私は一人ぼっちだ。

 かつてのチームメイトは呟いた。

「ぼっちじゃないよー」と。

 しかしそれはもう随分と昔の話だ。

 豊音は熊倉先生と共にどこかへ行ってしまった。どうやらプロを目指すらしい。

 エイちゃんは母国に帰ってしまった。あっちの大学で何か勉強したいことがあるらしい。

 卒業式の日以来、二人は見ていない。

 シロが推薦で大学に入り、私と塞は一般でシロを追った。

 腐れ縁があったのもまあここまでで、シロは実業団のチームに。塞は地元の企業に就職した。

 私は逆に、みんなと離れたかった。私だけいつも蚊帳の外だからだ。

 私はいつもくっついていく側の人間だ。

 誰もくっついては来ない。

 いつだってそうだった。

 塞に連れられてシロと出会って。私はいつも二人の後ろをくっついていくだけだった。

 それだけが楽しかった。

 でも

 そんな人生に疲れてしまったのだ。

 新しい自分になろうと都内の企業に就職した。

 わりと大手で、給料もいいけれど、残業はあるし、都会は空気が汚いし、なにより宮守にあったような自然は全くない。

 人がいっぱいで気が滅入る。

 インハイ、インカレと東京に来たことはあったが、いざ住むとなるとここまできついものだとは知る由もなかった。

 それでも最近は慣れてきた。

 住めば都とは言ったもんで、人間というのは案外順応性が高いもんなんだなぁってね。


 残業を終え、駅から自宅までの帰り道にあるコンビニでビールと少しのつまみを買って帰る。

 もうどれだけ同じ日々を過ごしただろうか。

 私が今ここで居なくなったとしても、どうせ世界は昨日と変わらず回るんだろうな、とか。

 夕立で濡れたアスファルトから埃っぽいにおいが混じる。

 最近までこの時間でも暑かったのに、若干涼しい風が両方を通り抜ける。

 
 アパートについてポストを確かめると何通か手紙が入っていた。

「どうせ広告でしょ……」

 全部取り出し、捨てるために部屋に持ち帰る。

 辺りが静寂に包まれているため、階段を登る足音が物悲しく壁に反射する。


「ただいまぁー……っていっても誰もいないんだけどね」

 机に買ってきたビールとビーフジャーキーと、先ほど取り出してきた手紙達を置いてベッドに背中から倒れる。

 ふと目を閉じると、コオロギの鳴き声が耳の奥に聴こえてくる。

「こういうのは国内にいればあんま変わらないか。ま、日本から出たこともないけどさ」

 シャワーを浴びてから寝ようと思い、鉛のように重い体を起こす。

 すると机に広げた手紙の中に見知らぬものが入っていることに気づいた、

「え?エアメール!?」

 手に取り確認すると、そこには見知った名前が書いてあった。

「エイスリン……ウィッシュアート……エイちゃん!?」

 よくよく見ると、シロと塞と豊音の手紙もあった。

「どういう風の吹き回し?」


 誰のから読もうか迷ったが、こういうときは一番マシそうな塞のから読むのが定跡だ。

『胡桃へ。たぶん胡桃のことだから私のから読んでると思うから、後のことは言わないでおきます』

「バレてるし」

『たぶん、いや、シロがちゃんと出していれば他のみんなの手紙が届いていると思うので、白望→エイスリン→豊音の順で読んでね☆』

「いい年して☆とか、きっついなー」


 塞の手紙にあったとおりシロの手紙から読んでみる。

ハッピー

「ハッピー?」

『手紙とか書くのだるいから手短にしとくけど、元気?』

「それだけ?まあシロらしいっちゃシロらしいか」


 次にエイちゃんの手紙を読んでみる。

Birthday

「誕生日?」

『マタアウヒマデ』

「電報みたいだけど日本語書けるようになったんだ。カタカナだけど」


 最後に豊音のを読む。

dear 胡桃

「え、これって……」

お誕生日おめでとう!』

「あっ……」

 そうだ、忘れてた。今日は私の誕生日だ。

『胡桃のことだから、自分の誕生日忘れてるんじゃないかって思って、みんなでお手紙書いたよ。
 
 卒業から十年経ったね。今度五人で同窓会やるから絶対来てね』

「そんなの……そんなのlineでいいじゃん。あっ、豊音はスマホ持ってないんだっけ……もう!」

 ひとりぼっちだって思ってたのは私だけだったんだ。

 勝手に殻に閉じ籠ってた。

 みんなはその殻を割ろうとしてくれてて、それさえ気づかないなんて……

私って、やっぱダメだなぁ

 涙を零さないようにと顔を上げると、さっきまで真っ暗だった雲の切れ間から、いつもより丸く、いつもよりも大きな月が輝いていた。

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あとがき
 胡桃たんイェイ~♪
 出先で思いついて、これは今日中に仕上げねば!という思いで書きました。
 あの夏から10年、彼女たちがどんな生活を送ったのか、そういうのを考えるだけでもうね。
 そういえば、絶対優勝宮守勢として、初めて宮守ものですね。やっぱ同人誌の攻撃力にはかなわねぇなぁ。
 そんな限界を知ったのでした。では、また次回