今週末、どこの山域がよさそうかな、と、お天気サイトをいろいろ巡っていると、常念、燕方面がヒット。
 昨年もちょうどこの頃、三股から常念岳と蝶ヶ岳のプチ縦走をやったので、今回は燕岳(2,762m)と大天井岳(2,922m)に行ってきました。
 北アルプス入門の山と言われる燕岳、人気の山だけに混雑がネックとなり今まで敬遠してきましたが、残雪期ならばハイシーズンほどではなかろう、ということで今回初挑戦してきました。

 富山から常念山脈のふもとに向かうには、糸魚川経由にしても松本経由にしても、けっこうな時間がかかります。
 深夜1時半すぎに家を出て北陸道を糸魚川で降り、その後国道をひたすら南下。
 ようやく中房温泉に着いたのは、4時半ちょっと前。
 懸念していた駐車場は、ガラガラ。あれ?
 準備していると空が白んできて、ヘッデンは不要に。
 4時40分、山歩きスタート。
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 確かに、北アルプス3大急登と呼ばれるだけあって、スタートからいきなりの傾斜だが、登山道が素晴らしく整備されているので、馬場島界隈の「ドM直登コース」に比べると、ずいぶん歩きやすい。
 次第に青空が広がり、樹林帯のすきまからは大天井岳の白い山肌がチラリ。
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 それにしても、雪が少ない。
 まあ、樹林帯の中だから余計に少ないのかもしれないが、同じ標高の富山の山ならば、まだ確実に雪が残っているはず。
 標高が2,000mを超えたあたりから、ようやく雪が出てくる。
 日陰はさすがにガリガリデコボコで、ちょっと歩きにくい。
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 4時50分、不死身ベンチ。
 ではなく、富士見ベンチ。
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 6時10分、合戦小屋。
 かの偉大なる征夷大将軍、坂上田村麻呂が、向かいの有明山に住む八面大王というオニを大合戦の末やっつけたのがこの尾根だったことから、合戦尾根と名づけられたそうな。
 へーえ、坂上田村麻呂って、妖怪ハンターもやってたのね。
 まだ営業前、人の気配はなし。
 もちろん、スイカの気配もなし。
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 合戦小屋からは徐々に森林限界となり、見晴らしが良くなってくる。
 雪質はガリガリだが、トレースがしっかりしているので、ゆっくりとツボ足で進む。
 おや?
 大天井行きのコルの向こうに、見覚えのあるトンガリがにょっきりと・・・
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 稜線に出ると、一気に視界が広がる。
 目指す燕岳と、ずっと奥のほうに針ノ木岳、蓮華岳を捉える。
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 そして、高台の上に建つ燕山荘を目視。
 なんだかロケーションが、小さなポタラ宮のよう。
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 7時20分、燕山荘に到着。
 ちなみに、読みは「えんざんそう」です。
 ツバクロと言ってみたり、エンと言ってみたり、なんともこだわりのネーミング。
 山荘とは言うものの、ヨーロッパをイメージさせる、実にモダーンな建物です。
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 ここでちょっと一休み。
 まことに素晴らしい展望です。
 こんな日に、こんなベンチ、きっと何を食べても美味しく感じるはず。
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 例のトンガリ君が、とても近く感じられます。
 ゴールデンウィークには、あちら側に立っていました。
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 そして、目指す燕岳。
 なんとも、ビュー−ーーーティフル!
 もともと色白なのに、ハイマツと残雪の薄化粧でおめかしして、まさに女王さまの風格。
 深田さん、どうしてこの山が百名山でないの?
 その理由を10字以内で述べよ。
 答え:「つい、うっかりして・・・」
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 逢いたかった、イルカ岩。
 実物は、かなりデカイです。
 今まさに、青空という大海原に、飛び出さんが如く。
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 そして今度は、メガネ岩。
 ここら辺、花崗岩でできた自然のオブジェがギャラリーのようにそびえ立っていて、飽きさせない。
 このほかにも、ゴリラやウサギやオットセイ、あとサル、イヌ、キジなど。
 (ごめんなさい、最後の3つはウソです)
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 山頂が迫ってきました。
 この山、遠くから見るとギザギザの岩がいくつもそそり立っているように見えますが、近くで見ると、もろい花崗岩のなめらかで丸みを帯びた表情が確認でき、ああ、やっぱり女王さまなんだなあ、と妙に納得してしまいます。
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 8時5分、燕岳山頂。
 人気の山と聞いていたのに、だーれもいません。
 こうなったら、いつものポーズをやるしかない。
 うおお!
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 やはりどうしても、槍から大キレット、穂高への稜線に目がいってしまう。
 常念岳や蝶ヶ岳から見る角度とはちょっと違うので、キレットが圧縮され、北穂、涸沢岳、奥穂がひとかたまりになって見える。吊尾根と前穂だけはくっきり。
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 視線を西に移すと、双六、三俣蓮華、鷲羽、水晶、野口五郎といった奥黒部の名峰たち。
 裏銀座は、まだまだ雪たっぷり。
 ・・・ていうか、なんであちらが裏で、こちらが表なんだ?
 単に関東からの距離が遠いか近いかで、裏表を決めてないか?
 実にけしからん!
 これからは、シンプルにあちらを「西銀座」、こちらを「東銀座」と呼ぶことを提唱する!
 プンプン!
 (裏日本と呼ばれる地域に住む人間は、日本語の使い方にビンカンなのです)
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 今度は北方面。
 北燕岳や餓鬼岳の向こうに、立山・後立山連峰の山々が驚くほどよく見える。
 浄土山、立山三山から剱岳、針ノ木岳と蓮華岳、ぐるっとまわりこんで爺ヶ岳、その先に小さく鹿島槍ヶ岳、その奥に豆粒のように五竜岳、さらにその奥のシルエットは白馬あたりか。
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 後立山のはるか北東をズームアップすると、雨飾、火打、妙高といった越後の名峰も。
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 南東方面を振り向くと、南アルプスの向こうに、日本一のあの山。
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 気温13℃、ほぼ無風。
 あまりの快適さと展望のよさに、時の経つのも忘れ、しばし悦に入る。
 かれこれ、40分以上も山頂を独り占め。
 それにしても、誰も登ってこない。おかしいなー、人気の山のはずなんだけど・・・
 まあよい。
 8時50分、山頂を辞し、いったん戻って、今度は大天井岳を目指します。
 けっこう遠い、しかも、アップダウンが・・・
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 しばらく進むと、にょっきりあらわれる蛙岩。
 パックリと割れた岩の中を進みます。
 ちなみにこの岩の読み方は、「げえろいわ」。
 げえろ、げえろ。
 聴覚的なイメージですね。
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 そして、大下りの頭。
 せっかく登ってきたのに、100m以上も下ります。
 下るということは、帰路に登り返しがあるということね。
 ああ・・・
 それにしても、大天井岳、デカい山です。
 進んでも、進んでも、ちっとも大きさが変わらず、近付きません。
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 切通岩を過ぎて、ようやくターゲットを射程圏内に捉える。
 付近に、この登山道を拓いた小林喜作さんのレリーフがあるはずなんだけど、見当たらなかった。
 雪に隠れていたのか、残念。
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 11時10分、大天井岳。
 2,922mは、常念山脈の最高峰だそうです。
 ぐへえ、けっこう疲れました。
 ちなみにこの山の読み方は、「おてんしょうだけ」。
 「だいてんじょうだけ」でいいじゃない!
 本当に、大きな天井のような山です、そのまんまですが。
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 山頂からは、燕岳よりもさらに近く、槍・穂高の大展望。
 先ほどよりも見る角度が浅くなったので、北穂・涸沢岳・奥穂の区別がはっきりわかります。
 そして西岳から東鎌尾根、槍へと続くライン、魅力的ですねえ。
 時間さえあれば、ぜひともつなげてみたいです。
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 北鎌尾根。
 他を寄せつけない、なんとも硬派なオーラが、ぷんぷん漂ってます。
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 安曇野の守護神、常念岳。バックには南アルプスと富士山。
 常念からの眺めも、素晴らしいです。
 パッと見、2時間くらいで行けそうですが、帰りが暗くなりそうなので、ガマン。
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 高瀬ダムを取り囲む、烏帽子岳、船窪岳、奥に針ノ木岳。さらに奥には大きな立山と剱岳。
 静かな、コバルトブルーの湖面が美しい。
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 またまた360度の展望で、時の経つのを忘れる。
 あいかわらず山頂独り占めで、静寂の世界。
 日常生活の毒素が抜けていき、魂までもが抜けていきそうな・・・
 いかんいかん、暗くなる前に下山完了しなければ。
 長い長い、帰路のドライブが待っているのだ。
 ありがたい眺めを網膜に焼付け、12時10分、下山開始。
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 途中で、聞き覚えのある「グエ、グエ」という鳴き声が。
 ああ、久しぶりのご対面。
 ついつい、逢いたかったぜー、と熊鈴をジャラジャラいわせて近付くと、ビックリしてハイマツの奥に逃げ込んでしまった。
 あらら、と思ってしばらく待っていると、またもや「グエ、グエ」。
 ゆっくりとこちらに近付いてきます。
 今度は、びっくりさせないからね。
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 個人的には、完全に夏毛になってない、この状態に、いちばん雷鳥らしさを感じてグッときます。
 そして、男なのに赤いアイシャドーで、おしゃれをアピール。
 ライチョウの世界もヒトの世界も、オスには積極性が求められているのです。
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 バシバシ写真を撮らせてもらって、お別れのご挨拶をし、先を進む。
 ああ、ついにきてしまった、大下りの登り返し。
 でも、さっきライチョウさんに元気をもらったので、気合でいきましょう!
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 ヒーヒー言いながら登り返しをクリアし、またもや「げえろ岩」。
 こちらから見ると、なんだか、すごいことになってます。
 アリババの開けゴマか、モーゼの海割りか、はたまたケンシロウの北斗神拳のしわざか。
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 そしてようやく、燕山荘の姿を捉え、ホッとする。
 でも、山荘までの緩やかな登りも、疲れた身にはけっこうキツイ。
 あそこまで戻れば、あとは下るだけです。
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 14時5分、燕山荘へ。
 あふー、喉がカラカラ、2リットル持ってきた水も、あと500ml。
 ここはビールにしたかったが、眠くなりそうなので泣く泣くコーラでガマン。
 ぷはー、うまい。
 やっぱり山では、コカコーラゼロではなく、普通の、砂糖たっぷりのコーラが身にしみます。
 値段も、350円と良心的。山荘のみなさんの対応も非常に明るく親切。
 こりゃ、人気があるわけです。今度は、家族を連れて泊まりに来よう。
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 風雪に耐えて角が取れたのか、人々に撫でられまくって丸くなったのか。
 おそらく、その両方だろう。
 あなたは、あなたのままでいて。
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 14時30分、下山開始。
 さよなら、北アルプスの女王さま。
 たくさんの感動を、ありがとう。
 また、逢いにきます。
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 そして大天井岳に槍さま。
 今日も、素晴らしい展望を、ありがとう。
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 大きな有明山と安曇野のまちを見下ろしながら、残雪の尾根を軽快に下る。
 足スキーでショートカットを繰り返し、合戦小屋もノンストップで通過、15時25分に中房温泉登山口。
 ああ、今日も無事に下山できました。
 山の神様、ありがとうございました。
 さあ、あとは富山までのロング・ドライブをこなすのみ!
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 燕岳、大天井岳、予想以上に静かに楽しむことができました。
 やはり、夏のハイシーズンは激混みだろうけど、連休明けの今頃は、密かに穴場かもしれません。
 残雪歩きの慣れは必要ですが、谷や沢もなく、特段の危険箇所もないので、ゆっくり歩いて山荘で一泊すれば、幅広い年齢層の方が楽しめると思います。もちろん、天候次第の部分もありますが。

 あの素晴らしい眺めを、自分だけのものにするなんて、ゼイタクである。
 もったいない感動を、ともに分かち合いたい。
 
 いつか一緒に、登ろうね。
 
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