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2009年07月11日

ぶたばあちゃん

水彩画のやわらかなタッチがよく似合うメルヘンチックな田舎町で、仲睦まじく暮らしている豚のおばあちゃんと孫むすめ。やがて死期を悟った「ぶたばあちゃん」は、自分自身のためだけではなく、やさしい孫娘が「死」を受け入れる手助けにもなるように素敵な死出の旅路の準備を始めるのでした…

「死」をテーマにした絵本は、少ないようでいて実は一大ジャンルを形成しているといって良いでしょう。死は誰にでも必ず訪れるものですし、死と向き合うことにより、「思いやり」「家族愛」「人生」などの社会生活を営む上での基本的な概念を扱うことになるからです。これから社会に出ていく子どものためのテーマとして、むしろふさわしいテーマのひとつではないでしょうか。

例えば数年前に話題をさらった「葉っぱのフレディ」という絵本は、どなたでもタイトルくらいは聞いたことがあると思います。他にも、忘れ物を探すためにこの世に戻ってきた老人と孫との交流を描く「おじいちゃんがおばけになったわけ」、不治の病に冒された弟のため自分が天使だと思い込む姉「ジェニー・エンジェル」(本書と同じマーガレット・ワイルド著)、などがお薦めです。

「ぶたばあちゃん」は、これらの死をテーマとした絵本のなかでもソフトで分かりやすい作品だと思います。本書で描かれる死に方は実際には理想気体のようにあり得ないもの。なにしろ、1:死ぬ日が事前に分かり、2:直前まで元気である、というふたつの条件を満たすのは病死や事故死では事実上不可能に近いからです。

ありふれた日常のイベントのように死を受けとめる「ぶたばあちゃん」。おおらかな達観とともに人生の最後をささやかに楽しむさまが、動揺する孫むすめがおばあちゃんの死を受け入れ、ひとりで生きていく覚悟を決める準備を促しているのです。まさに人生の達人、「立つ鳥跡を濁さず」を当たり前のように実践する「ぶたばあちゃん」の姿には羨望すら感じます。

「ぶたばあちゃん」が死んだという直接の記述はないのですが、心の理論が正常に発達した5歳以上の子どもならば容易にそれに思い当たる書き方です。特にセリフのない絵だけの最終頁は切なくも前向きな余韻に溢れており、秀逸です。「絵本」は文字通り挿絵と文章のふたつがあってこそですが、子どもの想像力を養うのに打ってつけの素晴らしい絵と文の融合を見せています。

残念ながら翻訳にやや難があります。例えば
「孫むすめは、おもしろい顔を、きびしくしかめていいました」
「とつぜんの希望にみちて、孫むすめがききました」
などはいかにも直訳風の表現です。特に読み聞かせようと声に出して読むと不自然な響きが気になってしまします。17刷も重ねているのですから、是非一度訳文を見直していただきたいです。

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心が揺さぶられます度 ★★★★☆


ぶたばあちゃん
  • マーガレット・ワイルド文/ロン・ブルックス絵/今村 葦子訳
  • あすなろ書房
  • 1575円
Amazonで購入

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silflay2 at 11:58│TrackBack(0) 献本による書評 

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