昨日、群馬県の小松菜の代わりに出荷してくれないかと頼んできた業者が今日になって千葉県産も買えないと言い出した。そして静岡以西の産地を紹介してくれないかとまで言ってきた。はっきりいってふざけている。こういう人とは二度と取引したくない。八百屋の中には風評被害を拡げまいと、北関東産でも出荷規制のかかっていない野菜をあえて仕入れているところもあるという。また、普段出荷させていただいているパルシステムは、生産者に対する公式文書で、基準値を下回っているうちはなんとしても我々の野菜を消費者の元に届けると宣言してくれている。明日どうなるかわからない状況に変わりはないが、こういう風に言ってくれていることに胸を打たれる。
今日の午後、いつも野菜を届けている成田市内のカフェとレストランに行ったが、やはり状況は厳しい。こういった状況下で深刻な程客足が遠のいているという。こういう場所にいて農業をしていると結構不安になってしまうのだが、意外と東京の方ではケロッと日常がまわっているのかなとふと思ったりする。
とにかく、福島原発の行方を注視しながら、明日も畑で食料を生産するとしよう。
2011年03月
暗転してるわけじゃない
今朝になって出荷規制対象作物が増えていた。福島県産の11品目の野菜、北関東産のほうれん草、かき菜などだ。やっぱりもう、どれもこれもダメってことじゃないかと思いがちだが、一方で農業新聞をよく読むと放射性物質が検出されなかった野菜というのもしっかり列挙されている。そちらの品目の方が出荷規制されているものよりはるかに多いのは言うまでもない。今日は一日中、「風評被害が懸念される」という報道がされていたが、この放射性物質が検出されなかった野菜というのをしっかり消費者に伝えて欲しいと切に願う。
昨日の大田市場ではすでに卸の方々による北関東産の敬遠が始まっていたようだが、その影響なのか、今日ぼくらのところに今まで取引のなかった卸売り業者から小松菜を出荷してくれないかという問い合わせがきた。なんでも、今までは群馬産の小松菜をメインにしていたが、今回の原発事故のせいで群馬産の仕入れができなくなったのだという。本当のところ、「できなくなった」のではなく、自粛したのだろう。今日の正午において、群馬の小松菜は出荷規制対象ではなかった。
今、この国は大きく揺れている。
エネルギー、食、環境、ライフスタイル、仕事、ありとあらゆることに対しての価値観、根底が覆されて見直さなければならない時がきている。これだけの事故が起きたのだから、この先どういう経過を辿るにしろ、原発計画は見直されてゆくだろう。それに伴ってやはりぼくらの生活のあり方が今までと同じように、というわけにはいかなくなる。今日の農業新聞にもやはり「国の在り方を考え、新しい国を作るべきとき」と記され、その根底には「節電思想」と「自然エネルギーの普及」が必須になってくると言っている。ぼく自身もそうあるべきだとはっきりと思う。サラリーマンを辞めてスタートさせたこの2年間の農業研修の最後の最後でこういう事態に直面し、自分や家族、それにこれからの生き方について、改めて考えさせられている。
目に見えないのに、目の前で起こっていること
福島第一原発の事故の影響でついに千葉県旭市の春菊からも放射性物質が検出されたという。これにより旭市産の春菊は出荷停止ということになるらしいのだが、旭市といえばここ成田市からもそう遠くはなく、福島からの位置関係でいえば、風向き一つで放射性物質だって飛んでくるのではないかと思える。自分たちの畑の作物だって明日になってみればどうなるかわからない状況なのだ。しかも自分たちの目や鼻や舌で確認できるものではなく、政府からの発表を待つほかないのが現実である。そして毎日出荷先からの指示を待っているしかなす術がない。
先に放射性物質が検出された茨城・栃木・群馬のほうれん草、かき菜はすでに出荷が停止されている。しかし、この三県のその他の青果物は特に発表はないにも関わらず、市場では破格の安値をつけていても売れないのだという。人体には影響はないといえど、現段階では政府の言う基準値を超えたものが出荷できないのは仕方のないことだと思う。しかし、一番恐れていたその他の青果物に対する風評被害がすでに卸の段階で始まっており、北関東三県産というだけで他の全ての野菜まで敬遠され始めたことが、同じ生産者として悔しい。
しかし一方で、二児を抱える消費者として福島産、北関東産の生産物をあえて選ぶのかと問われれば、手をだしずらいというのが本音だ。「大丈夫、問題ない」と繰り返し報道されているが、そもそも原発事故に関する一連の政府発表、報道ですらどこまで信じていいものなのか判断しかねる状況の中で、何をもって自分を納得させられるかがわからない。仮に、スーパーなどで「放射線の基準値を下回っているので問題ない」という証明書を売り場に掲げてくれればそれで安全は担保されるのだが、果たしてそれで消費者の安心まで担保できるのかと言われれば、この一連の報道に対する個人の印象や放射線に対する知識が未熟であるがゆえの恐怖心などで手が出せない人もいるのではないだろうか。
とはいえ、もしこのまま風評被害が広まって北関東の野菜が出回らなくなったり、他県にも影響が広がれば、野菜は昨年のこの時期以上になくなる。一年前の春は例年に比べて寒かったり気候が不安定で、野菜がうまく育たずに供給がままならなくなってしまった。その結果野菜は高騰し、政府は前倒し出荷や規格外品の積極出荷などを求めるような事態になった。今回はそれ以上に深刻な状況だ。
「がんばろう福島!」、「がんばろう茨城!」という社会的なキャンペーンをはれば皆さんは風評被害に惑わされることなく、この地域の野菜を購入して食べてくれるのでしょうか。しかし、あくまでこれは地震の被災地というよりは、言ってみれば「風評被害の被災地」なのだから、彼らにがんばれというのはよくわからない。もし安心・安全を担保できるならば、あとはそれらの野菜に対する消費者の意識一つなのだから、実のところがんばるべきなのは自分自身も含めた消費者なのかもしれない。