2016年09月25日

サリー・ムルギー

インド・ムンバイのゾロアスター教徒(パールスィー)の料理です。サリーはポテトストロー、ムルギーは鶏肉です(羊肉で作ればサリー・ボティ)、またアプリコットを入れることも多く、その場合はサリー・ジャルダルーとなります。

パールスィーは「ペルシャ人」という意味。ササン朝(ゾロアスター教を国教とした最後のペルシャ帝国)が7世紀に滅亡した後、ゾロアスター教徒はムスリム支配下で迫害されたため、インドに集団移住した人々の末裔です。

17世紀の英国インド進出の際、英国の東インド会社は極少数派パールスィーを敢えて優遇し、パールスィーは経済力・政治力を高めて現在に至ります(タタ財閥はパールスィー、インディラ・ガンジーの夫もパールスィー)。

父親が信徒でなければゾロアスター教徒にはなれないこともあり、いまや信者数はインドとイランを中心に10数万人しかいませんが、パールスィーは商いを生業としてきただけあって宗教行事以外は伝統に固執するばかりではありませんでした。

パールスィーの食生活は、インド風のスパイスを使い、トマトやジャガイモなど新大陸産の素材も交易を通じて馴染みがあったために早くから取り入れ、ペルシャ時代とは全く異なるものになっています。

サリー・ムルギーもそんな多文化を融合したパールスィーらしい料理のひとつです。炒め玉葱・トマト・スパイス類をミキサーにかけてグレイビー状にしたソースで鶏肉を煮込みます。アプリコットを入れない場合は砂糖を少し加えます。

何と言っても特徴的なのはポテトストローを乗せて食べることでしょう。細く切ったポテトはカレーソースと混ぜてもパリパリとした食感が残り、想像以上の美味しさです。油っぽさも意外と感じません。

普通の日本のカレーの場合でも、ジャガイモは一緒に煮込むだけではなく、ポテトストローにして混ぜ込んでみるというバリエーションを試してみるのも面白いのではないかと思います。

サリ・ムルギ

silflay at 09:30|Permalink南アジア料理 

2016年09月18日

ヴェルツフライシュ

旧東独料理、茹でた豚肉又は鶏肉のスープグラタンです。共産時代の国営食堂(ハーオー・ガストシュテッテ)の定番メニューとして有名で、レトルト商品もありますので庶民的なイメージの強い一品です。

茹でた細切り豚肉又は鶏肉と炒めた玉葱とマッシュルームを、ブイヨン・白ワイン・レモン汁で煮込みます。バター・ルーでとろみを付けてココットに注ぎ、ゴーダなどのチーズを振ってオーブンで焼けば出来上がりです。

トーストとレモンを添えていただきます。お肉は油を使わずに茹でますし、乳製品はバターだけで牛乳もクリームも使いませんし、適度なレモンの酸味が利いた爽やかな味わいで、季節を問わずにいただけます。

日本ではほとんど紹介されていないと思いますが、ドイツ風の肉入りオニオングラタンスープ、と言えなくもないですね。レパートリーに加えておいて絶対に損のない、「隠し玉」のような美味しいスープです。

ウェルツフライシュ

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2016年09月11日

ホレシュ・テ・マスト

ペルシャ料理、ヨーグルト(マスト)風味のシチュー(ホレシュ)です。世界遺産ジャーメ・モスクで有名な古都イスファハンの郷土料理で、一般的には「サフラン風味の牛肉のヨーグルト煮込み」であることが多いです。

「家庭で楽しむペルシャ料理」のレシピを参考にして「鶏肉団子のヨーグルト煮込み」にしてみました。著者のレザ・ラハバ氏のオリジナルレシピのようですが、日本人にはこちらの方が食べ易いと思います。

サフラン水とアドヴィーエ(ペルシャのミックススパイス、家庭や料理により様々)を加えた鶏肉団子に焼き色を付けます。鍋にバターを熱してみじん玉葱を炒め、水とアドヴィーエとドライハーブを足して沸騰したら鶏肉団子を入れて煮込みます。

そこに攪拌してコーンスターチと砂糖を加えたヨーグルトとサフランとドライライムを加えて沸騰しないように煮込み、お皿に盛り付けたらお好みでアーモンドスライスを散らして完成です。

牛肉から鶏肉に変えたことでさっぱりとした味わいになっていますが、原典の料理もヨーグルトとドライライムの酸味がきいて塩分は控えめです。そして何よりサフランの風味でちょっと贅沢な気分になれる美味しいシチューです。

ホレシュ・テ・マスト

silflay at 09:00|Permalinkペルシア料理 

2016年09月04日

ピオ・ノーノ

スペイン南部アンダルシア地方の郷土菓子です。ピオ・ノーノはイタリア語でピウス9世(ラテン名ピウス・ノウェム)のこと。甘いもの好きとしても知られているピウス9世が教皇帽を被った姿を象ったお菓子です。

19世紀後半にグラナダ郊外サンタフェで作り始められました。教皇がこの地を訪問したためではなく、ピウス9世がスペインで特に信仰されていた無原罪懐胎(注)を1854年に公認したことを受けてのことです。

ミニロールケーキを立てて、帽子に見立てた卵黄クリームを乗せてカラメリゼすれば出来上がりです。近年は、チョコ味や蜂蜜味などバリエーションも増え、またカラメリゼしないこともあります。

今回は卵黄クリームではなく、ロールケーキの中身と同じカスタードクリームを乗せ、カラメリゼもしていません。材料的には普通のロールケーキですが、特徴ある形ですのでちょっとお洒落に見えますね。

尚、中南米ではピオ・ノーノはカラフルに飾り付けをしたロールケーキを指します。甘くない生地にハムやチーズや茹で卵を巻いた食事用のピオ・ノーノも食べられています。

ピオ・ノーノ

(注)無原罪懐胎:聖母マリアは、イエスを処女懐胎した際に原罪が清められたのではなく、その存在の最初から、すなわちマリアの母アンナがマリアを宿した瞬間から原罪を免れていた、という主張。聖母信仰の強いスペインでは特に信じられていたが、否定する宗派も多かった。


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2016年08月28日

ノルマ風パスタ

シチリア島カターニアの郷土料理、揚げ茄子入りのトマトソースパスタです。ノルマは地名や人名ではなく、カターニア出身の大作曲家ベッリーニの代表作であるオペラ「ノルマ」に由来します。

カターニア出身の映画監督ニノ・マルトーリオが、友人の姪に振舞われたパスタを絶賛して「これはまさにノルマ(のように完璧)だ!」と言ったことから、ノルマという名前でこの料理が広まったとされています。

パスタの種類はスパゲッティでもマカロニでも構いません。細かく切った揚げ茄子を入れる他は基本のトマトソースで、そこに揚げ茄子を乗せ、リコッタ・サラータ(シチリア名産の「塩漬けリコッタ」)をたっぷりと散らせば出来上がりです。

リコッタ・サラータは手に入り難いですので、リコッタ(カッテージでも)とパルメジャーノを混ぜることで代用できます。オリーブ油を吸った揚げ茄子とチーズのコクと旨味のおかげで、お肉が無くても満足感があります。

トマト、茄子、オリーブ油、リコッタ、バジルという組み合わせは、いかにも陽光降り注ぐ夏の南イタリアらしい感じがしますね。もちろん、日本の夏にもよく似合う、大変美味しいパスタです。

ノルマ風パスタ

silflay at 08:30|Permalinkイタリア料理 

2016年08月21日

メイズ・オブ・オナー・タルト

イギリス伝統菓子、甘くしたカード(凝乳)を詰めたタルトです。メイズ・オフ・オナーは直訳すれば「名誉ある女官(メイド)」ですが、チューダー朝の女王付き女官の職階名です(※)。その起源は16世紀ヘンリー8世の時代に遡るとされています。

男児の後継者を求めて6度も結婚を繰り返したヘンリー8世ですが(これが英国国教会の分離に繋がっていきました)、二番目の妃であるアン・ブーリンとの結婚時代にこのお菓子が誕生したという伝説があるのです。

アン・ブーリンのメイズ・オフ・オナーの一人が作ったお菓子が美味しかったためにレシピを鉄の箱に入れて秘蔵して王家専用とした、その女官を幽閉してお菓子だけ作らせ続けた、などいくつかバリエーションがあります。

ヘンリー8世は「暴君」というイメージの強い王ですので、このような伝説が生まれたと考えられているそうです。もともとはカードだけを詰めていましたが、近年はジャム、レーズン、アーモンドなどを加えることが増えています。

ロンドンにある「ニューエンズ」という老舗カフェが「オリジナルのレシピを伝えている」と主張しています。大きく「ジ・オリジナル・メイズ・オブ・オナー」と店の正面に彫りこんでいるので、お菓子の名前が店名だと思っている人も少なくありません。

16世紀のイギリス王室では贅沢品でも、現在では家庭で気軽にいただける素朴なお菓子です。現代の庶民は昔の王侯以上の食生活を送ることができているということが実感できる一品と言えるでしょう。

※メイズ・オブ・オナーは身の回りの世話をする召使(チェンバラー)ではないが、女王の直接の相手を務める「私室付きレディ」でもない、いわゆる「その他大勢の女官」。

メイズオフオナー

silflay at 08:30|Permalink英国菓子 

2016年08月14日

カイン・ヘン・ティラァ

ベトナム北部料理、シジミ(ヘン)とディル(ティラァ)のスープです。シジミのスープは、海沿いの地方では全国的に食べられているのですが、ディルとトマト(カー・チュア)が入るところが北部風だそうです。

南部ではトマトの代わりにタマリンドで酸味を付け、ディルの代わりにゴー・セン(蓮の茎)やラウ・ラム(ベトナム蓼)やラウ・ムォン(空心菜)などのハーブ・野菜類を入れることが多いです。

現地ではシジミはお安い食材ですので、お椀の中を埋め尽くすように小型のシジミが大量に入っており、ご飯に掛けながら食べます(中部の古都フエでは最初からシジミをかけたシジミご飯、コム・ヘンが名物ですね)。

日本では高くなってしまうので、シジミは少なめで作りました。味付けはヌック・マムと塩のみですが、シジミの有機酸とトマトのグルタミン酸の旨味の相乗効果にディルの香りが引き立つ、美味しいスープです。

カイン・ヘン・ティラァ

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2016年08月07日

グラタン・ド・ポムドテール・オゥ・カマンベール

フランス家庭料理です。チーズの女王とも呼ばれる日本でも著名な白チーズ、カマンベールとジャガイモのグラタンです。スライスしたジャガイモにカマンベールチーズを乗せてオーブンで焼くのが基本形です。

カマンベールは、他の多くのチーズと同様に発祥地とされるカマンベール村から名付けられたものです。フランス革命の最中、修道士を匿った村の女性がそのお礼に教わった製法で誕生したという伝説があります。

実際には18世紀始めには既にカマンベールチーズが作られておりノルマンディーの限られた地域で食べられていました。19世紀後半にナポレオン三世に献上されて気に入られたことからフランス全土に広まった、比較的新しいチーズです。

現在のカマンベール村は人口200人程度の小さな農村で、ミニ博物館があるだけでチーズ農家も1軒だそうです。近隣4県で伝統製法により作られたチーズがAOC認定のカマンベールチーズになります。

みじん切りベーコン、玉葱、生クリーム少々、パセリを加えました。火を通すと独特のクセも少なくなりますので、子供でも食べやすく仕上がります。コクのある濃厚な味わいですので、主菜としても使える一品です。

カマンベールグラタン

silflay at 08:00|Permalinkフランス料理 

2016年07月31日

「地中海式ダイエットの『健康な高脂肪食』なら太らない?」

近年、三種類のエネルギー源(たんぱく質、脂質、炭水化物)のうち、脂質の摂取割合の推奨値が高くなっています。日本人の食事摂取基準(エネルギー比)ですと、05年版は29歳までが20〜30%・30〜69歳までが20〜25%・70歳以上が15〜20%だったのが、10年版では30歳以上が20〜25%となり、15年版では全成人が20〜30%となりました。

実際の摂取割合はどうかというと、国民健康栄養調査(H26年)で成人平均が25.8%ですので一般的な食事をしている日本人は一応問題ないと言って良いでしょう(アンケート調査ですので、正直に答えたという前提の場合になります。実態としてはもう少し高い可能性があります)。欧米先進国は30%台の国が多く、推奨値も35%の国が多いです。

もちろん、脂質の種類も重要です。例えば日本人の食事摂取基準では飽和脂肪酸は目標値7%以下となっています(実際の摂取もほぼ7%。欧米先進国は目標値10%以下が多く、その数値が未達成の国が多い)。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸はバランスよく摂取する必要がありますが、総脂肪の推奨値は今後日本でも「25〜35%」くらいに増えるかもしれません。

さて、「和食」も健康に良いというイメージ(だけ)はある食事ですが、欧州の場合は「地中海食」がその地位にあります。和食よりも熱心にエビデンスを捻り出してきた歴史がありますので、総死亡・心血管疾患・がんを減らす食事法ということになっています(しかし以前取り上げたように「地中海食」の定義が広過ぎるため、エビデンスレベルは高いとは言えません)。

脂質に関していえば、「地中海食は健康な脂質をたくさん摂るので脂質摂取割合が高くても健康に良い、体重も増えない」ということを「売り」にしています。本年6月、ランセット誌に「良い油(オリーブ油とナッツ)ならば、好きなだけ食べても低脂肪食と比べて体重が増加しない」という結果が示されたと主張する論文が発表されました。

スペインの55歳〜80歳の健康「ではない」男女(肥満、心血管疾患ハイリスク、糖尿病あり)約7500名を3群に分けて、3ヶ月毎に栄養士の食事指導を受けながら3種類の食事をしてもらい、約5年追跡して体重と腹囲の変化を調べたものです。開始時点では、3群ともに脂質摂取割合は約40%と高脂肪の食事をしていました。

3群は、オリーブ油群(週当たり1リットルのオリーブ油を提供されて自由に摂る)、ナッツ群(1日当り30gのナッツを提供されて自由に摂る)、低脂肪食群(脂肪を控える食事指導を受ける、ただし低脂肪食といっても脂肪摂取割合30%)です。その結果、3群ともに5年間でほとんど体重は変化しなかったのですが…。

実は、オリーブ油群は脂質摂取割合が41.8%に増え、ナッツ群は同じく42.2%に増える一方で、低脂肪食群は37.4%にしか減らなかったのです。37%と42%では差が出なくても不思議とは言えないでしょうし、日本人の感覚では30%で低脂肪食という時点で異議を申し立てたくなりますね(スペイン平均は35%程度なので30%でも低めなのです)。

おそらく研究グループは、食事指導の効果で低脂肪群は30%前半に、オリーブ油群やナッツ群は無料で提供しているのだから40%半ばくらいになって、オリーブ油群とナッツ群でも体重差が出ることを期待したのかもしれませんが、スペインの老人はなかなか言うことを聞いてくれなかった訳です(スペイン人に限らず食事内容を変えるのは困難ということですね)。

もちろん、オリーブ油又はナッツを自由に食べて総脂肪42%という高脂肪食を続けても、少なくとも「太らなかった」という結果はそれなりに興味深いものです(大豆油など他の植物油でも調べてみたいですね)。しかし、これは逆に言えば、やはりエネルギー制限をしなければ「痩せられない」ということを示唆しています。

そして、この研究は健康成人を対象にしたもの「ではない」(肥満、心血管疾患ハイリスク、糖尿病ありの中高年男女)ということにも注意が必要です。例えば、健康成人の場合は脂質割合を増やせばやはり太ってしまうかもしれません。そしてある程度まで太ると(病気になって太れなくなるなどして)そこで止まる人が増えるだけかもしれないのです。

この研究を直ちに日本人に当てはめることはできませんが、一般的な日本人の食事なら、オリーブ油やナッツ類の摂取こそ少ないものの植物油を主体に摂取しています。総脂肪摂取割合は30%からもう少し増やしても大丈夫かもしれませんが、増やしても良いかもしれないのはあくまで「割合」で、総エネルギー量を増やして良いというエビデンスは確立されていませんので、その点は間違えないようにしましょう。



silflay at 07:30|Permalink「食の安全」 

2016年07月24日

カルテ・グルケンズッペ

ドイツ圏の夏の新定番、胡瓜(グルケ)の冷製(カルテ)スープです。伝統料理ではなく、トルコ移民が食べているジャジュック(胡瓜とヨーグルトのスープ)がアレンジされて定着したものです。

皮を剥いて薄切りにした胡瓜を茹でて(生の場合も)冷水でしめて水気を絞り、サワークリームや牛乳やヨーグルト等とブイヨンと一緒に軽くミキサーにかけたものを濾して(濾さないことも)出来上がりです。

トルコのジャジュックは細切りにした生の胡瓜入りの「ヨーグルトスープ」(或いはディップとして前菜として食べる)ですが、ドイツ版では乳製品で伸ばした「胡瓜スープ」になっています(東欧圏にもトルコ由来の同様のスープがあります)。

胡瓜の輪切りやクルトンを浮かべたり、胡瓜だけでなくアボカドや玉葱などを足したりしても美味しくいただけます。乳製品は入りますが、さっぱりとした後味ですので、暑い夏の時期にピッタリの美味しいスープになります。

グルケンズッペ

silflay at 07:30|Permalinkドイツ料理 | オーストリア料理