マヌカ を含む記事

2014年04月13日

「マヌカハニーはハイリスクな蜂蜜!〜その2発がんの恐れはどのくらい?」

前回、抗菌性を何故か万能薬のように宣伝するマヌカハニーという蜂蜜があり、その高い抗菌性は糖代謝中間生成物として普遍的なメチルグリオキサール(MG)に由来し、MGは容易に蛋白質に結合してその働きを邪魔して抗菌性を発揮すること、抗菌性の裏返しとして糖尿病・肥満・認知症などに関わっていることをご紹介しました。

MGは蛋白質だけでなく、DNAとも容易に結合して付加体を形成します。DNA付加体を形成する物質は遺伝毒性物質と呼ばれています。遺伝毒性は「毒性が遺伝する」のではなくて「遺伝子に対して毒性を発揮する」という意味です。閾値はないものとして扱うのが原則で、新しい農薬や添加物などの候補物質に遺伝毒性が見つかれば開発中止です。

蜂蜜を好んで食べるような方は、農薬や添加物は量を考慮せずにとにかくコワイ!キライ!という層と一致する確率が高いと思いますが、農薬や添加物として使えない物質を多く含むことが売りのマヌカハニーを有難がる、というのは滑稽ですね。ただし、DNA付加体を形成する物質が全て発がん性を発揮するというわけではありません。

付加体を形成したDNAは大部分修復(除去)されますが、付加体が多すぎたり修復機能に不具合があったりすると変異したDNAが残ります。変異が残っても、それがたまたま細胞の増殖に関わる遺伝子でない限り「異常増殖」であるがんには直結しません(それでも安全性を重視して、農薬や添加物としては使わないのです)。

例えばタバコは約60種類の遺伝毒性物質を含みますが、IARC発がん性リスク評価でグループ1(ヒトに発がん性あり)の物質は10種、グループ2A(ヒトに発がん性がほぼある)は2種、グループ2B(ヒトに発がん性があるかも)は6種です(注1)。ちなみにグループ3は「データ不足で分類不能」、グループ4は「発がん性はたぶん無し」です。

MGはグループ3で(ちなみにアクリルアミドはグループ2A)、5段階で上から4番目のランクです。マヌカハニーを売る業者の中にはグループ3に分類されていることをもって「安全性が確認されています」という主張をしているところもありますが、これは間違いです。そのようないい加減な業者には関わらないのが吉です。

IARCの発がん性リスク分類は、発がん性の「強さ」で分けたものではなく発がん性の「証拠の確かさ」で分けたものです。すなわち「グループ1の発がん性が最も強くて、2A→2B→3→4と発がん性が弱くなる」のではなく、「グループ1は確実に発がん性があり、2A→2B→3と発がん性の証拠が少なくなる」のです。

発がんリスクに関して安全性が確認されていると言ってよいのはグループ4のみで、グループ3は「データが不足しているために判断できない」という分類です。発がん性が無さそうだからグループ3なのではなく、むしろ「発がん性を警戒すべき物質の候補リスト」なのです。研究が進むと、上のランクに変更されることもよくあります。

皮肉なことに、マヌカハニーがメジャーになればなるほど研究の必要性が高まります。「薬」と「毒」の違いは、「物質の違い」ではなく「量と摂取経路の違い」でしかないからです。味と希少性だけで勝負するなら、まだ良いのですが…残念ながらマヌカハニーに限らず食と健康の分野は妄想と強欲に溢れた連中が跋扈しています。

現時点でグループ2以上ではないことは確かなので、大量に食べない限りそれほど心配しないで良いでしょう。むしろ前回のように糖尿病・肥満・アルツハイマー型認知症等のリスクの方が心配です。これらの病気の患者自身はもちろん、親族に患者がいる場合は遺伝的にMG処理謝能に不具合があるかもしれませんので、避けた方が無難と思います。

蜂蜜を食べたければ、安価な一般の蜂蜜で十分ではないでしょうか。ただし、一般の蜂蜜にも量は少ないもののMGは含まれます(注2)。そもそもマヌカハニーは虚偽表示が多いことも問題となっており、NZ当局が規制に乗り出しています(注3)。実際には、表示ほどのMGが含まれていない可能性も高いのです。もっとも逆もあり得ますね。

前回ご紹介したように、MGは生きている細胞にも含まれますし調理の過程でも発生します。幸いなことに、アクリルアミド対策が進んでいますのでこれは同時にMG対策にもなります。わざわざマヌカハニーを食べさえしなれば、MGの暴露量はさほど多くならないでしょう。ただし、日本の場合は警告を出すなどの対策を検討して良いと考えます。

例えば、EUでヒジキを食べないよう警告が出ても日本では自由に食べることができたり、日本がリマ豆を生食用として輸入させないのに南米では普通に食べられたりするように(注4)、リスクがあっても既に食習慣がある場合は規制しないこともあるのですが、代替品のあるマヌカハニーは日本の食文化には全く必要ない嗜好品に過ぎないからです。

とはいえ、通常の食生活では大量に食べるものではありませんから、対策の優先順位は高くありません。喫煙・深酒は論外として、塩分を減らすこと、高齢者・若い女性は低栄養に気をつけること、海藻類は食べ過ぎないこと、生食を控えること…思い当たる点がある場合はそちらを先に改善した方が良いと思います。

(注1)グループ1:ベンゼン、カドミウム、2-アミノナフタレン、Ni、Cr、砒素、4-アミノビフェニル、NNK、NNN、ベンゾピレン。グループ2A:ホルムアルデヒド、1,3-ブタジエン。グループ2B:アセトアルデヒド、イソプレン、カテコール、アクリロニトリル、スチレン、Pb。

(注2)こちらの研究によるとMG含有量はマヌカハニー49検体38〜828mg/kgに対して、一般の蜂蜜44検体0〜135 mg/kg。

(注3)業者によって抗菌性の表示内容がバラバラ。全ての蜂蜜が持っている過酸化水素による抗菌性まで含めて表示していたり、MGのみの含有量を表示していたりしているし、その数値も「誤差」が大きい。マヌカハニーの定義と表示のガイドライン作成に向けて(NZ第一次産業省)参照。

(注4)ヒジキには砒素のリスク、リマ豆には青酸配糖体のリスクがある。


silflay at 04:00|Permalink

2014年02月02日

「マヌカハニーはハイリスクな蜂蜜!〜その1メチルグリオキサールとは」

蜂蜜を、調味料のひとつ・嗜好品の一種として偶に楽しむぶんには良いのですが、病気の予防や治療に効果を期待して常用するのはリスクの高い食生活と言えます。「食のプロ」の中にも、自然・天然を有難がる迷信に囚われている人がいらっしゃいますが、このブログでも何度も説明してきたように「天然だからこそリスクが高いことが多い」のです。

蜂蜜に関していえば、よく知られている「1歳未満の乳児にボツリヌス菌感染症発症の恐れ」の他に、「アレルゲンとなる花粉や蜂の体内成分を含む」(蜂蜜は花の蜜そのままではなく、蜂が食べた上に加工したものです)、「植物の有毒成分混入による食中毒」(NZのドクウツギのツチン、ツツジのグラヤノトキシン、トリカブトのアコニチン等)があります。

最近は、一見科学的に検討しているように装って(これを似非科学と言います)、その微量成分が様々な風に「効く」と宣伝されているマヌカハニーというNZ産蜂蜜があります。何故か抗菌力が強いことが「売り」になっているのですが、腐敗しにくい蜂蜜だというのではなく、あたかも万能薬のような怪しい主張が繰り広げられています。

確かに蜂蜜には、高糖度・低水分・低酸性という物性自体による抗菌性の他に、グルコースがグルコン酸になる過程で発生する過酸化水素による抗菌性があります。マヌカハニーにはそれに加えてメチルグリオキサール(MG)による抗菌作用を持ちます(マヌカの木には、MGの前駆体ジヒドロキシアセトンが多いため、食品としては豊富に(注1)MGを含む)。

MG自体は、実は珍しい物質ではありません。糖代謝における中間生成物として、動植物から微生物に至るまでの各種細胞内に普遍的に見られる物質です。メイラード反応の生成物ですから、肉・魚・野菜・パンなどの焼き色、コーヒーの焙煎色、チョコレートやカラメルの色素の成分です。MGが欲しかったら焼いたり炒めたりすれば良いのです(笑)。

ただしメイラード反応の生成物のうち、アクリルアミド(注2)には近年になって発がん性が明らかになりましたし(一部で話題になった4-メチルイミダゾールには遺伝毒性が確認されていません)、直火で焦がしてしまえば発がん性のあるHCA類が発生しますので注意が必要です。では、MGの抗菌性はどのような形で発揮されるのでしょうか?

MGは糖代謝の「中間」生成物ですから、反応性が高いのが特徴です。蛋白質やDNAと容易に結びついて付加体(注3)を作るのです。細胞内の酵素と結びついてその働きを阻害したり、DNAに結びついて変異を起こしたりすることで毒性を発揮します。また抗菌性という面では、細胞内の重要な抗酸化物質グルタチオンを枯渇させることが大きいと言われています。

細胞は、MGを速やかに分解する酵素(メチルグリオキサラーゼ)を持っています。ところがメチルグリオキサラーゼが働くためにはMGをグルタチオンで抱合する必要があります。MGが大量に存在すると、反応性の高いMGを処理するために抗酸化物質であるグルタチオンが消費されてしまい、過酸化水素が増えることになるのです。

同様の働きはメチルグリオキサール以外の糖代謝で発生するアルデヒド類にも見られます。また、MGが増えれば終末糖化産物も増え、こちらも様々な病態に関わっていることが示されつつありますが、MGに限っても糖尿病、腎不全、心血管イベント、アルツハイマー型認知症の患者で血漿/組織中濃度が高いことが知られています。

MGの役割には未だ不明な点も多いのですが、糖尿病等においては血管内皮細胞のアポトーシスを特異的に誘導して血管障害を起こし、アルツハイマーにおいてはグルタチオン枯渇による酸化ストレスが神経変性を引き起こすと考えられています。MGの血漿濃度から糖尿病合併症やアルツハイマーの予後を予測する試みもあります。

もちろん、これらの病気では細胞内に発生する内因性MGの方が食事から取り込む外因性MGよりも大きな影響を及ぼしているのかもしれません。しかし内因性の寄与割合が高いというなら、マヌカハニーを食べても意味がないということですね(笑)。実際には、糖尿病と肥満については外因性MGでも悪影響を及ぼすという動物実験があります。

マウスにMGを多量(血漿濃度が倍になる量。人間でも糖尿病患者の血漿MG濃度は健常者の2〜4倍程度)に投与すると糖尿病と肥満が増えたのです。ここは是非マヌカハニー業者の皆さんには、実際に人間でどのくらいのマヌカハニーを摂取したらMGの血漿濃度が2倍になるか、試していただきたいものですね(注4)。

さて、MGは蛋白質だけでなくDNAとも容易に結合します。次回は、MGがDNAと結合して付加体を作ることによる悪影響、すなわち発がん性のリスクを「どのくらい心配するべきか」についてです。一般的に、DNA付加体を形成する物質のことを遺伝毒性物質と呼び、遺伝毒性物質は農薬や食品添加物としては使えません。

(注1)英国毒性委員会(COT)の資料:マヌカハニー38〜828mg/kg(一般蜂蜜0〜135)、醤油8.7mg/L、コーヒー7mg/L、ソフトドリンク0.07〜2.7mg/L(Table1は参考文献からの単位換算が間違っているものがある)。

(注2)食品中のアクリルアミドとMGの含有量は相関関係にある。近年アクリルアミド対策が進んでいるので自動的にMG暴露量も減っていると思われる。わざわざ蜂蜜を食べなければ。

(注3)蛋白質のアルギニン残基、DNAのグアニン残基と反応して付加体を作る。

(注4)毎日相当量摂取しないと2倍にならない、という商売上も有利な(?)結果が出るかもしれませんよ。


silflay at 02:00|Permalink