2011年05月

2011年05月25日

風のテラス


遠い

あの山の向こうにあるという

風のテラス


紺碧の空に包まれて

木々は囁き

蜜蜂にまで愛されて




誰もいない波間に漂うという

風のテラス


水平線に浮かび

潮に洗われ

トビウオの休む所



いにしえの場所



そこに

椎の木のテーブルと

二脚の真鍮の椅子




風は歌い

微笑み

風は嫉妬し

うつむき

そして通り過ぎる



向き合ったふたりに

椎の木は黙って

テーブルに

一房の葡萄と

恋物語




ひとりが去れば

ひとり訪れ

ふたり去れば

ふたりが訪れる





風のテラスは

湖岸を見下ろし

風のテラスは

水底を見通し


風のテラスは

人を惑わせ

そこには只

椎の木のテーブルと

二脚の真鍮の椅子



雨が降り

陽を浴びて

凍てついて

蘇る所



可笑しくて

悲しくて

悔しくて

恨んでもみた




風のテラスは

誰もが

一度は訪れる



考えるほどに

思いだすほどに

彼方に消える




そこは

風のテラス

幻の忘れ物

恋の記憶





  • このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
sigeru10161 at 05:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 

2011年05月10日

忘却


僕が

亡くなった方々の事に

いくら想いを巡らしても

それは

あっさりとした涙が流れるくらいの

事の軽さなのだ


そう

僕にとっては




それが何千、何万だろうと

単に数字を追いかけていては

確かなものは見えないんじゃないかと

思えた




ただ

ひとつひとつの

丁寧で精密なストーリーを知れば

命の重さはひしひしと伝わり

それは僕にとっても

一つひとつが縁なのだろう




そこで

豆粒ほどの良心に従って

或るヒトを追ってみたが

それはあまりに辛い作業だったので

慈悲のない僕は

やがてそんなことは無駄だろうと自分に嘘をつき

底の浅い心はやがてその意見に同意し

自ら繋がり始めた縁を絶ち切ることとした




悲劇は

なぜなら

足し算ではなく

かけ算でも足りず

二乗で三乗で

のし掛かってくるから

この作業は危険なものとなり

やがて僕は

ものを考えない仕組みをねつ造し

心にバリアを張り巡らした



ヒトを

数の問題にすり替えることで

僕は

生き延びる術を

知るしかないと

そのとき思った




だって

数は単なる数字なんだよと

自分に言い聞かせ

総論で何かを語る自分がいて

生き延びて

一筋の涙で済ませる程度の

ものの軽さ


はて

どれ程の人間なのか



みんなこうして生き延びようとするのかな



誰もホントのことを

丁寧には知ろうとしない方が

しあわせなんだよとも思う



過去は積み重なるが

前を見ることで

一つひとつを忘却の彼方に置き去りにして

そうやって歩いてゆくのか



潔さと理屈と冷酷



過ぎたことなんか忘れちまえ



僕は一体何を目撃したというのか

僕は一体何を考えたというのか



だから

どうしても忘れられないんだ


少女が

荒れ果てたがれきのしんとした静けさに向かって

「お母さんお母さん」って

ずっといつまでもずっと

叫んでいたことを





  • このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック
sigeru10161 at 10:28|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 
最新コメント
月別アーカイブ