2016年05月22日

「和食は健康に良いという証拠が提示された!?〜ただし現代の日本食です」

とかく日本では公的機関も民間も「和食は素晴らしい!健康的!」と口先で言うばかりで、なかなかエビデンスが示されませんでしたが、近頃ようやく大規模な疫学研究の結果が発表されました。あまりニュースで取り上げられることもなかったようですので、拙ブログでもご紹介したいと思います。

農水省の「食事バランスガイド」に近い食事をしているかどうか(7項目70点満点)で、45〜74歳の健康な(がん、循環器疾患、肝疾患の履歴がない)日本人男女約8万人を4グループに分けて、15年追跡して(1995年または1998年からそれぞれ15年)その死亡リスクを比較した研究です。食事内容はアンケート調査です。

「食事バランスガイド」は、栄養成分単位(たんぱく質が何gで脂質が何gあるいは何%等)ではなく、食材のカテゴリー毎に料理単位で分かりやすくバランスの取れた食事を目指そうというガイドラインで、アメリカで提唱された「5 A DAY」運動(「野菜・果物を一日に5サービング(≒皿)以上食べよう!」)が元になっています。

主食(穀物)は5〜7単位(炭水化物40g相当、おにぎり1個・食パン1枚が1単位)、副菜(野菜、芋、大豆を除く豆、茸)は5〜6単位(70gで1単位)、主菜(肉、魚、卵、大豆)は3〜5単位(たんぱく質6g相当、納豆・目玉焼きが1単位・魚料理1〜2単位・肉料理2〜3単位)、乳製品は2単位(Ca100mg相当、瓶牛乳が1単位)、果物は2単位(100gで1単位)が基本です(注1)。

約8万人全体の単純平均は47.4点・調整後53.0点でしたが、30点台・40点台・50点台・60点台の4グループに分けて比較したところ、10点高くなる毎に、総死亡リスクが約7%・循環器疾患死亡リスクが約7%・脳血管疾患死亡リスクが約11%低下しましたが、がん死亡と心疾患死亡のリスクに有意差はありませんでした。

この研究の注意点としては、まず有意に差が付きましたが大きな差ではなかったということがひとつ。更に「食事バランスガイド」は伝統的和食ではなく、現代の日本食です。そして「魚を毎日1皿以上食べる」等という項目は無く、他の先進諸国と同様に肉と魚は区別していません(もっとも平均的な日本人の食生活では自然と魚を多く摂取することになります)。

日本独自といえる基準は「野菜に芋類を含み大豆類を含まない」ことです(欧米では野菜に芋類を含まず豆類を全て含むことが多い、ただし豆類はいくら食べても1単位とみなす(注2))。また、野菜・果物ジュースの扱いも日本では「半分量で計算」ですが、欧米では「150ml以上で1単位、それ以上飲んでも1単位」が多い等の違いがあります(注3)。

サービングによる食事ガイドラインは、各国の基準にある程度違いが見られますが基本的には科学的根拠に基づいています。今回の結果も現在までに積み上げられてきたデータと矛盾していません。どの先進諸国でも、自国の公的機関が推奨するガイドラインに沿った食生活が健康によいという結果が出ることでしょう。

ところで、今回の研究の調整前のデータをみていくと「和食が良い・悪い」以前の問題が浮かび上がってきます。母集団が健康な中高年男女でしたので、最高点数のグループも最低点数のグループもBMI・身体活動度・糖尿病・高血圧・コーヒー習慣(一日一杯以上)の割合がほぼ同じだったのですが、以下のような差が出た項目もありました。

最低グループは、男性84.0%、喫煙率24.3%、飲酒率(週1日以上)53.4%、摂取エネルギー1872kcal/日、緑茶48.4%、脂質異常3.8%だったのに対し、
最高グループは、男性10.2%、喫煙率10.5%、飲酒率(週1日以上)22.7%、摂取エネルギー2144kcal/日、緑茶69.6%、脂質異常5.5%だったのです。

中高年男性は食生活が乱れやすく、喫煙・飲酒は食生活の乱れに結びつきやすく、そして喫煙・飲酒して食生活も乱れている中高年男性は予想通り死亡リスクが高い、という身も蓋もない結論が導かれそうですね(もちろん因果関係と相関関係の違いには要注意です)。緑茶習慣の良否は、絶対量が不明ですので何とも言えません。

最低グループは圧倒的に男性が多いのに、摂取エネルギーが少なくて脂質異常の割合も少ないのは、「食生活のバランス」だけで疾患・死亡リスクに差が出たのではなく、調査開始時点では健康と判定されていても実際には「未診断でも既に病気があった」「もともと病気になりやすかった」等の要因があることを示唆するものでしょう。

「禁酒・禁煙して食事バランスガイドに沿っていれば健康的」という結果は、当たり前過ぎてニューズバリューに乏しいかもしれません。しかし、何度も強調してきましたが、「健康」や「長寿」を達成するためには、遺伝的な素因はあるにせよ、魔法のように簡便な方法や特別な食物は存在しません。「当たり前のことを実践する」という地道な方法しかないのです。

そして、これも何度も強調してきましたが、伝統的な日本型食生活には、高塩分・不潔・低脂肪・飲酒に甘すぎる・食材の偏り等々、様々な欠点があります(もちろん世界中の伝統食が失格です)。現代日本の食生活はけして「欧米化した」のではなく、「近代化に成功した」ために私たちは長寿と健康を謳歌できるようになったのです。

(原著論文)
Quality of diet and mortality among Japanese men and women

(日本語解説)
食事バランスガイド遵守と死亡との関連について

(注1)一日2200±200kcalの場合
尚、「運動をすること」「菓子・嗜好飲料は一日200kcal内にすること」「毎日完璧でなくても数日〜一週間でバランスを取ること」も明記。一方で、塩分摂取量は無視、米食に偏って推奨している、お酒に甘い、日本人の食事摂取基準2015年版に対応していない(2016年5月現在)、などの問題点もある。

(注2)大豆と芋の扱いの違い
日本では大豆だけで約1単位食べる(欧米では豆類全部合わせても1/3〜1/2単位程度)、欧米では芋だけで約2〜3単位食べる(日本では芋は約1単位)。欧米で芋を野菜に含めると明らかに野菜の摂取量が減ってしまうので芋を野菜に含めず、豆は上限を設けた上で野菜に入れるのは合理的だが、日本の基準は中途半端と感じる。

(注3)その他の違いとして、例えば副菜(≒野菜類)は日本のガイドでは70gで1単位だが75gの国もあるし、果物は日本のガイドでは「剥いた状態」で」100gで1単位だが「皮・殻付きで」150gで1単位の国もある。




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2016年05月15日

チヒルトゥマ

グルジア料理、鶏ブイヨンの卵スープです(彼の地の国名は日本での呼称は先方の要望により正式にグルジアからジョージアに変更されましたが、米国ジョージア州と混同してしまいますし、グルジアと表記させていただきます)。

特徴は、卵が細かく溶け込んだ白濁状のスープということ。まず鍋に鶏肉を茹でてブイヨンを作ります。ボウルに卵を溶いて少し鶏ブイヨンを加えてよく混ぜ、それを鍋の方に少しずつ攪拌しながら混ぜ込んでいきます。

続いて水に溶いた小麦粉(コーンミールでも可)、レモン(又はヴィネガー)を同様に少しずつ混ぜ込んでスープを完成させ、香菜を散らしていただきます(冷ました鶏ブイヨンに卵を混ぜれば比較的簡単にできます)。

適度に酸味の利いた、まろやかな味わいのスープです。唐辛子バターでシーズニングすればトルコ料理に、サフランを加えればペルシャ料理に似たようなスープが見つかりそうです。

チヒルトゥマ

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2016年05月08日

トルタ・パラディーゾ

北イタリア・パヴィアのお菓子です。パウンドケーキの配合から、卵黄を増やして小麦粉の半量を澱粉にして、アクセントにレモンの皮を加えたケーキです(澱粉はコーンスターチでも片栗粉でも浮き粉でも構いません)。

1878年にクザーニ侯爵の依頼で饗宴用のお菓子として菓子職人エンリコ・ヴィゴーニが作り、「天国(パラディーゾ)の味だ」と気に入られたために自分の店で売り出したところ好評を博して忽ちパヴィア名物となりました。

現在もヴィゴーニのお店は世紀を二度跨いでパヴィア大学の側で健在です。ヴィゴーニはパヴィア修道院に伝わるレシピを改良してこのトルタを作ったようです。そこから、以下のような楽しい伝説が生まれました。

曰く、「外出禁止令を破って薬草採集に出かけた修道士が、宿泊させてもらった家の女性から振舞われたタルトの味を、捕まって連れ戻された修道院の中で女性を思い出しながら作り、それが美味しかったために「天国のトルタ」と名付けられた」

素朴な茶色い焼き色のトルタを切ると明るい黄色い生地が現れます。澱粉が多いため、しっとりとしていながらホロリと崩れる食感です。「修道院発祥」らしい、堅実な美味しさが味わえるお菓子だと思います。

トルタ・パラディーゾ

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2016年05月01日

トースト・スカーゲン

スウェーデン料理、スカーゲンローラ(小海老のディル風味マヨネーズ和え)をトーストに乗せたオープンサンドです。伝統料理ではなく、1950年代に著名な料理人であるトーレ・ヴレトマンが考案したと言われています。

スカーゲンは地名で、デンマークのユトランド半島突端の港町です。デンマーク語ではスエーケンで古デンマーク語の「岬」の意。風光明媚な場所でかつては別荘地として栄え、スカーゲン派という絵画の流派がありました。

小海老の産地であり、またお洒落なイメージのある地名から「スカーゲン」という名前が付いたようです(ローラは「混ぜる」)。バターを塗った薄切りパン(スモーガス)に乗せるのがオリジナルレシピですが、近年はベイクドポテトやアボカドと合わせたりもします。

コクのある旨味が特徴の瀬戸内海産のサルエビ(安価で美味なのに都内ではまず見かけないのが残念)で作りました。手軽に作れる、ちょっとお洒落な冷前菜としておすすめです。

トースト・スカーゲン

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2016年04月24日

エンサラーダ・ムルシアーナ・デ・トマテ

スペイン南東部・ムルシア風のトマトと茹で卵とオリーブのサラダです。ツナ或いはアンチョビを加えることが多く、その場合缶詰もよく使われるそうですので、サバのオリーブオイル漬け缶で作ってみました。

トマトをメインにした南仏ニース風サラダ、というと分かり易いのですがスペインの皆様は「逆だ」とお怒りになるかもしれません。さっぱりとしていた味わいになりますのでやはり春〜夏向きのサラダだと思います。

野菜の産地として有名なムルシアは、「ミルトス(ギンバイカ)の土地」という意味。村落しかないところにムスリム支配時代に城砦が築かれて発展しましたが、当時の遺構はほとんど残っていないようです。

ムルシア料理として、プルポ・アル・オルノ(蛸オーブン焼)、マトリモニオ(=夫婦、アンチョビとイワシのマリネを一緒にして食べる)、パステル・ムルシアーノ(ムルシア風ミートパイ)、アロース・ムルシアーノ(豚肉と野菜のご飯)などがあります。

エンサラーダ・ムルシアーナ


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2016年04月17日

イチリ・キョフテ

トルコ料理、ブルグル(挽き割り麦)の衣で挽肉などの餡を包んで揚げた料理です。アラブ料理のキッベ(アラブ語で「球」)が伝わったもので、トルコでも南東の地域でよく食べられています。

キッベは「球」ですが、両端が尖ったレモンのような形状が多いですね(俵型や丸い球状の場合もあります)。クルドでは平べったいことが多く、ペルシャではブルグルではなくお米を衣に使う「焼きおにぎり風」です。

イチリは「詰め込まれた」で、なるほどブルグルは衣というには分厚く、ブルグル団子の真ん中に餡を押し込んだような感じです。揚げるときもブルグルの衣はあまり油を吸わないので、意外としつこさを感じません。

スパイスは控えめで淡白な味わいですので、辛味のあるトマトソース(アジル)が合うと思います。日本のトルコ料理店ではあまり見かけませんが、「変わりコロッケ」のひとつとしてお薦めできると思います。

イチリ・キョフテ

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2016年04月10日

マカロン・ド・コルムリー

「フランスのマカロン発祥の地」を主張している地域はいくつかあるのですが、そのうちのひとつ、トゥール近郊のコルムリー修道院で8世紀末には作られていたといわれている伝統的なマカロンです。

当初のマカロン・ド・コルムリーは円盤形だったのですが、現在のような特徴的なリング形になった経緯については、バリエーションはあるものの概ね以下のような伝説が語られています。

マカロンの売り上げを伸ばす方法を思案していた修道院長が、やはり独特な形にするのが一番と思い、「翌朝マカロン製作の作業所を覗いて、最初に目に入ったものをデザインしよう(製法は秘伝のため担当の修道士以外は入れなかった)」と決心しました。

そして翌朝に作業場の鍵穴を覗いたところ、目に飛び込んできたのはマカロン担当のジャン修道士のでっぷり太ったお腹の修道服の破れ穴から覗いたお臍だった! 修道院長は嘆息しつつも「これも神のご意思」として穴の開いた形で作ることを決めたというのです。

生地は2種のアーモンド粉(皮付きと皮無し)と、砂糖、転化糖、卵白を混ぜて作りますが、オレンジ風味にすることが多いようです。棒状に生地を搾り出し、10cmくらいの長さに切り分けてリング状に成型して、オーブンで焼けば出来上がりです。

ねっちりとしたマカロンを頬張ると素朴な甘さが広がります。日本でお馴染みのパリ風マカロンだけでなく、様々なタイプのマカロンを作って食べてみるのも面白いのではないでしょうか。

マカロン・ド・コルムリー

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2016年04月03日

カプネット

イタリア北部・ピエモンテ風のロールキャベツです。ピエディ・ディ・モンティ(「山の脚」=山の麓)を語源とするピエモンテ州はアルプスの南西部に位置するトリノを中心とする地域で、「山」のイメージが強い地域です。

概ねサヴォイア家の支配地域に重なり、食文化にもフランスの影響が色濃く感じられます。個性的な料理がたくさんあるのですが、カプネットはピエモンテ料理の中でもやや知名度が低いかもしれません。

ミンチ状にした様々な豚肉(サルシッチャ、プロシュット等を加える)を、卵とパン粉又はお米をつなぎにして、チリメンキャベツで巻いて、バターとオリーブ油で焼き目をつけて、オーブン焼きにすれば完成です。

ハム、ベーコン、ソーセージ等が加わりますので、一般的なロールキャベツよりも深みのある味わいを楽しめます。野菜は玉葱や根セロリを少々加えるくらいですので、食べ応えも十分にある「肉肉しい」一品です。

カプネット

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2016年03月27日

アローシュ・デ・タンボリル

ポルトガル料理、鮟鱇(タンボリル)のリゾットです。鱈の仲間である鮟鱇は世界中に広く分布していますが、伝統的な鮟鱇の食習慣は日本でも一部地域に留まっていたのと同様に、欧州でもマイナーな魚種です。

欧州でもっとも多く米を食べ(日本の約1/4)、同じく有数の魚食国家(日本の約2/3)であるポルトガルは珍しく鮟鱇を食べる国ですが(やはり吊るし切りにする)、リゾットやトマト煮込みとして食べるのが人気です。

鮟鱇自体は淡白な味わいですので、鮟肝を加えた方が美味しいと思います。ポルトガルでは伝統的には鮟肝を食べませんでしたが、近年はリゾットにも入れますし、白ワインで鮟肝をのばして出汁にすることも増えているそうです。

尚、ポルトガルでは様々なアローシュが食べられていますが、意外とバカリャウ(干鱈)のアローシュは「必ずある」というほどではなく、バカリャウの使い方も一緒に煮込むより切り身やフライをリゾットに添えるスタイルが多いようです。

アロース・デ・タンボリル

silflay at 16:08|Permalinkポルトガル料理 

2016年03月20日

フィセル・ピカルド

フランス北部ピカルディーの郷土料理、食事用の塩味クレープのグラタンです。仏語のフィセルは「紐」ですが、料理用語としては紐状の細いバゲットのこと。クレープをロール状に巻いて焼くことからの命名です。

ピカルディーは海にも面していますが、森林のイメージが強い地域です。伝統料理としては、リソル・デ・シール・ド・クシー(クシー城主のリソル)という挽肉パイ包み揚げや、アミアン風マカロンが有名です。

フィセル・ピカルドは伝統料理ではなく、1950年頃にアミアンの料理人が考案したものです。茸ソースとハムを包んだクレープに、ナツメグと白胡椒で香りづけした生クリームをかけ、おろしたエメンタールチーズを振ってオーブンで焼きます。
 
茸ソースは、エシャロットの風味がポイント。豊かで優しい味わいを楽しめます。日本人好みの、クリーム系グラタンのバリエーションの一つとしておすすめのフランス料理です。

フィセル・ピカルドカット

silflay at 03:30|Permalinkフランス料理