「無自覚に俺を煽るんじゃねえっつってんだ」

情緒あふれる下町のレトロな印刷所。引き戸を開けるとそこには、眼光鋭い子分社員の皆さんと、三代目社長の「若頭」こと黒川が、いた――。就職活動中だった藤咲(ふじさき)は、なぜか一目で気に入られて元ヤクザが経営するこの「黒川印刷」で働くことに! しかし社員が問題なのか、どうも仕事は少ないようで……。一人で必死に営業活動する藤咲だったが、ある日、黒川と美少年のキスシーンを見てしまい!?


印刷所三代目社長×営業マンで年上攻。
帯の煽り文句とあらすじに惹かれて購入してみたんですが……個人的には久々に劇的なヒット。私の萌えツボにスポン!とハマっちゃいました(笑)。
まず、妙なくらいツボにハマった原因は、なんといってもこの本の受・藤咲の天然さです。人が良すぎるというか、後向きなのか前向きなのか、ぽややんとした感じ。とても二十歳を越えた社会人とは思えません。トロいんだけど、でも一生懸命に頑張っている姿を見てると、下町のオヤジじゃないけど思わず肩を叩いて「頑張ってるじゃねーか、にーちゃん」と激励したくなります。当然ながら、そういう天然ボケっぽい性格なので、前に勤務していた製薬販売会社でリストラに合い、再就職もままならない毎日だったわけで……そうしてようやくひっかかったのが、攻・黒川が経営する印刷所だったというオチ。
ストーリーは藤咲視点で進行しているから、はっきりと証拠が挙がってるわけじゃありませんが、たぶん黒川は、藤咲の意外な芯の強さに惚れてしまってるんだろうなぁと思える場面がチラホラ。面接の最初の段階では、おそらく舎弟社員の2人と同様に、藤咲がいつこの場から逃げ出すか興味半分で見ていたんだと思うんです。でも、ビビりながらも踏みとどまり、ボケてるようで本質をズバッと言い当ててしまう彼に、元々美人系よりも癒し系が好みの黒川が、みるみるうちにハマっていってるのが目に見えるようです。
黒川、性格は俺様ですが、惚れたら一途といいますか。表向きには露骨な変化はありませんが、日頃の彼を知っていたり、ましてこれまで付き合ってきた女のタイプを見たら、藤咲に本気なんだろうなぁと周囲の人間にはわかるんでしょう(笑)。あと、誰もが黒川を無視できないのは、独特の存在感はもちろんですが、やってることの善悪はともかく、一本筋が通ってて男前なところ。舞台は下町の印刷所ですが、ただそこへふらりと戻ってきた元ヤクザの放蕩息子ではなく、実は先代譲りのテクを叩き込まれた職人なんですよね。自分のやることに誇りを持ってて、それはヤクザだったときも、そして印刷工として働く今も同じで、そこに藤咲も、そして読んでる私も思わず惹きつけられてしまいました。
しかし、藤咲、やっぱり天然キャラは最強(笑)。老若男女問わず、藤咲の醸し出す小動物系の癒しは無敵で、黒川たち「黒川印刷」と面々と、黒川たちをヤクザと毛嫌いしていた町の人たちが、藤咲の存在ひとつで毒気が抜かれて、次第に変わって行く様子は実におもしろいです。おまけに藤咲は、素で黒川を翻弄する言葉を炸裂するので、読みながら思わず「うわー」と呟きながら、私はフローリングの床を転がってしまいました。黒川と藤咲のような俺様×天然の組み合わせは、読んでて恥ずかしいんだけど……でも好きなんですよね……私のツボのひとつです。あと、そこに個性的な脇キャラたちが加わってきて、下町ラブコメに仕上がってるところも読みやすかった。たしかに黒川は元ヤクザで、しかも経済ヤクザのようなスマートはなく、スタンダード(!?)な荒っぽさなんですが……露骨な暴力シーンは薄目。しかも相手の藤咲が天然ですから、展開に多少の山谷はありますがサクサク読めます。(ただし、黒川が元イロの美少年とHしてるのを藤咲が目撃してしまうシーンがありますので、そういうのが苦手・地雷という方は回避した方が無難です)
私は、今回初読みの作家さんでしたが、単純にこの話はおもしろかったです。下町を舞台にしたノリは元から好きで、ソコに黒川の職人気質と藤咲の天然ボケが加わって、余計におもしろく感じてしまいました。

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