2007年05月24日

「肉食は本当に悪いのか(2)〜日本人は腸が長い?」

検索すると、「長年、菜食をしてきた日本人は、肉食中心の西洋人より腸が長い!」という話がたくさんでてきます。少しでも理性があれば、あり得ない話だと分かりそうなものですが(笑)。

まず、前提条件である「菜食中心の日本人」「肉直中心の西欧人」というところから間違っています。FAO (国連食糧農業機関)のデータ(Food Balance Sheets)で見ていきましょう。

2003年  総カロリー うち植物性 うち動物性  植物性割合
アメリカ   3953     2908    1045      73.6%
日本     2767     2199     568      79.5%

カロリーはともかく、植物性の割合はさほど変わりませんね(笑)。 最近の日本は欧米化しているから? では、1980年のデータで。

1980年  総カロリー うち植物性 うち動物性  植物性割合
アメリカ   3155     2199     956      69.7%
日本     2721     2203     518      81.0%

これなら差はあります。しかし、いずれにせよ「肉食らい」のイメージのあるアメリカだって「菜食が中心」ということが分かります。

欧米諸国でも、一般庶民が肉を十分に食べられるようになったのは産業革命以降です。旧石器時代にはカロリーの約1/3も食べることが出来たのに、牧畜の開始や農耕の導入ともに低下の一途を辿りました。「肉食」は支配階級の特権という時代の方が長かったのです。

人類の腸の長さは約6.5m〜8m、身長により異なります。人種は関係ありませんし、食生活にも左右されません。食べ物の種類で腸の長さが変わってしまうのなら、腸の長さと健康の関係について世界中で研究されているはずですが、当然ながら、そんな研究はひとつも存在しません。

食生活が変化しても腸の長さが簡単には変わらない証拠として、パンダの例をあげておきます。現在のパンダは草食性ですが、氷河期までは肉食でした。気候変動により、獲物となる小動物に乏しい高山に取り残されたパンダの祖先は、やむなく草食をするようになりました。長い時間が経過しましたが、パンダの腸の長さは未だにたったの4m、肉食獣のままです。

もちろん、バクテリアとも共存できず、消化酵素も植物用に変化せず、現在食べている笹などもほとんど消化吸収できません。適応に失敗した、絶滅確実な動物ということがよく分かりますが、高等な動物ほど、進化には時間が掛かるものなのです。

人類の場合、農業が始まり一般大衆が穀物中心の食事しか摂れないようになってから、1万年もたっていません。とても腸を長くしたりバクテリアと共生したり、という時間には足りません。もし、そんな集団が現れたら、これはもう別種の生物です。

それにしても、どうしてこんな馬鹿話が出てきたのか首を捻るばかりですが、おそらくこういうことだと想像しています。小腸の長さは、生きている時と死んでいる時で大きく異なるのです。つまり、「収縮した状態」と「弛緩した状態」です。

小腸の長さは、収縮した状態では約3〜4mですが、弛緩した状態では約5〜6.5mです(大腸はどちらの場合でも約1.5m)。専門書ではきちんと書き分けているのですが、よく読まずに、収縮した長さで書いてある英語文献と、弛緩した長さで書いてある日本語文献がごちゃまぜになって、「西洋人は日本人より腸が短い!」→「菜食と肉食の食生活の差だ!」ということになったのではないでしょうか。

不注意に思い込みを重ねる苦しい説明ですが、もともとそういうレベルの話ですから、有り得ると思います(笑)。次回はいよいよ「健康的な動物性食品の摂りかた」の予定です。


silflay at 10:26│ 「食の安全」