と呼ばれるベストの状態は実感として1週間〜10日間くらいしかなく、ベストの状態で収穫を始めると収穫が終わる頃にはもう盛りをすぎていることがほとんどのため、この秋冬の間中、常にいい状態のものを届けるには種を蒔く時期をずらして成長具合を調整するほかありません。そこで例えば小松菜、ほうれん草を例にとってみると早いものは9/20、遅いものでは11/7まで数日ずつずらして種を蒔きました。この際、時期によって株間を5〜9cmで調整して寒い時期を密集させて育てたり、暖かい時期に収穫を迎えるものに対してはトウ立ちしないように逆に広く育てたりと実に様々な方法を試しています。最終的な野菜の出来具合のイメージは同じでも、時期がずれてくるだけでその手法が変わってくるのが難しいところです。
PB250237また、キャベツやブロッコリーに関して言えば、株間調整などは行っていないものの、同じ時期に蒔いても早く収穫できる早生(わせ)種と少し時期がずれて後から収穫できる晩生(おくて)種の品種を選んで作付けしています。ブロッコリーはすでに早生も晩生も収穫終了してしまいましたが、キャベツはこれから晩生の「彩音(あやね)」の収穫が始まります。これは早生の金系(きんけい)と比べて見るからに固くしまっており、外見から冬の寒さが伝わってくるのが特徴です。機会があればどこかで食べ比べていただくと違いがわかって面白いかと思います。

野菜なんて種さえ蒔いておけば後は適当でも…と思えるのですが、その種蒔きが何より重要で、適期を逃すと全くモノになりません。幸いにもぼくらの畑は人参が収穫できていますが、ほんの1週間ずれた隣の人の畑では、いまだにちびっちゃい人参が収穫できずに大量に放置されています。これが全部無駄になってしまうかと思うと、費用、労力、時間などなど考えただけでもガックリきてしまいます。実は自分が蒔いた種の中でも浅すぎて種が浮き出てしまったり、逆に深すぎて全く芽がでなかったりしたものが多数あります。研修仲間がそれに気が付いているかどうかわかりませんが、一応自認しているということを示しておくため、このブログを見ていないとは思いますが、この場を借りてこっそり白状しておきたいと思います。

一人暮らしを始めてからというもの、当たり前の話ですが毎日3食自炊することになっています。今までは外に食べるところもあったし、面倒くさくなればオリジン弁当などという手もあったのですが、成田市郊外ではそんなことを望むべくも無く、朝からフライパンをふるう他ありません。弁当を作るのがどうしても面倒くさいときは畑で適当に野菜を取ってきて昼休みに調理します。なんか地味な昼飯だなと思っていたのですが、よく考えるとこれってすごい贅沢な話だと思いませんか。取れたて有機野菜をその場で調理!そこまで甘美なものではありませんが、こんな生活が結構気に入っています。

ところで、今晩の夜飯に味噌汁を作ったのですが、具材として畑から小松菜、大根、原木しいたけを持って帰り、先週末にお花茶屋へ行ったときにもらった埼玉屋気合豆腐の絶品油揚げを入れて作ったところ、なんとまあ贅沢な味噌汁になりました。取れたて有機野菜、原木しいたけに国産有機大豆から作られた油揚げ。当方、料理上手ではないためトータルの味は普通ですが、改めて考えるとなかなかすごいもん食べてるぞと思えてきて、バカな話ですが自分で自分の作ったものに感動してしまったのです。そして思わず独りでぼやきました「まじうめぇ…(気がする)」。

以前、食材に何を使っているのかわからないのに、スペイン料理とかトルコ料理というだけでかなりの付加価値がついていることに疑問をいだいていた時期がありました。どんな安い食材を使っているかもわからないのに、一品一品の値段がとても高い。しかも味付けが濃いから素材の味などほとんどしない。生産よりも調理に重きが置かれるなんてとちょっと腑に落ちなかったのです。

野菜作りはもちろんですが、一人暮らしという状況のため、どうしても飯作りが日常に食い込んできます。なのでいっそのこと野菜も料理も作れる男になろうではないかと、この味噌汁をきっかけに改めて思いたったのでした。生産もできて、身の回りの人を喜ばせてあげられるくらいの料理もできる。将来、自分の畑に人を呼びたいと思っているので、そんな風にできたら結構格好いいですよね。ガンバリマス。

成田に越してきて早くも2週間が経ち、だいぶ生活も回ってきました。こっちにきてからというもの、6時半頃にぼちぼち起き出し、朝飯と弁当を作って、8時前にぼちぼち車で出かけます。そして20分弱で畑に着。夜は19時くらいに帰宅し、なんやかんやして24時くらいにぼちぼち床につくというリズムです。活字にしてしまうと今までと比べてなんと怠惰なことか!と思うのですが、あまりダラダラしているような実感はなく、家事とか周辺の雑事に終われています。そんな生活にも慣れてきたのでぼちぼちブログも書こうかなあなんて思っている次第です。ぼく自身、インプットをたくさんするとアウトプットをしなくてはもやもやしてくる性分なのですが、ここ数ヶ月はやはり疲れていたのか、正直ブログを書くのも億劫になっていました。ようやく前向きになれてすっきりした気分です。

さて、最近の畑は収穫と出荷のピークで、朝から晩まで収穫・袋詰め・出荷に追われています。主に大根(三浦大根、青首大根)、カブ、小松菜、ブロッコリー、スティックブロッコリー、春菊、人参(黒田五寸、ハマベニ)、白菜、一本ネギなどがメインです。収穫・出荷は出荷先からの注文に応じて規格に収まるものを袋詰めし、規定の時間内に納品します。畑では端から順番に収穫できれば効率がよいのですが、野菜の生育は個体差があり、出荷できるもの、できないものにわかれてきます。大きさだけが問題ではなく、形の悪いものも出荷できないため、収穫の段階で規格に合わないものは畑に棄てたり、あるいは持ってかえって食べたりしています。

例えば大根の場合、表面に凹みがあったり、割れ目があったりしたものは程度の差もありますが、ほぼ規格外となります。皮をむけば問題なく食べれたり、そのままでも料理にしてしまえば全く気にならない程度のものもあります。それらは全体の2〜3割くらいあり、十分食べられるのですが、それをいちいち仕分けして作業小屋にもって帰ったりしていると作業の能率が落ち、時間内に出荷できなくなる恐れもあるため、そのほとんどは畑に置いてきています。あまりにも多くの大根が畑に転がっていたため、ざっと数えたところ、軽く100〜200本の食べれる大根が棄てられていました。これは非常にもったいない。しかし持って帰る余力はないし、食べきれる量でもありません。

農業研修を始めたばかりの4月頃、この棄て野菜に心を痛めていたのですが、今この繁忙期にあたり、こんな風景に慣れてきてしまっていることに気が付き、改めてこれは問題だと再認識しました。これらは買い手がいないからゴミと化しているのです。

そんな中、某野菜の宅配会社から規格外人参を買い取ってくれるという打診がありました。20?で1000円。1?あたり50円の計算です。大きすぎる、小さすぎるという理由の人参は味もそんなに変わらないはずですが、商品価値がないとみなされているからこの価格で買い取ってくれるだけでも御の字となります。これは野菜ジュース用とのことですが、ぼくたちにとっては本当に助かる社会的ビジネスと言えます。

先進国の生活習慣病に苦しむ人々の食事を改善することでアフリカの飢餓に苦しむ人々に食事を提供するという試みが「Table for Two(テーブルフォーツー)」というNGOにより行われているのはご存知でしょうか。レストラン、コンビニ、学食などでヘルシーメニューを食べると、そのうちの20円(アフリカでの1食分といいます)を寄付金としてアフリカの子どもの給食代になるという仕組みで、07年から、アフリカの子どもたちにおよそ200万食を提供したといいます。この仕組みは地球上のカロリーの格差を均衡化するというとてもわかりやすく、意義のある試みだとおもいます。シンプルなため、イメージがしやすく、結果として気軽に参加できるようです。

この仕組みを思うと、ぼくらの畑のいわゆるハネ野菜をなんらかの付加価値をつけて買ってもらって、農業を生業としている人たちへの支援としてつなげるという試みができないものかと思えてくるのです。こういう野菜を買ってもらえればロスも減るし、貧窮にあえぐ農家への助けとなります。食料自給率の問題を叫ぶなら、まずこういったところにも目をつけていただけたらなぁと思うのです。

とはいえ、ぼくは昔から手作業がニガテで動きがトロトロトロトロしているので、とりあえず当面はつべこべ言う前に、収穫の技術向上が必須課題となっています。早くいっちょ前になってああだこうだと言いたい…。

大学を卒業してから約6年間過ごした葛飾お花茶屋を後にし、成田に入植(?)しました。会社を辞めてからの7ヶ月間は毎日朝4時台に起床し、6時には家を出て、ひたすら電車に揺られる日々でした。帰ってくれば家や子どものこともロクにできず、家族に迷惑をかけっぱなしで妻や子どもはよく体調を崩すなど、相当の負担をかけてしまっていました。それでも何とか7ヶ月間やってこれたのは言うまでもなく、妻の力によるところが大きかったのです。

農業を志すと決めたとき、周囲の人からは反対もありましたが、納得した人の中にも、ぼくの家族の決意に拍手を送りたいと言ってくれた人が少なからずいました。まさにぼく自身というよりも家のこと、子どものこと、そして自分の仕事を抱えている妻自身が一番大変な思いをしていたのでした。そのため家族の負担を少しでも軽くするために前向きな別居という選択をとることにしたのです。通勤農業はこれで終わりです。そしてぼくの研修が終わる頃、またはある程度のメドが経ったときに家族とは成田で合流する予定です。家族と離れるのは正直言ってかなり寂しいのですが、与えられたチャンスを大切にして日々色々なことをしっかりと消化していこうと思います。

お花茶屋を去るにあたって、街の人々にたくさんの激励の言葉をいただいたことをこの場で改めてお礼を申し上げたいと思います。皆様のおかげで葛飾での暮らしを忘れがたい、かけがえのない日々とすることができました。またいつかお花茶屋でぼくたちの作った野菜を何らかの形で皆様に食べていただけるようにしたいと思っています。絶対にまた戻ってきますので今後とも宜しくお願いします。

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