※8/1に一度投稿しましたが、改訂箇所が多くなってきたので、整理の後、再投稿しました。変更点については最後にまとめました。(再投稿後、8/6、9/2に加筆・修正しています)

 マレーシアでアブラヤシ投資というのがあるのだそうです。

 簡単に言うと、ヤシ油を採るアブラヤシ農園の管理会社が投資家からお金を集めて、投資家に毎年6-12%程度の配当を保証するということだそうです。マレーシアの基準金利(≒預金金利)が3%なので、本当ならかなりおいしい話です。でも、一方で、最近破綻した安愚楽牧場を思い出してしまいます。

 投資家に配当を保証するような同様な投資スキームは他にもあるようで、総称して、interest schemeと呼ばれているようです。直訳すると、「利子スキーム」です。定率なので、interestなのだと思いますが、日本でのイメージ的には、銀行預金や債券の利子というより出資に対する配当に近いと思うので、ここでは、「配当スキーム」と呼ぶことにします。

 あるブログで知る機会があり、目論見書の財務諸表を見てみたり、関連記事を探してみました。

 長いので、結論を先に書いておくと、

 (現在の知り得る範囲では)残念ながら、うまい話はマレーシアにも当然ないようです。


 さて、まず最初にお断りしたいのは、私にはヤシ油の事業を有望だとかダメだとか評価できる知識はないということです。あくまでも財務諸表の中身を議論してアブラヤシ投資に関連する新聞記事、ブログをとりあげます。


 財務諸表を見てみたのは、

East West One Planters Scheme(目論見書
Golden Palm Growers Scheme(目論見書
Country Heights Grower Scheme(CHGS)(目論見書)

の3つです。他にもアブラヤシ投資のスキームはあるようですが。

 CHGSが財務諸表的には一番優良だとわかりましたが、実はこの2月に投資スキームを取りやめることになったそうなので、それに関連する新聞記事とブログも少し調べてみました。

1.East West One Planters Scheme(EWOPS)


 目論見書のp.54-55のSummarized Statements of Financial Position(要約財政位置計算書?、中身を見ると、B/S(貸借対照表)のようですね。以下B/Sと記します)の内容が気になります。

 p.54にGroupとあって、p.55にCompanyとあるので、p.54が連結B/S、p.55が単独B/Sだと思いますが、連結B/Sのほうは2011/12/31時点で、資本(Total Equity)がマイナスになり、さらに2012年末でそれが拡大しています。これは債務超過になっているということでしょう。単独B/Sのほうは、2011年末では債務超過でないですが、2012年末はやはり大きく債務超過のようです。

 p.51-52に要約損益計算書(P/L)があります。p.51が連結のP/L、p.52が単独のP/Lですね。どちらも、2008年から2012年まで一貫して赤字で、2012年には巨額(株主資本の約2.5倍)の赤字という結果になっています。(EPSが約RM2.5で、一株あたり株主資本がRM1.0。ここで、RMはマレーシアリンギットのことで、マレーシアの通貨単位です)

 B/Sに銀行借り入れがないです。推測になりますが、銀行が貸してくれないのでしょう。たとえば、REITでは銀行借り入れでレバレッジを効かせて、投資口の分配金(配当にあたるもの)を高くしていますが、それができないということだと思います。ハイリスクハイリターンということでしょう。

2.Golden Palm Growers Scheme(GPGS)

2.1 GPGS 直近の目論見書

 EWOPSはさらっと見てみましたが、こちらは、あとで紹介する新聞記事にも登場しますし、キャッシュフロー計算書もありましたので、もう少し詳しく見てみましょう。

 p.34にB/Sがあります。2009/6/30期から2012/12/31半期まで記されています。こちらはなんとこのすべての期において債務超過です(Total Equityがマイナス)。

 一方で、包括損益計算書の方(p.32-33)は2012/6/30期まで赤字ですが、2012/12/31半期では、黒字になって税金も払っています。

 ということは、好意的に解釈すれば、この黒字が続けば、債務超過はいずれ解消されていくということになりますね(実際、B/Sの債務超過が2012/12/31は半分以下に改善されています)。こちらもB/Sに銀行借り入れがないです。

 ただ、この黒字ですが、黒字額(税引き前で、36,663千リンギ)に比べて、売上はほとんどなく(34千リンギ)、黒字の源泉は、生物学的資産の増加(49,720千リンギ)によるもので、つまりはアブラヤシの木が育ってきてその資産価値を計上しただけのものです。資産の増加が包括利益と考えるIFRSに従うと、こういうことになるのでしょう。ということは、ひょっとすると、売上が立たなくても、アブラヤシの木がもっと育っただけで、債務超過はB/S上で解消できるということなのかもしれません。(それがいいことかどうかは別だと思いますが...)

 Golden Palm社のほうは(2012/12/31半期だけですが)キャッシュフロー計算書(C/F)(p.36)もあったので、それも見てみましたが、利益が出ているにもかかわらず、営業キャッシュフローはマイナス。投資キャッシュフローがマイナスはいいとして、財務キャッシュフローのプラスは投資家からの投資口の入金と思われるProceeds from sales of growers Plotsで賄われていて、もし投資家からの入金が途切れたら、キャッシュがショートして最悪の場合倒産ということになってしまうようにも見えますが、このあたりはどうなっているのでしょうか。

 日本の上場会社であれば、債務超過が何年もつづいているのですから、上記2社は「継続事業の前提に関する注記」がつくのではないでしょうか。

 しかし、一方で、良い知らせとして、投資家からのお金を使い込んでこうなっているというわけではないようです。以下に見るように、投資家からの資金の半分弱は分別管理されている模様です。

 p.36の最終行"Cash and cash equivalents at end of year"の金額886千リンギのところに*がついていて、その注を読むと、担保預金("deposits pledged")18,420,000リンギと拘束預金("restricted deposits")59,638,000は除外してある、とあります。最初に読んだときは意味がよくわからなかったのですが、これは、投資家への配当の原資として分別管理してあるということのようです。

 p.59に制限付預金が、受託者のAmTrustee社が管理していて、投資家(growers)からの資金(growers fee)の34%にあたると書いてあります。そのうち、24%分が保証した配当を投資家に支払う分として預かり金受託口座(Reserve Fund Trust Account)の作成のため、10%分がReserve Margin Accountの設定のためとあります。Reserve Margin Accountは説明がないのでわかりませんが、投資家が買い戻しを要求してきたときの余裕資金でしょうか。なお、59,638,000リンギが投資家から集めたお金の34%に当たるということなので、逆算すると、投資家から集めた金額の総額は約175,406,000リンギとなると思います。

 一方で、担保預金については説明がありませんでしたが、p.59の認可銀行に置かれた預金("Deposits with licensed banks")の額と一致していますので、これに当たると思います。財務諸表に載せないので、これも分別管理された資金だとは思いますが、どんなものであるのかの説明がまたありません。これは、計算してみると、投資家から集めた金額の10.5%に当たる額です。話が前後しますが、IPO時の目論見書には、「認可銀行に置かれた預金の総額が投資家から集めた資金の46%にあたる」p.54という記述があるので、パーセンテージが違いますが、やはり投資家から集めた資金の一部なのだろうと推測します。

 以上から、投資から集めた資金の約44.5%が分別管理されていて、財務諸表に載っていない資金となっているということのようです。
 

 こう見ると、会社がたち行かなくなったときでも、分別管理された半分弱のお金は戻ってくるということなのでしょう(分別管理がきちんとなされていれば)

 ここで、配当の支払いについても確認しておきましょう。財務諸表(p.11-12)の"2.5 Net Yield(正味の利率)"に書いてあります。あとで、CHGSの話のところで言及します。以下でCPOは粗パーム油です。

(a)第一期(2010.8.20-2016.8.19) 投資金額の6%の配当を保証 ボーナス配当の可能性あり
(b)第二期(2016.8.20-2033.8.19) (1)農場の1/4エーカーあたりの利益および(2)特定量の高い方
  特定量とは、
  (1) CPO価格がトン当たり1,500リンギを超えた場合、投資金額の9%
  (2) CPO価格がトン当たり1,000-1,500リンギの場合、投資金額の6%
  (3) CPO価格がトン当たり1,000リンギの場合、ゼロ
 特定量が農場の1/4エーカーあたりの利益を超えて、かつ、運営会社がその特定料を支払った場合、経営会社は、その差額分をのちに自分の取り分として回復できる(ただし、特定量を下回らない配当を出す限りは)

 第二期では、利益が配当の支払いに関係していますが、特定量という概念が出てきて、これはCPO価格で決まっています。利益と特定量の高い方で決めるとあるので、会社は利益が出なくてもCPO価格が高値を維持すると、高い配当を払わないといけません。たとえば、利益とCPO価格で決まる第二期で、CPO価格が高い状態(>1,500リンギ/t)で、不作などで利益が出ない状態が仮に続いてしまうと、やはりその場合はスキームの打ち切りに追い込まれる可能性は否定できないように思えます(あとで利益が上がれば、会社がその分を取り戻せますが)。

 それから、このスキームでは経営会社が買い戻しにも応じてくれます。(2.9 Repurchase of Grower Plots, p.14)

(a)第一期 買取の義務なし
(b)第二期 年あたりの買取制限
  (1)最初の年 10%
  (2)その後 (A)20%から前年の買取要求数 をひいたもの (B)前年の買取要求が10%を超えた場合10% (買取制限数の小数点以下は四捨五入) 

 p.19には、買い戻しの例も挙げられています。これを見ると、全部を買い取ってもらうには、スキーム開始後10年以上(15年程度?)かかりそうです。もちろん、会社側としてはみんなが一斉に全部の買い戻しを要求したら、うまくいっていても破綻しかねませんから、このような制限は必要でしょうが、投資家から見た流動性はかなり低いと見ていいでしょう。

2.2 GPGS IPO時の目論見書

 IPO(新規公募)時の目論見書もあることがわかりましたので見てみましょう(こちら)。表紙の日付は2011年8月20日とあります。

 直近の目論見書と比べて変更事項があることに気づきました。

 まずは監査会社の変更です。このIPO時の目論見書では、Ernst&Youngになっています。Ernst&Youngは世界4大会計事務所の一つで、私も名前くらいは知っています。一方、先に見た直近の目論見書では、BDOという会社のようです。直近の目論見書のp.76に会社と担当者(?)のサインがありますが、そこにもBDOとあって、何かの略というわけでもないようです。

 WikipediaによるとBDO Interntationalというのは世界で5位の会計監査会社だそうです。目論見書にあるロゴと同じものが会社ホームページにあるので、この会社だと思われます。(8/6)

 株式投資を行う者にとって、会計監査会社が変更されるということは、通常、重大事態で、経営者の急な交代とともに注視しなくてはいけないものです。なぜなら、往々にして要注意の事態が進行していることが多いからです。日本のことで言えば、会社との見解の相違で会計監査会社が降りて、「え、こんな監査会社聞いたことない」というところに変更したあとで会社の破綻またはそれに近い事態に陥ることが多かったからです。

 「いやいや、マレーシアではそういうことはよくあって他意のないことだ」ということなのかもしれませんが、注意するに越したことはないでしょう。ただ、今回は大手から大手なので、あまり問題ないのかもしれません。

 なお、直近の目論見書のp.29を見ると、監査会社は2009年6月期から2012年6月期まで、Ernst&Youngで、2012年12月期はBDOである旨が書いてありますので、最近変わったことになります。

 財務諸表が変更されていないか見てみましたが、変更があることがわかりました。前回見たときは、見逃していましたが、きちんと"restated"とありました。なお、B/SとP/Lを直近のものとIPO時のものとで、比較できる時期(2009年6月期から2011年6月期)について比較してみましたが、債務超過額と包括損益の赤字額は、直近のほうが大きく、会社に都合よく変更されているわけではないことがわかりました。(数字は挙げませんが、見てみて下さい)

 p.54に「認可銀行に置かれた預金の総額(24,120千リンギ)が投資家から集めた資金の46%にあたる」という記述があります。この時点から投資家からのお金の半分強が財務諸表に載り、半分弱は分別管理されているということがわかります。

 さきほどすでに触れましたが、破綻した場合は、分別管理された分は返ってくると期待していいかもしれません。GPGSの目論見書から伺えるのは、このスキームは

  1. 最初の数年間は預けたお金から配当をもらう(いわゆる「タコ配」)  
  2. その間にアブラヤシがうまく育って毎年実がなって、パーム油がとれて高く売れれば高配当が保証される(ボーナス配当もあるらしい)
  3. 一方、うまく行かなかった場合は、もらった分の配当も含めて、半分程度のお金が返ってくる

というところでしょうか。

 こう考えてみると、投資にあたっては、「自分が銀行で、アブラヤシ会社に高利の貸し付けをするかどうか」と置き換えて考えてみるといいかもしれません。ただし、最初の数年間はお金を返せとは言えない条件付きで、むこうが金利を決めてきています。債務超過ですから、何かの拍子で破綻することも考えられますが、好条件(?)なのは、破綻しても(もらった利子を含めてですが)半分くらいのお金が返ってきそうなことです。

2.3 最終的な親会社 Sterling Plantations Limited

 目論見書のp.28に最終的な親会社(持ち株会社)として、オーストラリア証券市場に上場しているSterling Plantations Limitedの名前が挙がっています。この親会社のホームページに、Golden Palm Growers Schemeへのリンクの他、8/27付で2013年6月期の年次報告書が載っています。Investor Relationsへのリンクはないので、少し素っ気ないですが、今から見るように債務超過で株価が低迷しており、それが関係しているのかもしれません。(債務超過の会社は投資先としてあまり興味を持たれないものです)

 年次報告書を見る前に、会社の概略・沿革を見てみます。Business Weekの投資用サイトによると、

Sterling Plantations社は子会社を通じてアブラヤシ農場の開発に携わっている。マレーシアで11,000エーカーのアブラヤシ農場を開発している。この会社は以前はSterling Biofuels International社として知られていたが、2012年10月に会社名を現在の会社名Sterling Platations社に変更した。本社はオーストラリアのウェスト・パース(West Perth)にある。

とあります。会社名を変えるのは世間から忘れてもらいたいためのはずで、あまりいい傾向ではありません。過去の年次報告書を読んでみると、当初のバイオディーゼル事業はリーマンショック等でヤシ油の価格が低迷したりしてうまくいかず、アブラヤシの配当スキームを始めたようです。

 オーストラリア証券市場のホームページでは、

アブラヤシ農場の開発、Golden Palm Growers Schemeによる農場区画の販売とマーケティング、ヤシ油からのバイオディーゼルの製造に主に関わっている。

とあります。 ちなみに、債務超過を反映してでしょうが、株価は低迷しています(こちら)。上場は2006年9月とあります。

 さて、年次報告書の財務諸表を見てみましょう。

 p.15には包括損益計算書(P/L)があります。2012年6月期は赤字ですが、2013年6月期は3,745千豪ドルの黒字になっています。ただし、売上は924千豪ドルしかなく、ヤシ油の売上では説明できません。GPGSの黒字と同様、「生物学的資産の価値の変化による利得」、つまりは、アブラヤシが育ったことによる資産価値(18,769千豪ドル)によるものです。

 p.16に連結貸借対照表(B/S)があります。載っている2011,2012,2013年6月期、すべて債務超過です。(Total Shareholders' deficitという行で、3つの数字すべてが括弧で囲われていて、株主資本がマイナスであることを示している)。

 p.18にキャッシュフロー計算書がありますが、2012年6月期、2013年6月期とも営業キャッシュフロー、投資キャッシュフローがともにマイナス、一方、財務キャッシュフローのプラスで、手元キャッシュが保たれています。で、そのプラスの財務キャッシュフローの源泉は、"Funds received under Growers Scheme"となっています。ということはつまり、GPGSで投資家から集めたお金ということになると思いますが、これが入らなくなったら、どうなるのでしょうか。

 セグメント情報(p.43)を見ると、バイオディーゼル部門とアブラヤシ部門とに分かれていますが、資産の9割近くがアブラヤシ部門に割り当てられており、社名の変更の通り、アブラヤシ農場が主要な事業となっているようです。ただ、売上は2013年6月期で、たったの53,000豪ドル(約470万円)なので、GPGSのアブラヤシの成長待ちということでしょうか。一方、借金は全部で7,144万豪ドル(約63億円)です。かなり危うく、社運をGPGSの成功に賭けているといえそうです。

 こうして見てみると、このSterling Plantations社の財務諸表はGPGSの財務諸表をほぼそのままでないにしろ、かなり反映していると思っていいのかもしれません。

3. Country Heights Grower Scheme(CHGS)

3.1 CHGS 目論見書

 CHGSは、前の2つに比べて優良です。ただ、後述するように、これにも問題があります。

 CHGSの目論見書のp.38がP/Lです。2007年から利益が出ているようですね。

 2012/6/8付の目論見書なのに、なぜか2010年末までの結果しか見あたりませんが。目論見書をよく読み込むとその事情が書いてあるのかもしれません。

 B/S(p.39)も、2007年から債務超過にはなっていません。

3.2 CHGSの早期打ち切り

 ところが、この「優良スキーム」、マレーシアの新聞The StarのウェブサイトThe Star Onlineによれば、今年(2013)の2月8日に、CHGSに投資ししていた投資家がこのスキームをやめることに同意したということです。創業者のTan Sri Lee Kim Yewがこの投資スキームの終了を提案して、その提案に投資家たちが同意したそうです。

 こちらの2/20付のBusiness Circleの記事は、経緯がよくまとまっているようなので、紹介します。なお、文中のCCMは、Companies Commission of Malaysia(CCM,マレーシア企業委員会?)で、このような投資スキームを監督する官庁のようです。(Wikipediaによると、CCMは企業やビジネスを規制する法的機関とのことです。)

  • 2/8に、投資家はCHGSが早期に終了することに同意した。その際、創業者のLee Kim Yew氏の好意により、12%配当にあたる額を受け取る。この配当は(これから返還される)元本および(すでに分配済みの)2007-2011の配当とは別である。
  • Lee氏は投資スキームの終了から生じるすべての払戻しを6ヶ月以内に行うことを個人に保証した。当初の提案では、払戻期間は2年間だった。
  • 2/14時点での配当支払いができないと認識し、1/17にそのことを通知し、投資スキームの終了を提案した。
  • すべてがうまくいけば(CCMもそうなるように圧力をかけているが)、8月までには投資家の許に資金が戻る。
 経緯は以上ですが、記事は続きます。
  • 今回は幸運だった。ユーロ貯金投資スキームでは、投資家の苦情に基づいて証券委員会が調査に入り、2009年4月28日に、新たな投資勧誘を中止し、顧客に資産を返し、約束した支払いをするように指示した。その後、2013年1月23日に証券委員会は投資スキームに関連した会社8社に対して民事訴訟を起こした。112人の投資家が2,771万リンギ(約6億円)投資したが、そのうちのかなりの部分が払い戻されていない。
  • CHGSの早期償還は他の配当スキームに不安を呼び起こした。CCMに登録され、「保証されて」いるから安心ということにならないからだ。CHGSはCCMに登録されていたが、CCMはアブラヤシプランテーションの知識が不十分だと認めたと報道されている。(この件に関して、Business CircleはCCMから質問に対する回答を得られなかった)
  • CCMのウェブサイトには、実行中の171の投資スキームが登録されている。その中には、レクレーションクラブ、不動産スキーム、時間共有、農園共有、機器共有がある。CHGSがまだ実行中として掲載されており、リストが更新されていないようだ。
 CCMのウェブサイトを探すと、投資スキームの登録されているページがありました。このページで"Interest Scheme Category"として、"SHAREFARMING SCHEME"を選択して、"Apply"をクリックすると、共有農地型の配当スキームが表示されます。全部で10件表示されますが、No.2がGolden Palm、No.3がCHGS、No.9がEast West One Consortiumですね(2013/8/1現在)。まだ、CHGSがまだ実行中(still active)として掲載されているのも変わっていないようです。
  • 興味深いことに、今回の早期終了によって、Golden Palm Growers Scheme(GPGS)など、他の同様な投資スキームの投資家には不安が広がらなかった。このスキームの運営会社の会長Andrew Phang氏は「われわれの投資家はGPGSの運営と持続性について満足している」と語った。
  • Andrew Phang氏によると、GPGSとCHGSには、ビジネスモデルと農地管理に違いがあるという。「CHGSは、アブラヤシの木に実がなるかどうかにかかわらず、外部の指標であるCPO(粗パーム油)価格に基づいて支払いを決めていた。そのため、収入と支払い能力にミスマッチがあった。われわれは売上に基づいて支払うと約束している。」「最終的には、農地の管理をいかにするかにかかっている」

 う~ん、Golden Palmの財務諸表を見た私としては、Andrew Phang運営会社会長の言うことを手放しでは信じられないですが。少なくとも、財務諸表上では、途中で止めるまではCHGSのほうがGolden Palmよりうまく運営されていたようなので。

 Phang会長の話を先ほど見た、GPGSの目論見書の配当の支払いの記述と照合してみましょう。復習すると、確かに、第二期において、配当の支払いに利益が関係する記述はあります。ところが、CPOで決まる値と利益の高い方で、実際の配当が決まってしまうので、CPOが高い状態(>1,500リンギ/t)で、不作などで利益が出ない状態が仮に続いてしまうと、この状態では、高い配当を払い続けるハメになります。すると、無理な配当が続くわけですから、やはりその場合はスキームの打ち切りに追い込まれる可能性は否定できないように思えます。つまり、このような場合には、「収入と支払い能力にミスマッチ」が生じる可能性があり、Phang会長の「われわれは売上に基づいて支払うと約束している」ということばを額面通りには受け取れないと思います

3.3 CHGSに関する報道

 さて、それはともかく、The Star Onlineを検索してみると、CHGSに関連する記事がいろいろ出てきました。
 
 3日前の2/5には、このスキームの終了についてCCMが調査に入って、CHGSの役員と受託者(資産管理会社)に法令遵守をしているかを問いただすとの記事(こちら)がありました。(目論見書p.6によれば、受託者はCIMB Commerce Trustee Berhadとあります)

 この記事では、CCMが、一方で、法規制の下で、新しい商取引をしたり、人々に配当スキームを提供したりするビジネスチャンスを増やすこで、中小企業を後押しをしていくとあります。その際、運営会社、受託者に対するガバナンスを強化するとともに、定期的な事業報告、監査役の選任を課して、投資家の権利を一層保護するようにするようです(CCMのプレスリリース(2013/2/4))。

 3/8には投資した資金の払戻しが始まったという記事がありました。この記事では、CHGSはなくなり、Plentiful Gold Class社がまずは資金の10%を払い戻し、6ヶ月以内に残りの90%を払い戻すとあります。これについては、やはりマレーシアの新聞のサイトNew Straits Timesにも記事があります。

 3/16には”Oil palm interest schemes”(アブラヤシ配当スキーム)と題して、Yap Ming Huiという記者がCHGSの投資スキームが終了したことに関連して、アブラヤシ投資のことを取り上げています。この記事で少しアブラヤシ投資のことがわかったような気になりました。要点を挙げておきます。
 

「CHGSの運営会社が最低保障配当を払うための資金を使い果たしたため、CHGSのスキームがたったの5年で終了したのだから、われわれは保証がどういうときに本当に保証されるのかを問わなくてはならない。」

・なぜ人々がアブラヤシの配当スキームに引きつけられるか。

 1.RM5,000(約15万円)という小口から投資できること
 2.アブラヤシがマレーシア経済の大黒柱であり、人々によく知られており、儲かりそうに思えること
 3.この配当スキームがCCMのもとで登録されて、受託者がきちんと選任されていること
 4.このスキームによる配当が定期預金の利子より高いこと

・CHGSは最初の3年の年8%の配当、次の2年間の年12%の配当を支払った。

・契約によれば、パーム油のの価格が1トン当たり平均RM2,100以上のときには4年後以降、年12%を受け取ることになっていて、パーム油の価格が、トン当たりRM2,300以上のときには問題がなかった。

・しかし、CHGSの経営陣がこの配当率を続けられないと認識し、この投資スキームの終了を提案した。

・CHGSのスキームの創業者であるLee氏はよく知られた実業家であり、信頼があった。

・運営会社のPlentiful Gold-Class社は、失敗した理由として、
 
 1.悪い土壌
 2.急峻な地形
 3.害虫の駆除がうまくいかなかったこと
 4.天候不順

を挙げた。

 う~ん、このうち、土壌と地形はあらかじめわかっていたのではないでしょうか。天候不順ですら、突発的な異常気象でなければ、そこの土地の天候を調べていればわかるわけですし。

その上で、アブラヤシ配当スキームに投資する前に知っておかねばならないこととして

 1.投資期間(その期間に流動性がないこと)
 2.経営者の能力
 3.投資資産の保護

を挙げている。

「今回は会社が配当を払えなくなった段階でスキームの終了を提案して投資家も賛同したので、幸運だった。しかし、もっとひどいことになったかもしれない」

「証券委員会は、契約型投資信託(unit trust)会社を監視しているが、配当スキームの経営陣が(所管の)CCMとデータを共有する義務はないCCMは証券委員会のような厳しい会計監査を要求していない。投資に関する第三者による保証もない」

「上場会社の株主なら、ダメな経営者をクビにできるが、このスキームではできない。契約型投資信託なら、受託者が資産の100%を管理しているが、投資スキームでは必ずしもそうではない

「低リスクを求める場合には、このような投資をすべきでない。経験則としては、投資可能な資産の3%までにとどめるべきであるし、借金をしてまで投資すべきではない」

結論:分散投資は大事だが、このような配当スキームは契約型投資信託(unit trust)のように見えて、そうではない
 

 unit trustというのはあまり聞いたことがないので、Wikipediaで調べてみると、英語のunit trustは日本語の「ユニットトラスト」にリンクされており、そこでは「投資信託の一種」と説明されています。アブラヤシ投資には、投資信託を買ったりするときのような投資家保護はないということのようです。上の記事によると、アブラヤシ投資では、流動性がないこと、情報開示が十分でないこと、会計監査がゆるいこと、資産の分別管理が十分なされていない可能性があることが投資信託との違いであるとのことのようです。

3.4 CHGSに関するあるブログ

 あるブログでは、CHGSをやめるにあたっての説明がおかしいと疑問を投げかけていました(Country Heights Grower Scheme, why the inconsistency?)。CHGSの目論見書のP/Lでは2007年以来利益が出ているのに、CHGSをやめるときには  別の(?)Gua Musang plantation account(グア・ムサン農場の決算結果)を持ちだしてきたということのようです。

 CHGSの目論見書のp.26(”8.Particulars of the Land")によると、CHGSの農場はクラタン州のグア・ムサン(Gua Musang, Kelantan)という場所にあるようですが、このGua Musang plantation accountがグア・ムサン全体の農場の結果なのか、グア・ムサンにある、ある特定の農場の結果なのかはわかりません。ともかく、ブログにあるGua Musang plantation accountのP/Lと言われているものを見ると、
2007-2010まで赤字、2011年にやっと黒字になっています。

 この傾向は、Golden Palm社の場合に近いP/Lかなと思います。このP/Lでもずっと今後黒字が続くのであれば、問題ないような気がしますが、そうでないという判断なのでしょう。ところで、もしGua Musang plantation accountがグア・ムサン地域全体の結果だとしたら、Golden Palm社の結果も不都合のように思えます。なぜなら、調べてみると、Golden Palm社の土地もGua Musangにあるとありますので(目論見書のp.4 ”Land")。(一方で、EWOPSのほうは、Sabah州のRanauというところに土地があるようです(目論見書p.30))。

 個人のブログと思いますので、気をつけて見ないといけないと思いますが、書いてあるとおりだと確かにCHGSの説明はおかしいように思います。

 コメント欄への投稿によると、2ヶ月前には"GENNEVA Gold”スキーム、数年前にはリゾートで放棄されたバンガロールを売るスキームがあったそうです。そして、今回同様失敗に終わったようです。

 (ブログには、もう一つコメントがあって、CHGSの広報からのもので、連絡がほしいというものでした)

4.結論

 いずれにせよ、3つの中で一番うまくいっているはずのCHGSの案件で途中でやめると言い出すのでは、見込みがなさそうです。

 

 公平のため、よい兆しについても書いておきましょう。それは、すでに書いたように、監督官庁のCCMが投資スキーム提供の機会を広げると言っている一方で、運営側の体制のガバナンスを強化し、また、投資家の保護を高める動きがあることです。ただ、こういう規制にはコストがかかるので、(流動性プレミアムは残ると思いますが)どうしても利回りは下がるでしょう。 

 さて、長くなりましたが、結論です。

  1. アブラヤシ投資はCCMに登録されているとはいえ、投資信託並の投資家保護(情報開示、厳しい会計監査など)は現在のところない。将来は改善されそう。
  2. (Golden Palm社の例で見ると)資産分別はそれなりになされているようだが、破綻した場合は必ずしも全額は返ってこなさそう。
  3. 黒字続きでB/Sも他の会社よりいいのに、急に途中でやめる会社が出た(CHGS)のを考えると、二の足を踏まざるを得ない
  4. 資金が数年間固定されるので、その間は気が変わっても資金を他に振り向けられない

 いずれにしろ、投資するなら、目論見書をよく読んで十分納得してからにするのがよいと思います。さらには、目論見書や財務諸表の記載がウソだったといった例は、最近のオリンパスの例を持ち出すまでもなく、過去にたくさんありましたから、そのことにも十分気をつけないといけません。(おかしいな、アブラヤシ投資は利率のいい銀行預金だと思っていたのに...

 さて、どうしますかね。私はパスです(笑)。失敗したと思ってもすぐ逃げられないのが大きいです。バフェットの言葉を思い出しましょう。「投資では、見送りの三振はない

 どうも残念ながら、うまい話はマレーシアにも当然ないようです。

*****

当初投稿(2013/8/1)からの変更箇所


1. Comanies Commission of Malaysiaの登録配当スキーム一覧へのリンクなどを追加しました(2013/8/1)
2. 個人ブログ ”Country Heights Grower Scheme, why the inconsistency?"を引用して議論した部分を書き改めました(2013/8/2)
3. Golden PalmのIPO時の目論見書についても言及しました(2013/8/4)
4. Golden Palmの分別管理された投資家の資金について考察しました(2013/08/05)
5. Golden Palmの配当支払い・買い戻しを考察しました(2013/8/5)
6. 結論を少し長く論じました(2013/8/5)
7. GPGSの現在の監査会社BDOの記述を追加(2013/8/6)
8. Golden Palmの親会社について記述を追加(2013/9/2-9/3)
9. East West One Consortium社の配当スキームEast West One Planters Schemeについて、会社名でなくスキーム名で統一(2013/9/2)