0.概要
- 何度も話が出ては消えているMM2Hの取得要件の厳格化だが、再び浮上している。
- 今回、観光芸術文化省の観光担当の副事務次官への取材が記事になっている。要点は次の3点。
- MM2Hは同様な制度のある他国との競争である
- 経済的な要件を見直すことで、今よりマレーシア経済に貢献する良質な人々(=金持ち)に来てもらう
- 関連手数料を値上げする
- 1.で競争と言っているが、2.の内容を考えると、実際は他国に合わせてハードルを上げて応募者を今より限定する可能性が高い
- 仮にシンガポールやタイと条件を合わせてくるとすると、資産証明だけでなく、ビザ取得の時に、ある程度の額の支払いが必要になるかもしれない
- 外国人受け入れに抑制的な新政権の意向を踏まえていること、長く要件が改定されていないことを踏まえると、今回は取得時の経済要件の厳格化が現実になる可能性が高いと思われる。
1.はじめに
報道が出てからしばらく経っているのですでにご存知の方が多いと思いますが、内容をよく読むと結構大きな変更になりそうだと思っています。
次節は過去の話ですが、直接今回の話を読みたい方は飛ばしてください(3節へジャンプ)。
2.過去の変更予告、特典変更など
冒頭に書いたように、過去何度もMM2Hの基準が厳しくなりそうだという話が出ていましたが、基準自体の変更はありませんでした。
5年前(2013)のことですが、大きな基準変更を観光文化省(観光芸術文化省の前身)のNazri大臣(当時)が言い出したことがありました。このときは預金条件を2百万リンギ(当時のレートで約6,000万円)に引き上げるということで、MM2H界隈に衝撃が走りましたが、大臣は後にひっそり撤回しています。
- MM2Hビザの基準が大幅アップ?(親ブログ、2013/8/16)
- 昨年11月、観光文化大臣「MM2H条件を据え置く」(親ブログ、2014/2/21)
その後も、SNSなどの非公式筋の情報で「今後条件引き上げがある」という話が出ていましたが、実際の引き上げはありませんでした。
一方で、MM2Hの特典は少しずつ縮小されてきました。
車の購入または持ち込みのときの税優遇が縮小され(こちら)、ついには税金がすぐにかかるようになった(こちら)とか、不動産を買うのにMM2Hの預金をおろして使えなくなった(こちら)とかいうことです。私が気づいていないだけで他にもあるかもしれません。
また、状況が変わっていなければ、現在、MM2Hの申請後の手続きが停止されているようです(こちら)。マハティール新政権が制度変更を考えているように思えます。
今回は大臣ではないですが、MM2Hを所管する観光芸術文化省の観光担当副事務次官(Dupity Secretary General)Datuk Haslina Abdul Hamid氏の発言です。日本だと局長くらいに当たる人でしょうか(組織図)。
マハティール首相は外国人労働者の入国を厳しくする方向に舵を切っており、MM2Hビザもその方向で改定される可能性は高いのではないかと思われます。
3.「MM2Hでより高い資質の応募者を引き寄せたい」
元記事は
- MM2H to attract higher quality applicants(Edge Property, 2018/12/8)
「高資質の応募者を引きつけるMM2Hに」
観光芸術文化省のDatuk Haslina Abdul Hamid観光担当副事務次官への取材を記事にしたものですが、副事務次官発言の核心部分と思われるところは以下のとおりです。(全文は補足1参照)
- 「潜在的な参加者を同様な制度のある他国にとられないようにしないといけない」
- 「(MM2H制度の)発展を続けることは重要である一方、制度のある面を見直すには良い機会かもしれない。例えば、経済的な要件を見直せば、マレーシアの経済が潤うのを確かなものにする、より良い資質の応募者を引きつけることになろう」
- 「16年間の制度施行後、我が省は次のような意見に至った。すなわち、経済的な要件および関係手数料(ビザ手数料、手続手数料)を改定する必要があるということである」
ざっくり言って、現在の資産条件を(厳しい方向へ)変更ということでしょう。
2.から取り上げますが、要するに条件を厳しくして、「もっと金持ちに来てほしい」ということでしょう。1.は他国との競争であるということですが、2.の内容と合わせると、ハードルを下げるというのではなく、実際的には「来てもらうのはもっと金持ちに限定して、他国と同様にハードルを上げる」ように受け取れます。
3.で「手数料も上げるよ」ということですが、こちらは大した問題ではないでしょう。
4.どう変わりそうか 政府への払込が生じるように?
どう変わりそうかはマレーシアのことなので、なかなか推測は難しいですが、一つのヒントになりそうなことはあります。
前節で書いたように、副事務次官が「潜在的な参加者を同様な制度のある他国にとられないようにしないといけない」と言っていることで、他国の状況を見ながら決めそうだということです。
記事では、申請手続きの改善計画の話も出ていますが、そこでも他国を意識しています(補足1の項目j)。
実際、この記事に、マレーシアのMM2HとシンガポールのGlobal Investor Progam(国際投資家制度)、タイのElite Residence Program(エリート居住制度。エリートビザと言われたりしているようです)との比較が載っているので見ておきましょう。
元の表では、各国通貨とマレーシアリンギ換算額しか載っていないので、現在のレートでの日本円換算額も載せておきました。
マレーシアのMM2Hの条件では、liquid assetsとあり、これは会計用語では「当座資産」ですが、ここでは単に現金化しやすい資産だろうということで「流動資産」と訳しています(マレーシア政府観光局の日本語サイトによると、預金のほか株式でもよいようです。)
また、マレーシアのMM2Hビザの流動資産と月収条件は申請時における条件で、ビザの取得後、毎年条件がチェックされたりするわけではありません。ですから、引退後でなく、給与所得のある現役のうちに取得するほうがよいとされています。
さて、注釈が長くなりましたが、この表からわかることは
- マレーシアは現時点で資産と収入がどれだけあるかを証明するだけで、ビザ要件に(手数料を除けば)金銭の支払いはない
- 一方、シンガポールとタイではビザの取得にお金を支払わないといけない。シンガポールでは最低2億6千万円、タイでは最低170万円
ということです。
シンガポールの要件は破格にハードルが高いとしても、タイと同様な要件をマレーシアが求めてくる可能性は充分あると思います。
つまり、マレーシアが、もしシンガポールやタイの制度に倣うとすると、従来の資産証明で済まず、ビザ取得にお金を払うように変更される可能性があるということです。
もし、このような変更がなされるとなると、MM2H制度の大きな変更になると思います。
5.おわりに
マハティール首相の発言などから、MM2H制度は廃止されると予測している人も、あるSNSで見かけましたが、記事を読む限りでは廃止ということはなさそうで、ほっとしています。MM2H制度廃止となれば、今まで取得していた人も期限が来た時に帰国せよとなりかねないからです。
一方で、本文で取り上げたように、大きな変更になりそうな感じがしています。
もう一つの懸念は、MM2H制度廃止とはならなかったとはいえ、今までにMM2Hビザを取得した人たちがどうなるかです。
今までは、私の知る限り、従来はすでに取得した人の条件が厳しくなることはなかったようです。
今回もそうなることを望みたいと思います。
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補足1 「高資質の応募者を引きつけるMM2Hに」全訳
- 2002年にMalaysia My Second Home(MM2H)制度の開始から16年経ち、2017年末時点で130カ国から38,932人の参加者を引き寄せてきた。
- 2017年には承認数が急激に増え6,195の応募者を承認した。前年(2016年)の承認数は3,347だった。
- 承認数の急増は、MM2H代理業協会(MM2H Agents Association)と観光芸術文化省がこの制度の利用を促進したことによるだろう
- 副事務次官「我々はこの勢いを継続して、潜在的な参加者を同様な制度のある他国にとられないようにしないといけない」
- 「発展を続けることは重要である一方、制度のある面を見直すには良い機会かもしれない。例えば、経済的な要件を見直せば、マレーシアの経済が潤うのを確かなものにする、より良い資質の応募者を引きつけることになろう」
- 見直しが必要
- 副事務次官「16年間の制度施行後、我が省は次のような意見に至った。すなわち、経済的な要件および関係する手数料、たとえば、ビザ手数料、手続手数料を改定する必要があるということである。」
- 現在のMM2H制度では、50歳未満の場合は最低RM500,000(約1,350万円)の流動資産とマレーシア国外での月収がRM10,000(約27万円)あることが条件になっている
- 50歳以上の場合は、最低RM350,000(約950万円)の流動資産とマレーシア国外での月収がRM10,000あることが条件になっている
- MM2H制度が良い資質の外国人を引き寄せるために、観光芸術文化省には応募手続きを改善する計画がある
- 副事務次官「現在、手続き期間が90日かかっているが、それを短縮したい。我が省は同様な制度をもつ他国の状況を精査し、できれば最善のところと合わせたいと思っている」
- 「そのほかに、移民局の協力を得て、ビザおよびMM2H応募手続きを電子化して、申請の面倒を減らすことも計画中である」
- 「MM2Hセンターはすでにいくつかの方策を検討しており、一部移民局と話をしている。一つは訪問日時予約システム(appointment scheduling system)であり、MM2H参加者及びエージェント(代理人)がセンターを訪れる日時を選択できるようにするものである。
- 別件だが、移民局は電子ビザ承認書(eVAL)と電子ビザ(eVISA)の導入を計画している(※「仮承認書」「仮承認レター」などと呼ばれているものの電子版と思われる)
- 副事務次官「現物の承認書のかわりにeVALが移民局のシステムからソフトコピーとして発行されることになる。これにより、MM2H応募者がマレーシア入国の際に必要な入国ビザを、各自の母国のマレーシア大使館から取得するのが容易になる」
- 「eVISAについて説明すると、オンライン申請システムで、外国籍の人が自分の好きな時にマレーシア入国のビザが取れるようになる」
- 応募者の増加への対応、MM2Hビザの更新などの手続きの一部を州の移民担当部局への移管に関しての作業部会を設置する計画がある
- 一方、観光芸術文化省は(当面)既存のMM2H参加者の問題解決にあたっており、代理業者がMM2H参加者に正しい情報を提供できるようにする
- 副事務次官「MM2H制度の促進には口コミが最も効果的である。MM2H参加者がマレーシアで楽しく滞在していれば、その参加者が親戚・友人にMM2Hの制度利用を促してくれる」
https://twitter.com/uniunichan/status/1054018518578954240
OECDは、MM2Hを含むハイリスクな投資家スキーム居住権が申請された時には、「居住権がある他国」「90日以上をすごした国」「所得税を納めた国」等の確認を金融機関に求めています。90日在住していなくても、居住権を主張できるのが理由の一つ。MM2H存続が噂になる中でのOECDブラックリスト入り。さて。
これを読むと、マレーシアに一定日数居住したり、税的居住地を宣言しないととMM2Hを維持できなくなる可能性があるんじゃないかと。