満州

2018年02月27日

父の不条理



父は公務員としての職業を全うしたが

それより以前は軍人だった


本当は電気屋をやりたかったと話したことがあるが

叶わなかった


強制的に軍人となって満州へ渡り敗戦


シベリアでの捕虜生活は苦渋の毎日だったと



それより以前はとうぜん父はとても若かったし

将来の夢をいっぱい抱えた少年だったのだろう



父は海辺の村に育った

大きな旅館の息子だった


父の父は旅館の経営はやらず海運業を興した


とても静かないなかでの生活

父はいつも目の前の海で泳いでいたという



戦後2年が過ぎて

父は村でたったひとり生きて帰ってきた

村の人たちは父を冷ややかな目でみた


そして父はふるさとを後にした




しかし晩年になって

父はふるさとの話をよくするようになった

帰りたいともらしたことが幾度かあった


そうかと思えば

あのシベリアに帰りたいと言い出すこともあった

どうしてなぜと問うと

難しそうな表情で苦笑いを浮かべていた



きっと父は

もうなにがなんだかわからなくなっていたのだろう


自らの人生を阻まれた父の不条理を思うと

私はやはりそのよどんだ水底のような心情を察し

深く考え込んでしまうのだ


父は人生という流れの漂流者だった




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sigeru10161 at 15:51|PermalinkComments(0)
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