田村哲太郎のインドネシア経済・株ブログ

データの記載には人並みの注意を払っているつもりですが、一人で書いておりますし、人間のすることですから、間違いが全くないというわけはないと思います。間違いにお気づきになられた方は、 tamuratetsutaro@gmail.com にご一報いただければ幸甚に存じます。 なお、投資は自己責任でお願いします。当方では、当ブログの記載に基づくいかなる責任も負うことができません。

2013年08月

インドネシア中央銀行は、829日、ベンチマーク金利を0.5%引き上げて7%にしました。

 

同行によるベンチマーク金利引き上げは、今年に入ってから3回目です。

 

同行は、燃料補助金削減に伴う燃料価格高騰から生じるインフレに先手を打つべく、今年5月までは5.75%であったベンチマーク金利を7月までに6.5%まで2段階で引き上げてきましたが、7月のインフレ率が8.61%と過去4年間の最高値を記録したため、インフレ抑止とルピア防衛の観点から更なる金利引き上げに踏み切ったものです。

 

826日のこのブログでご紹介した「4つの政策パッケージ」は、ルピアの防衛やインフレ抑止に大した効き目はなさそうだと市場から見くびられたのか、株価は反応しませんでしたが、829日の金利引き上げには市場は好感を示し、株価は上昇しました。

 

米国では、金融引き締め、というか超緩和からの正常化のうわさが流れただけで株価が下がるのに、インドネシアでは金利を引き上げると株価が上がるとは、ややこしい現実ですね。

 

 インドネシアのみならず、これまで急上昇を続けてきたタイやフィリピンの東南アジア株式は、目下、歴史的な下げに見舞われています。

 

829日のジャカルタ・グローブ紙によると、東南アジア株式のパフォーマンスの指標であるMSCI Southeast Asia Index8月の値は、世界の株価の指標である MSCI All-Country World Index の値を9.1%下回りました。この9.1%というギャップは、20014月以来最大のギャップだそうで、世界平均とのギャップで見る限り、東南アジア株は12年ぶりの大幅な下げということになります。

 

この下げに関して、同紙は複数の相異なる見解や対応を伝えています。

 

まず、インドネシアとタイの年金基金は、今が仕込み時とばかりに株式保有を拡大しているそうです。

 

この動きに対して、ソシエテ・ジェネラルの関係者は、

「買うのはまだ早すぎる。」

「投資家たちは、まず株を売って金を掴み取り、その後で売りの理由を考えるクセがある。」

「当社は、当面、株式市場に近づかない。」

とコメントしています。

 

シンガポールを拠点とする銀行関係者は、

1995年以降のMSCIのデータによれば、我々は8回のベア・マーケットを経験してきたが、その8回の下げの期間の平均は、298日(暦日)であった。今回の下げは、始まってからまだ3ヶ月である。まだ買うべきではない。」

と述べたとのことです。

 

政府の年金基金で株の買い出動に着手したタイのKittiratt Na-Ranong財務大臣は、次のように述べたとのことです。

「買いに着手するのは、通りに血が残っている時がベストだ。」

「現在の株価調整は、タイをはじめとする東南アジア株の買いに良い機会だ。」

 

過去3年間、他のファンドに比較してずば抜けて好成績を残してきたSamsung Asean Equity FundAlan Richardson氏は、

「株価の底で買いを入れようと試みるのは危ないんじゃないか。そんなことはめったに成功しない。wait-and-see approachを採るのが賢明だと思う。」

と述べたとのことです。

 

http://www.thejakartaglobe.com/business/thai-to-indonesia-stocks-falling-most-since-2001/

 

このような報道で注意しないといけないのは、投資を職業としている人々の多くは、勤務先との間で守秘義務を負っており、勤務先(投資元)の内部情報を漏洩すれば、単にクビになるだけでなく、守秘義務契約違反で損害賠償を請求されることになるという点です。

 

ですから、そのような人たちが、「買いの好機だ」とか「まだ早すぎる」とか言ったとしても、それをそのまま信用するのは危険です。

 

他方、タイの財務大臣のコメントは、守秘義務とは関係が薄いと思われます。なぜなら、同国の年金基金が買い出動していることは公知の事実ですから、隠す必要がありません。そのかわり、買いをあおれば得する立場にありますから、ポジション・トークに気をつける必要があります。

 

誰かが言っていたwait-and-see approachとかは、まさかそのままずっとwait-and-see を決め込んでいるはずはなく、どこかの時点で動き出すわけですが(そうしないと永遠にお金が儲けられません)、それが何時なのか、どう動くのか、は不明です。

 

さて、私は、というと、だいぶ前に申しあげたとおり、余裕資金は全て投資してしまってありますから、買い出動したくても出来ない立場にあり、いわば強いられたwait-and-see approachを採るほかないのが現状です。

 

ただ、お気付きでしょうが、「買いだ」、「いや静観だ」という人々はいても、「売りだ」という人はいません。私も、どんなに相場が下がっても、売るつもりは少しもありません。売るのは十分に値上がりしたとき、です。

826日のジャカルタ・グローブ紙によると、コモディティ価格の下落で、2013年上半期のインドフードの決算は伸びが抑え込まれたとのことです。

 

同社の2013年上半期決算では、売上高が前年同期比9.3%増の26.9兆ルピア(約2500億円)、純利益が同1.2%増の1.7兆ルピア(約150億円)にとどまりました。

 

増収増益だからいいじゃない、とも言えますが、世界最大のヌードル・メーカーとして、毎年大きな成長を遂げてきた同社にしては、残念な数字です。

 

同社の小売食品部門の売上は12%伸び、小麦粉部門の売上は17.8%の伸び、流通部門の売上は15.5%の伸び、といずれも悪い数字ではないのですが、世界的なコモディティ価格の下落によって農産品部門の売上が激減した結果、このような決算となったようです。

 

http://www.thejakartaglobe.com/business/falling-commodity-prices-hurt-indofood-with-more-tough-times-ahead/

 

ほんの数年前までは、コモディティ価格が天井知らずに上昇していく状況が永遠に継続するかに思えたのに、やはり諸行無常は不変の真理、下がるときは下がるものですね。

 

とはいえ、上がったものはいつか下がるのが真理であれば、下がったものはいつか上がるのもまた真理。問題はそれがいつなのか、ということなのですが、それが不可知なのもまた真理。やれやれ。

823日の記事で、インドネシア政府が発表した新政策について、ジャカルタ・グローブ紙の記事に記載されていたのは、「関税の税率を高めることによって、高級な輸入車や燃料の輸入を減らすこと、農業と鉱業に関する投資を促進するために税制上のインセンティブを新たに導入することくらい」でした。(8月23日の当ブログご参照)
 

 

しかし、826日の同紙の記事を見ると、政府が発表した新政策は、4つの政策パッケージからできていることが記載されています。

 

1のパッケージは、経常収支赤字を縮小させ、ルピアを防衛するための政策であり、労働集約型輸出産業に対する免税措置、燃料輸入を減らすためにバイオ燃料の構成比を拡大すること、高級自動車への課税を強化し、鉱産物輸出の許可枠を広げること、です。

 

2のパッケージは、輸出を拡大し、購買力を維持するための政策であり、労働集約型産業への追加的減税措置と牛肉と園芸作物に対する輸入枠の撤廃、です。

 

3のパッケージは、投資を増大させるための政策であり、投資許認可に関する手続円滑化、「ネガティブ投資リスト」を投資家に有利に見直すこと、パームオイル、ココア、籐、金属、ボーキサイト、ニッケル、銅に関する生産促進のための税制面でのインセンティブ、です。

 

4のパッケージは、金融分野の安定化とルピア値上がりのための政策であり、外国為替のための中央銀行による流動性増大、株式買戻しに関する金融庁の規制緩和、です。

 

http://www.thejakartaglobe.com/business/indonesia-not-in-crisis-level-as-conditions-havent-deteriorated/

 

4つのパッケージと言っても、相互によく似た政策目的や相互によく似た政策が雑然と列挙されているように見えます。何か、とってつけた「間に合わせ的」なものを感じるのは私だけでしょうか。

 

新政策は関税政策や貿易許認可枠に言及していますが、無数の島々からなる群島国家のインドネシアにおいて、関税政策や貿易許認可枠に実効性があるかどうか極めて疑問です。ある島に持ち込まれるものが国内の他の島から来たものか、外国から来たものかを区別することなど実際上は極めて困難でしょう。仮に区別できたとしても、こっそり持ち込むことは簡単でしょうし、区別できなければ、輸入関税は名目的なものとなり、事実上の「自由貿易」が既に実現されてしまっていることになります。

 

投資に関する許認可手続の簡素化などは実効性が期待できます。しかし、これなどは、市場が混乱する前から、さっさと着手しているべき課題であり、インドネシア株に投資しているものとしては、「分かっているなら早くやってよ」といいたくなる気がします。

 

以上、いろいろケチはつけましたが、燃料補助金削減を6月に実現してくれたので、私としては、全て良し、ということにさせていただきます。

 

インドネシア政府は、823日、輸入を減少させ、投資を促進するための新政策を発表しました。

 

この日、ジャカルタ・グローブ紙に掲載されたロイターの記事には、公表された新政策の詳細は記載されていません。

 

記載されているのは、関税の税率を高めることによって、高級な輸入車や燃料の輸入を減らすこと、農業と鉱業に関する投資を促進するために税制上のインセンティブを新たに導入することくらいです。

 

http://www.thejakartaglobe.com/business/indonesia-announces-moves-to-reduce-imports-lift-investment/

 

仮に、新政策の中身が、上に記載された事項にとどまるとすれば、この程度のことで、経常収支等に大きな変動がもたらされるのかどうか、私には疑問です。ルピアや株価が下落しているので、何か対策を打ち出さないと政府として格好がつかないと考えたのかもしれませんが、燃料補助金の削減という正攻法の一大改革を既に成し遂げたのですから、一時的な市場の混乱は無視しておいても良いような気がします。

 

燃料補助金削減によって燃料価格は大幅に上昇したのですから、燃料の輸入には減少圧力が既にかかり始めているはずです。

 

インフレ対策で引き上げた金利は、ルピア防衛に有利に作用するはずです。

 

現在の外為市場や株式市場の混乱は、ほうっておいたらそのうち治ってしまう風邪みたいなものでしょう。下手に薬を飲むと、薬の副作用の方が体に毒になる場合があるかもしれません。

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