やさいのいぶき〜有機農園 けのひの日常〜

脱サラ夫婦が神奈川県愛川町で新しく農業をはじめた日常を綴る。畑と食卓、畑と街、畑と社会を繋いでいきます。

2010年10月

昨年の11月あたりから探していた、来年4月からの就農地がようやく決まりました。

東京都八王子市です。これまでいくつかの場所を見てきましたが、愛川町、八王子市、成田市の3つに絞り、さらに八王子と成田の2つに絞り、ここからはもう一長一短で相当悩みました。思えば会社を辞めて農業を始めることに決めたときはほとんど悩むということもなかったので、今回は農業人生で初めて岐路に立たされた気分でした。どちらの街でもそれぞれ描いていた将来像から大切な要素が1つずつ抜け落ち、これから先の人生そのもののビジョンがガラリと変わってくることが予想できたため、毎日どっちがいいのかという考えがコロコロ変わってしまい、決められずにいました。

生活と仕事。農業においてこの両面は境界線をあいまいにして繋がっているように思います。そのため、仕事だけでなく生活という観点が非常に重要な点として選択材料の中心にいました。しかしこの生活という観点においても、妻の通勤の利便性だったり、農的暮らし(畑と家のつながり)の実現度だったり、矛盾した二つの要素が存在し、初年度はこっちがいいけど、10年後は多分こっちがいいなど、決め手に欠けいっそう迷走していってしまいました。どちらかを選ぶということは、もう一方にある可能性を全て切り捨てるということで、それを考えるとなかなか怖いものでした。

農業を始めようと決めたとき、「ムラと街の繋ぎ役になる」という考えがあったのですが、八王子だとムラではなく、まさに街中になるためこのコンセプトは見当違いのものになります。まだしっかりとした考えがまとまってませんが、都市農業の意義、東京で有機をやることの意義などを追求して、農産物だけではなく、地域の方々に食以外の何かを提供できるように活動していきたいと思います。

結局のところ、神奈川から東京を経由して千葉に来て、最後に辿り着いた先は東京でした。

農地探しにあたって色々な方々に情報提供やご協力をいただきました。他人の人生なのに親身になってご相談に乗っていただき本当にありがとうございました。これから(2011年4月から)ようやくスタートとなり、日々右往左往することになりますが、おもしろおかしく眺めてやってください。これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

 雨が降らないとしきりに言っていた8月はどこへやら、9月中旬から雨の日が続いており、畑仕事が大幅に滞っています。9月は冬の収穫に向けて種まきや定植を行う大事な時期。ここが滞ると来春までの収穫の予定が狂ってきてしまいます。お彼岸頃を基準に播かなくてはならない玉ねぎ、らっきょう、ニンニクなどもいまだ手をつけられておらず、この先の見通しが立っていない状況です。とりあえずは貴重な晴れ間を縫って、できることを目一杯やっていくしかありません。なんとも今年の天気は極端なのです。
 ところで、有機農業研修に参加して早1年半、この生活も残すところあと半年となりました。成田での就農も含め色々な土地で畑を探してきましたが、人の繋がりをたどって行ったところ、一度断念した八王子での就農が視野に入ってきました。正規ルートでは真っ向から断られたのに…。世の中の渡り方を勉強させられます。。
 ただしそこで畑を借りるためには条件があります。それは、学校給食に野菜を出すということ。大概の人にこの話をすると、いい話じゃないか!と喜んでくれます。無農薬の野菜を子どもたちに食べてもらえるなんて素晴らしい、と。しかし、経験のある人や詳しい人に聞くと、少し表情を曇らせて、それはちょっと考えものだ、と言われてしまうのです。一体どういうことなのでしょうか。

 給食で子どもたちに食べてもらうには安全なものでなくてはならない。そのための基準は他の出荷先よりも厳しいものになると言います。さらに、それらの野菜には泥がついていたり虫食いがあったりしては話にならないというのです。今私たちが作っている野菜は確かに不揃いだったり、泥がついていたり、穴が開いていたりします。無農薬で作っているがゆえ、病害虫の影響を多少なりとも受けてしまうことと、洗うと鮮度が落ちるという理由からです。しかし見かけは悪くとも人体に有害とされる物質は一切使っておらず、そういう点では安心して食べてもらえるものだと思っています。ところが給食用の野菜には農薬を使わないと引き取ってもらうことさえ難しいという現実があります。

 食の安全とは一体なんなのでしょうか。農薬の使用の有無、残留窒素の問題、健全な種から作られた品種であるか否か、遺伝子組み換え作物。さらには堆肥や肥料などが本当に安全な素材からできている資材なのか。植物工場の野菜の位置づけ。実はあまり知らされていない、本当のところはよく分からないということがたくさんあるのです。目には見えないことばかりですが、想像すればするほど気になることが結構あります。しかしとりあえずここで提示されたのは目に見える部分のことでした。

 では有機農業とは何なのか。無農薬・無化学肥料で有機資材を使用した農業という人もいます。しかし私は方法論ではなく、思想にこそその本質があるのではないかと考えるのです。有機の思想、それはつまり野菜の安全性だけではなく、地域の伝統や自然環境を保全するためのものであるということ。安全の定義があいまいであることは否めなくても、この本質からはずれないでいることで自ずととるべき道が、自分の目指すべき農業が見えてくるのではないか、そう思うのです。
 今回いただいたこの条件、畑も売り先もあるという破格の条件。皆が口を揃えて慣行農法でやるべきだと言いますが、やはり有機でやれないのなら八王子には行くべきではないと考えています。
 八王子でも有機。風当たりが強そうです。

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