やさいのいぶき〜有機農園 けのひの日常〜

脱サラ夫婦が神奈川県愛川町で新しく農業をはじめた日常を綴る。畑と食卓、畑と街、畑と社会を繋いでいきます。

2011年01月

 堆肥。よく連想されるのはふんどしをしめた人が肩に天秤のような桶を担いで、中にはナマの糞尿が入っている、もしくは畑の脇に肥溜めと呼ばれるものがあってそこから糞尿をすくって作物にかける。農業をはじめるまでは堆肥=うんこだと思っていましたが、これは必ずしもイコールではありません。ましてナマのうんこを畑に投げ入れたりは決してしません。
 堆肥には様々な素材、作り方がありますが、一般的にはうんこそのものというよりは家畜の糞尿を剪定枝やおが屑やバークなどの木屑と混ぜ合わせて発酵させたものです。なので堆肥は臭いというのは誤った考え方で、臭いのは発酵途中の未熟な堆肥ということになります。畑に入れるような完熟の堆肥というのは糞尿のニオイというものはあまり残っておらず、触ると土のようにサラサラしています(少し臭いの残る中熟のものを入れたほうがよいという説もあります)。この堆肥をたっぷり(2〜4t/10a)入れて、土作りをしていくのですが、堆肥ならなんでもよいというわけではなく、堆肥にもいい堆肥、悪い堆肥というのがあって良質の堆肥にめぐり合うのはなかなかに難しいのです。
 まず、家畜の糞尿を原料にする場合(主に鶏、豚、牛、馬)、その家畜が食べているものなどが糞にでてきます。飼料であったり、投与されている薬であったり。また、おが屑を入れている場合、たいていは建築廃材などが使用されており、ものによってはペンキ片が含まれていたり、元の建材の段階で防腐剤などの様々な薬が使用されていることもあります。剪定枝も公園の樹木や街路樹などの枝であっても消毒がなされている場合もあります。こうやって一つ一つケチをつけていってこんなものが入っている堆肥を使っていて何が有機農業だ、なんて言われることもあります。しかし堆肥を業者から買うということはこういうものが入っているというリスクを負うということにもなります。純粋にまったく投薬されておらずに国産の無農薬の飼料を食べて育った家畜の糞と天然木や落ち葉を原料にして十分発酵された堆肥なんてものはまずないというのが現実です。もしあったとしたらそれはかなりの高額になるでしょう。
 ではどうするか。本当にこだわりぬいて妥協をしないと決めたなら自分で作るという手段があります。厳選した材料を使って自分で作る。実際にそうやって100%植物由来の理想のような堆肥を作っている人もいます。しかしこれには場所と労力と時間がかかるため、全ての農家さんに求めるのはなかなか難しいです。
 ぼくの場合は時間はあるのですが堆肥を堆積しておく場所や、製造工程で使用するバケットと呼ばれる機械がないため作れません。だから残念ながらリスクを覚悟で少しでもいいものを探す、というのが一番現実的な方法だと考えています。
 さてこの堆肥、一体どうやったら手に入るのか。八王子近辺に探しに行きました。

 有機農業にとってもっとも大切なことは「土づくり」である。
 農業を始める前から色々な文章などで読んでいたのですが、実際に研修を始めて作物を作っていてもその大切さというのがイマイチ理解できないまま日々を過ごしていました。無農薬、無化学肥料でも種を播けばなんとか収穫まで持ち込めている。施肥(肥料をまくこと)の量だって適当でも結果はいつもだいたい問題ない。このせいで有機って楽勝じゃないか、と誤った認識をしていた時期もありました。しかしよくよく考えてみると、今作付けしている土地って先代から40年来、有機農業を続けてきた土地で、有機物がたくさん入っているために排水性がよくて保肥力があって、地力があるから元気な作物が育って病気や虫の被害もそれほど多くないという素晴らしい土地なのです。そりゃ1年や2年、めちゃくちゃなことしてもなんとかなるというわけです。
 色々な人の話で総合的に判断すると40年来有機物を入れてきたこのような土地ならば2〜3年くらいはどんなことしてもいいものがとれるそうです。だからぼくがこの圃場を任されたこの1年なんていうのは40年のうちのたったの1年でしかなく、天候に左右されたことも加味しても、まぁどうにかできてしまうということであって実力なんてこれっぽちも関係なかった、という事実はしっかりと受け入れなくてはなりません。しかし一旦土のバランスが崩れると元に戻すのにまた2〜3年くらいはかかるという話を聞くと、数年後の作がしっかりできるかどうかというところで昨年の自分の実力が問われてしまうようなそんな怖さがあります。今年と来年、しっかりやってくれればたぶん大丈夫でしょうが…。

 土づくりってなんでしょう。当たり前のように聞かされた言葉だけど、具体的にこれが土づくりだ、というのは聞いたことがなかった気がします。堆肥を入れる。輪作に緑肥やトウモロコシなどをはさむ。だいたいこれくらいのことしかしていません。要するに畑の中に有機物をたくさん蓄えるってことが大事。だから堆肥はたっぷり入れる。しかしよくよく調べてみればまだまだ色々な方法がでてきます。師匠に言わせれば焦る必要はねぇ、当たり前のことをやってればいいんだ、という風になりますが、実際問題は結構焦ります。だって八王子の畑、堆肥ゼロなんですから。

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