「自分個人の利益だけをはかろうとする人生戦略を持っていると、他人から非難された時、腹が立つ。自分の評価がおとされて損をすると思うからである。」「みんなの利益をはかろうという戦略を持っていると、人から悪口を言われても、それを自分に対する評価とは受け取らない。みんなの役に立つと思ってやっていたことが、実は役に立っていなかったという事実をあげられたわけだから、そういうこともやって、もっと役に立つようにしようという気になる。」
財務省の財政制度等審議会の分科会はこの4月13日、社会保障についての議論を行なったというので、財務省のウェブサイトを検索してみると、令和4年4月13日付で「提出資料」が上がっていました。ダウンロード可能です。
社会保証費の給付と財源の構造、あるいは給付と負担の構造、その問題に触れた上で、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革が急務であると解決の方向を提案しています。そして、介護保険制度については、これまでも議論になり、まだ実現していない利用者負担の原則2割化やケアマネジメントへの利用者負担導入など、負担増を求めるほか、「業務効率化と経営の大規模化・協働化」を提案しています。具体的にどんな議論がされたのか、これからどこに向かうのか知る術がありませんが、実際の介護施設の生産性向上を追求してきた立場として、「業務効率化と経営の大規模化・協働化」とは具体的にどのようなものか、みてみたいと思います。
「業務の効率化と経営の大規模化・協働化 ①」には、「介護の質の低下を招くことなく、むしろ質の向上を図りながら、介護現場の業務負担軽減と人員配置の効率化を実現するには、①ロボット・AI・ICTなどの実用化の推進、②タスクシフティング、シニア人材の活用推進、③文書量削減など組織マネジメント改革などの業務効率化を進めていく必要がある。」と業務の効率化を進めるとともに、経営の大規模化・協働化を図るべきであると言っています。
筆者らは、施設介護における、一人当たりの付加価値(稼ぎ)の向上に寄与する方法、すなわち生産性の向上の方法を追求してきましたので、「業務の効率化」とは、そういう生産性の向上を目指したものであって欲しいと思いました。それはどういうことか。一人あたり10分/日の効率化がされても、その成果の合計が一人の削減に繋がらなければ、経営上の成果にはつながりません。介護品質を落とさず、介護職員の負担を増やすことなく、少ない人数で業務が回るようにすることが必要であるということです。ロボット・AI・ICTは経営の手段であり、生産性向上を目指す施設マネジメントができて、初めて生かされる手段になります。ロボット・AI・ICTを活かせると思えば、経営者はそのための先行投資をするでしょう。しかし、自信がなければ、そういう動きはしないと思います。
これまでも言ってきたことですが、生産性とは、サービス提供による稼ぎを介護スタッフの人数で割ったものです。これが一人当たりの稼ぎです。これを増やせば、利益も上がり、介護職員の報酬を引き上げ、ロボット導入の先行投資の財源にもなります。
しかし、なぜ、このような努力が進まないのでしょうか?筆者はその原因の一つに、介護サービスの対価を「人員配置」で説明しなければならないことが影響していると考えています。一番わかりやすい「特定施設」で説明しますが、「上乗せサービス」は、施設にとっては収入増をもたらし、利用者にとっては手厚い介護サービスが提供されるWin-Winをもたらすサービスとなるはずです。一方、「上乗せサービス」は、「指定基準の3:1より介護・看護職員の手あつい体制」に対して、別途上乗せの料金徴収が許されています。このことから、施設の収入増が期待できるものの、介護職員を減らして、一人当たり付加価値(稼ぎ)を向上させることはできません。上乗せの料金徴収が許される条件を満たすには、「2.5:1」などの人員配置を説明した以上、それを守って行くしかないのです。であれば、経営サイドから人を減らす努力をしようということにはなりません。
実際に、両親のためにどの有料老人ホームを選ぶか検討したことがある私の友人たちは、安心の介護を選ぶために「手厚い人員配置」があるか否かを基準にしたと言っています。お客様までそう言う認識が浸透していれば、尚更、生産性向上の努力は期待できそうにありません。本来、一人ひとりにお約束したケアプランがきちんと実施されることをもって、狙いの品質が実現し、利用者が満足するはずです。その上でコストを減らす努力をしてきたのが民間企業です。しかし、そういう一般企業の考え方は通用しません。それがこの業界なのではないでしょうか?
筆者も、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革は待ったなしだと考えます。だからこそ、事業者が生産性向上に取り組む、内発的な動機づけが必要になると言いたいのです。外から与えられたインセンティブ(例えば補助金)は、財源がなくなれば、努力も終わります。少ない人数でも良いサービスを提供できる。それを信じて努力ができるという、民間企業に存在した動機づけが必要です。弊社は「少ない人数で良いサービスを提供できる」ようにするマネジメントのシステムを提供していますので、そのような動機を阻む規制については、心から緩和を進めて欲しいと願っています。
更に「業務の効率化と経営の大規模化・協働化 ②」には、「そもそも、介護保険制度は、行政がサービスを提供する従来の措置制度ではなく、利用者が介護サービス事業者を選択することを基本として、多様な事業者が利用者と相対して契約を締結し、これに基づいてサービスを提供する制度として導入された。限られた財源の下で、事業者間の競争が生じ、その結果として、サービスの質の向上や事業の効率化が進むことが期待されていた。」とあります。その通りだと思います。ちょうど介護保険法が施行された頃から、介護施設に関わった筆者も、民間の活力を生かすという狙いには、大いに心を動かされました。
しかし、「業務の効率化と経営の大規模化・協働化 ②」には、続けて「現状は、営利法人を含めた幅広い主体の参入こそ進んだものの、先に述べたとおり介護サービスの経営主体は小規模な法人が多く、競争が必ずしもサービスの質の向上につながっているとも言い切れないうえ、業務の効率化も不十分と言わざるを得ない。」
これは残念なことです。しかし、小規模な法人が多くなった原因はどこにあるのでしょうか?うまく行っていないのはなぜでしょうか?どうしたら、民間の活力を活かせるのかという視点を持って、私たちは粘り強く戦ってきたでしょうか?「事業者間の競争」とは、直接叩き合うことではなく、「サービスの質の向上や事業の効率化」の努力をすれば、それに見合った収入や利益が期待できるという意味の競争です。そういう内発的な動機を生かさない限り、民間活力を生かすことはできないのではないかというのが筆者の考えです。一方、現実には様々な規制ばかりで、報告や説明のための事務処理はますます増えています。
最後に、大規模化による「規模の経済」の利益は大きいという点にも賛同します。最適な仕事の配分によって生産性を向上させようと取り組んできた筆者らは、規模の経済がもたらすメリットの大きさも十分に感じています。しかし、それを現実に生かすためには、施設のマネジメントに携わる人たちが、自施設の経営に、規模の経済をどのように活かして行くのかという戦略を定めて初めて、そのメリットを享受することができます。
この議論がもっと深まることを祈ります。
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