田村哲太郎のインドネシア経済・株ブログ

データの記載には人並みの注意を払っているつもりですが、一人で書いておりますし、人間のすることですから、間違いが全くないというわけはないと思います。間違いにお気づきになられた方は、 tamuratetsutaro@gmail.com にご一報いただければ幸甚に存じます。 なお、投資は自己責任でお願いします。当方では、当ブログの記載に基づくいかなる責任も負うことができません。

2013年11月

1127日のジャカルタ・グローブ紙は、2013年第4四半期のインドネシアの経済成長が、前年同期比で5%となろうというユドヨノ大統領のコメントを伝えています。

 

このコメントには、「もしも、米国のFRBが経済緩和策のテイパリング(撤退作戦)を開始した場合には」という条件がついていますが、テイパリングが開始されるとすれば、どんなに早くても第4四半期終盤の12月中旬のFRB会合以降であり、実質的に第4四半期の成長にはほとんど影響しないはずです。

 

つまり、テイパリング開始があろうがなかろうが、5%という数字はほとんど動かないものと思われます。

 

このコメントに続いて、同大統領は、「米国はテイパリングの決断をするだろう。そうなれば、経済はスローダウンする。ルピアは安くなり、海外資本はインドネシアから逃げていく。」と述べています。

 

http://www.thejakartaglobe.com/business/indonesias-q4-gdp-growth-to-be-lowest-in-4-years-sby/

 

これらのコメントからは、「悪いのは米国だから、どうしようもない、文句言わないでね。」とでもいうような無責任なニュアンスが感じられます。

 

任期が残り少なくなり、レイムダック化してやる気をなくしているのでしょうが、痩せても枯れても東南アジア第一の大国の大統領なのですから、もうちょっと何とか責任感を持った発言が出来ないのか、と感じてしまいます。

 

私の個人的な事情を述べれば、インドネシア人ではないものの、インドネシア株に投資していますので、インドネシア経済とは一心同体です。インドネシア政府には常に前向きな気持ちで政策課題に果敢に取り組んでもらわないと困ります。

 

聞くところによりますと、世界第一の大国であるオバマ大統領は、ついこの前再選されたばかりというのに、すでにすっかりやる気をなくし、政権がレイムダック化していると批判されているようです。

 

大国にはそれなりに政策課題も多く、民主的に課題を解決しようとすると、何をやろうとしても強力に抗議する勢力が次から次に沸きあがってきて疲れてしまうのは分かりますが、そういう状況の中で課題を解決していくのがリーダーの勤めであり、自らリーダーの道を選んだ以上、米国の国鳥である白頭鷲やインドネシアの国鳥であるガルーダのように、政権最期の1日まで、向かい風をものともせずに羽ばたいて貰いたいものです。

 

インドネシアについて言えば、遅かれ早かれ米国がテイパリングをはじめることは、ずっと前から分かっていたことです。テイパリングのせいで経済成長が低下しないように、金融政策や財政政策を総動員すべきでしょう。5%とは、潜在力に満ちたインドネシアにとって、余りに情けない数字です。

 

本日は日頃と毛色の異なる話題を少し。

 

日本のメディアではあまり報じられていないようですが、インドネシアでは、最近、ユドヨノ大統領の電話がオーストラリアの情報機関によって盗聴されていた問題が国内を揺るがしています。

 

豪州からはインドネシアに牛肉等が輸出されていますが、愛国的インドネシア人の中には、豪州からの牛肉輸入を停止せよ、と叫ぶ者もいて、デモ行進が行われたりしているようです。

 

CIAに盗聴されたドイツのメルケル首相は、ずいぶんお怒りのようで、オバマ大統領に「どういうことなの、はっきり説明してよ」とねじ込んだりしていますが、ユドヨノ大統領は、大人の対応に終始していて、「まあ、こういう問題は感情的にならず、理性的に対処しましょう」と、国内の愛国派を静めようと努めています。

 

この話がこれだけで終わると、「さすがユドヨノは器量が大きいね」でお仕舞いなのですが、1126日のジャカルタ・グローブ紙は、CIAの盗聴を世間に公表した例のスノーデン氏(敬称の「氏」をつけるべきか悩みましたが、答えが分からないので、念のためにつけておきます)のリーク情報として、インドネシアのみならず、アジア地域の政府要人等に関する情報収集において、シンガポールと韓国が、米国と豪州の手先となって活動していたと報じています。

 

インドネシアの国際的な情報通信は、ほとんどの場合、シンガポールを経由する海底ケーブルを使用して行われます。シンガポールの情報機関は、この通信ケーブルから情報を取得し、米国、豪州に提供していたようなのです。

 

同様に、韓国は、自国を経由する通信ケーブルを通じて、中国、香港、台湾等の情報を取得し、米国、豪州に提供していたようです。

 

ユドヨノ大統領は、インドネシアの外相を通じてシンガポールと韓国のインドネシア駐在大使を呼びつけ、この盗聴問題に関する調査を行っているとのことです。

 

さて、この報道で一番得をしたのが豪州です。それまでは盗聴問題における唯一の悪玉であったのが、他にも仲間がいるということが明らかになって、インドネシア愛国者たちからの反発が和らいできたようなのです。

 

日本の食品偽装問題では、最初に偽装が判明した阪急阪神ホテルズは、他に無数のお仲間がいることが分かっても、相当の社会的非難を浴び続けましたが、これは記者会見したホテルの社長があまりに謝罪が下手で、世間の反感を買ってしまったからでした。

 

そこへいくと、豪州のアボット首相は演技力が相当上でした。明確な謝罪をすると豪州の代表として国の権威を傷つけるので、豪州の体面を保ちつつも、「今後はこういうことはいたしません」とギリギリのお詫びをして、事態を収めようとしました。何より、新聞に掲載されたアボット首相の顔写真が、誠実に遺憾の意を表現しているように見えました。言葉で言わず、表情で謝罪したのです。ユドヨノ大統領に対しては、内容は公表されていませんが、親書を送って関係改善を要請しました。

 

http://www.thejakartaglobe.com/news/indonesia-australia-rift-closer-to-exit-as-singapore-s-korea-enter-spy-scandal/

 

ユドヨノ大統領してみれば、「まあ、この件は、こんなところかな。豪州には貸しができたことだし。」と思ったのではないでしょうか。

 

CIAをはじめとする情報機関が友好国を含む各国元首の通信を傍受している可能性があることくらい、常識のある政治家なら分かっているはずです。ドイツのメルケル首相は、隣同士で盗聴しあっていた東ドイツの出身なのですから、本気でオバマ大統領に抗議したとは考えにくいです。単に「貸し」を大きくするために騒いでいたのではないでしょうか。もしも、本気で憤慨していたとすれば、平和ボケしていたということになります。

 

そもそも、ドイツの情報機関はホワイトハウスを盗聴していないのでしょうか。メルケル首相が大騒ぎをしたのは、「自分はやってない」と周囲に思わせるためであったかもしれません。インドネシアの情報機関だって、アボット首相を盗聴しているかもしれません。

 

夫婦の間でも相手の携帯電話のチェックをするようなカップルが珍しくないのですから、他国の情報機関が盗聴したくらいで騒ぐのは白々しいという気がします。盗聴されたくなければ、高度に暗号化された通信手段を使えばよいのです。
 

 

1116日のジャカルタ・グローブ紙は、インドネシアのボエディオノ副大統領のコメントとして、同国政府が、住宅建設を政策の最優先課題に掲げていることを報道しています。

 

インドネシアでは、少なくとも1500万軒以上の住宅が不足しており、これに対応するために、「住宅基金法案」が目下、政府から議会に提出されています。

同法案が可決されれば、勤労者の給与の2.5%を政府が天引し、これにこの金額と同額の政府拠出金を加えて住宅基金に積み立て、この基金を活用して国民の住宅建設を促進することになります。

 

この法案が2014年に立法化されれば、インドネシアは、1350万軒の住宅と100棟のアパートを20年間で建設するという2600兆ルピア(約23兆円)の大計画に着手できると政府高官は述べています。

 

しかし、他方で、住宅価格は1年間で13.5%も上昇しており、この上昇を抑える措置を講じないと、低所得者階層が住宅を取得することはいつまでたっても困難なままである、という意見を述べる人もいます。

 

http://www.thejakartaglobe.com/news/housing-for-all-a-key-priority-boediono/

 

国の最優先課題という割に20年計画とは、私から見れば、誠に気長な話です。

 

20年計画ということになれば、住宅建設に関係する企業は、長期にわたって収入を保証されるわけですが、国民は、20年間もノンビリ待ってくれるのでしょうか。

 

11月20日のこのブログでは、インドネシア中央銀行が採用した新たな融資規制によって、インドネシアの不動産デベロッパーが苦境にさらされている、という記事をご紹介しましたが、これとは打って変わり、1121日のジャカルタ・グローブ紙は、世界有数の格付け会社が、インドネシアの大規模不動産開発会社の経営は、経営環境の悪化にもかかわらず安泰である、との見通しを立てていると報じています。

 

格付け会社フィッチ・レイティングズは、20日に出した声明で、次のように述べています。

 

「大規模、低コスト、高品質な土地在庫を抱えている住宅開発会社は、有利な位置にある。」

 

「ショッピングモール、ホテル、病院等から賃料等の定期収入が入っていくる不動産開発会社は、開発のペースが停滞しても、キャッシュは増大する。」

 

「フィッチ・レイティングの見解では、インドネシアの不動産開発会社であるリッポ・カラワチ(Lippo Karawaci)、カワサン・インダストリ・ジャバベカ(Kawasan Industri Jababeka)、アラム・ステラ(Aram Sutera Realty)の3社は、賃料等の定期収入が安定している。」

 

リッポ社は12のショッピングモール、8つのホテル、14の病院を所有、運用しています。

 

カワサン社は、国有電力会社の発電所を運営しています。

 

アラム社は、多数のショッピングモールを有し、バリ島ではガルーダ・ウイスヌ・ケンカナ・セントラル・パークを運営しています。

 

同様に、格付け会社のムーディーズは、次のように述べています。

 

「我々が注目しているリッポ社やアラム社のような会社は、2014年も安定した格付けを保持するであろう。」

 

11月20日のこのブログでご説明したような状況により、インドネシア不動産協会(REI)は、インドネシア不動産業界の売上高は、2013年の16%の増加に対して、2014年は10%しか増加しないと見ています。

 

他方で、インドネシアの人口の約半分である1.3億人は、30歳以下の世代であり、彼らの多くは、近い将来に1軒目の住宅を取得することになるのですから、年によって多少の変動はあっても、長期的には不動産会社の売上は伸びていくはず、という社会的背景も、格付け会社によるこのような見解の裏側にあるようです。

http://www.thejakartaglobe.com/business/raters-upbeat-on-developers-2014/ 

1120日のジャカルタ・グローブ紙は、インドネシア中央銀行が打ち出した新政策によって、インドネシアの住宅開発企業が苦境に陥っているという現状を報道しています。

 

インドネシア中央銀行がベンチマーク金利を引き上げたことは、11月13日のこのブログでも取り上げました。

10月25日の記事では、同行が、住宅に対する投機的取引を抑制するために、2軒目以降に取得する住宅を対象に、頭金を4割以上とする規制を実施したことを記載しています。

 

この金利引き上げと頭金規制によって、住宅購入者の資金繰りが悪化しています。

住宅開発企業は、通常、住宅建設に着手した後、その竣工を待たずに住宅を販売し、そこで得た資金をもとに住宅を竣工させます。住宅購入者が住宅建設資金を入手しにくくなれば、住宅開発企業も仕事を前に進めることが困難になります。

 

そこで、デベロッパーの協会(REI)では、住宅を必要としている多くのインドネシア人のために、政府はデベロッパーに対して補助金を提供し、その補助金によって住宅建設を促進する仕組みを構築すべきだと述べています。

 

http://www.thejakartaglobe.com/business/indonesian-property-developers-ask-for-state-help/

 

しかし、これは、よく考えると説得力の乏しい話です。頭金規制が課せられるのは、2軒目以降の住宅購入者に関してであり、1軒目の住宅取得には規制はないのですから、投機以外の実需で住宅を必要としている人にとっては、頭金規制は邪魔になりません。

 

金利引き上げは、1軒目の住宅取得者にとっても負担になるでしょうが、現状のインフレ率を見る限りは、過度な引き上げとも思われません。

 

結局、インドネシア中央銀行の今回の規制によって抑制される住宅建設は、投機目的のものがほとんどでしょうから、不動産バブルを防止するという意味では、理にかなっています。

 

ことによると、インドネシアでは、不動産バブルが破裂したときの不動産開発事業者に対する大きな打撃が、過去に経験されていないから、REIもこのような無理筋の要求をするのかもしれません。

 

確かに、バブル抑制規制等によってインドネシアの不動産開発企業の株価は大きく下落しています。私自身もそのうちのいくつかの会社に投資しているので、資産が大きく目減りして不満ではあります。

 

しかし、バブルをあおって安易に金儲けをしようとすると、後でとんでもない眼にあうことは、日本をはじめとする先進国で十二分に経験済みです。

 

「バブルの頂点で売り逃げすればいいじゃないか」と考える人もおられるかもしれませんが、少なくとも私自身は、そんな器用なことが出来る自信はありません。

 

短期的な株価値下がりは不愉快ですが、私としては、今回のインドネシア中央銀行の規制は、インドネシア不動産開発企業の株価が長期的に安定して値上がりすることの対価として受け取りたいと思います。

 

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